同時配布文書 国立大学をお役所と産業界の付属物にしてはいけない! 国立大の教育・研究を,文部科学省の「許認可事項」とすることをどう思いますか? 教育基本法,教育行政の項の修正過程 全国ネット呼びかけ文 賛同者名簿 署名用紙

ハイパーレジュメ

「学問の自由」は消費するだけでいいのか?

 憲法・教基法の効力が試される国立大独法化問題

佐賀大学理工学部 豊島耕一
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp
2002年11月1日,於鹿児島大学
(学園祭プレイベント)

破  天  荒
--変えるべきもの 守るべきもの 創るべきもの--
2001年度 明善大運動会スローガン)

府の吏人が平民に対して威を振う趣を見ればこそ,権あるに似たれども,この吏人が政府中にありて上級の者に対するときは,その抑圧を受ること,平民が吏人に対するよりなお甚しきものあり.譬えば地方の下役らが,村の名主共を呼出して事を談ずるときは,その傲慢厭うべきが如くなれども,この下役が長官に接する有様を見れば,また愍笑に堪えたり.(福沢諭吉「文明論之概略」)

又学問者は,才智・弁口にて本体の臆病・欲心などを仕隠すもの也。人の見誤る所也。(葉隠,聞書第一)

まで組織のアカンタビリティー(説明責任)が問われてきましたが,個人にはパーソナルアカンタビリティーがあるのです.なぜあなたは知っていたのに通報しなかったのか,是正に向けて努力しなかったのかという責任を問われます.(「内部告発と向き合う」NACS消費者生活研究所長,宮本一子氏.日経新聞02年9月29日18ページ)

ムダ「公共事業」の弊害が言われるが,文部科学省も例外ではない.書類の山と増殖する会議,無駄な組織*は,ひたすら文部科学省「生き残り」のための公共事業.大学は疲弊する一方.
* 例 TLO  企業の人の話によると,役に立たない特許ばかり持ち込まれて閉口しているとのこと.

1.経過(年表参照)
 文部科学省の「政策転換」に説明なし
 文部大臣の
不法発言(00年5月26日)が2年以上も「野放し」

2. 現行の国立大学制度はどうなっているか
 文部科学省設置法
 「事務」を扱うところ・・3条,4条
 「監督」の制限  ・・
旧文部省設置法6条2項
   「権限」条項の消滅の意味は?
 国立学校設置法・学校教育法
  国立大学の存立の根拠・・国立学校設置法
  評議会・教授会による自治権・・設置法7条の3,学教法59条
 何よりも教育基本法一〇条

 つまり,国立大学と文部科学省とはそれぞれの別の設置法に根拠を持ち,「国会の前に平等」

3. 実態
 国会より官庁(文部科学省)に実権 予算配分の脅し
 大学側の権利認識のなさ,従順さ

4. 「独立」行政法人化とは何か
 国立大学を文部科学省の出張所にすること+
「中期目標」の指示,「中期計画」の認可,学長の人事権,文部大臣による閉鎖
 大学という教育機関を行政機関に変える  
  → 裁判所を警察に変えるに等しい.
  
このような制度が欧米に存在しないことは,文部科学省系の調査機関も認めている
「規制緩和」ではなく「規制強化」
 
戦前の大学令などにもこのような規定はなく,ある意味では戦前の水準からも後退
 
+これを実質化するものとしての,国家機関としての「評価機構」がすでに制度化された

 ユネスコの諸宣言との背反
 「高等教育教職員の地位に関する勧告」,1997
 「ユネスコ高等教育世界宣言 21世紀の高等教育 展望と行動」,1998

   付録:文部省,文部科学省の文書との比較
 
 新自由主義(新保守主義)イデオロギー

4+ 独法化されるとどうなるのか
 授業料値上げ
 授業の質,内容への影響
 学生の自主活動への影響
 社会全体への影響
奨学金問題などと比べると学生への影響が授業料以外それほど直接的ではないので,想像力が必要

5. 小泉首相の「大学構造改革」
 独法化を撤回したのではなく,むしろその本質をむき出しにしたもの
 「競争至上主義」の流布宣伝---競争社会がいいのか,共同体的な社会がいいのかは,あるいはそれらを組み合わせるべきなのか,人々の好みによって決めるべきことだが,「競争ユニラテラリズム」の布教がとみに強化されている.「容赦ない競争」(02年6月28日の日経新聞,「教育を問う6」の大見出し)こそが地球にやさしく,また世界平和にもつながるらしい.

