Report of the Committee on Political and Social Problems
Manhattan Project "Metallurgical Laboratory"
University of Chicago, June 11, 1945

(The Franck Report)

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政治的,社会的問題についての委員会報告

マンハッタン計画「冶金研究所」(フランク報告)

フランク報告とは?

訳;豊島耕一(バージョン 0.92.) 03年7月28日,04年1月23日(要約部分追加)
広重徹訳はこちら

I. 序文

II. 軍備競争の将来

III. 合意の見通し

IV. 国際管理の方法

要約

I. 序文

 核エネルギーを物理学の他の分野の進展と区別する唯一の理由は,平時には政治的圧力として,そして戦時には瞬時の破壊力としてのその圧倒的な可能性にある.核科学の分野における研究体制,科学的・工業的な研究開発,そして公表に関する現在のすべての計画は,政治的,軍事的な環境によって,それをどう実行するかが条件付けられている.したがって,戦後の核科学の研究体制の提言において,政治的な問題の議論は避けられない.この計画に関わった科学者たちは,国家的な,あるいは国際的な政策の問題について権威主義的に語ろうというわけではない.然しながら,事実の重みによって,この5年間いた立場から,われわれは,人類の他の部分が気付かない,この国とすべての国の未来の安全にとっての重大な危険を認識した少数の市民の一団であることを自覚するに至った.それゆえ我々は,原子力の支配から生じる政治的な問題がそのあらゆる重大性において認識されるよう,また,それらの研究と,必要な決定の準備のために適切な処置が取られるよう促すことは我々の義務であると考えた.我々は,核科学のあらゆる面に対処するための委員会が国防長官によって作られたことが,これらの問題が政府によって理解された結果であることを望む.我々は,状況についての科学的な側面での我々の知識と,その世界的規模の政治への影響についての我々の長期間の専心は,これら重大な問題の可能な解決策についてのなにがしかの提案を委員会に提出する義務を我々に課していると考える.

 科学者は,互いの平和を増進するのではなく,国どうしの相互破壊のために新しい兵器を作ってきたとしばしばこれまで非難されてきた.たとえば,飛行機の発明は,楽しみや人間の利益よりも悲惨をより多くもたらしたことは疑いない真実である.しかしながら,過去において科学者は,かれらの純粋な発明に対して人類が見つけた利用方法については,直接的な責任を否認することが出来た.我々は今日おなじ姿勢を取ることはできない.なぜなら原子力において我々が成し遂げたものは,過去のすべての発明よりも限りなく大きな危険に満ちているからである.核科学の現状について知っている我々は皆,我々の目の前で突然の破壊がわが国を襲うという悪夢,真珠湾攻撃の千倍の規模の破壊がこの国のすべての大都市で繰り返されるという悪夢とともに生きている.

 科学者は過去においては,侵略者の手に渡った新しい兵器に対する適切な防護手段をしばしば用意することが出来たが,原子力の破壊的利用に対してはそのような効果的な防護策の見込みはない.この防護策は世界規模の政治的組織からのみもたらされる.平和のための有効な国際機関を呼びかける議論の中で,核兵器の存在は何にも増して止むにやまれぬものである.国際紛争において武力に訴えることを不可能にする国際的な権力機関の不在という状況においても,諸国は核軍備競争を禁止する特別の国際的合意によって,相互の完全破壊への道から逃れることが出来る.

II. 軍備競争の将来

 我々の発見を無期限に秘密にしておくか,あるいは圧倒的な報復の恐れから我々への攻撃を考えるような国が出てこないような速度で我々の核軍備を進めることによって,少なくとも我が国に関する限り核兵器による破壊の危険を防ぐことができると言われるかもしれない.

