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ユネスコ高等教育世界宣言

21世紀の高等教育 展望と行動

(日本私立大学協会による私訳。「教育学術新聞」'98年11月11日号から転載)

豊島による抜粋 倫理的役割の項


リンク:フランス語版 英語版 ユネスコ高等教育会議 全大教訳 金澤哲氏の訳

 序文

 二十一世紀を目前にして、高等教育に対する需要がかつてないほど拡大し、高等教育が多様化してきていると同時に、社会の文化的および経済的発展にとって、さらに若い世代が新しい技能、知識および理想を習得して未来を構築して行くために、高等教育が非常に重要であるという認識が広がっている。高等教育には、「大学および国の管轄機関によって高等教育用施設として認可されたその他の教育機関が提供するあらゆる形態の教育、訓練、そして研究者の養成」が含まれる(※1、3面の最後に記載)。高等教育の現場はどこでも、財政、入学時あるいは修学の公平な条件、教育職員開発の向上、技能訓練、教育,研究,サービスの質の向上と維持、プログラムの適切性、卒業生の就労の可能性、有効な協力協定の確立、および国際協力の恩恵への公平なアクセスに関し、大きな課題と困難を抱えている。同時に高等教育は、知識を生産、管理、普及、利用する方法を改善する技術に関連した新しい機会という挑戦も受けている。教育制度のあらゆるレベルでこれらの技術への公平なアクセスを保証しなければならない。

 今世紀の後半は高等教育の歴史にとっては最も目覚ましい拡張の時期であった。世界中での入学者数は、一九六〇年度の二二〇〇万人から一九九五年度の八二〇〇万人へと六倍以上になった。しかし高等教育での学習や研究へのアクセスと資源に関しては、工業先進国と開発途上国、特に後発開発途上国との間に、すでに存在していた大きな格差がさらに拡大した期間でもあった。社会経済的に階層化が進み、最も開発が進んだ豊かな国々も例外ではなく、各国内での教育機会における格差が拡大した期間でもある。開発を決定づける多数の人々に教育を授け、技術を修得させる高等教育と研究の機関がなければ、いかなる国も純粋に内発的で持続可能な開発を確保することはできず、特に開発途上国や貧しい国々は、工業先進国との格差を縮小することができない。知識の共有、国際協力、および新技術が、こうした格差を縮小する新しい機会を生み出すことができる。

 高等教育は何世紀にもわたってその有用性と、社会を変革し、変化と進歩を推進するその力を十分に証明してきた。変革が十分に広がり浸透した結果、社会はますます知識に立脚するようになり、現在、高等教育の学習や研究は、個人、地域社会、国家の文化的発展、社会経済的発展、および環境的に持続可能な開発に不可欠な要素となっている。したがって、高等教育自体が非常に大きな課題に直面し、かつてない大胆な変革と刷新を目指すことが要求されている。それによって、現在深刻な価値の危機の直中にある我々の社会が、単に経済性のみを考慮するのではなく、より深い道徳性と精神性の広がりを取り入れることが可能になってくる。

 UNESCOが「二十一世紀の高等教育に関する国際会議―展望と行動」を召集したのは、これらの課題に対する解決策を提供し、高等教育の根本的改革のプロセスを開始することが目的であった。この会議の準備にあたり、UNESCOは一九九五年に、「高等教育の変化と発展のための政策文書」を発表した。その後、五つの地域協議(ハバナ・一九九六年十一月、ダカール・、東京・一九九七年七月、パレルモ・一九九七年九月、ベイルート・一九九八年三月)が行われた。そこで採択された宣言および行動計画は、それぞれが各地域の特殊性を有したものだったが、国際会議の準備作業において行われたすべての考察と何様に、本宣言中に適切に考慮され、ここに明記されている。

 我々、高等教育に関する国際会議の参加者は、一九九八年十月五日から九日までパリのUNESCO本部に集い、

 国際連合憲章、人権に関する世界宣言、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約、および市民的および政治的権利に関する国際規約の諸原則を想起し、

