多分野連携シンポジウム

大学界の真の改革を求めて

──国立大学独立行政法人化反対運動の意味とこれから──

(最終修正 04.6.20)

日時:2003年9月27日(土) 10時〜17時30分
場所:山上会館(東大本郷キャンパス内)

共催:国立大学独法化阻止全国ネットワーク
   国立大学法人法反対首都圏ネットワーク
   意見広告の会
   日本の教育と大学改革を考えるアピールの会

セッション1:主催団体、労働組合を中心にした運動の総括、院内闘争の総括

【司会】 「大学界の真の改革を求めて」のシンポジウムを開始します。午前中の司会を務める北海道大学の辻下と申します。よろしくお願いします。

 最初に、このシンポジウムを企画された豊島さんに、そのいきさつと同時に全体の挨拶をしていただきます。よろしくお願いします。

 開 会 挨 拶

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【豊島】 皆さん、おはようございます。本日はたくさんお集まりいただきましてありがとうございます。きょうは長時間になりますが、最後までよろしくお願いいたします。

 はじめに、このシンポジウムを持とうと思ったいきさつです。最終盤ではありましたが、独法化阻止運動が大変幅広い広がりを見せました.確かに敗北は敗北なんですが、転んでもタダで起きてはいけないわででですし、いろいろな財産が生まれていると思いますので、それを確認して、今後の大学界の発展を考えたいということで呼びかけたところ、いろいろな団体の方に賛同していただき、このような会を持つことができました。どうもありがとうございました。

 このシンポジウムは、いわば国際シンポジウムです。いろいろな方をご紹介しないといけないのですが、今日は外国からの参加者がいらっしゃるということで、特にお二人の先生をご紹介します。韓国教授組合のパク(朴)先生です。(拍手)。同じくソン(宋)先生です。(拍手)。わざわざ遠方からありがとうございました。とは言っても、九州とはあまり変わらない距離ですが。

 あまりにも詰め込みすぎたきらいがあって、お願いした皆さんには短い時間しかお話しいただけないので大変申し訳なく思っています。それでは早速、私の報告ないし意見を、始めさせていただきます。

 豊島耕一(全国ネット/佐賀大学)

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●──1.事態の深刻さ

 レジュメの「国立大学行法化─なぜ敗北したか、どう巻き返すか」は、私の個人名で出しています。国立大学独法化阻止全国ネットワークは2年前の5月に発足したもので、大学関係者に限らず、一般市民も含めたもので、活動をしてきました。きょうは、その代表としてではなく、世話人会で話し合ったわけではなく、私個人の意見ということで発表したいと思います。

 いかに深刻な事態であるかを、まず認識することが重要だろうと思います。法案は通ったけれども満身創痍であるとか、そういうことで成果もあるんでしょうが、大変な後退であることは間違いないので、その深刻さを認識することが重要だと思います。これは戦前にもなかった制度だと国会で追及されたように、戦前への回帰どころではない大変な深刻さだと思います。

 辺見庸氏が「自明性の崩壊」という言葉を使っています。その言葉を借りれば、大学の自治という自明性が崩壊してしまったのです。しかし、残念ながら大学関係者による抵抗が非常に少なかったことを考えると、「大学の自治」が言葉だけのものになっていたのかもしれないと思います。つまり、これから創造していかなければならないものであると考えざるを得ないのかもしれません。

 それから,文部科学省はどういう省庁であるかがこれで明白になったということで、私はあえて「反体制勢力」という言葉を使いたいと思います。現行憲法と教育基本法に真っ向から挑戦する制度を推進したわけですから。もはや何の幻想も持つこともできないことは明らかだと思います。

●──2.独法化反対運動について

 反対運動は活発だったものの阻止できなかったし、マスコミが取り上げるほどにもならなかったということで、その原因をいろいろ考えてみました。

 1番目に、この制度が、教育基本法あるいは憲法に違反するものであるという、重大さの認識が浅かったことがあるのではないかと思います。このことが大々的に言われるようになったのはごく最後の数カ月間です。

 また、大多数の教職員の認識は、「国立であれば、政府の指導を受けるのは当然」で、しかも、「政府は民主的に成立したもの。その政府の言うことを聞くのは当然」という、非常に素朴な民主主義制度の理解によるものでした。これらが大多数の教職員の認識ではなかったかと思います。

 2番目としては、法人化というものに惑わされてしまったということです。「法人化は必要であると思いませんか」と言われると「そうですね」というような論理にはまってしまったということがありますが、これに対する専門家の批判的な言説が少なかったのではないかと考えられます。