 最初の提案に対する答えは,我々は明らかに現在この分野で世界の先頭にいるが,原子力の基本的な事実は一般的な知識の問題であるということだ.英国の科学者たちは,われわれの工学技術の開発における特定のプロセスを除いて,戦時中の原子核工学の進歩の基本的なことがらについては我々と同様に知識を持っている.またフランスの核物理学者たちの持つ基礎知識と,我々の計画への時折の接触とは,少なくとも基礎的な科学的事実に関する限り,彼らが急速に追いつくことを可能にするであろう.その発見がこの分野全体の開発を可能にしたドイツの科学者達は,これがアメリカで行われたのと同じ程度までは戦争の間にそれを開発することはなかった.しかし,ヨーロッパの戦争の最後の日まで,我々は彼らがそれを成し遂げるかも知れないと言う恐れを持っていた.ドイツの科学者達がこの武器を研究しており,彼らの政府が,もし利用可能な場合にこれを使用することに対してまったく何のためらいも持っていなかったという認識は,アメリカの科学者たちがこのように大規模に軍事利用のための原子力開発を先がけて行おうとする主な動機づけであった.ロシアでも,1940年に原子力の基本的な事実とその意味するものはよく理解されていて,たとえ我々が,それらを隠すあらゆる試みをしても,核の研究におけるロシアの科学者達の経験は,彼らが数年以内に我々がやったことを辿り直すことを可能にするに十分である.更に,我々は,核兵器開発と,それに関連するプロジェクトの研究に通じている科学者たちが多くの大学および研究機関に散って行き,彼らの多くが我々の開発研究の基礎となったものと密接に関連した問題に取り組み続けるであろう平和時に,基本的な情報を秘密にしておくという試みが成功すると期待するべきではない.言い換えると,核開発とこれ関連するプロジェクトにおいて達成されたすべての結果を秘密にしておくことで,もし我々が原子核工学の基礎的な知識における主導権を保持できたとしても,それが2,3年以上も我々を守ってくれる考えるのは愚かである.

 原子力の原料を独占できないか尋ねられるかもしれない.その答えは現在,今日知られているウラニウム鉱石の最大の埋蔵地が「西」のグループ(カナダ,ベルギーとイギリスのインド諸国)に属する勢力のコントロール下にあるとは言え,チェコスロバキアの古い埋蔵地はこの領域外にある.また,ロシアは自分の領土でラジウムを採掘しているのが知られており,もし我々がこれまでにソ連で発見されている埋蔵地の規模を知らないとしても,ウランの大きな埋蔵量が地球の1/5の地域(そしてソ連の支配領域)を支配する国によって発見されないという確率は,安全保障の基礎とするには小さ過ぎる.したがって,原子力の基本的な科学的事実を競争相手の国に対して秘密にしておくことや,またはそのような競争に必要な原料を独占することによっては,核軍備競争を避けることは望めない.

 科学的・技術的な知識の普及,熟練した労働力のより大きな規模と効率性,そして管理の経験を含む,我々のより大きな工業力によって,さらに我々は核兵器競争において安心感を得ることが出来ないかと問われるかもしれない.これら工業力に於けるすべての要素の重要性は,この戦争でこの国を連合国の兵器庫に変えることにおいてかくも顕著に示されたのである.

 答えは,これらの利点が我々により大きく,より良い原子爆弾をより多く蓄積させるということである.ただし平和な時代に最大能力で原子爆弾を製作しておき,戦争開始後に平和時の核工学産業からの軍需品生産への転換には頼らないということが条件である.

 しかしながら,原子爆弾の貯蔵量における量的な優位は,奇襲攻撃に対しては我々の安全を保証しない.なぜなら仮想敵国は「数で勝られて,火力で勝られる」ことを恐れる.彼らの安全に対し,あるいは「勢力圏」に対して我々が好戦的な意志を抱くともし彼らが疑うならば,彼らは奇襲攻撃を行う誘惑に逆らえないだろう.侵略者にとってこれほど利点のある戦争手段はない.侵略者はあらかじめ,「地獄装置」を我々のすべての大都市に置いて,それらを同時に爆発させることができる.その結果,産業の大半を破壊して,大都市に集中した人口の大部分を殺すことができる.我々の報復の可能性は,報復が何千万人もの命と我々の大都市の破壊に対する報復として考えられるとしても,爆弾は空中輸送に頼るため報復は大きな不利をともなうだろう.産業と人口が広い領土にわたって分散している敵を相手とするなら特にそうである.

 事実,核兵器競争が展開されるならば,奇襲攻撃による無力化からわが国を守ることのできる唯一の明白な方法は,戦争に不可欠な産業と主要な大都市に集まった人口の分散である.核爆弾の数が少ない(ウランとトリウムが核爆弾製造のための唯一の基本材料である限り,これからもそうであろう)限り,産業の効率的な分散と大都市の人口の分散は,我々を核兵器で攻撃しようという誘惑をかなり減少させるであろう.

