ユネスコ高等教育世界宣言

21世紀の高等教育 展望と行動

(日本私立大学協会による私訳と京都府立大学 金澤哲氏の訳を参考にした抜粋)
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豊島耕一,2002.6.5.

前文 略

高等教育の使命と機能

第一条 教育、訓練、研究を行う使命

(a)あらゆる部門でのニーズを満たすことができるように、高い能力をもつ卒業生および信頼し得る市民を教育により生み出す。

(b)入退学を柔軟にすることによって提供する生涯教育の機会,人権、持続的発展、民主主義および平和を確固たるものとして行く機会を提供

(c)文化的、社会的および経済的発展において社会を支援するための関連する専門知識を提供

(d)文化的多元主義および多様性の観点

(e)民主的市民という基礎を形成する価値について青年を教育

(f)略

第二条 倫理的役割、自律、責任および期待される任務(この条は全文)

一九九七年十一月にUNESCOの総会で承認された高等教育の教員の地位に関する勧告に従い、高等教育機関およびその職員と学生は、

(a)さまざまな活動における、倫理および科学的,学術的精密さの実践を通じて、その重要な任務を維持し発展させ、

(b)内省、理解、行動を促すために社会が必要とするある種の学術的権威を行使することによって、倫理的、文化的および社会的問題について完全に独立に、そしてその責任を十分に自覚して発言する機会を与えられ、

(c)予測、警告および防止に焦点を当てながら、発現する社会的、経済的、文化的および政治的傾向を継続的に分析することによって、批判的で進歩的な機能を強化し、

(d)UNESCO憲章にうたわれているように、平和、正義、自由、平等および連帯を含む普遍的に受け入れられている価値を擁護し積極的に普及するために、知的能力およびその道徳的名声を行使し、(e)権利と義務であるとみなされる学問の自由および自律性を十分に亨受し、社会に対して十分に責任をもち説明責任を負い、(f)地域社会、国および世界の秩序に影響する問題の特定と解決において、支援的役割を果たさなければならない。

高等教育の新たな展望の形成

第三条 公平なアクセス

(a)高等教育への入学認定におけるいかなる差別も容認することはできない。

(b)高等教育へのアクセスの公平さは,他のすべてのレベルの教育、特に中等教育との連携の強化から、そして必要ならば、再調整から始めなければならない。高等教育は、中等教育の修了者、それと同レベルの人、または入学資格認定を提示した人に対しては、いかなる差別もなく開放されていなければならない.

(c)略

(d)先住民、文化的もしくは言語的少数民族、恵まれない人々、被占領地域の住民、障害者などの特別な対象となるグルーブに属する人々のための高等教育へのアクセスを積極的に推進.

第四条 女性の参加の拡大と役割の推進

(a)女性の高等教育へのアクセスの障害を克服.緊急に優先すべき課題

(b)高等教育において、あらゆるジェンダー(社会的、文化的性)に関わる国定観念を排除.特に意思決定における彼女らの積極的参加を拡大

(c)ジェンダー研究(女性研究)を、高等教育および社会の変革のための戦略的な学問の分野として奨励

(d)女性が十分に進出していない原因となっている政治的、社会的障壁を排除

第五条 科学、芸術および人文学における研究を通じた知識の発達とその結果の普及

(a)基礎的研究および目標指向研究の間に適切な均衡

(b)学術的共同体のすベてのメンバーが、適切な訓練、資源および支援の提供を受けることの保証.研究の成果に対する知的および文化的権利は、人類の利益のために使われなければならず、悪用されないよう保護されること.

(c)高等教育研究機関における研究能力の強化。高等教育と研究が同じ施設内で高いレベルで行われれば、相互に質が高められる。これらの機関は、公的、民間両方から、必要な物質的および財政的支援を見出さなければならない。

第六条 今日的要請に基づく長期的な方向付け

(a)広範な一般教育と、しばしば多分野を含み、また学際的な、技能と才能に焦点を当てた目標を定めた職業別教育との両方へのアクセスを提供すること

(b)社会に対する奉仕の役割、特に貧困、不寛容、暴力、非識字、飢餓、環境汚染および病気の根絶を目的とした活動を強化

(c)教員教育の改善、カリキュラム開発および教育研究による教育システム全体の発展への寄与

(d)暴力や搾取のない新しい世界の創出を究極的な目的とする

第七条 労働世界との協力の強化、および社会のニーズの分析と予測

(a)高等教育、労働世界、および社会のその他の部分の連携を強化し、刷新

(b)教育機関の代表者の統括機関への参加、学生および教師のための国内外での実習/実務研究機会の利用、職員の交換、より実務に即したようなカリキュラムの改訂による労働世界との連携

(c)あらゆる年齢層の人々に専門的訓練を行い、最新の情報を与え、経験を生かす方法を提供する機関として、高等教育機関は勤労の世界や科学・技術・経済の分野における新しい潮流を組織的に取り入れるよう努めなければならない。

(d)新たな事業を興すための技術と先取の気性を養うことは、高等教育機関の重要な目的となるべきである。また、民主的社会に全面的に参加し平等と正義をもたらす改革の推進者となるべく教育しなければならない。

