宮野悦義,稲野強訳 「裁かれざるナチス 一 ニュルンベルク裁判とその後」の巻末の資料から,訳者と出版社の許可を得て転載します.大月書店,1981年4月20日第1刷発行.原著者前書きもお読み下さい.
原文 Charter of the International Military Tribunal(エール大学)
関連文書 「ニュルンベルグ裁判所憲章と判決において認められた国際法の諸原則」(もと国連サイトにあったもの,英語)
同,日本語訳
国際軍事裁判所規約 (一)国際軍事裁判所の構成
第一条
一九四五年八月八日にグレート・プリテン及び北アイルランド連合王国政府、アメリカ合衆国政府、フランス共和国臨時政府及びソヴヱト社会主義共和国政府の署名した協定に基づき、ヨーロッパ枢軸諾国の主要戦争犯罪者の公正かつ迅速な審理及び処罰の目的をもって、ここに国際軍事裁判所(以下「裁判所」という)を設立する。
第二条
裁判所は、裁判官四名と予備裁判官四名をもって構成する。各署名国は裁判官一名と予備裁判官一名をそれぞれ任命する。各予備裁判官は、できる限り、裁判所の開くすぺての会議に出席するものとする。裁判官が疾病又はその他の事由により、その職務を遂行することができないときは、予備裁判官がこれを代理する。
第三条
裁判所、裁判官叉は予備裁判官は、検察官叉は被告人もしくはその弁護人により忌避されることがない。各署名国は自国の裁判官又は予備裁判官を、健康上の理由又はその他の相当の理由により、交替させることができる。ただし、同一事件の審理中には、予備裁判官による以外の交替は行なうことができない。
第四条
(a)裁判所が審理及び認定を行なうには、裁判所の四名の裁判官の全員又は欠席した裁判官に代わる予備裁判官の出席を要する。
(b)裁判長は、審理開始前協議により、裁判官の中から互選する。裁判長は、当該事件の審理中その職にあるものとする。ただし裁判官三名以上の票決により別に合意がなされたときは、この限りでない。裁判長は審理ごとに輪番制で逐次交代することを原則とする。ただし、法廷が四署名国のいずれかの領域において開かれる場合は、当該国の裁判官が裁判長となる。
(c)前述の場合を除くほか、裁判所の決定は、多数決による。可否同数の場合は、裁判長の意見による。ただし、有罪の認定及び刑の量定を行なう場含は、常に最小限二名の賛成を要する。
第五条
必要に応じ、及び裁判に付されるぺき事件の数により、別個の裁判所を設立することができる。当該各裁判所の組繊、職務及び訴訟手続は同一であって、規約により規律される。
(二)管轄及び一般原則
第六条
この規約の第一条で言及するョーロヅパ枢軸諾国の主要戦争犯罪者の裁判及び処罰のための協定により設立された裁判所は、ョーロッパ枢軸諸国のために、一個人として、又は組織の一員として、次の各犯罪のいずれかを犯した者を裁判し、かつ、処罰する権限を有する。
次に掲げる各行為又はそのいずれかは、本裁判所の管轄に属する犯罪とし、これについては個人的責任が成立する。
(a)平和に対する罪。 すなわち、侵略戦争もしくは国際条約、協定もしくは誓約に違反する戦争の計画、準備、開始もしくは遂行、叉はこれらの各行為のいずれかの達成を目的とする共通の計画もしくは共同謀議への参加
(b)戦争犯罪。 すなわち、戦争の法規叉は慣例の違反。この違反は、占領地所属もしくは占領地内の民間人の殺害、虐待、もしくは奴隷労働もしくはその他の目的のための追放、俘虜もしくは海上における人民の殺害もしくは虐待、人質の殺害、公私の財産の掠奪、都市町村の恣意的な破壊又は軍事的必要により正当化されない荒廃化を包含する。ただし、これらに限定されない。
(c)人道に対する罪。 すなわち、戦前もしくは戦時中にすぺての民間人に対して行なわれた殺人、殲滅、奴隷化、追放及びその他の非人道的行為、叉は犯行地の国内法の違反であると否とを問わず、本裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として、もしくはこれに関連して行なわれた政治的、人種的もしくは宗教的理由に基づく迫害行為。
上記犯罪のいずれかを犯そうとする共通の計画又は共同謀議の立案又は実行に参加した指導者、組織者、教唆者及び共犯者は、何人によって行なわれたかを問わず、その計画の遂行上行なわれたすべての行為につき責任を有する。
第七条
国家の元首であると、政府各省の責任ある地位の官吏であるとを問わず、被告人の公務上の地位は、その責任を解除し、又は刑を軽減するものとして考慮されるものではない。
第八条
被告人がその政府又は上司の命令に従って行動したという事実は、被告人の責任を解除するものではないが、裁判所において正当と認める場合は、刑の軽減のため考慮することができる。