 また、「何人も、教育を受ける権利を有する」および「高等教育は、能刀に応じ、すべての者に等しく開放されなければならない」とその第二六条第一項に述べている人権に関する世界宣言を想起し、第四条で、「高等教育を、個人の能力を基礎としてすべての者に等しく開放する」と参加国にゆだねた教育における差別待遇の防止に関する条約(一九六〇年)の基本原則を認め、

 主要な委員会および会議、とりわけ、二十一世紀教育国際委員会、文化および開発に関する国際委員会、第四四回および第四五回国際教育会議(ジュネーブ、一九九四年および一九九六年)、特に高等教育教員の地位に関する勧告についての第二七回および第二九回のUNESCO総会の決定、すべての人のための教育に関する国際会議(ジョムチエン、タイ、一九九〇年)、国連環境開発会議(リオデジャネイロ、一九九二年)、学問の自由と大学の自治に関する国連会議(シナイア、一九九二年)、世界人権会議(ウィーン、一九九三年)、世界社会開発サミット(コペンハーゲン、一九九五年)、第四回世界女性会議(北京、一九九五年)、世界教育情報科学会議(モスクワ、一九九六年)、二十一世紀の高等教育および人的資源開発に関する国際会議(マニラ、一九九七年)、ならびに、第五回国際成人教育会議(ハンブルグ、一九九七年)、そして特に、「我々は……高等教育施設の生涯学習施設への転換を推進し、それに基づき大学の役割を定めるための世界高等教育会議(パリ、一九九八年)を開催することにより……成人学習者に対して学校および大学を開放することにコミットする」と述べているテーマ2(学習の条件と質の向上)に基づく「将来へのアジェンダ」における、高等教育に関する勧告を考慮し、

 教育は、人権、民主主義、持続可能な開発および平和のための基本的な柱であり、したがって生涯を通じてすべての人が利用できるべきであり、さまざまな部門、特に一般的、技術的、および専門的な中等教育と高等教育の全体およびそれらの間で、さらに総合大学、単科大学および技術訓練施設の全体およびそれらの間で、調整と協力を保証するための手段が必要であることを確信し、

 これに関連して、二十一世紀を目前に控えて直面する間題の解決は、将来の社会の展望により、および教育一般、特に高等教育に割り当てられた役割により決定されることを信じ、

 新たな千年の入り口に立ち、平和な文化の価値と理想が広がり、その目的のために知的共同体が動員されることを確実にすることが高等教育機関の義務であると認識し、

 高等教育の大幅な変革と発展、その質と適切さの向上、および直面する主な課題の解決には、社会に対する高等教育機関の責任の拡大、公的および民間、国内あるいは国際的な資源の利用における説明責任と同様に、政府および高等教育機関ばかりでなく、学生やその家族、教員、実業界、経済の公的部門や民間部門、議会、メディア、知的共同体、専門組織および学会を含むすべての関係者の関与を必要としていることを考慮し、

 高等教育制度は、不確実さと共存し、変革しかつ変革を促し、社会的ニーズを指摘し、連帯と平等を推進する機能を高めなければならず、必要な質的レベルを達成し維持するための基本的な前提条件として、公正な精神において科学的厳密さと創造性を保持し行使しなければならず、また学生達が来るべき世紀のグローバルな知識社会へ完全に組み入れられるように、その生涯を視野に入れて、彼らを課題の中心に位置づけなければならないことを強調し、

 また、国際的な協力と交流が、世界中での高等教育の前進に向けての主要な手段であることを信じ、

 以下の通り宣言する。

高等教育の使命と機能

 第一条 教育、訓練、研究を行う使命

 我々は、高等教育の中心的使命と価値、特に、社会全体の持続可能な発展と改善に寄与するという使命は、維持され強化され一層拡大しなければならないと確信する。この使命とは、

 (a)高レベルの知識と技能を統合する、社会の現在および将来のニーズに常に合わせたコースと内容をもつ専門的訓練を合め、必要な資格を与えることにより、人間の活動のあらゆる部門でのニーズを満たすことができるように、高い能力をもつ卒業生および信頼し得る市民を教育により生み出す。

