2001年12月7日
議長,そして同胞の地球市民の皆さん,
トライデント・プラウシェアズを代表してこの著名なライト・ライブリフッド賞を受けることが出来るのは特別に名誉なことです.この仕事にとってとても必要な社会的認知が与えられたことに何よりも心から感謝しています.
普通の人々や市民のグループにとって,政府が彼らの狭量な「国益」を支えるために行うはなはだしい権力の濫用,脅迫,そして暴力に抵抗するようみずからを組織することはしばしば困難なことです.ですからライト・ライブリフッド賞によって贈られた社会的認知はたいへん重要であり,また私たちを励ますものです.
私たちの「市民による核廃絶」の概要をお話しさせて下さい.
スコットランドのグラスゴーから数マイルのファスレーンにイギリスは4隻のトライデント原潜の基地を置いています.それぞれの原潜は100キロトン核弾頭を48個装備しており,つまり192個の独立の目標を狙うことができ,そしてその1発だけで,15万人を殺したヒロシマ原爆の8倍も強力なのです.これは想像もできないような規模のテロリズムです.
1998年にトライデント・プラウシェアズはイギリスの首相トニー・ブレアに対して,すべての核兵器を撤去することによって国際法に従うように,さもなければ彼の代わりに運動のメンバーがそれを実行するだろうとの, 直接の申し立てを行いました.私たちは次に,自分たちで核兵器を撤去するとの個人的な誓約をするよう人々を組織し,政府が核廃絶の作業を引き継ぎ,核不拡散条約において政府が世界に約束した完全な核廃絶を履行するまで,この仕事を継続することを表明しました.
私たちの,実際的な核廃絶のための平和的な行動への献身は,国際法と,生命に対する基本的な権利とに基づくものです.たくさんの国の人々が「地球市民」として集まり,核兵器システムを平和的に撤去する仕事を始めました.これは暴力的あるいは犯罪的な損壊でも,また破壊活動でも秩序妨害でもなく,実際的で合法的な「市民による核廃絶」なのです.
もちろんイギリス政府もまたどの政府機関も物事をこのようには見ません.1998年にトライデント・プラウシェアズが活動を始めて以来,おもにクールポートとファスレーンでの非武器化キャンプで延べ1500人以上が逮捕されました.これまでに220件以上の裁判が終了し,警察での留置期間を除いての刑務所での延べ拘束日数は1400日以上になっています.そしてこれまでに科せられた巨額の罰金は原則の問題として支払わないため,執行吏による差し押さえが行われ,またさらなる禁固刑を科される恐れがあります.さらに数百の法廷が予定されており,地方の司法システムにはすでにオーバーワークのため歪みが生じています.
具体的な核廃絶行動に参加した人々は,時代遅れの司法システムに新しい空気を吹き込んでいて,核兵器はテロリズムの殺戮マシーンだと遠慮会釈なく述べ,またもし法律が国家による恐喝や大量破壊を違法とするのを拒むのであれば,法は尊重するに価しないものになってしまうと述べています.スコットランドのヘレンズバラ地裁での市民と核兵器国の悪との対決は,人々への鼓吹の現場となっています.
トライデント・プラウシェアズは現在,核による犯罪を防止する誓約を行い2日間の非暴力研修を終えた,14ヶ国158人の「地球市民」から構成されています.外国からの市民が私たちと共に非武器化活動に参加し,法廷に立ち,また刑務所で過ごすことは,当局側にとってはより厄介な事です.政府と裁判所はイギリスの核兵器は純粋にイギリスの国内問題であるというふりをしたがっていますが,外国人が法廷に立ってトライデントをなぜ脅威と感じるか,そしてそれを平和的に非武器化するためになぜ他国の「地球市民」と仲間を組んだのかを説明すれば,彼らはそのような立場が弁護不能なことを知ります.