 今から10年後,原子爆弾は恐らく20kgの核物質を含んでいて,6%の効率で爆発され,それは2万トンのTNT爆弾と等しい効果を持つだろう.これらの1つは,およそ3平方マイルの都市部を破壊するのに使用されるかもしれない.もっと多量の核物質を持つが重量は1トン未満の原子爆弾が10年以内に入手可能であると予想され,それは,都市の10平方マイル以上を破壊することができるだろう.したがってわが国への奇襲攻撃の準備のために10トンの原子爆弾を割り当てることができる国は,500平方マイル以上の面積のすべての産業と人口の大部分を破壊することを期待できる.500平方マイルのアメリカの領土のどんな場所を標的にしても,この国の産業と人口の十分大きい部分を破壊の対象として含むことが出来ず,それらを無力にして国の戦力,国防力に決定的な打撃を与えることが出来ないならば,攻撃は割に合わず,実行されないだろう.現在,同時に破壊すれば国に壊滅的な打撃を与えるような,5平方マイルの100ブロックを選び出すことは容易にできる.(海軍の全面破壊はそのようなカタストロフの一部に過ぎない.)合衆国の領土はおよそ600万平方マイルあるので,核攻撃のための目標となりうるくらい重要な500平方マイルを作らないように,その産業と人的資源を分散させることは可能である.

 我々は,そのような我が国の社会と経済の構造における大変な変更の巨大な困難さ十分承知している.しかしながら,我々は,もし国際的合意が達成されないなら,安全確保のためにどのような代替措置が考えられる必要があるかを示すために,このようなディレンマについて述べられなければならないと感じたのである.我々は,現在人口がより分散しているか,産業がより散在するか,あるいは政府が無制限な力を持っていて人口と工業設備の位置を動かせるような諸国に比べれば不利な立場にあるということを指摘しなければならない.

 どんな有効な国際協定も実現されないとすれば,核兵器競争は我々の原子兵器の存在を示す最初のデモンストレーションの直後から本格的なものになるであろう.このあと他の諸国は,我々の現在の先発の有利さに追いつくのには3年ないし4年を要するであろうが,もしこの分野で我々が努力を集中し続けたとしても,8年か10年で肩を並べられるであろう.これは,我々が人口と産業の再編成を成し遂げるに必要な時間すべてに匹敵するかもしれない.明らかに,専門家によるこの問題の研究がすぐに始められなければならず,時間が空費されてはならない.

III. 合意の見通し

 核戦争の予想と,核爆撃による総破壊から国を守るために取られなければならない対策は,合衆国と同様他の諸国にとっても忌まわしいことに違いない.そのような脅威に直面してヨーロッパ大陸のイギリス,フランス,およびより小さい国の人々と産業は,完全に絶望的な状況にある.ロシアおよび中国だけは,核攻撃を生き残ることができる大国である.しかしながら,これらの諸国が西欧やアメリカほど人々の生活を重視せず,また特にロシアには,その重要な産業を分散することができる広大な国土と分散を命令することができる政府とがあるとは言え,そのような措置が必要であると確信させられる時が来れば,今回の戦争でほとんど奇跡的に生き残ったモスクワとレニングラードが,あるいはウラルとシベリアの新しい工業地帯が,一瞬にして崩壊するという可能性には戦慄するであろうということは疑いない.それゆえ,合意の欲求の欠如ではなく,ただ相互信頼の欠如だけが,核戦争の防止のための有効な協定の妨げとなるのである.

 この観点から,現在この国で秘かに開発された原子兵器が世界に最初に明らかにされる方法は, おそらく決定的に重要だと思われる.