 (b)高等教育での学習と、学習者に最適な選択の幅を与え、制度内での入退学を柔軟にすることによって提供する生涯教育の機会(オープン・スペース)、ならびに国際的な展望をもって、市民としての覚知および社会への積極的参加を促す教育を提供するために、個人的な発達と社会的移動の機会、自分自身による能力構築を行う機会、さらに社会正義の文脈において、人権、持続的発展、民主主義および平和を確固たるものとして行く機会を提供する。

 (c)研究を通して知識を高め、創造し、普及し、ならびに地域社会へのサービスの一環として、社会科学、人文科学および創造的芸術における研究と同様に科学的および技術的研究を推進し発展させることによって、文化的、社会的および経済的発展において社会を支援するための関連する専門知識を提供する。

 (d)文化的多元主義および多様性の観点から、国内、地域、世界および歴史的文化の理解、解釈、維持、強化、推進、および普及を支援する。

 (e)民主的市民という基礎を形成する価値について青年を教育することにより、また、戦略的オプション案と人道主義的観点の強化に役立つ批判的かつ公平な観点を示すことにより、社会的価値の保護と強化を支援する。

 (f)教師の育成を含め、あらゆるレベルでの教育の発展と向上に寄与すること。

 第二条 倫理的役割、自律、責任および期待される任務

 一九九七年十一月にUNESCOの総会で承認された高等教育の教員の地位に関する勧告に従い、高等教育機関およびその職員と学生は、

 (a)さまざまな活動における、倫理および科学的,学術的精密さの実践を通じて、その重要な任務を維持し発展させ、

 (b)内省、理解、行動を促すために社会が必要とするある種の学術的権威を行使することによって、倫理的、文化的および社会的問題について完全に独立に、そしてその責任を十分に自覚して発言する機会を与えられ、

 (c)予測、警告および防止に焦点を当てながら、発現する社会的、経済的、文化的および政治的傾向を継続的に分析することによって、批判的で進歩的な機能を強化し、

 (d)UNESCO憲章にうたわれているように、平和、正義、自由、平等および連帯を含む普遍的に受け入れられている価値を擁護し積極的に普及するために、知的能力およびその道徳的名声を行使し、

 (e)権利と義務であるとみなされる学問の自由および自律性を十分に亨受し、社会に対して十分に責任をもち説明責任を負い、

 (f)地域社会、国および世界の秩序に影響する問題の特定と解決において、支援的役割を果たさなければならない。

高等教育の新たな展望の形成

 第三条 公平なアクセス

 (a)人権に関する世界宣言第二六条一項に従い、高等教育への受け入れは、入学希望者が示す実績、能力、努力、忍耐および献身に基づかなけれぱならず、生涯教育制度においてはいかなる時も、過去に習得された技能を適切に承認して、受け入れを行うことができる。結果として、高等教育への入学認定においては、人種、性、言語もしくは宗教、経済的、文化的もしくは社会的差異、または身体的障害を理由とするいかなる差別も容認することはできない。

 (b)高等教育へのアクセスの公平さは他のすべてのレベルの教育、特に中等教育との連携の強化から、そして必要ならば、再調整から始めなければならない。高等教育機関は、早期児童教育および初等教育から始まり、一生を通じて継続する間断のない制度の一部として見なされ、そのように機能し、またそのように機能することを奨励しなければならない。高等教育機関は、両親、学校、学生、社会的経済的グループおよび地域社会との積極的な連携の中で機能しなければならない。中等教育は、幅広く学習する能力を開発することによって、高等教育への入学有資格者を育成しなければならないばかりでなく、広範な職業に関する訓練を提供することによって積極的な人生への道を開くものでもなければならない。しかし高等教育は、できる限りすべての年齢の、中等教育を首尾よく修了した人、それと同レベルの人、または入学資格認定を提示した人に対しては、いかなる差別もなく開放されていなければならない.