私たちのいちばん最近の10月のファスレーン大衆封鎖では,1000人以上が参加し,スコットランド議会,英国議会,そして欧州議会の議員が,ほか170名の平和的な封鎖行動の参加者と共に逮捕されました.スコットランドの教会のたくさんの聖職者やスコットランド刑事裁判所の上級司法関係者も私たちと共に座り込み,「秩序妨害」の罪で逮捕されました.このような人たちの支持は,著名な作家,俳優,そして数千の個人の支持と共に,この運動の広範な社会的受容を示すもので,プラウシェアズの誓約者たちを簡単に無視することをできなくしています.このことはとても重要なことです.というのは,イギリス政府は市民的自由を弾圧し,政治目的で器物に損害を与えるどのようなグループも対象とするようにテロの定義を拡大しているからです.ウェールズ大司教や人権と法の教授,著名な詩人などが公然と私たちの非武器化の実務を支持していますが,政府にとって,そのような非常に尊敬されている人々をテロリストと呼ぶことは困難です.
私たちはその計画,動機,そして組織の成り立ちを公開し,申し開きのできるものにしています.一般の人であれ政府や軍関係者であれ,私たちのウェブサイトで誓約者や支持者の名簿と私たちの「トライ・デンティング・イット・ハンドブック」(Tri-Denting It Handbook,注1)を閲覧することができます.
すべてのトライデント・プラウシェアズの誓約者は私たちの安全と非暴力の基本原則に同意しなければなりません.しかしそれ以外は彼らは自由に自治的に行動します.彼らは様々の非武器化活動の形態を選んでいます.それは,封鎖やフェンス・カッティングから,原潜に泳ぎ着いて装備を破壊すること,研究施設の装備破壊,軍用車両の無力化,軍施設に「戦争犯罪を警告する」と大書すること,基地従業員に私たちのリーフレットを配って「戦争犯罪人になることを断りなさい」と説得することなど,多岐にわたります.
非武器化行動の主なものは基地封鎖とフェンス・カッティングで,これには多くの人が参加し,軍への被害は最小ですが最大の法廷の渋滞と混乱をもたらしました.しかしまた,3つのグループによってかなりの非武器化のダメージを与える試みも実施されました.それらの行動は数十万ポンド相当の被害を完遂し,またトライデント関連施設の稼働を遅らせる事に成功しました.私たちはこれらすべてのダメージを「非武器化」,そして「核犯罪の防止」と呼んでいます.
私たちの行動は数百件にのぼる裁判を引き起こしました.すべての裁判は重要です.なぜならどれも国の最も脆弱な側面で--主要な法と秩序の問題で--国と対決するものだからです.これが私たちのキャンペーンがこのような政治的,法律的な波風を立てている理由です.伝統的に法は「国」に対してでなく「市民」に対して,貧しく不利な立場の人たちに対して主に用いられて来ました.しかし今や,人々はこの向きを変え,全体的な法的基礎に,そして軍備の合法性--国家の一つの支柱--に挑戦しました.彼らは国家や企業中心ではなく人々に中心を置いた法を要求しています.
いくつかの壮観な行動がありました.例えば,二人の女性が泳いでバローのドックに入り,原潜「ヴェンジャンス」に上がり,コニングタワー(潜水艦の上部タワー部分)にある試験装置を破壊しました.この行動は,「ヴェンジャンス」がアメリカでのミサイル積み込みの航海のために出航するのを数ヶ月遅らせました.2年にわたる3度の裁判で,どの裁判の陪審も有罪か無罪かの判断をすることができず,女性たちは起訴を取り下げられました.同じ年の6月,私たち3人は「メイタイム」と呼ばれる,航海中のトライデントを「見えなく」するための実験室バージを非武器化しました.私たちはコンピュータ,モニタ,試験装置などをすべてゴイル湖に放り込んで実験室全体を空っぽにしました.そして模型潜水艦の制御ボックスを破壊し,他の様々のトライデント研究用の装置への電源を切りました.5ヶ月間の拘留ののち,私たちは国際法の下でこの行動を取る権利があると説明しました.
