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( I 概説 のみ )

大学の設置形態と管理・財務に関する国際比較研究

       ―第一次中間まとめ―

平成12年1月

国立学校財務センター

はしがき

 国立学校財務センターは、国立大学の設置形態の検討に資するため、平成11年7月以来、「大学の設置形態と財務システムに関する調査研究」を実施してきた。

 研究は、なお基礎作業の段階であるが、国立大学の独立行政法人化問題の検討が急速に進展しつつあることに鑑み、とりあえず、「大学の設置形態と管理・財務に関する国際比較」についての、これまでの調査研究の成果を中間的にとりまとめ、参考に供するものである。

 研究開始後比較的短期間で一応の中間とりまとめができたのは、研究にご参加いただいた研究者、専門家の皆様のご協力の賜物であり、深く感謝申し上げたい。

平成12年1月18日

国立学校財務センター所長 大崎 仁

目次

I 概説........................1

II 各国の状況
1 アメリカ..................7
2 イギリス.................26
3 ドイツ...................44
4 フランス.................60

III 研究組織(名簿).............77


I 概説

 大学設置形態と管理・財務について、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの四カ国を対象に調査研究を進めた。以下は、その成果の概要を独立行政法人化問題の検討に資することを念頭にとりまとめたものである。

1.大学の設置形態

 欧米各国とも、大学の設立、運営は、基本的に国家(州)の責任である。国(州)立大学が法人格を持っているため、民営と誤解する向きがあるが、イギリスのほかは、国公立機関であることは関係法律に明示されている。

 私立大学はイギリス、フランス、ドイツではきわめて例外的存在であり、アメリカにおいてもその比重は減少している。

1)大学の国公立機関性

 アメリカの一部の州立大学を除き、国(州)立大学はすべて法人格を有するが、これは、大学の自治的運営を保障強化するための措置であり、国公立機関であることは、関係法律に明示されている。ただし、イギリスの大学については、歴史的経緯から独立性が強くかつ制度が複雑なため国立機関とまでは言い難いが、その国家的性格は明らかである。

2)連邦国家の特殊性

 アメリカでは憲法修正第10条「この憲法により、合衆国に委譲されない権限・・・は、州または人民が保有する」の規定により、大学については州の権限であり、連邦は直接的権限を持たない。従って、州立大学が中心となる。

 他方、ドイツの大学は邦立であるが、基本法第30条「国家の権能の行使及び国家の任務の遂行は、基本法が別段の定めをなさず、または許さない限り、邦(Land)の仕事である」の規定により、邦は、国家の任務の遂行として、大学の設置運営を行っており、邦立大学は、法律上国家機関として位置づけられている。また、連邦も基本法が認める一定の権限を行使できる。

3)私立大学

 アメリカは、歴史的には私立大学が中心であったが、第二次世界大戦後、州立大学の発展がめざましく、1995年現在で私立大学は、学校数では、なお、55%(4年制73%、2年制28%)を占めているが、学生数では、22%(4年制30%、2年制4%)を占めるに過ぎない。

 ヨーロッパ諸国では、私立大学はきわめて例外的な存在でありフランスでは、学位授与権のある私学はない。イギリスでは、バッキンガム大学1校のみである。ドイツでは少数の教会立等の大学はあるが、学生数の2%を占めるに過ぎない。

2. 大学の法的地位

 各国とも、大学(私立大学を除く)の設立と法人格の付与は、大学の特性に即して、大学に関する基本的法律または州憲法で定められており、「独立行政法人」のような法人類型を大学に適用している例はない。

 アメリカ、イギリスでは、理事会等の管理機関に法人格が付与され、フランス、ドイツでは、大学に法人格が付与されている。

1)法的地位の根拠

 アメリカの一部州立大学を除き、大学はすべて法人である。アメリカでは、州立大学については、州憲法または州法により大学が設立され、その管理を行う理事会に法人格が与えられる。一つの理事会が複数の大学を管理する場合が少なくない。

 州憲法による大学と法人の設立は、州議会、州政府に対する大学の独立性を強化するための措置である。

 私立大学は、私法人として認可される。

 ドイツ、フランス、イギリスでは、次に示すように、高等教育に関する基本的法律で大学の法人格を定めている。

(1)ドイツ
 「高等教育機関は、通常、公法上の法人であり、同時に国の機関である。高等教育機関は、他の法的形態においても設置することができる。高等教育機関は、法律の範囲内で自治権を有する。」(高等教育大綱法第58条)

(2)フランス
 「高等教育及び研究を行う国家機関は、学術的・文化的・専門的性格を有する公施設であり、法人格並びに教育・学術面及び行財政面における自治権を亨受する。」(1984年高等教育法第20条)

(3)イギリス
 1992年にポリテクニク(専門学校)等から昇格した新大学(1992年継続教育・高等教育法第76,77条)は、1988年教育改革法による「高等教育法人」の地位を継続している(同法71条)。ただし、それ以前に設立された大学は、国王の勅許状による勅許法人である。

2)法人の性格と代表機関

 アメリカ、イギリスでは大学の管理機関に法人格が付与される。従って、法人の代表機関は法人格を付与された理事会等の管理機関であり、学長は管理機関の主要メンバーである。

 ドイツ、フランスでは、大学自体が法人である。従って、法人の代表機関は学長(総長)である。ドイツの場合には、学長(総長)、副学長(副総長)、事務総長で構成する学長(総長)部が代表機関となる場合がある。

3. 大学の自治・自主性の尊重

 各国とも、政府の政策に沿った大学運営を目指した改革を進めてはいるが、イギリスが独立機関を介して資金交付を行い、政府の個別大学に対する直接的干渉を原則として禁止していること、フランスが「契約政策」により、国の政策と大学の計画との接点を求めていることなどに見られるように、大学の自主性と自治的運営を尊重して、特別の配慮を払っている。