 (c)その結果,高等教育への需要が急速かつ広範に高まりつつあることから、前記第三条(a)で明確にされたとおり、適切である場合、高等教育へのアクセスに関するあらゆる方針において、個人の実績に基づく方法を将来的に優先して行くことが必要になる。

 (d)先住民、文化的もしくは言語的少数民族、恵まれない人々、被占領地域の住民、障害者などの特別な対象となるグルーブに属する人々のための高等教育へのアクセスは、これらのグルーブの人々が、集団としておよび個人として、社会および国家の発展にとって大きな価値となる経験と才能を有する可能性があることから、積極的に推進しなければならない。特別な物質的支援を提供し、および教育に解決策を講じることが、高等教育へのアクセスおよび継続の両面においてこれらのグルーブが直面する障害を克服することに役立つ。

 第四条 女性の参加の拡大と役割の推進

 (a)女性の高等教育へのアクセスについては大きな進展があったが、世界の多くの地域で、さまざまな社会経済的、文化的および政治的障害が、彼女らの十分なアクセスと効果的な統合を妨げ続けている。これらを克服することが、能力本位の原則に基づく高等教育における公正で平等な制度を保証するプロセスを作成しなおす上で緊急に優先すべき課題である。

 (b)高等教育において、あらゆるジェンダー(社会的、文化的性)に関わる国定観念を排除し、さまざまな分野におけるジェンダー問題を考察し、彼女らの意志が聞き入れられないあらゆるレベルおよびあらゆる分野において女性の役割を確立し、特に意思決定における彼女らの積極的参加を拡大するために、さらなる努力が必要とされる。

 (c)ジェンダー研究(女性研究)を、高等教育および社会の変革のための戦略的な学問の分野として奨励しなければならない。

 (d)女性が十分に進出していない原因となっている政治的、社会的障壁を排除し、特に高等教育および社会での方針および意思の決定レベルでの積極的な関与を拡大するために努力しなければならない。

 第五条 科学、芸術および人文学における研究を通じた知識の発達とその結果の普及

 (a)研究による知識の発達は、あらゆる高等教育の制度における必須の機能であり、それは大学院レベルでの研究を推進すべきものである。社会的および文化的な目的と要求に関する長期的な方向性をもつプログラムにおいて、革新的機運および学際性を奨励し強化しなければならない。基本的研究および目標指向研究の間に適切な均衡を確立しなければならない。

 (b)研究機関は、研究に従事する学術的共同体のすベてのメンバーが、適切な訓練、資源および支援の提供を受けることを保証しなければならない。研究の成果に対する知的および文化的権利は、人類の利益のために使われなければならず、悪用されないよう保護しなければならない。

 (c)国家的、地域的および国際的な研究開発方針の枠組みの中で、社会科学、人文科学、教育(高等教育を含む)、工学、自然科学、数学、特報科学および芸術を含むすべての分野で、研究を強化しなければならない。特に重要なことは、高等教育研究機関における研究能力の強化である。高等教育と研究が同じ施設内で高いレベルで行われれば、相互に質が高めえるからである。これらの機関は、公的、民間両方から、必要な物質的および財政的支援を見出さなければならない。

 第六条 適切性に基づく長期的な方向付け

 (a)高等教育の適切性は、社会が教育機関に期待すること、そして教育機関が実際に行っていることが一致しているかという観点から評価しなければならない。これには、文化および環境保護に対する配慮を含む社会的な目標とニーズについての長期的な方向付けに基づく、倫理基準、政治的不偏性、不可欠な能力、そして同時に社会および実業界の問題における一層の透明性が要求される。問題は、広範な一般教育と、しばしば多分野を含み、また学際的な、技能と才能に焦点を当てた目標を定めた職業別教育両方へのアクセスを提供することである。いずれも、多様に変化する状況で生活し、職業を変わることができるように、人々を育成するものである。

 (b)高等教育は、主に、問題や争点の分析における多分野を含み、また学際的なアプローチによって、社会に対するサービスというその役割、特に貧困、不寛容、暴力、非識字、飢餓、環境汚染および病気の根絶を目的とした活動を強化しなければならない。

 (c)高等教育は、特に、教員教育の改善、カリキュラム開発および教育研究を通じて、教育制度全体の発展にますます寄与して行かなければならない。

 (d)高等教育は、人類に対する愛と英知に導かれ、高度な教育を受け動機づけられ、人格の融和した個々人によって構成される、暴力や搾取のない新しい世界の創出を究極的な目的としなければならない。

