○人事院規則一四−七(政治的行為)の運用方針

 昭二四・一〇・二一

 人事院,事務総長発各庁宛通牒

一 この規則制定の法的根拠 

この規則は、国会が適法な手続によつて制定した国家公務員法第百二条の委任によつて制定されたものである。

二 この規則の目的

国の行政は、法規の下において民主的且つ能率的に、運営されることが要請される。従つて、その運営にたずさわる一般職に属する国家公務員は、国民全体の奉仕者として政治的に中立な立場を維持することが必要であると共に、それらの職員の地位は、たとえば、政府が更迭するごとに職員の異動が行われたりすることがないように政治勢力の影響又は干渉から保護されて、政治の動向のいかんにかかわらず常に安定したものでなければならない。又、この規則による政治的行為の禁止又は制限は、同時に他の職員の側からするこれに対応する政治的行為をも合せて禁止することによつて職員がこれらの政治的行為の禁止に違反しないようにすることが容易に達せられるようなものでなければならない。この規則は、このような考慮に基き、右の要請に応ずる目的をもつて制定されたものである。従つて、この規則が学問の自由及び思想の白由を尊重するように解釈され適用されなければならないことは当然である。

三 規則の適用範囲

(1)第一項は、法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定が、特にこの規則で適用を除外している者を除き、一般職に属するすべての職員に適用されるものであることを明らかにしている。

(2)この規則において、「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」とは、法第百二条、第一次改正法律附則第二条、規則一四−五及びこの規則中に含まれる禁止又は制限に関する規定をいう。

(3)「法及び規則中政治的行為の禁止又は制限に関する規定」は、顧問、参与及び委負で諮問的な非常勤の職員の他の法令に違反しない行為には適用されない。また顧問、参与及び委員以外の者であつても、これらと同様な諮問的な非常勤の職員で、人事院が特に指定する者の同様な行為にも適用されない。但し、人事院はいまだこの指定を行つていないから、現在のところでは諮問的な非常勤の職員で顧問、参与又は委員の名称を有しない職員にはすぺて適用されるが、この指定は、近い将来において行われる見込である。なお、委員の名称を有するものであつても、国家行政組織法第一二条に規定する委員会の委員は、ここにいう委員には含まれない。本項但書に核当する職員は、他の法令で禁止されていない限り、この規則に規定する政治的行為を行つたり規則一四−五に定める公選による公職の候補者となつたり、公選による公職を併せ占めたり、政党の役員等になることを禁止されない。すなわち、この規則は、これらの職員の職務と責任の特殊性に基き、国家公務員法附則第十三条の規定に従い、職員の政治的行為の制限に関する特例を定めたものである.

(4)第二項は、職員が単独で又は他の職員と共同して行う場合だけでなく、職員以外の者と共同して行う場合でも禁止又は制限されることを明らかにしたものである。この場合「共同して行う」とは、職員が共同意思を単独で又は他人と共に実行に移すことをいう。

(5)第二項は、職員が自ら選んだ又は自己の管理に属する代理人等を通じて間接に行う場合でも、その行為を行わせた職員に適用されることを明らかにしたものである。自ら選んだ又は自己の管理に属する者が職員であるか否かは問わない。「自ら選んだ」とは、明示たると黙示たるとを問わず自らの選任行為があつたと認定されることをもつて足り、「自己の管理に属する」者とは、監督等の原因により通常本人の意思に基いて行為をなすべき地位にある者をいう。たとえば部下、雇人等のような者である。「その他の者」とは自ら選んだ又は自己の管理に属する者で代理人又は使用人以外の者をいう。「通じて間接に行う」とは、自己の意思を他人によつて実行に移すことをいう。

(6)職員は、職員たる身分又は地位を有する限り勤務時間外においても、政治的行為を行うことを禁止又は制限される。但し、政治上の主義主張又は政党その他の政治的面体の表示に用いられる腕章、紀章、えり章、服飾等を勤務時問外に単に着用することは禁止されない。

