「学問の自由」のための新しい出発

金沢大学学生自治会の新入生向けパンフへの寄稿

佐賀大学教授・独法化阻止全国ネット事務局長 豊島 耕一

 皆さんは実に歴史的な年に大学に入学されたことになります.残念ながら良い意味ではなく,自由が失われていくかも知れない危険な分岐点にある大学が,皆さんを迎えることになったのです.ご承知のように国立大学は4月から「独立行政法人」というものに変えられました.実際は「独立」ではなく文部科学省から「中期目標」という,いわば命令を与えられる存在,つまり「行政従属法人」になってしまったのです.

 この危険に気付いた大学関係者は昨年,国会議員などと連携しながら反対運動を何とか盛り上げようとしました.国内の著名人はもちろん,反対の声は海外にも広がり,著名な言語学者チョムスキー教授も反対運動にメッセージを寄せてくれました.また,オックスフォード大学教授でサンスクリット学のリチャード・ゴンブリッチ氏は,私たちが昨年6月10日の読売新聞に出した意見広告の中で,「官僚や政治家に学問的,知的活動を支配する権力を与えるこのような動きは,悲惨な結果をもたらし得るだけであることを,歴史は繰り返し示す」と述べています.

 しかし力及ばず,7月に法案は国会で可決されてしまいました.最も残念だったことは,学生も含め大学関係者自身が大規模には反対運動に立ち上がらなかったことです.これは「大学の自治」や「学問の自由」という考えが,どちらかというと言葉だけで,この国には深くは根付いていなかったためではないかと思われます.

 この変化でキャンパスの風景がことさら変わるわけではありません.何ごともなく授業は行われ,研究も進められるでしょう.目には見えないのです.しかし変化は確実に起こり,大学が社会への批判力を弱め,政治権力や財界権力との癒着が進む恐れがあります.一人ひとりにとって,そのような変化を見通す力があるかどうか,そのための想像力を働かせることが出来るかどうかが問題です.「学問の自由」を作り上げていく仕事は今まさに新しく始まったのです.(04年4月)