 第七条 実業界との協力の強化、および社会のニーズの分析と予測

 (a)知識とその応用、および情報の処理に基づく、変化と新しい生産様式の登場によって特徴付けられる経済においては、高等教育、実業界、および社会のその他の部分の連携を強化し、刷新しなければならない。

 (b)実業界との連携は、教育機関の代表者の統括機関への参加、学生および教師のための国内外での実習/実務研究機会の利用の増加、実業界と高等教育機関の間での職員の交換、より実務に即したものとなるようなカリキュラムの改訂によって強化することができる。

 (c)専門的訓練、技術の向上および再活用のための生涯の情報源として、高等教育機関は、実業界、科学、技術および経済部門の傾向を体系的に考慮しなければならない。産業の要求に応えるために高等教育界と実業界は、学修課程、学習前評価、橋渡しプログラム、および仕事上の理論と実践を統合する学習プロセスを共同で開発し、評価しなければならない。高等教育機関は、その予測機能の枠組み内で(それが唯一の機能ではないが)、新しい職業の創出に寄与することができる。

 (d)将来、求職者となるばかりでなく、特に職業の創出者となることをますます求められる卒業生に対して、雇用される可能性を与えるためには、企業家としての技能とイニシャチブを開発することが、高等教育の主要な関心事にならなければならない。高等教育機関は、学生に、社会的責任意識とともに、自己の能力を十分に開発する機会を与え、民主主義社会に完全に参加し、平等と正義を育成する変革の推進者となるように教育しなければならない。

 第八条 機会均等の拡大のための多様化

 (a)高等教育制度の柔軟な入退学に基づいた生涯という観点から、増加する国際的な要求に応え、さまざまな教育手段へのアクセスを提供し、ますます拡大する社会へのアクセスを広げるためには、高等教育のモデルおよび募集の方法と基準を多様化することが必須である。

 (b)高等教育のより多様化したシステムは、中でも公立、私立および非営利の組織という新しい種類の第二種組織によって特徴付けられる。教育機関は、従来の学位、短期コース、定時制学習、フレックス日程、単科コース、遠隔学習など、多様な教育と訓練の機会を提供できなければならない。

 第九条 革新的教育方法−批判的思考および創造力

 (a)急激な変化の中にある世界では、学生指向の高等教育についての新しい展望とパラダイムの必要性が認識され、大部分の国では、地域社会および社会の最も広範な部門との新しい形の連携とパートナーシップに基づく、人間の多様性とその内容、教育の方法、実践、および手段の多様性の拡大に対応するために徹底的な改革と開放方針が求められる。

 (b)高等教育機関は、学生を批判的に思考し、社会の問題を分析してその解決策を求め、それを実践して社会的責任を受け入れることができる見聞の広い、深く動機付けられた市民となるように教育すべきである。

 (c)これらの目的を達成するには、分野別の認知的な修得を超えるため、新しい適切な方法を使ってカリキュラムを作成し直すことが必要な場合がある。多様な文化の中での伝達、創造的で批判的な分析、独立した思考およびチームワークを達成するための技能資格および能力の取得を推進するために、教育的かつ教訓的な方法が利用され、またそのことを推進しなければならない。その場合、創造性はまた、伝統的あるいは地方的な知識とノウハウを進歩した科学および技術と結び付けている。これらの改善されたカリキュラムでは、ジェンダーの問題、および各国での具体的な文化的、歴史的および経済的状況を考慮しなければならない。世界各地での地域社会のニーズに基づく人権基準と教育についての学習は、あらゆる分野、特に企業精神を育てる分野のカリキュラムに反映しなければならない。カリキュラムの決定においては、学校側の人間が重要な役割を果たさなければならない。

 (d)新しい教育方法は、新しいタイプの教授・学習教材も含む。これらは、記憶力ばかりでなく、理解力、実務遂行技能と創造力の育成を推進する新しい試験方法と組み合わせなければならない。