 3番目としては、反対運動の中でもいろいろな問題があると思いますが、相互批判が少ない傾向がありました。きょうも全大教からメッセージをもらいました。もらいながら全大教に批判的な事をわたしは言っていますが、全大教がどの程度本気で阻止する気概があったのかが疑問で、そこが問題です。相互に批判して、もし阻止できない、無理だ、条件闘争で行くと認識したのであれば、それを正直に言うべきではなかったかと思います。

 4番目としては、大学関係側の心理的な要因を、レジュメの(ニ)、(ホ)と2つ挙げています。中期的に見ますと、教養部解体が5年ほど前にありましたが、これに対して批判らしい批判は出てきませんでした。科学者団体からも全大教からもなかったということで、スムーズにというか、ほとんど無抵抗で行われたことが今回の下地になったのではないかと考えています。

 5番目としては、最近よく言われことですが、大学の教育機能が十分ではありません。国民からの支持がなかなか得られないとか、あるいは、そういうことを官庁に指摘されるとなかなかそれに反論することができないとか、そういう背景もあったのではないかと思います。

●──運動の成果

 しかしながら、この運動にはそれなりの成果がありました。会期内の成立は阻止され、国会審議で本質的な問題点が明らかになったと思います。大学の自治あるいは教育の問題があまり真剣に考えられなかったと最初に言いましたが、それが国会審議の中で真正面に出てきたわけです。大学関係者の中では単なる言葉だけのお題目のようにみなされていたものが、国会審議の中で復活したのは大変な成果だと思います。それと同時に、いろいろな団体あるいは個人の運動が出てきて、ネットワークがつくられたことも大きな成果ではないかと思います。

●──3.今後の運動

 今後の運動です。差し当たって、まさに今進行している中期目標、中期計画の問題が大学の中ではあるのですが、これに対して、いかにそれを無害なものにする、むしろその中に積極的なものを盛り込んでいくことが重要です。ところが、なかなかそうなってはいません。私の所属している佐賀大学理工学部の教授会に関する限り、無気力感が支配しています。8月ごろの案では、教授会の位置付けが明確に書かれていたのですが、数日前に教授会に出てきた案によると、驚くべきことに、教授会が「下々の意見」になってしまっているのです。つまり、「教授会の民意を汲み取る」とか、そういう表現になってしまっています。驚いてしまったのですが、そういう中期目標の原案を作ることになっています。それをいかにまともなものにと言いますか、これも非常に矛盾したことではありますが、中期目標は結局、文部大臣の命令になるわけだから、それを下書きするということは非常に矛盾した行動といえます。

 もう1つ、私が言いたいのは憲法違反の制度であり、教育基本法違反の制度であるということであれば、法的対抗措置を具体的な局面局面で取ることが必要ではないでしょうか。つまり違憲訴訟とか、そういうことをきちんとやることが大事ではないかと思います。

 大学の教育力の問題についても触れましたけれども、これはわれわれ反対の組織だけに負える問題では決してありません。新しい組織が必要ではないかと思います。大学当局任せでもいけないし、国大協任せでもいけないということで、そういうことが必要ではないかと思います。

●──おわりに

 最後に、教育基本法改悪反対運動が大変重要です。教育基本法で教育の目的に変更が加わるようになってしまう、例えばそこに国家主義的な要素が入れられるとすると、それが大学法人法による強制力によって、大学にまでそれが強制されるという、大変なことになります。ですから教育基本法改悪反対運動との連携が非常に重要ではないかと思います。

 以上、大体10分ぐらい述べました。どうもありがとうございました。

【司会】 意見等は最後に時間があればということで、進めさせていただきたいと思います。

 きょうは国会議員の石井先生と櫻井先生に来ていただいています。まず石井先生に15分ほどお願いしたいと思います。

 林 紀子氏(共産党参議院議員)

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【林】 皆さん、おはようございます。ご紹介のように、きょうは国会から日本共産党の衆議院議員の石井郁子議員が来る予定でした。が、実はご存じのとおり、いつ解散になるかわからない状況になっていて、石井郁子議員は日本共産党の、国会の中での文教部会長で、党全体の副委員長という立場でもあって、全国を駆け回らなければいけない状況です。きょうは、私、参議院の文教科学委員会で理事という役目も果たしていたので、そのことも含めて、参議院の林紀子からご挨拶をさせていただけたらと思います。