(7)なお、この規則は、職員が本来の職務を遂行するため当然行うべき行為を禁止又は制限するものではない。

四 政治的行為

職員が行うことを禁止又は制限される政治的行為に関し、この規則では政治的目的と政治的行為を区別して定義し、政治的目的をもつてなされる行為であつても、この規則にいう政治的行為に含まれない限り、国家公務員法第百二条第一項の規定に違反するものではないとしている。

(1)政治的目的

規則第五項は、法及び規則中における政治的目的の定義を行い、これを明らかにしたものである。

(一)第一号関係 本号中「規則一四−五に定める公選による公職の選挙」とは、衆議院議員、参議院議員、地方公共団体の長、地方公共団体の議会の議員、教育委員会の委員、都道府県農地委員会及び市町村農地委員会の委員の選挙をいう。「特定」とは、候補者の氏名が明示されている場合のみならず、客観的に判断してその対象が確定し得る場合をも含む。「候補者」とは、法令の規定に基く正式の立候補居出又は推薦届出により、候補者としての地位を有するに至った者をいう。「支持し又はこれに反対する」とは、特定の候補者が投票若しくは当選を得又は得ないように影響を与えることをいう。また候補者としての地位を有するに至らない者を支持し又はこれに反対することは本号に含まれない。選挙に問する法令に従つて候補者の推薦届出をすること自体は本号に該当しない。

(二)第二号関係 本号の「国民審査」とは、日本国憲法第七十九条の規定に基き、最高裁判所裁判官国民審査法(昭和二十二年法律第百二十六号)に定める最高裁判所裁判官の任命に関する国民審査をいう。なお、本号中における「特定」及び「支持し又はこれに反対する」の意味については、前号に準じて解釈されるべきである。

(三)第三号関係 本号中における「特定」の意味については、第一号に準じて解釈されるべきである。「政党」とは、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを本来の目的とする団体をいい、「その他の政治的団体」とは、政党以外の団体で政治上の主義若しくは施策を支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し若しくはこれに反対する目的を有するものをいう。「支持し又はこれに反対する」とは、特定の政党その他の政治的団体につき、それらの団体の勢力を維持拡大するように若しくは維持拡大しないように、又はそれらの団体の有する綱領、主張の主義若しくは施策を実現するように、若しくは実現しないように、又はそれらの団体に属する者が公職に就任し若しくは就任しないように影響を与えることをいう.

(四)第四号関係 本号中「特定の内閣を支持し又はこれに反対する」とは、特定の内閣が存続するように若しくは存続しないように又は成立するように若しくは成立しないように影響を与えることをいう。なお、特定の内閣の首班若しくは閣員全員を支持し又はこれに反対する場合も本号に含まれるものと解する。

(五)第五号関係 本号にいう「政治の方向に影響を与える意図」とは、日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとする意思をいう。「特定の政策」とは、政治の方向に影響を与える程度のものであることを要する。最低賃金制確立、産葉社会化等の政策を主張し、若しくはこれに反対する場合又は各政党のよつて立つイデオロギーを主張し若しくはこれらに反対する場合或は特定の法案又は予算案を支持し又はこれに反対する場合の如きも、日本国憲法に定められた民主主義政治の根本原則を変更しようとするものでない限り、本号には該当しない

(六)第六号関係 本号中「国の機関又は公の機関において決定した政策」とは、国会、内閣、内閣の統括の下における行政機関、地方公共団体等政策の決定について公の様限を有する機関が正式に決定した政策をいう。「実施を妨害する」とは、その手段方法のいかんを問わず、有形無形の威力をもつて組織的、計画的又は継続的にその政策の目的の達成を妨げることをいう。従つて、単に当核政策を批判することは、これに該当しない。