第九条
集団叉は組織の一員に対する裁判において、裁判所は、(当該被告人が有罪の認定を受けた行為に関連して)その被告人の所属する集団又は組織を犯罪約組織と宜言することができる。
起訴状の受理後、裁判所は、適当と考えるところにより、検察当局が第九条一項の宜言を裁判所に要求する意思を有する旨を告知しなければならない。この場合当該組織所属員は、その組織の犯罪性の有無につき裁判所の審理を受けるための許可を申請する権利を有する。裁判所は、その申請を受理し、又はこれを却下する権限を有する。申請が受理されたときは、裁判所は申請人が代理され、審理を受ける方法を指示することができる。
第一〇条
ある集団又は組織が裁判所により犯罪性を有すると宜言された場合には、各署名国官憲は、かかる犯罪的集団又は組織の所属員たることを理由として、個々の所属員を自国の裁判所、軍事裁判所、占領軍裁判所において裁判に付する権利を有する。この場合、集団又は組織の犯罪性は、証明されたものとみなされ、これを争うことができない。
第二条
裁判所により有罪の認定を受けた者は、犯罪性ある集団又は組織の所属員であったこと以外の犯罪につき、この規約の第一〇条において言及する自国の裁判所、軍事裁判所又は占領軍裁判所において、これを訴追することができる。この場合、これらの裁判所は、被告人の有罪の認定に際して前記集団又は組織の犯罪的活動に参加したかどにより本裁判所の科した刑罰とは別個に、又は加重的に刑罰を科することができる。
第一二条
裁判所は、この規約の第六条に規定する犯罪につき訴追された者が発見されない場合、叉は裁判所がその他の理由により、正義の立場から被告人欠席のまま審理をすることを必要と認めた場合には、被告人欠席のまま、これに対する訴訟手続を行なう権利を有する。
第一三条
裁判所は、訴訟手続に関する規則を作成する。この規則は、本規約の規定と矛盾してはならない。
(三)主要戦争犯罪者に関する取り調べ及び訴追委員会
第一四条
各署名国は、主要戦争犯罪者の被疑事実の取調べ及び訴追のためにそれぞれ首席検察官一名を任命する。これら四名の首席検察官は、次の目的を達成するための委員会を構成する。
(a)各首席検察官及びその補助者の個々の担当事務の計画につき協定すること。
(b)裁判に付されるぺき主要戦争犯罪者の指名を最終的に決定すること。
(c)起訴状及びそれとともに裁判所に提出されるべき書類を承認すること。
(d)起訴状及びその付属書類を裁判所に提出すること。
(e)この規約の第一三条に規定する訴訟規則の草案を作成し、裁判所に提議すること。裁判所は、提議された規則の草案を修正し、もしくは無修正のまま採択又は却下する権限を有する。
委負会は、上記の各事項については多数決によって行動し、適宜に輸番制の原則に従い議長を選任する。ただし、裁判所により裁判に付されるべき被告人の指名又は被告人が訴迫されるぺき犯罪の決定につき意見が可否同数であるときは、特定の被告人を裁判に付し、又は特定の被疑事実につきこれを訴追すべしと提議した側の意見に従う。
第一五条
各首席検察官は、各個に、また、相互に協力して、次の事務をも担当する。
(a)一切の必要な証拠を調査、収集し、裁判開始前、叉は公判において、これを裁判所に提出すること。
(b)この規約の第一四条(c)により、起訴状を作成して委員会の承認を求めること。
(c)一切の必要な証人及び各被告人につき予備審問を行なうこと。
(d)公判において訴追官として行動すること。
(e)担当事務を遂行するため、代理人を任命すること。
(f)公判の準備及びその実施のため、検察官にとって必要と認められるその他すべての措置を講ずること。
いずれの署名国により留置された証人又は被告人であっても、その国の同意なくして、当該署名国の手から引き渡されることはない。
(四)被告人に対する公正な裁判
第一六条
被告人の正当なる権利を保証するため、次の手続に従う。
(a)起訴状には、起訴事実を詳細に明示する事項を洩れなく記載することを必要とする。起訴状及びこれに付随するすべての書類の写しは、被告人の理解する国語に翻訳し、公判前適当な時期に被告人に手交される。
(b)予備審問及び公判中、当該被告人は自己に対する起訴事実に関して弁解する権利を有する。
(c)被告人の予備審問及び公判は、当該被告人の理解する国語により行なわれ、又はその国語に翻訳される。
(d)被告人は、自ら弁護し、又は弁護人にこれを依頼する権利を有する。
(e)被告人は、自ら又は弁護人を通じ、自己の弁護を支持するため公判廷において証拠を提出し、また、検察官の召喚した証人に対して反対尋問をする権利を有する。
(五)裁判所の権限及び公判手続
第一七条
裁判所は、次の権限を有する。