●──国会経過報告

 今、お話がありましたように、もう皆さんよくご存じですが、4月3日に衆議院では国立大学法人法は審議入りをしたわけです。文部科学省の勝手な予測によると、5月中旬にはもう国会を通してしまうという一覧表まで出来ていたわけです。しかし、あにはからんや、5月23日になって衆議院を通過して、参議院での闘いがそこから始まるという状況になって、文部科学省の思惑を大いに越えて、7月9日、残念ながらこれは通されてしまいましたけれども、ここで採決ということになりました。

 私たち日本共産党は、この法案が国会に提出される前に、昨年の話ですけれども、2月から9カ月間にわたって、全国17の国立大学を訪問して、学長さんをはじめ、執行部の方々、労働組合のあるところは労働組合の皆さん、有志の教職員の皆さんも含めて懇談を重ねてきました。

 17という数は全国の国立大学から比べたらまだ少数ですが、ずっと全国を回った中で感じたことは、今お話にもありましたが、学長さんをはじめ、執行部の方たちはもう、法人化されてしまうのはやむを得ないことなんだ、既成の事実なんだという雰囲気だったわけです。ただただ忙しさに追いまくられていると、そういう話が主になりました。

 しかし、学長先生の中にも、いや、勇気を持って国大協で発言をしたけれども、なかなか自分の発言がしみ通っていかないというんですか、浮いてしまうような感じで、なかなかその反応もはかばかしくないと、そういうお話も聞いていたわけです。

 私たちは「いや、これは大変だ」という思いを本当にしていたわけです。この法案が上程される前でも、国会の中では意識的に、この国立大学法人化の問題について、衆議院でも参議院でも一般質問で取り上げることになるわけですが、取り上げて頑張ってきました。

 きょう欠席した石井郁子衆議院議員などは既に、昨年の秋の段階でしたが、中期目標を文部省が細かく指示しているということで、それはおかしいのではないかということをいち早く追及しました。この追及が今度の法案の審議に当たって、午後の部で民主党の櫻井議員もおいでいただくということですが、参議院の場ではまだ法案が提出されていない状況の下で、既に準備が進められています。このおかしさがクローズアップされて、国会無視ではないかということで止まる状況になったわけです。文部科学省は昨年秋に、日本共産党の石井議員がこの点を追及したことを、参議院の理事会の中で明らかにしました。石井議員に、既に昨年秋の段階で追及されたにもかかわらず、文部科学省はそれをずっと続けていたのです。私も理事の立場として、もう二重におかしいではないか、ひどいではないかということを迫って、文部科学大臣が公式に謝罪するところまでいきました。

●──総務省の最終チェックについて

 さらに総務省が評価をする。そのことについてはあえてだったと思うのですが、文部科学省は、それまでの経過の説明の中で、ひと言も言っていなかったわけです。昨年春の通常国会で、文部科学省が評価をするだけではなくて、総務省まで最終的にはチェックをする。そういうことは独立行政法人の枠内の改革ではないかということを盛んにわたしは言いましたが、まさに普通の、と言いますか、今まで先行に行われた独立行政法人のその大きな枠内ではないかということも追及しました。

 ところがそのときは、私の手元にはこれしか材料がありませんでした。だから、工藤高等局長などに「いや、そんなことを言われましても、大したことはありません、大丈夫でございます」と、ひと言で片づけられてしまいました。しかし、今度の法案審議の中ではこの問題が大きくクローズアップされました。総務省も呼んで追及をすることになりました。そのときは皆さま方からもいろいろな問題点を指摘しながら材料も寄せていただいたことから、この追及はさらに深まったということがあると思います。このことから、この法律を国会の中で論議するに当たっては、国会の中と、それから国会の外、大学の現場の皆さんたちと、また運動団体の皆さんたちと、きちんと手を携えてやっていくことがひとつの大きな力になるということをまさに実感したところです。

 そして、総務省の最終的なチェックについては、再編、統合問題にまで踏み込んで総務省が言うこともあるという状況が出ていましたけれども、これは質問の中で、再編、統合などは強制しない。中期目標、中期計画にもこういうことは書き込ませることはしないことを、はっきり答弁させたわけです。これは、これからの手がかり、足がかりになるひとつの成果ではないかと思います。

 今、なかなか盛り上がらないという話がありましたが、法律が上程されて、その中身を実際に見たら、やはり大変な法律ではないかということで、全国の大学人の皆さんの怒りが燃え上がったのではないかと思うわけです。それこそ、いろいろなネットワークや会を立ち上げて、皆さま方が、いよいよ国会の中にもその状況を持ち込んでくださり、私たちにも材料を大いに提供してくださいました。

