松井茂記「日本国憲法」486ページ.有斐閣,1999年
15-5・3 大学の自治
a 趣旨 学問の自由は,大学の自治を含む。最高裁判所も,ポポロ事件判決(最大判1963<昭和38>年5月22日刑集l7巻4号370頁)において,このことを認めている。私立大学の場合,21条の保障を受ける「結社」と考えられるので,本来あえて大学の自冶を保障する必要性は乏しい。これに対し,国立大学の場合,国民との関係においては国の機関であり,公権力の担い手として現れるが,政府との関係では,私立大学と同様自治を保障する必要がある。従って,23条に含まれる大学の自治は,主として国立大学の場合に意味をもつものと考えられる。
b 大学の自治の性質 この大学の自治の保障は,先に見たように,1つの権利というよりは制度的保障にすぎない(ただし私立大学は,結社の自由に基づいて大学の自治を主張できる。→11-5・4d)。しかし,大学の自治の保障の趣旨からみて,この大学の自治が具体的に侵害された場合,侵害された国立大学はその侵害に対して救済を求める原告適格を有していると考えるべきである。
c 大学の自治の内容 大学の自治は,人事における自冶,施設の管理における自治,学生の処遇における自治,研究教育における自治,予算管理における自治を内容とする。
大学の自治の主体については,大学にあるとする見解と学部教授会にあるとする見解が対立しているが,基本的には大学にあると考えるべきである。
大学の自治と学生の地位については,従来学生は,大学の施設(営造物)利用者として,大学の自治権の客体としてしか位置づけられてこなかった。その後,学生を大学の自治の主体として認めるべきだとの声が強まっている。しかし,憲法上の大学の自治の主体と考えることは困難である。
d 大学の自治の限界 このように大学の自治が認められる以上,大学内の秩序維持は原則として大学の責任と考えなければならない。しかし,だからといって,大学内であれば警察の立入りは許されないというわけではない。最高裁判所は,ポポロ事件判決において,大学の自治の保護は,真に学間的な研究またはその成果の発表のためのものではない実社会の政治的活動にあたるような集会には及ばないとして,警察が日常的に大学構内で情報収集行為を行い,学生の集会などに出席することまでも合法的な行為だと認めているが,学説はこれに批判的である。大学の自治を踏まえ,警察の介入は,重大な犯罪が発生したような場合は別として,原則として大学の要請があった場合に限られると考えるべきであり,ポポロ事件で行われたような大学構内での恒常的な情報収集行為は憲法上許されないものというべきである(ただこの事件は,このような情報収集活動をしていた私服の警官が集会に潜入したところを発見され,警察手帳を取り上げたり暴行を加えるなどして,暴力行為等処罰に関する法律違反に問われた事例であり.被告人の行為を正当な行為ということは困難であろう)。