グリーノック地裁での勇気ある判事の無罪判決は政治的な騒動を,そして法曹界の騒動を引き起こし,法務総裁はスコットランド最高法院に,このようなケースで今後無罪判決が出ないようにするため,トライデント問題を審理するよう提訴しました.これは私たちに,イギリスの防衛政策を最も高いレベルで「訴追」する予期せぬ機会をもたらしました.最高法院は,国際法は戦時にしか適用されず,またイラクへの爆撃は「戦争」ではないと述べるなど,誤った結論を出しましたが,このお粗末な意見が出たあとも法的論争は続いています.この結論にもかかわらず,法律論争は今や大衆レベルのものとなり,警察や軍関係者でさえ核兵器を「防護」することの合法性に疑問を持ち始めています.
疑いなく法律家は,ニュルンベルグと東京で導き出された人道法のまさしく基礎を否定してスコットランドの司法システムでの正義と悪を議論し続けるでしょうが,私たちは,大量殺戮が犯罪であることを何の困難なく理解する普通の人々の常識と単純な道徳観を通じての法を要求し続けます.私たちは欧州人権裁判所に提訴をしました.そして非武器化活動を続けていきます.
核兵器は常に違法であり,60年代に行われた東京での下田裁判は,ヒロシマとナガサキの原爆投下が米国の戦争犯罪であることを明確に示しました.私たちの主張の核心はきわめて簡単です.核兵器は大量破壊兵器であり,不正をただすとのいかなる正確さでもいかなる口実でも使用することは出来ません.その使用は本質的に,破局的な規模での大量殺戮であり,地上のすべての生命を絶滅させかねない数千の核兵器の使用へのエスカレーションにつながる可能性を持つものです.法は倫理に基礎付けられており,人間全体の道徳性と適合する場合,また適合するかぎりでだけ尊重されます.諸政府,軍人,そして軍隊は法から合法性と権限を与えられており,したがって法は彼らにとって限りなく重要です.軍人を普通の殺人者と区別する唯一のものは,社会の代表としてある種類の殺人を行う法的許可が与えられているということだけです.この合法的な殺人は法によって注意深く統制されていなければなりません.その法の中でも最も重要なのは無差別殺戮を禁止している国際人道法です.
グリーノックとマンチェスターでの無罪釈放は,私たちが犯罪的意図と無縁だったことを明かにし,同時にイギリスの核軍事力の犯罪的意図を明確に指摘しました.平和的で,武器も持たない市民が,これらの兵器は違法であり不道徳で,彼らを守るものではないという首尾一貫した主張をし,また「厳重警備」の基地に,彼らがこのようにオープンなやり方でかくも容易に侵入して軍の装備にダメージを与えられる事を示したのは,イギリス政府にとってひどく困惑すべきことです.
トライデント・プラウシェアズは,権力を取り戻してそれを基本的な人間のモラルを強化することに役立つプロセスに作り替えるということを基本にしています.この運動は普通の人々を力づけて,暴力のマシンを解体して基本的な人権の尊重を築き上げていくことを目指しています.
私たちは,私たちのメッセージが5年古いということを恥じてはいず,むしろ誇りに思っています.これが私たちのメッセージです.殺人は悪です,大量殺人は悪です.大量殺人による脅迫は我々自身の人間性の否定であり,自殺行為です.何か悪いことがあれば私たちはそれを止めなければいけません.非暴力で,オープンに,そして申し開きの出来るやりかたで破壊のためのマシンを除去することは,私たちのだれもが参加できる,愛を実践する実際的な行動です.
私はそれゆえ,トライデント・プラウシェアズを支持しまた参加したたくさんの人々を代表してこの賞を受けることを,光栄に,そして大変嬉しく思います.ありがとうございました.