●──労働安全衛生法

 私は参議院の場で、衆議院の論議の続きとして、労働安全衛生法がきちんと守られない状況ではないかと追及しています。労働安全衛生法が守られないと違法の状態で国立大学法人になっていきます。衆議院の場では、このような状況になったら凍結すべきだというところで、もう採決されてしまって、そこでちょん切られてしまいました。わたしは東大工学部も2日前に見せていただきましたが、その状況を見て、労働安全衛生法に沿った形で安全を確保していくのは、時期的にも経済的にも無理ではないかということを、最初の質問で実例を挙げて追及しました。

 この問題は今後の闘いにかかっていると思います。それに対して、306億円の予算をつけて、ちゃんと大丈夫なようにする、違法状態はなくしていくと答弁されたわけですけれども、それが本当に守られるのか、4月から本当にそうなるのかは、まさに現場の皆さま方の闘いにかかっているのではないかと思います。

 このように国会の審議を一段大きく盛り上げた、傍聴人の方々が、私も今まで経験したことがないほど審議の場を埋め尽くしてくださいました。日を追うごとに、どんどんたくさんになっています。国会前で座り込みまでしていただきました。そしてファクスやメールを続々と寄せていただきました。この寄せていただいたものは、今でも私の机の上に、うず高く積んであります。

●──皆さんの活動にある国会を動かす力

 今までも、大きな運動をしながら国会の中と外で論議をしてきた問題はたくさんありますが、このような状況は初めての経験でした。皆さま方のファクスやメールやいろいろな声は、私たち日本共産党という野党に寄せていただいただけではなくて、与野党にも同じように寄せていただいたと思います。傍聴とあいまって、それが与党に対しても大きな影響があったと思います。このような状況になれば、参議院の場では、委員会の運営をむちゃくちゃに、まさに力づくで、「ここで審議はおしまいです」などということはできません。野党の言い分も一応耳を傾けて、納得いく形で進めざるを得ないということで、結局、7月4日まで質疑を続けさせることができました。

 また、中期目標、中期計画は学問の自由を侵す、大学の自治を侵す重大性についても国会の中でもっと突っ込みたかった部分ですが、これについてもきちんと論議をすることができ、「大学が作った中期目標、中期計画は最大限に尊重します。圧力はかけません」と大臣は答弁せざるを得なかったわけです。それを実現させていくのが現場の皆さま方のお力だと思いますし、評価の問題についてもいろいろありますが、透明性は確保するとも答弁しました。

●──学長の専制体制ほか

 学長の専制体制というお話も出ました。しかしこれも「学長の選出は、どのような規定にするかは大学に任されています」。公式的にはこういう答弁をしています。先ほど佐賀大学の教授会の例をお聞きしましたけれども、「教授会については、細かく決めていない。大学で自主的に決めることができる」。これも公式答弁です。しかし、それは力関係によって、その教授会がどういう形にされてしまうかというのはあるわけで、これまた現場の皆さま方の大いなる力の発揮のしどころではないかと思います。

 財政問題の追及は、残念ながら不十分なままで審議が打ち切られてしまいました。非公務員化についても突如出てきたわけですから、大きな論議になって、この法律の組み立てそのものが間違っているのではないかという論議までありました。非公務員化で教特法の適用はされないということで、ここでも学問の自由の保証がされないということに、形としてはなるわけですが、これも今後の闘いの中で、ぜひ一緒に守っていきたいと思います。 国会ではこういう形で法案は通ってしまったわけですが、来年4月に実際に移行するときにどういう問題が発生しているかも含めて、皆さま方の現場の声をまた国会に寄せていただいて、まがりなりにもこういうように、きちんと答弁をしたところがどうなっているのかも含めて、これからもご一緒に手を携えて頑張っていかなくてはいけないと思っています。皆さま方の声を、今まで同様、国会に寄せていただきたいと思っています。

 そして皆さま方の声を、野党である日本共産党に寄せていただいただけではなくて、ほかの野党にもどんどん働きかけていただいたのが、今度の大きな闘いのひとつの力になったというのは、私も理事という立場で、いつも民主党の野党の理事さんと歩調をそろえなくてはいけない、一緒に声を挙げないと、なかなか理事会の中でも与党は譲ってきません。その中で、どうやって一緒に歩調をそろえるかを苦労しながら、しかし皆さま方の働きかけがここで生きているというのを実感しながらやってきました。この働きかけも、今後もぜひお願いしたいと思います。