(七)第七号関係 本号中「署名を成立させ」とは、地方自治法第七十四条及び第七十五条に定める数に達する選挙権者の連署を得ることをいう。

(八)第八号関係 本号中「地方自治法に基く地方公共団体の議会の解散の請求」とは、地方自治法第七十六条に定める地方公共団体の議会の解散の請求をいい、「法律に基く公務員の解職の請求」とは、地方自治法第八十条、第八十一条若しくは第八十六条又は教育委員会法(昭和二十三年法律第百七十号)第二十九条若しくは農地調整法(昭和十三年法件第六十七号)第十九条の十等に定める公務員の解職又は改選の請求をいう。「署名を成立させ」とは、地方自治法第七十六条、第八十条、第八十一条若しくは第八十六条又は教育委員会法第二十九条若しくは農地組書法第十五条の十等に定める数に達するる選挙権者の連署又は同意の署名を得ることをいう。「賛成若しくは反対する」とは、本号の請求に基く解散又は解職の投票において、賛成投票を得若しくは得ないように又は反対投票を得若しくは得ないように影響を与えることをいう。

(2)政治的行為

第六項は、法第百二条第一項の規定により禁止又は制限される政治的行為を定めたものである。

(一)第一号関係 本号は、職員が、国家公務員としての地位においてであると、私人としての地位においてであるとを問わず、政治的目的の為に自己の影響力を利用する行為を政治的行為としてこれを禁止する趣旨である。「公の影響力」とは、職員の官職に基く影響力を、「私の影響力」とは、私的団体中の地位、親族関係、債権関係等に基く影響力をいう。たとえば、上官が部下に対し、選挙に様して投票を勧誘し、あるいは職員組合の幹部が組合員に対し、入党を勧誘するためにその地位を利用するような行為は違反となる.

(二)第二号関係 「その他の利益」とは、金銭、物品のみでなく権利の授与、貸与等有形、無形の利益をいう。

(三)第三号関係 本号は、法第百二条第一項前段の規定と同趣旨の規定であつて、「関与」とは、援助、勧誘、仲介、あつ旋等をいう。たとえば課員が課内の党員の党費をとりまとめることは違反となる。

(四)第四号関係 「国家公務員」には、特別職に属する国家公務員をも含み、地方公務員その他国家公務員以外の者に、金品を「与え又は支払う」行為は、本号の規定に該当しない.

(五)第五号関係 本号に掲げる行為は、それ自体で政治的目的をもつ行為とされ、他に別な政治的目的をもつてすることを要件としない。「企画し」とは、発起人となり、綱領規約等を立案し、又は結成準備会を召集すること等を、「参与し」とは、綱領規約の起草を助け又は準備委員となる等企画者を補佐して推進的役割をすることを、「これらの行為を援助する」とは、企画し参与することにつき自ら直接に行うと、間接に行うとを問わず、労力、財産、物品等を提供し又は宜伝、広告、仲介、あつ旋等を行うことをいう。又、「政治的顧問」とは、その団体の幹部と同程度の地位にあつて、その団体の政策の決定に参与する者をいい、単なる技術的顧問は含まない。「これらと同様な役割をもつ構成員」とは、名称のいかんを問わず、役員又は政治的顧問と同等の影響力又は支配力を有する構成員をいう。なお、本号は、その団体の本部の場合のみならず地域的支部及びそれに準ずる組織体の場合にも適用される。単にこれらの団体の構成員となり、又は役員、政治的顧問若しくはこれらと同様な役割をもつ構成員以外の地位を占めることは差し支えない。

(六)第六号関係 本号の行為も当然政治的目的をもつ行為とされる。「勧誘運動をすること」とは、組織的、計画的、又は継続的に、勤務をすることをいい、たとえば党員倍加運動のようなごときはその例である。従って、たまたま友人間で入党について話し合うようなことは該当しない。

(七)第七号関係 本号の行為も当然政治的目的をもつ行為とされる。自分の購読した機関紙の一部をたまたま友人に交付するような行為及び単なる投稿等は、本号に該当しない.