第八条 機会均等の拡大のための多様化

(a)高等教育のモデルおよび募集の方法と基準を多様化すること

(b)高等教育のより多様化したシステム.多様な教育と訓練の機会を提供

第九条 革新的教育方法−批判的思考および創造力

(a)多様な人々のグループに対応

(b)高等教育機関は、学生を批判的に思考し、社会の問題を分析してその解決策を求め、それを実践して社会的責任を受け入れることができる見聞の広い、深く動機付けられた市民となるように教育すべきである。(全文)

(c)分野別の認知的な修得を超えるため、新しい適切な方法を使ってカリキュラムを作成し直すことが必要な場合がある。

(d)新しいタイプの教授・学習教材,試験方法

第一〇条 主な当事者としての高等教育の職員と学生

(a)教員は学生に、単なる知識の源となるばかりでなく、どのように学ぶか、そしてどのように指導力を発揮するかを教えることに焦点.

(b)カリキュラムの継続的な改革、最善の教育方法、および多様な学習様式の最良のかたちでの実践

(c)国および教育機関の意思決定者は、学生および彼らのニーズをその関心の中心に置き、彼らを高等教育の革新における主たるパートナー、そして責任のある当事者とみなさなければならない。これは、教育レベルに影響する問題、教育法やカリキュラムの評価、改革、そして教育制度の施行、方針の作成と運営における学生の関与を含まなければならない。学生は組織化し、代表者を立てる権利を有するので、これらの問題への学生の関与は保証しなければならない。(全文)

(d)多様化する学修者のニーズに応え、学生と協力して、ガイダンスやカウンセリングを充実.中途退学者に、高等教育へ復帰する機会を与える.

展望から行動へ

第一一

(a)高等教育の質は多元的な概念である.内部自己評価および、独立した専門家によって行われる外部審査が、質の向上のために必須.教育機関の評価プロセスにおいては当事者の関与が不可欠

(b)(c)略

第一二条 技術の可能性と課題

新技術により、知識が開発され取得され普及する方法がさらに変革するだろう。また新技術が高等教育へのアクセスを拡大する機会を提供する。しかし、新しい情報技術は、教師のニーズを減らすことはなく、学習プロセスにおけるその役割は変わるということ、そして情報を知識および理解に変換する継続的対話が、基本的なものであるということを理解しておかなければならない。

(a)(b)略

(c)教育目的での情報,通信技術(ICT)の十分な利用において、新しい情報・通信技術へのアクセス、および関連する資源の生産に関して、世界の各国間および各国内に存在する重大な不平等を取り除くことに、特別の注意を払わなければならないことに留意する。

(d)〜(f)略

(g)高等教育機関がその作業を近代化するためにICTを利用しているのであって、ICTが高等教育機関を現実の機関から仮想の機関へと変えているのではない.

第一三条 高等教育の運営と財政の強化

(a)高等教育の運営と財政は、適切な計画と政策分析能力と戦略を必要とする。それは高等教育機関と国家政策の立案・調整機関との間に築かれた協調関係に基づき、能率化された経営と予算の効率的な運用を目指すものである。高等教育の運営者は、積極的かつ有能で、さらに内部及び外部機関による評価に基づき運営手順やルールの効率性を評価できなければならない。

(b)高等教育機関は、自身の内部問題を管理する自律権を与えられなければならないが、その自律権には、政府、議会、学生およびより広範な社会に対する明確かつ透明な説明責任が伴わなければなうない。

(c)運営の究極的目標は、質の高い教育、訓練および研究、そして地域社会へのサービスを保証することによって、教育機関としての使命を推進することである。高等教育における指導力は、そのすべての当事者、特に教員と学生との対話を通して大幅に強化させることができる。高等教育機関の管理部門への教授団の参加を、現在の教育機関協定の枠内で考慮しなければならない。

(d)略

第一四条 公的サービスとしての高等教育の財政

(a)高等教育の経費を賄うためには、公的及び私的資金が不可欠である。この点に関し、国家の役割は依然として不可欠である。

(b)略

第一五条 国境および大陸を越えての知識やノウハウの共有

(a)世界の高等教育機関の連帯と真のパートナーシップの原則が、世界諸問題の理解、その解決における民主的な管理と能力ある人材の役割、およびさまざまな文化と価値が共存するニーズを推進する、すべての分野での教育と訓練にとって肝要である。

(b)略

(c)国内、国際間の流動性を推進するため、学生が容易にコースを変更できるように、学修の認定に対する国際的な規範的文書が必要である。

第一六条 「頭脳の流出」から「頭脳の獲得」へ

「頭脳の流出」は、開発途上国および移行過程にある国からその社会経済的進歩を加速するのに必要な高レベルの専門知識を奪い続けるので、止めなければならない。

第一七条 パートナーシップと協力

当事者、つまり国内外の政策決定者、高等教育機関の教育関係職員、研究者、学生、事務職員および技術職員、実業界、地域社会集団の間のパートナーシップと協力が、変革を指揮する際の強力な力となる。また非政府組織は、このプロセスにおいて主要な役割を果たす。したがって、共通の利益、相互の敬意と信頼に基づくパートナーシップが、高等教育の刷新にとっての主要な基盤とならなければならない。

我々は厳粛に、平和の誓いを再確認する。その目的のために、我々は断固として、平和のための教育に高い優先順位を与える.