●──教育基本法改悪は絶対に許さない

 最後に教育基本法の問題です。教育内容には介入してはならない。しかし教育環境は整えていかなければならない。そういう教育基本法十条を国立大学の法人化はまさに踏み破ったのではないかと思います。財政をどんどん削減していく意図をあらわにしながら、しかし中期目標、中期計画に表れているように、文部科学大臣が、そういうものまで決めてしまうというものです。そういう意味では、今度の通常国会はこの基本法が大きな闘いの焦点になると思います。きのう、小泉首相は所信表明をしました。1行ですが、教育基本法の見直しについては、国民的な議論を踏まえ精力的に取り組んでいくと宣言しました。文部科学大臣になった河村健夫氏は、自民党の中でも教育基本法を先頭に立って推し進めようと今までやってきた人です。そういう形では、まさに教育基本法をシフトであると私たちは受け止めています。この教育基本法をなんとしても守り抜いていく。そのことを含めて、今まで闘ったように、ご一緒に闘いを大きく発展させていって、憲法改悪にもつながるこの問題は絶対に許さないという立場で奮闘したいと思います。長くなってしまいましたが、報告と決意を込めて、私の発言を終わらせていただきます。(拍手)

【司会】 どうもありがとうございました。それから、社民党の山内議員の秘書の方が来ていらっしゃいますので、メッセージを読んでいただきたいと思います。よろしくお願いします。

広瀬勝芳氏(山内恵子議員秘書)

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【広瀬】 皆さん、こんにちは。社会民主党の衆議院議員山内惠子の秘書の広瀬と申します。今、林先生がおっしゃったように、山内は衆議院で選挙を控えています。実は私も選挙現場に入らなければいけない予定だったものですから、豊島先生に連絡して、どうも失礼せざるを得ないということで辞退したのですが、このシンポジウは大変大事なものだということは、山内も十分認識していて、急きょメッセージを書いてお送りしておいたのですが、きょう、たまたま参加してほしいということで、地元入りをキャンセルして伺った次第です。山内は失礼しますが、先にシンポジウムに対してメッセージをお送りさせていただいていますので、それを代読させていただいて、発言に代えさせていただきたいと思います。

◆ 山内惠子氏(社民党衆議院議員)メッセージ

 多分野連携シンポジウム「大学界の真の改革を求めて」の開催に心から共感し、ご挨拶を申し上げます。

 ご承知のように、先の第156国会で、国立大学法人化法案は3与党の賛成多数で可決、成立しました。ここでも数の力がものをいいました。同法案の審査に際しましては、豊島耕一先生をはじめ、きょうここにお集まりの多くの方々からご助言、ご助力いただきました。ありがとうございました。

 私は、次に述べるような観点から、同法案に反対しました。

 第一 法案は、どなたかが言われたように「文部科学省による文部科学省のための法案」です。

 法案の趣旨のとおり「わが国の高等教育及び学術水準の向上と均衡ある発展」を図ろうとしようとすれば、大学の教職員、学生はもとより、保護者や地域社会の方々の声にも耳を傾け、21世紀の学術研究のあり方についてもっと広く議論を深めるべきです。ところが、そういう議論はほとんど欠落しているため、従って日本の将来の大学像、学術研究の姿が明確に示されず,文部科学省の支配力強化だけが目立っています。

 第二 法案審査の中で、山岸参考人は「最大の問題は大学の中期目標を大臣が定めることだ」と指摘されました。文科大臣が任命する学長の権限を強化し、大学評価委員会で一元的に大学を評価する。そこには、各大学が文部科学省の顔色を伺いながら、少ない予算を奪い合うという構図が透けて見えてきます。これでは独創的な研究を自由に競い合うという大学像は生まれるはずがありません。

 また、大学評価委員会の設置は、もともと文部科学省から独立していた公立大学や私立大学にも少なからず悪影響を与えずにおかないことも指摘しました。

 第三 学問の自由と大学の自治は、本来、多様な価値観の存在を前提に考えられています。さまざまな研究の存在と自由な討論と競争がより良い人類の未来を切り開くという考え方に基づいています。ですから、大学のあるべき姿として「富士山型でなく八ヶ岳型がいい」といわれる所以です。

 各大学の学長が文部科学省のモノサシに合わせてうまく運営すれば、評価されるし予算も配分されるというのでは、学問の自由が保障されたことにはなりませんし、さまざまな独創が競い合うという大学が生まれるとはとうてい考えられません。むしろそういう道を閉ざすことになります。

 第四 2004年4月の大学の法人への移行は、移行のためにかかる費用や移行後の経費が示されていません。法人化はしたものの、財政支出はかえって増えた、研究費が削減された、というのでは何のための改革か、となりかねません。