(a)証人を公判廷に召喚し、その出廷及び証言を要求し、これを尋問すること。
(b)被告人を尋問すること。
(c)書類その他の証拠資料の提出を要求すること。
(d)証人に宜誓させること。
(e)裁判所の指示する事務を遂行するための職員を任命すること。これには嘱託による証拠入手の権限含む
第一八条
裁判所は、次の事項を遵守しなければならない。
(a)公判を、起訴事実により提起された争点の迅な審理に厳密に限定すること。
(b)不当な遅延を生ぜしめるいかなる行為をも防止するため、厳重な手段をとり、起訴事実に関連のない争点及び陳述は、その種類のいかんを問わず、一切除外すること。
(c)法廷における不服従行為についてはその後の審理の一部又は全部につき、被告人又はその弁護人の出廷を禁ずる等適当な制裁を科すること。ただし、これは起訴事実の審理に影響を及ぼすものではない。
第一九条
裁判所は、証拠に関する法技術的規則に拘束されない。裁判所は、迅速かつ非法技術的な手続き最大限度に適用し、裁判所において証明力があると認めるいかなる証拠をも許容するものとする。
第二〇条
裁判所は、証拠の関連性を判定するため、証拠の提出前、その性質について説明を求めることができる。
第二一条
裁判所は、公知の事実については、証明を求めることなく、これを裁判所に明白な事実と認める。また、裁判所、戦争犯罪捜査のため同盟諸国において設立された委員会の決議及び文書を含む連合諸国の公文書及び報告書、並びにいずれかの連合国の軍事裁判所又はその他の裁判所の記録及び判決書をも、同様に裁判所に明白な事実と認める。
第二二条
裁判所の常設所在地は、ベルリンとする。裁判官及び主席検察官の第一回会議は、ベルリン市内のドイツ管理理事会が指示する場所において開催する。第一回公判はニュルンベルグにおいて開廷し、以後の公判は、裁判所の決定する場所で開かれる。
第二三条
首席検察官一名以上が各公判における訴追に参加する。首席倹察官の職務は、検察官自ら行ない、又はその委任を受けた一名もしくは数名の者が行なう。
被告人の弁護は、被告人の要求によって、被告人自身の国の裁判所において法律補助人として出廷する資格を有する者、叉は裁判所により特別に弁護の資格を付与された者が行なう。
第二四条
公判における訴訟手続は、次の順序に従う。
(a)起訴状は朗読される。
(b)裁判所は、各被告人に「有罪」又は「無罪」のいずれを答弁するかを質問する。
(c)検察官は、冒頭陳述をする。
(d)裁判所は、検察官側及び弁護人側に対し、証拠を裁判所に提出すること、もしくはいかなる証拠を提出することを望むかを質問する。裁判所はその証拠の許容性につき決定する。
(e)まず検察官側証人を尋問し、次に弁護人側証人を尋問する。その後、裁判所により許容すぺきものと決定された反証が、検察官側又は弁護人側により提出される。
(f)法廷は、証人、叉は被告人に対して随時尋問をすることができる。
(g)検察官側及び弁護人側は、証言を行なういかなる証人又は被告人をも尋問しなければならず、また、これを反対尋問することができる。
(h)次いで弁護人側が、意見を述べる。
(i)続いて検察官側が、意見を述べる。
(j)被告人は、最後に陳述することを許される。
(k)裁判所は、判決を言い渡し、刑を宜告する。
第二五条
一切の公文書は、英語、ブランス語、ロツア語及び被告人の国語をもって提出され、公判は、これらの諸国語によって行なわれねぱならない。裁判所が、正義及び世論のため望ましいと認める範囲内の公判記録は、開廷されている国の国語に翻訳される。
(六)判決及び刑の宜言
第二六条
被告人の有罪及び無罪に関する裁判所の判決には、その理由を付する。判決は、最終であって、再審査を許さない。
第二七条
裁判所は、有罪と認定された被告人に対し、死刑又はその他裁判所が相当と認める刑を科する権利を有する。
第二八条
裁判所は、裁判所の科する刑罰に付加して、有罪と認定された被告人からその盗取した財産を没収し、これをドイツ管理理事会に引き波すぺきことを命ずる権利を有する。
第二九条
有罪判決の場合、刑の執行は、ドイツ管理理事会の命令に基づいて行なわれる。理事会は、随時判決を軽減し、叉はその他の変更を加えることができるが、刑を加重することはできない。ただし、ドイツ管理理事会は、被告人がすでに有罪の認定及び刑の宜告を受けたのち、更に別個の被疑事実を基礎づけると認めるような新たな証拠を発見したときは、正義の立場からその妥当と認める措置を求めるため、この規約の第一四条により設立された委員会に報告しなければならない。
(七)費用
第三〇条
裁判所及び公判の費用は、署名国により、ドイツ管理理事会を維持するために定められた資金から支出される。