 第一〇条 主な当事者としての高等教育の職員と学生

 (a)職員の育成についての強力な方針が、高等教育機関の必須の要素である。高等教育の教員に関して、明確な方針を打ち立てなければならない。教員は学生に、単なる知識の源となるばかりでなく、どのように学ぶか、そしてどのように指導力を発揮するかを教えることに焦点を当てる必要がある。一九九七年十一月にUNESCOの総会で承認された「高等教育の教員の地位に関する勧告」の対応する規定を反映し、研究に関して、および適切な職員育成プログラムを通しての教育技術の更新と改善に関して、そして研究と指導の卓越性に関して、適切な規定を定め、カリキュラム、指導および学習方法の継続的な改革を奨励し、適切な職業上および金銭的な地位を保証しなければならない。この目的のためには、国際的経験により大きな重要性を与えなければならない。さらに、生涯教育のための高等教育の役割に鑑みて、教育機関外での経験も高等教育の職員として適切な資格とみなすべきである。

 (b)早期児童教育、そして初等および中等教育の教員を育成し、あらゆる高等教育機関は明確な方針を定め、カリキュラムの継続的な改革、最善の教育方法、および多様な学習様式の最良のかたちでの実践を促さなければならない。適切な訓練を受けた事務および技術職員をもつことが必須である。

 (c)国および教育機関の意思決定者は、学生および彼らのニーズをその関心の中心に置き、彼らを高等教育の革新における主たるパートナー、そして責任のある当事者とみなさなければならない。これは、教育レベルに影響する問題、教育法やカリキュラムの評価、改革、そして教育制度の施行、方針の作成と運営における学生の関与を含まなければならない。学生は組織化し、代表者を立てる権利を有するので、これらの問題への学生の関与は保証しなければならない。

 (d)さまざまな年齢で高等教育へ移行する学生を支援するために、そしてますます多様化する学修者のニーズを考慮するために、学生と協力して、ガイダンスやカウンセリングを充実しなければならない。中等学校や各種学校から高等教育に入ってくる学生の他に、一生の過程の中で退学し、再入学する人々のニーズも考慮しなければなうない。かかる支援は、学生にふさわしい学科であることを保証し、中途退学者数を減らすために重要である。中途退学する学生は、適切な場合にそして適切な時期に、高等教育へ復帰する機会を与えられるべきである。

展望から行動へ

 第一一条 定性的な評価

 (a)高等教育の質は多元的な概念であり、教育プログラム、研究プログラム、研究と奨学金、職員、学生、建造物、施設、器材、地域社会へのサービスおよび学問的環境など、そのすべての機能および活動を含めなければならない。内部自己評価および、可能ならば国際的な専門知識をもつ独立した専門家によって公然と行われる外部審査が、質の向上のために必須である。国の独立の機関を設立し、国際的レベルで認められる国際比較に堪え得る質の基準を定めなければならない。多様性を考慮するとともに均質性を避けるため、具体的な機関別、国別、および地域別の事情に適切な配慮をしなければならない。教育機関の評価プロセスにおいては当事者の関与が不可欠である。

 (b)質はまた、高等教育が、国内の文化的価値および状況を考慮しながら、知識の交換、対話的ネットワーク、教師や学生の流動性、国際的な研究プロジェクトなど、国際的な次元から特徴付けなければならない。

 (c)国家的、地域的および国際的な質を達成し維持するには、幾つかの要素に特に意味がある。非常に注意深い職員の選択、そして、教授/学習方法論を含む、国や高等教育機関の、そして高等教育機関と実業界の間の、さらに国内および国家間での学生の流動性、特に教育研究職員育成のための適切なプログラムの推進を通じての職員の継続的な育成などである。新しい情報科学技術は知識およびノウハウの取得への影響が大きいため、このプロセスにおける重要な手段となる。

 第一二条 技術の可能性と課題

 新しい情報・通信技術の急速な発展により、知識が開発され取得され普及する方法がさらに変革するだろう。また新技術が、コースの内容および教授法を改革し、高等教育へのアクセスを拡大する機会を提供することに留意することも重要である。しかし、新しい情報技術は、教師のニーズを減らすことはなく、学習プロセスにおけるその役割は変わるということ、そして情報を知識および理解に変換する継続的対話が、基本的なものであるということを理解しておかなければならない。高等教育機関は、新しい情報・通信技術の利点と可能性の利用において先導し、以下のことを行うことによって、開放、平等および国際協力の精神で教育の実践と結果の質を保証し高基準を維持しなければならない。