 私は、今回の法案の成立は余りにも拙速に過ぎると思います。最初に言いましたように、大学教育や学術研究のあり方は、多額の税支出を伴っている以上、当事者のみならず広く国民のあいだで議論を深める必要を感じています。ですから、今回の法案は早晩かならず行き詰まると思っています。

 今日のシンポジウムを通して、今後の日本の高等教育のあり方や大学の未来像が展望されることを期待して止みません。

衆議院議員 山内惠子

【広瀬】 どうもありがとうございました。(拍手)

 国会の審議を見ていて、先ほどの林先生や豊島先生のご報告にも重なりますが、大学法人化法案に限らず、国会の審議、議論と大学当事者の間に、ある種の意識の壁、認識の溝のようなものがあると感じます。この問題に限らず、国会議員と国民との間にも意識のずれがあると感じます。

 少し立ち入ったことを申しますと、大学の先生方と大学の当事者の方々と社会との間にあるこの問題に対する意識のずれ、ギャップみたいなものは、もう少し意識して、問題点を整理しながら、全体の運動をしっかりと考えていかないと、当事者だけではなかなか難しいと思います。先ほど言いましたように、国会では数の力で決まることが多いので、先が見えています。言葉は悪いのですが、文科省が議員にちょっとタカをくくったような答弁をするときがあり、われわれ少数野党は非常に悔しい思いをすることがあります。その壁をどう乗り越えていくかが大事な問題ではないかと考えています。

 それと、林先生のご指摘にありましたように、社民党も教育基本法をテーブルに乗せるなと言っているわけですが,この国立大法人化法にとどまらず、憲法調査会とも連動していることは見え見えです.教基法が改正されれば,学問の自由どころでなくなると思います.ですから,思想・信条の自由、国民主権など,憲法にかかわる問題も教基法も国立大法人化法も連動した問題で、いわば前哨戦みたいなものと私は位置付けています。そういう意味で、今日のシンポジウムのテーマである今後の大学像を求める活動も皆さんと力を合わせて、今後も議論を深めたり、戦いを一緒にしたりできたらと思っていますので、どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。(拍手)

【司会】 どうもありがとうございました。全大教からも実はメッセージが来ています。長文なので、後ほど皆さんにお配りすると思いますが、取りあえず5部ありますので、回し読みという形でお願いします。

◆ 労働組合などを中心にした運動の総括、院内闘争の総括 ◆

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【司会】 続きまして、大学側のいろいろな取り組み、特に午前中は労働組合を中心にした運動の総括、院内闘争の総括ということになっていますので、そういう取り組みを各団体に話していただきます。

 それでは、一番最初から取り組まれていた首都圏ネット、最近は新首都圏ネットに改組しましたが、15分ほどお願いしたいと思います。

◆ 小沢 氏(新首都圏ネット)

【小沢】  (校正未了)

【司会】 どうもありがとうございました。次に、アピールの会のお話をお願いします。池内先生は、独立行政法人化問題に、初期からずっと取りくんでこられていますが、今年の初頭に新たなアピールをまとめ署名運動を展開されています。

◆ 池内 氏(アピールの会)

【池内】  (校正未了)

【司会】 次は「意見広告の会」にお願いします。意見広告という目に見える目標によって独法化反対の動きが国立大学社会の中で盛り上がりました。よろしくお願いします。

野村剛氏(意見広告の会)

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【野村】 「意見広告の会」の野村です。資料を2枚用意しています。このまま回して いただくようお願いします。ご迷惑をおかけします。

 「意見広告の会」は本年4月の始まりに出発して、ごく短期間の活動でしたが、国会 とは別の現場にいたという感じがするので、分析それから今後の方向性についてお話をし ます。

 ご存じの方も多いと思いますが、この会がどういう活動をしてきたかを話します。新 聞を用意しています。数が多いもの、少ないものもあるので、すぐにお配りするわけには いかないということで、十分承知の方もいらっしゃるでしょうから、あとであちらのほう に置いておきますので、欲しい、見たいと思われる方は、どうぞ部数のある限り持ってい ってくださればと思います。

●──『朝日新聞』(4月23、24日)への掲載

 「意見広告の会」が最初にやった活動は、4月23、24日の『朝日新聞』の意見広告で す。意見広告と言いながら意見はあまり載っていません。人の名前だけがずらっと載っ ているものです。その前に、イラク反戦の意見広告が出て、人の名前がずらっと載ってい たことがありました。そういう形でないと、意見広告はお金がかかるためです。お金が集 まりきらないので、自分の名前で、例えばイラクの場合だと、反戦の意思を示したいとい うことです。この場合だと、国立大学法人法案廃案の自分の意見を載せる形で示したいと いうことで、意見広告を載せようではないかということで、初めこういう形で広告を示し ました。