 可能な1つの方法は-- 特に,それは,主に現在の戦争を勝利するために秘密兵器として核爆弾が開発されたと考える人々へ受け入れやすい方法だが-- 日本の適切に選択された目標の上に無警告でそれを使用することである.特に,東京,名古屋,大阪,および神戸のような大都市が通常の空爆というより遅い攻撃によって既に大規模に焦土となっているという事実を見れば,最初の利用可能な比較的低い効率と小型の爆弾が日本の抵抗の意志あるいは能力を打ち破るに十分かどうか疑わしい.ある確かなまた重要な戦術上の成果は疑いなく達成することができるだろうが,我々は,それにもかかわらず,日本との戦争における利用可能な原子爆弾の最初の使用の問題は,軍当局だけではなく,この国の最高位の政治指導部によっても非常に慎重に考えられるべきであると考える.もし我々が,核戦争の全面的な予防の国際協定を主要な目的と考え,それを達成することが可能であると信じるなら,このような形で世界へ原子兵器を導入することは,すべての成功の可能性を容易にだめにするであろう.ロシアは,そして我々のやり方と意図についての少しの疑惑も容認しない連合軍や中立諸国は,深刻な衝撃を受けるだろう.ロケット弾と同様に無差別でしかもそれより1,000倍も強力な兵器を,秘かに開発し突然発射する能力のある国が,国際協定によってそのような兵器を撤廃させたいとう希望を宣言しても,それを世界に納得させるのは非常に難しいであろう.我々は,多量の毒ガスを蓄積しているが,それらを使用しない.そして,最近の世論調査では仮にそれが極東の戦争の勝利を速めるとしても,この国の世論はその使用に賛成しないことを示した.毒ガス戦が,爆弾と弾丸の戦争より決して「人道的」などということはあり得ないが,集団心理のある不合理な要素が毒ガス戦を爆薬によって吹き飛ばすことより不快にさせることは確かである.それにもかかわらず,もし原子爆薬類の効果に関して正しい知識が与えられるならば,アメリカの世論が一般市民の生命を大規模に奪うそのような無差別な手段を我々の国が最初に実行することを支持するかどうかは全く不確かである.

 したがって,核戦争防止での国際協定を期待しているという「楽観的な」観点からの,日本に対する原子爆弾の突然の使用によって達成される軍事的利点やアメリカ人の生命が救われるという利点よりも,結果として起こる,他国を覆い尽くすであろう信用の失墜と恐怖と反発の方が重大かも知れず,また恐らく自国の世論さえ二分するだろう.この観点から,新しい兵器のデモンストレーションは,砂漠か無人島で,すべての連合国の代表の目の前で行うのが最善であろう.アメリカが世界に向かって次のように言うことができるなら,国際協定を達成するための最も良く受け入れられる 社会的雰囲気を達成することができるだろう.「あなた方は,私達がどんな武器を持っているかを,そしてそれを使わなかったことを知るであろう.我々は,将来,その使用を放棄し,他の諸国と協力してこの原子兵器の使用についての適切な監視体制をつくり上げる用意がある.」

 これは空想的に聞こえるかもしれないが,しかし原子兵器においては,破壊力のスケールにおいて全く何か新しいものがある.そして,それを所有しているという我々に与えられた利点を完全に利用したいのならば,我々は新しくかつ想像的な方法を用いなければならない.そのようなデモンストレーションの後に,連合国(そして自国の世論)の承認が得られ,そしておそらく降伏勧告の,または少なくとも目標の全面破壊を避けるためにある地域から避難させるための事前の最後通告の後に,日本に対してこの兵器が使用され得るであろう.

 悲観的な視点をとり,核兵器の有効な国際的なコントロールの可能性を割り引いて考えた場合,いかなる人道主義的考察と全く無関係に,日本に対する早期の核爆弾の使用がより疑わしくなることは強調されなければならない.最初のデモンストレーション直後に国際協定が締結されない場合,これは無制限の軍備競争の急速なスタートを意味するであろう.この競争が避けられないものであれば,私たちには私たちの早発の有利さをさらに増加させるために可能な限りその始まりを遅らせなければならない.希少な核分裂性のアイソトープ・ウラン235の分離により,あるいはそれを等価な量の別の核分裂性の元素の生産のために利用することに基づいて核爆弾の生産の初期段階を完成するために,戦時の緊急性の要求の下で,私たちはおおよそ3年を要した.この段階は大規模で高価な建設の事業と困難な作業とを要求した.我々は今,トリウムとウラニウムという比較的豊富な,より普通のアイソトープを核分裂物質に変換するという第二段階の初めにいる.この段階は精巧な計画を要求せず,約5-6年で実際にかなりの量の原子爆弾の備蓄をすることができる.従って少なくともこの第2段階の成功終了まで軍備競争の始まりを遅らせることが我々の利益にかなう.当て推量と「うまくいくはずだ」というしっかりした知識なしで,核爆弾の早期のデモンストレーションを放棄し,他の国を核兵器競争に入らせるのも不承不承ながら,ということで達成される国家への利益と将来のアメリカ人の生命を救うことは,日本との戦争において比較的効率の低い爆弾を即時に使用することによって得られる利点よりはるかに重要かもしれない.少なくとも使用の賛否については国の最高の政治的,軍事的リーダーシップによって注意深く検討されなければならず,単に軍事的戦術だけで決定されてはならない.