 (a)ネットワーク、技術移転、能力構築、教材の開発、および教育・訓練、研究におけるその利用経験を分かち合い、知識をすべての人が利用でさるようにする。

 (b)遠隔教育施設から完全な仮想高等教育機関と、システムまで、距離を乗り超えて質の高い教育、システムの開発を可能にする新しい学習環境を創出し、それにより、これらの仮想教育施設が地域、大陸、そして世界的なネットワークに基づき、文化的および社会的独自性を尊重する形で機能することを保証しながら、社会的かつ経済的な前進と民主化、さらに社会のその他適切な優先事項に貢献する。

 (c)教育目的での情報,通信技術(ICT)の十分な利用において、新しい情報・通信技術へのアクセス、および関連する資源の生産に関して、世界の各国間および各国内に存在する重大な不平等を取り除くことに、特別の注意を払わなければならないことに留意する。

 (d)ICTを国内、地方および地域のニーズに適合させ、それを維持するために技術上、教育上、管理上そして制度上のシステムを確保する。

 (e)国際的な協力を通じて、すべての国、特に開発途上国の目的と利益の特定、平等なアクセス、この分野における下部構造の強化、および、かかる技術の社会全体への普及を推進する。

 (f)質の高さとその利用に対して公平なアクセスの規則の実現を保証するため、「知識社会」の進展を注視する。

 (g)とりわけ、高等教育機関がその作業を近代化するためにICTを利用しているのであって、ICTが高等教育機関を現実の機関から仮想の機関へと変えているのではないということを認識しながら、ICTの利用によって生み出される新しい可能性を考慮に入れる。

 第一三条 高等教育の運営と財政の強化

 (a)高等教育の運営と財政には、高等教育機関と、州や国の計画調整機関との間で確立されるパートナーシップに基づく、適切に合理化された運営と資源の費用効果的な利用を保証する適切な計画と方針分析の能力と戦略の開発が必要である。高等教育機関は、環境的ニーズを充足する前向きな運営方式を採用しなければならない。高等教育における管理者は、適応性と能力を有し、手続きと管理規則の有効性を内部および外部の機関によって定期的に評価することができなければならない。

 (b)高等教育機関は、自身の内部問題を管理する自律権を与えられなければならないが、その自律権には、政府、議会、学生およびより広範な社会に対する明確かつ透明な説明責任が伴わなければなうない。

 (c)運営の究極的目標は、質の高い教育、訓練および研究、そして地域社会へのサービスを保証することによって、教育機関としての使命を推進することである。この目標には、世界的な問題の理解を含む社会的展望と有能な運営能力を組み合わせた管理力が必要となる。したがって高等教育における指導力は大きな社会的責任であり、高等教育のすべての当事者、特に教員と学生との対話を通して大幅に強化させることができる。管理部門を妥当な規模に収める必要性を考慮しながら、高等教育機関の管理部門への教授団の参加を、現在の教育機関協定の枠内で考慮しなければならない。

 (d)開発途上国における高等教育の強化に必要な資金を保証するための南北協力の推進が不可欠である。

 第一四条 公的サービスとしての高等教育の財政

 (a)高等教育への融資は、公的のそして民間の財源を必要とする。国の役割はこの点では必須なものであり続ける。高等教育への公的融資は社会が高等教育へ与える支援を反映したものであり、高等教育の発展を保証し、その効果を増大し、その質と適切性を維持するためにさらに強化しなければならない。しかし高等教育および研究への公衆のサポートは、確実に教育的および社会的使命が均衡して達成されるために不可欠である。

 (b)持続可能な経済的、社会的および文化的開発の推進における教育の役割を与えられ、社会全体が高等教育を含むすべてのレベルの教育を支援しなければならない。この目的のために、公衆の認識、そして、経済の公的部門と民間部門、議会、メディア、政府および非政府紺織、学生、教育機関、家族、および高等教育に関与する社会のすべての部門が動員される。