 その理由の1つには、1回こういう形で意見広告が載れば、あとはマスコミ、大学の 現場などで、自動的に事柄が展開するだろうという少し甘い見通しがあったからです。

 これを2回やりました。2回目は、1回目の全くの続きです。1回、2回と、なんと かゴールデンウイークまでに私たちの活動は終わりになって、あとはうまく話が進んで くれるだろうという見通しでした。しかし全然内容がわからないではないかというご批判もいただいた ので、2回目は、なぜ反対するかという論拠を3つほど挙げてその理由を示しましたが、 基本のやり方は同じです。

●──マスコミ動かず、『読売新聞』(6月10日)有料広告

 ところが、国会の議論が長引くとともに、より強力な形で国民各層に私たちの意見を 訴える必要があるのではないかという意見が高まるとともに、期待していたマスコミが、 意見広告を出したにもかかわらず、その後全く動きませんでした。賛成か反対かという論 議が起これば、まだ議論の余地があるのですが、記事として何も示してくれない状況にな って、これではいけないということで、新聞の紙面を借り切って、「有料報道だ」という 話があって、ついに全面で派手な広告を出しました。6月10日の『読売新聞』がそうで すが、お金が非常にかかるので、名古屋から以東だけで、近畿、中国、 四国、九州の方々にはこれを実際に手に取っていただくことができませんでした。ある 意味で従来の(意見広告の)形のようなところもあるわけですが、それぞれの人の名前を 出すのではなくて、(著名人の「法案」)反対意見も会としての意見も載せてという形 での広告でした。

●──ようやく動き出したマスコミ

 それでもだめだったので今度は、『毎日新聞』に同一のタイトルで、しかし中身はよ り強烈な意見が出るようなに載せていきました。これにかかった経費については最終的 に会計を用意しています。4回の広告、それ以外にも全く同じ内容で、『日刊現代』に も出しました。

 ようやく、週刊誌レベルのマスコミが反応するようになりました。『週刊新潮』に櫻 井よしこさんが書いていたのですが、私たちの会の意見を採り入れてくれました。 『サンデー毎日』は大学問題、特に受験関係に熱心ですが、「総力特集 大学生き残り 競争の加熱」というタイトルですが、官僚支配がいかに強化されるかという記事を出して くれました。実際には日付よりももっと前に発売されるとはいえ、7月20日号でしたから 、法案成立の2、3日前という直前に発売されました。東京中日系『東京新聞』にも大 きな批判記事が6月段階で載りました。1面全部を使った大きな記事でした。

●──経費

 このようにしてマスコミに取り上げられる状況を作り出した費用ですが、最終的な赤 字が100万円ぐらい出ています。その後さらに振込等をいただき、最終的にはすべて支払 等は済ませることができました。残念なのは、これを行なうために高額醵金者を募って50 万円ずつ出してもらったのですが、それを全額返せると、すべて大衆的な運動によって 経費が賄われたということになるわけですが、ある程度返還はできましたが、多少まだ高額醵金者の負担が残っているということです。

 こういうことをやっていると、いくらお金があって、いくら支払いができるかという ことばかりを考える毎日で、中小企業の社長さんの立場がよくわかるような気がしました 。今とても自殺者が多いですが、一家、従業員の生活を預かる身ともなれば、首もくくり たくなる気持ちがよくわかりました。幸い多くの方々の協力で、赤字は解消できるとい ったところです。

 教訓としては、無駄な経費がここまでに多かったということがあります。ここで広告 をもう1〜2回打てればだいぶ状況が変わっただろうという局面があります。5月から 6月にかけて、私たちの準備も足りなかったというか、主体的にできなかったこともあ りますが、例えば『読売新聞』の場合が一番効果的な広告だったわけですが、東日本、 名古屋以東でしか広告を出すことができなかったので、あと200〜300万円あればと、そ の時はいつも考えていました。

●──意見広告のノウハウ

 今後を考えると、例えば教育基本法の問題があります。イラクの反戦運動は盛り上げ ましたが、アフターケアはありません。遠くの戦争に反対するのは簡単でした。しかし 、自衛隊が出ていって、アメリカからどれだけお金が要求されるかで初めて、イラクの 反戦運動の真価が問われるのではないかと感じます。が、そういうときに、無駄な金を これまで随分使ってきたのではないかということです。