6.イギリスやニュージーランドの改革との共通点と相違
 「独法化」や「大学構造改革」は,英・NZの「効率主義・競争主義」に加えて,国家主義が加わっており,より社会に対する危険が大.同時にこの不適切さを一般に訴えることは非常に容易である.中庭に「さざれ石」を奉る文部科学省のイデオロギー性.日の丸・君が代,教科書検定も「中期目標」になりうる.
大学版「教科書検定」も
(悪)夢 ではない

7. 大学はなぜ強く反対しないか

- 大学首脳部が「文部科学省カルト」に取り込まれている
- 学部長らは「文部科学省の意向」,つまり「神の意志」を巫女として教授会に示す.それを容認し,不透明なやりかたにchallengeしない教授たちの精神性
- 「文部科学省防波堤論」=文部科学省味方論,「狼=財務省が来るぞ」論
- 表決を避け,見せかけの「全会一致」制という議事慣習

このため個人の責任意識が希薄--「記名投票制」が必要か? 先の国大協総会はこの点では前進.(記名投票化の試み)
 「パーソナルアカンタビリティー」
 60年,70年前に無謀な戦争に突入したときのように,個々人のミクロな責任回避の積み重ねが重大な破局をもたらす.

- 教員層の傍観者意識,後ろめたさ(1)からくる沈黙
- 現行法制度の無理解
- 組合連合(全大教)の戦略・戦術も十分な効果を上げていない

「力関係」がどうのといった言い方を良く耳にするが,このような 言葉を使うのはとにもかくにも「闘っている」人のはずだろう.ところがしばしばそうでもない.闘わないための口実としてこの言葉が使われる**.その証拠に同じ左翼用語でも「日和見主義」はほとんど使われないことが挙げられる.
**あるいは「法の支配」ではなく「力の支配」を認めることか

- 「古典力学」(機械的決定論)の信奉,「非線形性」,「カオス」,「非決定性」への無知.「科学性」のはき違えを加藤周一氏が指摘(3)
- 「玉砕」という言葉の使用に見られる言語における
戦争後遺症
-
「葉隠」に記された学者の習性
- 外的要因:「左」からの批判の不在,大学外の労働組合・団体などの大学問題一般での沈黙.もちろん学生も.「大学の先生は文部科学省に対抗して一生懸命やっておられるはず」?
-
「水戸黄門イデオロギー」「忠臣蔵イデオロギー」(お家第一),そのベースをなす儒教思考,
 → 中高年へのテレビの悪影響
「泥をかぶる」という言葉

7+. 今大学で何が起こっているか
  法案の先行実施=「中期目標」の作文

「大学院で入試ミス相次ぐ 法人化準備で教員多忙」共同通信09/28 
“東大の広渡清吾副学長は「法人化に向け、文科省に提出する中期目標の策定などに追われている」と教員の多忙さを指摘。”
まさに「職務専念義務違反」が実害となって表れたということか.

8. 「通則法」は囮か?
 「『国立大学法人』は独法化とは違う」という言説
  → 「最終報告」さえも囮?

9. 何を改革すべきか
 - 学生参加の二重の意味--ユネスコ世界宣('98)
 「雑用」に学生を巻き込むべきでない?
 全国ネットからの
ユネスコへの手紙
 - 教職員の市民的自由の侵害(人事院規則14-7)
 - 「運営諮問会議」の改革の可能性--民意の反映の手段として.
   なぜ学生代表がゼロか?
 - 「市民に役立つ」大学

10. 「自治」とアカウンタビリティー(民意によるコントロール)
 「不当な支配」のリスクと「不当に支配」(2)のリスク
 「独法化阻止」が 旧 体 制
(アンシャンレジーム) 擁護にならないためには

11. 反対運動の戦略・戦術
メディアは問題の核心をはぐらかす.真実を知らせることによる巨大な可能性.何よりも個人個人が意見を表明することが出発点.
 諸分野の社会運動との連携(例:教育基本法改悪反対の団体
(例) に,独法化が10条改悪の先行実施であることを理解してもらう
 何よりも「ガッツ」 
  ---事例:英国のガッツある女性たち
[声明写真支援運動2001年ライト・ライブリフッド賞受賞]

1) 一般国民や学生の意見に対して開かれたシステムでなく,相変わらず閉鎖的な「教授会自治」であるため,文部科学省による支配を国民の意見の唯一の伝達システムと思い込んでいる.
2) 学内の,「自治」の名で行われる独断的な運営をこのように呼ぶことにする.
3) 「私にとっての二〇世紀」,岩波書店,72ページ



独法化阻止全国ネット
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet.htmlミラー

参考文献

独法化問題
1) 豊島耕一「政府が実施を急ぐ独立法人化 大学の“独立”は逆に失われる恐れ
 「週刊金曜日」2002年4月19日号、45〜47ページ
2) 岩崎稔ほか「激震!国立大学」,未来社,1999年.
3) 伊ヶ崎暁生「学問の自由と大学の自治」,三省堂,2001年.
4) 喜多村和之「大学は生まれ変わるか」,中公新書,2002年.
5) 福家俊朗ほか「独立行政法人」,日本評論社,1999年.

儒教批判
6) 浅野裕一「儒教 ルサンチマンの宗教」,平凡社新書,1999年.
7) 金経一「孔子が死んでこそ国が生きる」,千早書房,2000年.

その他
8) 須原一秀「弱腰矯正読本」,新評論,2000年.