(八)第八号関係 「勧誘運動」とは、第六号にいう「勧誘運動」に準じて解釈されるべきである。従って、選挙に際し、たまたま街頭であった友人に投票を依頼するような行為は該当しない。

(九)第九号関係 「運動」及び「企画し」とは、それぞれ第六号の「運動」及び第五号の「企画し」に準ずる。又「主宰」とは、実施につき自らの責任において総括的な役割を演ずることを、「指導し」とは、樹立された計画に基き、実施を具体的に指導することを、「その他これに積極的に参与すること」とは、企画、主宰、指導の外,署名運動を企画、主宰、又は指導するものを助け又はその指示を受けて署名運動において推進的役割を演ずることをいう。なお、単に署名を行う行為は、本号の規定に該当しない。(十)第十号関係 「示威運動」とは、多衆の威力を示すため、公衆の目につき得る道路、広場等を行進すること等をいう。単に「示威運動」に参加することは本号に該当しない.

(十一)第十一号関係 「集会」とは、屋内、屋外を問わず一定の目的のための多数人の集合を、「多数の人に接し得る場所」とは、公会堂、公園、街路等をいい、現に多数人の参集していることを要しないが参集し得る状態にあることを要する。「拡声器、ラジオその他の手段を利用し」とは、多数人に音声を伝達することのできる手段を用いることをいい、多数の人に接し得る場所におけると否とを問わない。又「公に」とは、「不特定の多数の者に」の意味である。従つて、組合員だけの非公開の会合の場合等は、本号に該当しない.

(十二)第十二号関係 「文書又は図画」には、新聞、図書、書簡、壁新聞、パンフレット、リーフレット、ビラ、チラシ、プラカード、ポスター、絵画、グラフ、写真、映画の外、黒板に文字又は図形を白墨で記載したもの等も含まれる。「国の庁舎,施設等」とは、国が使用し又は管理する建造物及びその附属物をいい、固定設備であることを要しない。「掲示させ」又は「利用させ」る行為には、他の者が掲示し又は利用することを国の庁舎、施設、資材又は、資金管理の責任を有する者が許容する行為も含まれる。なお、本号後段の行為には、政治的目的のためにすることが必要であるが、前段の行為にはこれを必要とせず行為の目的物たる文事又は図画が政治的目的を有するものであることをもつて足りる。

(十三)第十三号関係 「形象」とは、彫刻、塑像、模型、人形、面等をいう。職員が政治的目的をもつ文書、図画等を著作し又は編集した場合、それがこれらの「もの」を「発行し回覧に供し、掲示し若しくは配布し又は多数の人に対して朗読し若しくは聴取させる」ために行つたものでない限り、本号にいう政治的行為には含まれない。なお、本号の行為は、行為者の政治的目的のためにする意思の有無を問わず、行為の目的物が、政治的目的を有するものであれば足りる。

(十四)第十四号関係 「演出」には、俳優として出演することは含まれない。「これらの行為を援助する」とは演劇の脚本を提供し、その演劇の上演のために資金を与え又は募り、無償又は不当に安い対価で資材、設備、労働力、技術等を提供し、又はこれらをあつ旋し、積極的に宜伝を行うこと等を含む。(十五)第十五号関係 「その他これらに類するもの」には、まん幕、のぼり、鉢巻、たすき、ちょうちん等が含まれる。

(十六)第十七号関係 本号は、この規則の脱法行為を禁止するものである.

五 違法性を阻却する場合

第七項は、形式的には、この規則の違反に該当する行為であっても、職員が正当な職務を遂行するために当然行う行為である場合には、この規則違反の制裁を受けないことを明らかにしたものである。たとえば、労働情勢の調査の職務を有する職員が、各種の政党機関紙を関係職員に配布又は回覧に供する行為等は、この規則の禁止又は制限するところではない。又、国立大学の政治学の教授が学術的見地から現行の選挙制度の不合理性を指摘し、経済学の教授が米券制度の得失を批判して研究論文を発表すること等も同様である。なお、この規則は憲法第二十三条に規定する学問の自由を拘束するような趣旨に解釈されてはならないことも当然である。