破   天   荒      
-- 変えるべきもの 守るべきもの 創るべきもの --
(2001年度 明善大運動会スローガン)


全大教教研集会参加報告

於 鹿児島大学,2001年 9月 14日〜16日
ver. 1.2(9月25日)

佐賀大学 豊島耕一

前半の2日間,全体集会と独法化問題の分科会に参加しました.以下は佐賀大学教職員組合のニュースのための報告文です.10月5日の国会内集会(注1)の宣伝も行いました.

行動提案のない「基調報告」

 初日は執行部の基調報告(注2)と,講演として,文部科学省の調査検討会議のメンバーである梶井功氏の,出されたばかりの同会議の中間報告案の逐条解説であった.講演者の人選からして,全大教がそうとう「法人化前提」路線に傾いているように感じられる.

 基調報告は冒頭で「何らかの法人形態へ移行することを不可避とみざるをえない状況にあることを示している」と述べ,そのために「対案」が必要だとしている.しかしその前提となる「情勢」として挙げているのは,単に文部科学省や政府の動きを述べているに過ぎない.これでは,行政当局がその気になったものは「不可避」と見なしてしまうという,極めて受動的な態度のように思える.これでは国会が何のためにあるのか分からないし,民主主義とは似てもにつかない考え,所謂「官主主義」であろう.分科会報告でもある単組の執行委員がやはり同様な「情勢認識」なるものを述べていたが,「その判断の根拠は?」との私の質問には答えがなかった.根拠がないとすればそれは「風評」にすぎない,ということになる.

 このような捉え方と姿勢のため,教研集会のスローガンには「独法化反対」が掲げられてはいるものの,基調報告ではそのための行動提起は見られないというのも自然なことかも知れない.もっぱら「対案」をどう作るかということだけしか残らないであろう.

「大学に合わないことが分かれば引き返せばいい」

 講演では,作成に関わった本人の解説であるため中間報告案の個々の問題点をいろいろと理解することができた.「国立大学法人」という名称を使っているものの全体として「独立行政法人」制度からの本質的な変更はない.最大の問題点の一つである「中期目標」を文部科学省が下付すること,大学が同省に「中期計画」の認可を求めなければならないことはそのままである.

 梶井氏は,調査検討会議が設置されるとき,「どうしても大学に適合しないということになれば,その時引き返せばいい」と文部科学省の担当官に言われたので,その条件ならということで参加したという経緯を紹介した.そこで私が,今こそ引き返すべきその時ではないのか,と質問したが,答えはノーであった.筆者は昨年の札幌教研で,国大協が調査検討会議に入ることは独法化を認めることであるとしてこれを批判したが(注3),残念ながらこの通りの結果になったようである.しかし過ちを改めるのに遅すぎると言うことはないはずだ.

 討論に十分な時間が充てられたので活発な質疑応答が行われた.その中に,非常勤職員の処遇について会議はどのように検討したのか,との質問があったが,検討はされていないような返事であった.「捨てるわけにもいかないたくさんの署名簿が自分のオフィスに積んだままにされている」とのことだが,なぜそれが審議に反映しなかったのだろうか.

 私も,先に述べた基本的な質問に加えて,中間報告案において大学の管理運営組織のメンバーとして繰り返し使われる「有識者」という言葉の定義を尋ねたが,「分かりません」との返事であった.この言葉はこれに限らず政府系の文書でしばしば見られるが,あいまいな言葉で国民を「有識者」と「無識者」に二分するもので,反民主主義的,身分制的な意識に基づくものと思われる.このような言葉を使う人は自分のことを「有識者」だと思っているのだろうか.

「法人化」に囚われた議論からの離脱を

 翌15日は「独立行政法人化問題と私たちがめざす大学づくり」という分科会に出席した.ここにおいては発表者,発言者の態度は,全大教のように「法人化不可避」の立場で対処するか,それとも掛け値なしに独法化反対を掲げて,大学改革の本当の課題を追求しようという態度とに二分されたように思う.私の印象では,数では未だに少数派かも知れないが,1年前の札幌教研に比べて後者の立場からの発言が増え,理論的にも深化されたように思う.

 千葉大学の小沢氏(メールグループではおなじみ)は,「『まず法人化』という議論からの離脱が必要である」として,全大教の法人化「対案」を正面から批判した.大学自治が意味を持つ限り現在でも大学は実質的・慣習的には法人といってもよい.にも関わらず法人化が提起されるのは,大学自治の慣行を破壊することが目的である,と述べ,この問題の本質を突いた.