 科学者自らがこの「秘密武器」の開発を始めていながら,それが利用可能になると直ちにそれを敵に対して使うのをためらうことは奇妙であると指摘する人もいるかもしれない.この疑問に対する答えは上で与えられた.つまり,そのようなスピードで武器の開発を余儀なくされた理由は,その使用について道徳的制約を持たないドイツがそのような武器を開発するのに必要な高度な技術を持っていたという我々の恐れであった.

 それらが利用可能になれば直ちに原子爆弾を使用することを支持する議論として引き合いに出されるかもしれない別のものは,これらの計画のために納税者の多額の金銭が投資されており,議会とアメリカの人民はそれらの投資への見返りを要求するだろうということである.日本に対する毒ガス使用の問題での前述のアメリカの世論の姿勢は,しばしば武器は極端な緊急の時だけに使用可能とされ,そして核兵器の能力がアメリカの人々に明らかにされるや否や,世論はその様な武器の使用を不可能にする為のあらゆる試みを支持すると確信することができる.

 一旦これが達成されれば,現在軍用として生産された大規模な装置や爆発物の蓄積は,電力生産や大規模な工学的技術的事業,それに放射性物質の大量生産を含む平和な時代の重要な発展のために利用可能なものとなるであろう.このように,原子核工学開発のために戦時に費やされた金銭は,平和な時代の国家経済の発展にとっての恩恵となるかもしれない.

IV. 国際管理の方法

 我々はここで,核兵器の有効な国際管理を達成するにはどうすべきかという問題について考える.これは難問であるが,我々はそれが解決できるものと考える.それは政治家と国際法律家による研究を必要とするものであるが,我々はそのような研究のためにいくつか予備的な提案をすることができる.

 相互信頼関係と,主権のある部分を放棄するという意志が各国にある場合,それは国家経済のある部分の国際管理を受け入れることによってなされるが,国際管理は(交互にもしくは同時に)2つの異なったレベルで実行することができるであろう.

 最初に行うべき,しかも恐らく最も簡単な方法は原料を,まずウラニウム鉱石を配給することである.核爆弾の生産は大規模な同位体分離プラントにおけるウランの多量の処理か,もしくは,巨大な生産炉プラントから始まる.異なった場所で採掘される鉱石の量は国際管理委員会の現地駐在官によって管理することができ,そして各国は核分裂性同位体の大規模分離が不可能な量しか割り当てられないようにすることができるであろう.

 そのような制限には,平和目的の原子エネルギーの生産も不可能にする欠点があるだろう.しかしながら,この制限はこれらの材料の工業的,科学技術的利用における革命をもたらすだけの量を生産するのに妨げにはならず,原子核工学が人類に約束する主な利益を阻害するものではないだろう.

 より深い信頼関係と理解を必要とする,さらに高いレベルの協定は,無制限な生産を許すだろうが,採掘されたウランの使途を正確に記録することが守られなければならない.この管理法の一つの難点は,核物質生産の第二段階に起こる.すなわち1ポンドの純粋な核分裂性同位体が,トリウムから追加核分裂物質を作り出すのに再三使用される場合である.この金属の工業目的の使用に関しては,複雑な事態を引き起こすかもしれないが,この難点は,管理をトリウムの採掘と利用にも広げることで克服されるであろう.

 ウランとトリウム鉱石からの純粋な核分裂物質への転換をチェックし続けたとしても,一つもしくは数ヶ国がそのような材料を多量に蓄積するのをどのようにして防ぐかという問題が起きるであろう.一国が国際管理から離脱した場合,この種の蓄積は急速に原子爆弾に変換されることであろう.純粋な核分裂性同位体の強制的な変性は同意を得るであろうとの提案がなされた.それらは軍事目的には(開発に2〜3年かかるプロセスで精錬されるのを除いて)使用できないが,電力生産には使えるように,適当な同位体によって希釈されなければならない.

