国大協の長尾会長宛の質問書を送りました.「独法化阻止全国ネット」の世話人で 文案を作ったものです.国大協会則28条を引用し ていますので,国立大学教職員の方々に連名を募集しましたところ,多くの方々にご賛同いただき,私も含め総員82名となりました.2002年2月18日午後,国大協宛てに正本を,京大総長室宛てに写しを郵送しました.
すでに発送しました.ご賛同ありがとうございました.名簿が末尾にあります.
国立大学協会会長
長尾真様
国立大学教職員有志
代表 豊島耕一 (佐賀大学教授)
(末尾に連名者一覧)会長におかれましては,国立大学の将来のために日々ご尽力いただいていることと拝察し,感謝申し上げます.
ただ今,文部科学省に於ける「国立大学法人」案の検討が最終段階にさしかかっておりますが,この間国大協と貴職がとってこられた方針,態度には然しながら重大な疑問があります.国大協会則28条は会員が協会に対し意見を述べる権利を認めておりますが,そのためには明確な情報が不可欠です.そこで以下の項目に是非ともお答えいただき,国立大学教職員によるこの問題の十分な理解とそれを踏まえての議論を可能にしていただくよう,心よりお願い致します.
はなはだ勝手ながら,3月5日までに部分的に項目1だけでもご回答をいただければ幸いです.なお内容の性格上,公開の質問書とさせていただきます.
1.「中期目標」「中期計画」の行政による「認可」がやむを得ないとする理由を明らかにして下さい.
独立行政法人制度の設計に深く関わったとされる藤田宙靖氏は,「中期目標」という制度について,「この制度をそのままに大学に適用したとするならば,大学の自治に対する著しい制約ともなりかねない」と述べています(注1).しかし先に貴協会が文部科学省の調査検討会議に提出された「意見」には,「法令・予算措置という国の行為を伴う以上は,文部科学大臣による各大学の『中期目標』『中期計画』の『認可』はやむをえない」とあります.これはいかなる理由によるものですか.
すなわち,「政府の関与」という点では,会計検査院による検査(注2)や視学制度がすでに存在していますが,これでは不足である理由,「大学の自治」を「著しく制約」しかねないような制度をことさら導入しなければならない理由を明確にして下さい.
2.前項目のような「認可」制度をとっている国があれば例示して下さい.
同じく貴協会の「意見」には,「そもそも個々の大学の中期的な目標を大臣が『策定』するような国はないのではなかろうか」として,「認可」制を主張しています.しかし「国立学校財務センター」が2000年に出した報告書(注3)によると,そもそも「認可」制度自体をとっている国もないとされています.貴職の認識はこれとは異なるのでしょうか.
3.調査検討会議に参加した2000年6月の時点では,国大協は法人化そのものにも保留の態度でしたが,これがいつどのような理由で「法人化」容認に変わったのかを明らかにして下さい.
蓮実前会長の2000年6月14日の記者会見では,「理想的な法人化を目指すために参加するという理解で良いのか」との質問に,「かならずしも,そこまでいくのかもわかりません.(中略)最終的にまったく理想的な形態がそこに成立しなければその後新たな問題が起こるだろうというふうに考えます.」と答え,「法人化」そのものにも保留の態度を表明していました.しかし調査検討会議への国大協の意見に見られるように,現在では「法人化」容認の態度と考えられます.「理想的な形態がそこに成立」したのでしょうか.
4.「通則法にもとづく法人化に反対」とは,具体的に通則法のどこに反対なのかを明確にして下さい.
この表現の意味がもし「通則法と一字一句でも違えばよい」ということではないとすれば,通則法のどのような内容に反対なのかを明確にしていただきたい.私たちの見解では,調査検討会議の「中間報告」による法人化は,通則法の,あるいはそもそもこの制度を定義している「中央省庁改革基本法」(注4)の独立行政法人制度と本質的な違いはないと見ています.貴職は何を本質的な違いと見ておられるのでしょうか.
5.文部科学省内に置かれ,文部科学省が委員の人選を行う「国立大学法人評価委員会」は,到底,文部科学省からの独立性を保証するものではありません.そのような機関によって大学が評価され,その結果に基づき運営交付金の額が設定される仕組みでは,大学の教育・研究活動全般への行政の介入を防ぐことはできません.もしこれを認めるのであれば,法人化後のこのようなリスクを防ぐ具体的な方策を例示してください.
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最後に,質問の趣旨などについて十分ご理解いただけるよう,独法化問題についての私たちの見方を述べさせていただきます.
現在,国立大学の法人化にむけて文部科学省の調査検討会議において最終的な審議が行われています.私たちが,中間報告の「法人化」に対して抱く最大の危惧は,それが憲法の保障する学問の自由を根底から脅かすものでないかということです.「学問の自由」の意義は自明なものではなく,人類が多年にわたる苦い経験を経てその価値を認識するに至ったものです.わが国においても半世紀前,大学が時の権力の支配下におかれたときに,人類的視野に立つ普遍的な洞察を使命とする大学の教員が,あるいは沈黙し,あるいは唯々諾々と戦争に協力しました.これに対する慚愧,悔悟と,権力支配下におかれれば大学は同じ過ちを繰り返すという洞察から,それを防ぐ決意が込められた防壁が憲法23条と言えるのではないでしょうか.
憲法12条が命じるように,学問の自由も,国民の不断の努力によつてこれを保持しなければなりませんが,学問に直接たずさわる大学構成員は,他の国民以上にこの義務遂行に重い責任があります.高等教育の最高責任者集団の一つである国立大学協会が,「学問の自由」を多方面から削り取る装置を盛り込んだ法人化案を,政治的状況を理由に自ら受け入れるとすれば,教育と学問にたずさわる者と,これらを大学に負託している国民に対する背任行為に他なりません.
したがって,来る3月に発表される予定の調査検討会議最終報告に,仮に国大協が反対されない場合には,国大協は,それが学問の自由を脅かすものでないことを明確に示さなければなりません.
それは,大学構成員・国民に対する国大協の最低限の説明責任であり,これをおろそかにして,大学の説明責任を云々することはできません.
私たちは,計画されている国立大学法人化の日本の教育・研究の将来に及ぼす影響の重大さに鑑み,国大協の責任者である貴職が,最終案の討議に際して,上記の質問事項に対して責任ある明確な回答をしていただくよう強く要望するものです.
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注
1)東北大学工学部および東北大学加齢医学研究所(1999年9月6〜7日)における講演.同氏のサイトにあります.
http://seri2.law.tohoku.ac.jp/~fujita/
2)会計検査院のウェブサイトにある「検査の観点」によると,次のように幅広い観点から検査がなされることになっています.
「検査は,広い視野に立って多角的な観点から行われています.近年,行政改革などによる効率的な行財政の執行が強く求められています.そうした状況の中で,正確性,合規性はもとよりですが,経済性・効率性及び有効性の観点からの検査の重要性が高まっています.」
3)「大学の設置形態と管理・財務に関する国際比較研究 第一次中間まとめ」
国立学校財務センター,平成12年1月
UniversityIssues/zaimc2000.html
オリジナル(画像データにつきサイズ大) http://www.zam.go.jp/pdf/g/t0000501.pdf