 北大の組合委員長は,全大教の「法人化対案」への「質問書」を紹介し,実質的にこれを批判した.また熊大の発表は,「遠山プラン」によって国立だけでなく私学や一般国民との連帯の基盤が大きく広がったとして,具体的な行動提案を行った.

 これらと対照的なのが名大と京大の発表である.前者のレジメには「法人化の流れが避けられなくなりつつある」と書かれていたので,前述したようにその根拠を質問をしたのだが,風評以上のものとは言い難い.

独法化問題とはどのような質のものか

 私も5分ほどフロアから次のような発言をした.言いたかったことなど多少尾ひれをつけるのをご了解願いたい.

 「法人化不可避論」を口にすることで自らの「深刻さの認識」を演出しようという傾向はいただけない.議論で明らかになったようにこれは風評に過ぎず,これをみだりに口にすることは反対運動に「風評被害」をもたらすものである(注4).そもそも,国会に掛かるべき法案の姿形さえない段階ですでにものごとが決まったかのように言うのは,国会無視,国民無視といわれても仕方がないだろう.

 また,このようないわば「決定論的」なものの見方は,社会をあまりにも単純化し過ぎていないだろうか.多体問題であり複雑系であるこの社会を,あたかも線形な振る舞いをする単純なシステムと見なしているように思える.しかも自分自身がそれの一構成要素であることも度外視されているようだ.あるいは,文部科学省やその調査検討会議の意向を決定的なものと見なす背景には,国会に出す前に「当事者」で大筋を決めておかなければならないと考える,我々の中の「談合精神」があるのではないかと思われる.国大協が調査検討会議への参加を決めたのもその精神からかも知れない.

 独法化問題とはどのような性質の問題かを認識することが重要だ.これは憲法23条の「学問の自由」と教育基本法10条の「教育は不当な支配を受けない」という,この社会の根本的な価値に関わるものである.したがって「条件闘争」などという性質のものではなく,たとえ情勢がどんなに不利になろうとも,たとえ一人だけになってもこれに反対し続けなければならないのである.

 このような事を言うとすぐ「玉砕ではないか」という人が必ずいるが,比喩は正しく使わなければならない(注5).反対し続けてももちろん殺されはしないし,クビになることもない.国鉄労働者の闘いとは比較にならない贅沢な闘いである.その有利さを最大限に生かさなければバチが当たるというものだ.また,個々の大学が文部科学省からイジメを受けるという事はあり得るが,その事ばかり考えて我が国の大学の全体としての命運,すなわち「自由なアカデミズム」の「生き残り」の事はあまり気に掛けない,あるいは犠牲にしてもやむを得ない,という態度はあまりにもバランスを欠いていると思われる.

必要なのは大学人のエンパワーメント

 最後に,これは想像だが,組合が”掛け値なし”の独法化反対を掲げようとしないのは,ひょっとすると「結果責任」という言葉に囚われているためではないかと思われる.つまり「敗北」するような方針を出すわけにはいかない,と考えているのではないか.しかしそれは闘わずしてあらかじめ敗北してしまうことを意味するだけであり,そのほうがむしろ罪は重いだろう.仮に敗北するとしても,原則的態度を貫いたかどうかは独法化の内容にも最も大きく影響するだろうし,また何よりもその後の運動の基盤を決定的に左右するだろう.

 最も必要なのは「不可避論」で情勢通を装うことではなく,阻止運動の構築と発展の戦略とそのためのあらゆる手段について思いを巡らし,それを実践することであろう.そしてそれらを交流しあって仲間と自分自身をエンパワー(注6)することである.


(注1) 10月5日12時30分より衆議院第一議員会館にて.一般参加OK.詳しくは全国ネットホームページをご覧下さい.
 ../znet.html
(注2) 全大教のサイトにも掲載されていて誰でも読めます.
 http://zendaikyo.or.jp/
(注3) 札幌教研の私のレジメと発言は次をご覧下さい.
 ../UniversityIssues/sapporoA1.html
 ../UniversityIssues/sapporo-oral.html
(注4) 「言葉狩り」と誤解されないように願いたい.
(注5) このような文脈で「玉砕」という言葉がしばしば使われるようだが,これは言語の分野での戦争の後遺症ではないかと思われる.これには,最後まで反対し続けることが悪いことでもあるかのようなニュアンスが込められている.近年「腰抜け」が量産されているのもこれで説明できるかも知れない.
(注6) ロングマン英英辞典から
empower / verb [transitive]
1 to give someone more control over their own life or situation: The aim of the course is to empower women.
2
省略