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Date: Sat, 9 Mar 2002 11:26:48 +0900
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Subject: [he-forum 3566] 法律家の責任
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法律家へのお願い

佐賀大学の豊島です.

先日,韓国の教員組合の全国組織と会談した際,「法律の専門家の協力はないのか?」との質問を受けました.そこで,この文通団の中に法律家がおられましたら,

国立大学独法化の憲法的な問題についての解明を,是非やっていただきたいと思います.また,皆さんのまわりに専門家がおられたら,協力依頼をお願いします.

文部科学省が独法化を正当化する言説は,(1) 現在は国立大学は行政によってさまざまにしばられているので,(2) 「法人格」を得ることによって独立性が得られる,というものです.このような説明が正しいのかどうか,専門家は論評していただきたいと思います.そして調査検討会議の結論である「国立大学法人」が憲法や教育基本法と合致するのか,違反するのか,それとも無関係なのかについて,法律家,特に大学に籍を置く法律家には,学者としての良心に基づいた情報提供の義務があるのではないかとも思います.

(1) に関して文部科学省は次のように言っています.

「国立大学が、国の行政組織の一部、言葉を換えれば、いわば文部省の附属施設(施設等機関)として位置づけられている以上、規制緩和を進めたとしても、文部大臣の広範な指揮監督権の下に置かれる状況には変わりはなく・・・・」

(国立大学長・大学共同利用機関長等会議における文部大臣説明,2000年5月26日.http://133.50.152.161/agency/00526-monbu.html.)

“文部大臣の広範な指揮監督権の下に置かれる状況”にあるというのは真なのか偽なのか,真であればどの法律によってそうなのでしょうか.我が国には憲法23条や教基法10条があり,また下位の法より上位の法の効力が強いという法の支配の原則にも拘わらずこのような情況があるとすれば,それはなぜなのでしょうか.また仮にあるとすればそれは正当化されるのでしょうか.

国大協までもが文部科学省のこの言説を口移しにして,次のように言っています.

「従来、国立大学が国の行政機関の一部とされていたことに伴う種々の制約(たとえば、予算上の規制、給与・服務など人事面の規制、組織の設置改廃や定員管理など組織編成面での規制など)は、高等教育・学術研究の本質から要請される大学の自主性・自律性に、必ずしもそぐわない部分があったことは否定できない.」(「国立大学法人化についての基本的な考え方」,2001年5月21日,国立大学協会・設置形態検討特別委員会専門委員会連絡会議)

“国立大学が国の行政機関の一部とされていた”とは一体どういう意味なのでしょうか? 国立大学は「国立学校設置法」によって,「行政機関の一部」ではなく「学校」として独立して設置されているのではないでしょうか.「独立行政法人」の方が,名前に「行政」の文字があるように「行政機関の一部」になるのではないでしょうか(「国立大学法人」と詐称しても同じです).また,文部科学大臣が大学まるごとの廃止の権限に関与するような制度が,どうして「大学の自主性・自律性」に合致するのでしょうか?思うに,調査検討会議の首脳部には理系の人が多く,法律の専門家は少ないようなので,上のような文部科学省の言説にコロッと騙されてしまったのではないでしょうか.

(2) に関しては,独法化は憲法23条や教基法10条に違反するのではないか,という議論を前に提起しましたが*,法律家からのコメントがありません.この問題が重要な局面にある今,専門家は,それこそ「社会的貢献」として,自らの見解を述べてほしいと思います.沈黙は「違反しない」ないし「大したことではない」との態度表明になると思われます.

*「『独立行政法人』の大学への適用は違法か合法か」2000年12月
../UniversityIssues/legality.html

なお,文部科学省と国立大学との関係については,拙論「文部省の違法行為・従順な大学」も参照いただければ幸いです.
../UniversityIssues/obedient-universities.htm