 第一五条 国境および大陸を越えての知識やノウハウの共有

 (a)世界の高等教育機関の連帯と真のパートナーシップの原則が、世界諸問題の理解、その解決における民主的な管理と能力ある人材の役割、およびさまざまな文化と価値が共存するニーズを推進する、すべての分野での教育と訓練にとって肝要である。多言語使用の実践、教授団や学生の交換プログラム、ならびに知的および科学的協力を推進するための組織間の連携が、すべての高等教育システムの不可欠な部分でなければならない。

 (b)連帯、認識および相互支援に基づく国際協力の原則、パートナーの利益に平等に奉仕する真のパートナーシップ、そして知識とノウハウを国境を越えて土着することの価値が、先進国と開発途上国双方の高等教育機関門の関係を決定し、特に、後発開発途上国を利するものでなければならない。自然災害により被害を受けた地域での高等教育機関の機能を保護する必要があることを考慮しなければならない。結果的に、国際的広がりが、カリキュラム、および教育,学習プロセスに浸透しなければなうない。

 (c)国内での、また国際間での流動性を推進するため、学生が容易にコースを変更できるように、卒業生の技能、資格および能力の認定を含む学修の認定に対する地域的および国際的な規範的文書が、批准され実施されなければならない。

 第一六条 「頭脳の流出」から「頭脳の獲得」へ

 「頭脳の流出」は、開発途上国および移行過程にある国からその社会経済的進歩を加速するのに必要な高レベルの専門知識を奪い続けるので、止めなければならない。国際的な協力制度は、南北の教育機関の長期的パートナーシップに基づくものにし、南の諸国間の協力も推進しなければならない。国外での専門的で集中的な短期間の学修を伴う、地域的および国際的ネットワークを形成する中核センターでの、開発途上国の訓練プログラムに優先順位を与えなければならない。高度に訓練を受けた学者および研究者の出身国への、永続的または,一時的な帰国を推進する国内政策または国際的取り決めによる、熟練した人的資本を誘致し、保持することに結び付く環境の創出に考慮を払わなければならない。同時に、国際的な広がりによって教育施設の構築および強化を推進し、自生力の十分な利用を奨励する協力プログラムによる「頭脳の獲得」プロセスヘ向けて努力を払わなければならない。この点に関しては、UNITWIN/UNESCO講座プログラムを通して得た経験、そして高等教育での学位の認定に関する、地域会議で唱えられた原則が特に重要である。

 第一七条 パートナーシップと協力

 当事者、つまり国内外の政策決定者、高等教育機関の教育関係職員、研究者、学生、事務職員および技術職員、実業界、地域社会集団の間のパートナーシップと協力が、変革を指揮する際の強力な力となる。また非政府組織は、このプロセスにおいて主要な役割を果たす。したがって、共通の利益、相互の敬意と信頼に基づくパートナーシップが、高等教育の刷新にとっての主要な基盤とならなければならない。

 我々、「世界高等教育会議」の参加者は、この宣言を採択し、すべての人々の教育を受ける権利、および個人の成績と能力に基づき高等教育を受ける権利を再確認する。

 我々は、人権に関する世界宣言および教育における差別待遇の防止に関する条約に含まれる、高等教育に関する原則を実現するために、あらゆる必要な措置を取ることにより、我々の個人的および集団的責任の枠内で、共に行動することを誓う。

 我々は厳粛に、平和の誓いを再確認する。その目的のために、我々は断固として、平和のための教育に高い優先順位を与え、特に教育的行為を通して、西暦二〇〇〇年の平和文化のための国際年の祝賀に参加する。

 したがって我々はこの、二十一世紀の高等教育に関する世界宣言:展望と行動を採択する。この宣言に明記される目標を達成するために、そして特に当面の行動として、高等教育の変革と発展のための優先的行動の枠組み(略)について合意する。

(※1)第二七回UNESCO総会(一九九三年十一月)の「高等教育における勉学と資格の認定に関する勧告」の中で承認された定義。