 政府による目標の指示、実行計画の認可、変更命令というような「独立行政法人」的手法を採っている例はない。

 なお、イギリスの大学は、いわゆる「エージェンシー」方式の改革とは全く関係がない。

(注)いわゆる「エージェンシー」とは、イギリスにおける行政改革の手法の一つである。特定業務の効率化を図るため、当該業務を行う行政組織を「エージェンシー」とする。主務大臣と「エージェンシー」の長官との間で、達成目標の設定等の枠組み協定を行い、枠組みの範囲内で、長官に広範な管理権限が与えられる。長官は一般に公開競争を経て任期付きで任命され、自由に業務運営を行うことができるが、業績について責任を負うことになる。車両検査、社会保障給付、刑務所などがエージェンシー化されたと言われる。なお、エージェンシーは行政組織の一部であり、法人ではない。(ジュリスト 1161号所載 岡村周一論文参照)

1)連邦政府の権限の制限

 アメリカとドイツの連邦政府は、前述のとおり、大学について直接的権限を持たない。

 アメリカの連邦政府では、研究費助成・研究契約を通じる大学の研究活動の支援と学生に対する奨学金の交付が、大学関連施策の中心である。なお、助成・契約により大学に交付される研究費の50%以上は、間接経費として大学が自由に使用できるため、研究活動の支援は経常費助成的役割も果たしている。

 ドイツの連邦政府は、大学制度の大綱立法権による大学制度の基本的枠組みの策定(高等教育大綱法)と各邦との共同任務(教育研究施設費助成等)を通じて、大学の活動を支援するだけである。

2)学内機関による管理機関職の選出

 イギリス、ドイツ、フランスでは、大学管理機関の職に就く者の選出は、学内機関により行われ、原則として政府は実質的な介入はしない。

 アメリカの大学理事会は、通常、知事任命者と特定職にある者により構成されるが、州政府・議会の直接的干渉から大学を保護する役割を期待されている。

3)資金交付にともなう政府の干渉の抑制

 各国では、大学に対する資金交付に当たって、政府の干渉を抑制するため、それぞれ次のような方策を講じている。

(1)独立機関を通じる予算配分

 イギリスにおけるハイヤー・エジュケーション・ファンディング・カウンシル及びリサーチ・カウンシルを通じる資金交付、ドイツにおけるドイツ研究協会(DFG)を通じる研究助成などが、その例である。

 イギリスでは、政府はファンディング・カウンシルへの資金交付に当たって大学全体について条件を付することはできるが、個別大学についての条件設定は法律により原則として禁じられている。

(2)契約方式による資金交付

 フランスでは、政府と大学が研究・教育計画について協議・締結する契約に基づき資金を交付する「契約政策」が進められている。これは国の政策と大学の契約との一致点を見出し、研究・教育の推進を図るための方式と考えられる。

4)教育・研究に関する教員・研究者自治

 大学自体が法人であるドイツ、フランスはもちろん、アメリカ、イギリスのように、理事会が大学を管理する方式をとる場合に於いても、教育課程、教員人事等教育・研究に関する事項については、ファカルティー・セネート、学務委員会等教員が中心となる機関の決定が尊重される。

4. 大学の財政

 国(州)立大学(イギリスの大学を含む)経費の大半は、国(州・邦)が負担する。学生の授業料は無償かあるいは低額に押さえられている。

 アメリカの私立大学については、連邦、州からの大学に対する直接補助は例外的であり、授業料収入への依存度は大きいが、連邦政府からの間接経費を含む研究資金と学生に対する奨学金が大きな支えとなっている。

1)アメリカ

 アメリカの大学の財源構成は大学の性格、州の方針等により多様であるが、全大学の総計について見ると次のとおりである。

 州立大学の経費の51%程度を州、連邦が負担している。(州・地方40%、連邦11%)、授業料等の学生負担の収入は19%程度である。

 学部段階の授業料は低額に抑えられており(私学の4分の1程度)、通常、専門分野による差を設けていない。

 私立大学については、連邦・州の負担は17%程度であり、授業料等が43%を占める。

 連邦等の奨学金は授業料補助の性格も持ち、授業料収入の中には、実質的に相当額の連邦奨学金が含まれていることを考慮すると、連邦政府の負担割合はさらに増加する。奨学金の額は、授業料の額も考慮して定められるので、連邦政府の奨学金は私立大学に対する実質的な支援として、大きな意味を持っている。

アメリカ大学経常費財源別比率(95年度)

      州立  私立

連邦     11% 14%
州・地方   40   3
授業料等   19  43
基本財産収入 1   5
寄付金等   4   9
事業収入   22  21
その他    3   5

2)イギリス(イングランド)

 大学の経費の55%程度が国の負担である。授業料は、一般学生は原則実質無償(政府が相当分を負担)であるが、留学生・研修生等からの授業料収入が14%程度ある。

 98年度以降の入学者から原則として平均的教育経費の4分の1程度の授業料(専門分野による差はない)を徴収することになった。

イギリス大学の収入財源別比率(97年度)

国費          54%
留学生・研修生等授業料 14
宿舎・食堂等       7
研究費等外部資金    10
基金・寄付金       3
事業収入        12

3)ドイツ

 経常経費は各邦が負担し、建築物・大規模設備費は、邦と連邦が50%づつ負担する。

 授業料は原則として課さないが、一部の邦で、限定的な学生負担を求めている。

4)フランス

 大学の経費は原則として国が負担する。授業料は課さないが入学時に学生登録料を徴収している。

(文責大崎仁)

II 各国の状況 

以下省略


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