追加増強版 12月2日
佐賀大学理工学部 豊島耕一
「独立行政法人」制度を国立大学に適用することは大いに問題があるという指摘はたくさんありますが,違法とまで言いきったものはほとんど見かけません(注).では合法なのでしょうか.つまり合法的に選びうる政策の選択肢の範囲内のものなのでしょうか.
しかし違法と言いきっていないにせよ,「学問の自由」や「大学の自治」に言及して,これに反するものと論じているものは見られます.次のような例が挙げられます.
阿部謹也氏,「大学を崩壊させるのは誰か」『群像』99年10月号(文献1)
「次に問題になるのは大学の自治という問題である。主務大臣から課される中期計画に関しても評価委員会の評価によって予算が配分されることになれば、・ ・ ・ ・ ・大学は予算獲得のために右顧左眄して日々を過ごすことになるだろう。そのような大学に自治があるといえるだろうか。」藤田宙靖氏,「国立大学と独立行政法人制度」1999年9月6日 東北大学加齢医学研究所(同9月7日)における講演(文献2)
「また、通則法では、主務大臣が、三年以上五年以下の期間において独立行政法人が達成すべき業務運営に関する目標(中期目標)を定め、・・・・・・・文部大臣によるこのような介入は、現行の国立大学の場合には、存在しないところであって、この制度をそのままに大学に適用したとするならば、大学の自治に対する著しい制約ともなりかねない。」千葉大学文学部教授会,声明,99年7月(文献3)
「独立行政法人の名に反し、主務大臣や評価委員会、審議会の権限が強く、大学自治の本旨と矛盾する従属的な性格を有する制度である。」浜林正夫氏の論説 JOIN No.35 (文教大学) 2000年1.2.3月号(文献4)
「主務大臣(文部大臣)が大学の目標を定め、これを指示するというのですから、大学の自治は根本的に否定されることになります。」
いずれもこの制度が少なくとも「大学の自治」に反するものであることを認めています.特にこの制度の推進者の一人でもある藤田宙靖氏さえもです.
ところで,憲法に関する文献や憲法23条をめぐる判例では,「大学の自治」はこの条文の「学問の自由」に含まれるものとされています.つまり「大学の自治」に反するということは憲法23条に反するということなのです.次をご覧下さい.
三省堂,模範六法,21ページ,1995年(文献5)
「大学の学問の自由と自治は、直接には教授・研究者の研究・発表・教授の自由とこれらを保障するための自治を意味する。・・・・・・・−ポポロ座事件−(最大判昭三八・五・二二刑集一七−四−三七〇)」松井茂記「日本国憲法」486ページ.有斐閣,1999年(文献6)
「学問の自由は,大学の自治を含む。最高裁判所も,ポポロ事件判決において,このことを認めている。・・・・・・・・・23条に含まれる大学の自治は,主として国立大学の場合に意味をもつものと考えられる。」
つまり,上の論者らは国立大学に適用された「独立行政法人」制度は違憲であるということを間接的ながら述べていることになります.私もこれに同意見ですが,重要なのはこのことを明言することではないでしょうか.事が国の基本法に関わる問題であると認識しながらそのことを明示的に述べられないとすればもはや法治国とはいえないでしょう.また「違法性」以上に強力な反論の根拠はありません.
23条の「解釈改憲」ないし空洞化が謀議されているときに,これにはっきりと警告を出すことなしには「護憲」もあり得ません.ましてやその謀議の場である「調査検討会議」に加わるなどもってのほかです.国大協の方々,そして文部省の方々もこの事を真剣に考えていただきたいと思います.もちろんわれわれ大学関係者自身もそうです.
「特例法」や「調整法」でなんとかなる,という議論がなされるでしょうが,それで「違法性」がクリアできるというのは単なる希望的観測に過ぎません.現実に存在するのは「中央省庁等改革基本法」および「独立行政法人通則法」であり,文部省はこの法律制度のもとで検討すると明言しているのです.この「第ゼロ近似」から良くも悪くもなりうる,と考えるのが客観的な態度というもので,したがってこの前提が外されない以上,議論の標的は「通則法」以外にはあり得ません.言い換えれば,今後の検討で変化が起きるにせよ,結果の「期待値」は通則法である,との前提で議論しなければならないのです.
また独立行政法人というのは,通則法ではなくてそれ以前の「中央省庁等改革基本法」で完全に定義されているのです(比較対照表参照).通則法はそれを少しばかり詳しく述べたものに過ぎません.ですから国大協などが「『通則法』のもとでの独立行政法人化に反対」と言っているのは,「二階の部屋での殺人に反対」というのと同じく意味不明です.殺人はどこでやっても殺人なのですから.
大学の独立行政法人化はまた,憲法23条だけでなく教育基本法10条にも抵触すると思われます.たとえば,川合章,室井力編「教育基本法 歴史と研究」(267ページ,新日本出版社,1998,文献7)には次のようにあります.
『不当な支配』とは政治的・官僚的教育行政という形式自体の不当性を含む.
『不当な支配』禁止の原理は教育全般に適用され、内的事項の領域のみならず、外的事項にも及び、外的事項による内的事項の『不当な支配』も許されない.
憲法にも教育基本法にも罰則はありませんから,政府や権力者はこれを無視しても平気と思っているのでしょうか? これでは法治国とは言えません.「憲法違反予備罪」や「教育基本法違反予備罪」に当たると言うべき犯行が現に行われているのに,これを直接取り締まる法律がなく,また司法に訴えることがどうしても不可能であるのならば,市民の力でこれを阻止する以外にありません.憲法12条は「この憲法が国民に保障する自由及び権利は,国民の不断の努力によっ て,これを保持しなければならない」として,われわれにその義務を課しているのです.
上にあげた何れの文献も,その該当部分を次のページ(この文書自身)からリンクを付けています.
../UniversityIssues/legality.html
(注) ごく最近,全大教が「私たちは、国立大学等の『独立行政法人化』に反対し、社会に開かれた大学・高等教育と創造的研究の発展をめざします」というアピールで「憲法23条違反」を明言しています.
文献
1)http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Cafe/3141/dgh/99a09-abe.html
2)http://seri2.law.tohoku.ac.jp/~fujita/tohoku-koen.html
3)http://www.l.chiba-u.ac.jp/jp/agency.html
4)http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/net/nethefo815.html
5)../UniversityIssues/23jhanrei.html
6)../UniversityIssues/matsui.html
7)../UniversityIssues/futoushihai.html