 明白なことは,核兵器の防止に関するいかなる国際協定も現実的で効率的な管理によって裏打ちされなければならないということである.この国も,また他のいかなる国も,他国の署名への信用にその存在そのものを賭けることはできないので,机上の協定だけでは十分ではありえない.国際管理機関を妨害するあらゆる試みは協定の廃棄通告と同等の行いであるとみなされなければならない.

 我々は科学者として,考えられる管理システムは,原子核工学が世界の安全と矛盾しないことと同様,その平和目的の発展の自由を十分保障しなければならないと信じるが,これは敢えて強調するまでもないであろう.

要約

 核エネルギーの開発は,合衆国の技術力,軍事力を著しく強めるというにとどまらず,この国の将来にとって重大な政治的,経済的な諸問題を生ぜしめるものである.

 核爆弾は,この国が独占権を持つ「秘密兵器」としては,おそらく数年以上にわたっては存在できないであろう.その構造の基礎となる科学的事実は他国の科学者にもよく知られている.核爆発物の有効な国際管理制度が確立しなければ,我々が核兵器を持っていることが世界に知られるや否や,核軍拡競争が確実に起こるだろう.他の諸国は10年以内に核兵器を所有するであろうし,1トンよりも軽いその兵器の一つ一つが5平方マイル以上の市街地を破壊できるであろう.そのような軍拡競争がもたらすであろう戦争においては,人口と工業が比較的少数の大都市圏に集中している合衆国は,それらが広範に分布している国に比べて不利であろう.

 我々は,このような理由から,早期に無警告で日本に対して核爆弾を使用することは勧められないと考える.もし 合衆国がこの無差別破壊の手段を人類に対して最初に使用するならば, 合衆国は,世界中で大衆の支持を犠牲にし,軍拡競争を加速させ,このような兵器を将来においてコントロールするための国際的合意に到達する可能性を傷つけるであろう.

 そのような合意の最終的な達成のためのよりはるかに好ましい条件は,核爆弾が適切に選ばれた無人地域でのデモンストレーション実験として初めて世界に呈示されることによって作られるだろう.

 もし核兵器の国際的な管理体制をうち立てる機会が現時点で軽視されるようなことになれば,これらの兵器の日本に対する使用のみならず,早期のデモンストレーション実験ですらこの国の利益に反することになろう.そのような デモンストレーションを先延ばしにすることは,この場合,可能な限り核兵器競争の始まりを送らせるという有利さを持つ.もし,その猶予時間に,この国においてその分野のさらなる研究開発のための多大な支援が可能になるならば,核使用を延期することは,この戦争で我々が確立したこの分野の優勢をさらに相当増大させ,軍備競争ないし後のいかなる国際合意の試みにおいて,我々の立場を強固にするだろう.

 これに反して,もし デモンストレーションなしにはニュークレオニクス(原子核工学)の推進への公衆の支持が得られないのであれば, デモンストレーションの遅延は勧められないと考える.なぜなら,他の国が軍備競争を開始するに十分な情報が漏れるであろうし,その状況は我々にとって不利だからである.同時に,秘密裏に開発を進めていることが確認されれば,他の諸国による不信を招き,彼らと合意を形成していくことを結果的により困難にするであろう.

 もし政府が,核兵器の早期のデモンストレーション実験という方向を決めるならば,政府は,日本との戦争にこれらの兵器を使うことを決定する前に,国内や各国の世論を考慮に入れられるという可能性が生じる.このようにして,他の諸国もこのような重大な決定の責任の一部を引き受けることになるかも知れない.

 要約すると,我々は,この戦争での核兵器の使用は,軍事上の便宜ではなく,長期的な国家政策の問題として考えるべきであると勧告する.そして,この政策は,核戦争手段の効果的な国際管理を可能にする合意の達成を第一の目的とするものでなければならない.

 このような国際管理がわが国にとって決定的に重要であることは,この国を守る有効な代替策は,我々が知るところでは,大都市と主要な工業地域を分散させる以外にはないという事実から明白である.