 例えば、私が夏に関西に行ったときに、ラジオでスポット広告が流れていました。 テレビのスポット広告は、全国へ15秒のスポットを1日10回流すと1,000万円かかりま す。ラジオの地方版ではそこまでないと思いますが、ラジオの朝日放送で教育基本法改悪反対というスポットを流していました。それは大阪の教職員組合が広告主でした。しか し私の印象では、いろいろな歌謡曲番組などが流れるとき、「教育基本法」でスポット が10秒か15秒入ると、内容が浮くのです。「わっ、なんだろう?」という感じがして、 ここでお金を使うべきではないのではないかという印象を、お金があり余っているなら 使えばいいと思いますが、この意見広告に関しましては、ここでこういうお金の使い方 をしなければ良いのではないかということがありました。

 意見広告のノウハウについては、私もだいぶ熟知するようになってきたので、何か事 があれば、どうぞ私にご連絡くだされば、できるだけ実務的なお手伝いをしたいと思いま す。何かの局面で何をなすべきかということがあるので、その辺は十分にお考えになって、 私たちも微力ですけれども、有効に運動を展開していきたいと思います。自腹を切ってお 金を出して運動はするべきだと私は思います。その意味で、この経験をしたことはよか ったと思います。例えばだれかがやってくれるとか、組合任せではなくて、自腹を切っ て行なうことが一番いいことではないかと思います。その意味で今後のことを考えます と、やはりこれだけのことをやって、先ほどイラク反戦のことで言ったアフターケアも 何もなしでというのは問題だと思います。そういうことで、国立大学法人に関する一種 のモニター活動をして、必要であれば、またここぞというときに意見広告をしていきた いと考えます。

●──マスコミに関する考察

 もう1つはマスコミの対応についてです。今お配りしたのは地方新聞の1例、『河北 新報』です。記事の詳細は言いませんが、なぜこのような状況になったのかについて、1 つは全体的にジャーナリストの力量の低下があるかもしれませんが、もう1つは、今後の 課題としてまだわからないところもあるのですが、マスコミが一種体制化しているという か、極端に言えば、大学法人の理事等々に、あるいは経営協議会の委員等々に、これか らマスコミ関係者が就いていく可能性が非常に高いためと思われます。

 その意味で、彼らが官僚と同様に、ここは天下りしていくということもあるかと思い ます。もう1つは、そういう意味で、経営界、官僚、マスコミ関係者等々の権力が、も ともと権力の下にあった人たちですが、いわば狩りのフィールドとして、大学に自分たち の領域の拡大を考えているのではないかと思いました。今後はそのほうのモニター活動 を続けていきたいと思います。

●──終わりに

 たまたま、つい2、3週間前に、コンピューターに資料全部を入れていた私のハード ディスクが壊れて、いろいろな資料が全く見られない状態になってしまったため、大した 内容を述べられませんでした。日本コンピューター産業の技術的・文化的基盤は大変脆弱 でアメリカに空輸しなければ、ハードディスクのデータの復旧はできないということが わかりました。

 非常に大ざっぱな意見で、本当はジャーナリズムの分析をきちんと行えばよかったの ですが、誠に不十分な意見で申し訳ありません。 会としては、これからもモニター活動、必要に応じて意見広告をさらにしていく準備を していますので、今後ともまたよろしくお願いします。(拍手)

【司会】 どうもありがとうございました。それからあと、組合関係者ということで、千葉大の組合のほうから、報告をお願いします。

◆ 安田浩氏(千葉大学・独法化問題情報センター)

【安田】  (校正未了)

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(中略)

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【司会】 以上が、あらかじめお願いしていました発言です。それでは少し時間がありますので、ご発言やご意見などがありましたらお願いします。

辻下徹氏(北海道大学、国公私立大学通信)

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【司会 辻下】 少しだけ意見を述べさせていただきます。国会審議の3カ月間の取り組みをいろいろな伺って、そのときの記憶を新たにした気持ちです。

 この4年間、独立行政法人化問題に関心を持ってきた者からみていまなお理解できないのは、12万人の国立大学社会の中で、発言できるはずの教員6万人の中で反対の意思を公的に表明したのは約3,000人で5%、賛成した人はたった約100 人で1%未満だということです。問題は、95%の方が公的には全く沈黙したままだった点です。これをどう考えたらいいのか、いまだに私自身は理解に苦しみます。

 北大の歯学部に、初期に独立行政法人化問題と非常に真剣に取り組んだ助手の方がいました。昨年北大を辞職し、国立大学にいる意義がなくなったと言って「一足先に民営化します」と言って歯科医とを開業された方がいます。その方が独立行政法人化問題と取り組まれているとき「周りの人は何を考えているのだろうか知りたい」とよく言っていましたが、私もいまも共感します。独立行政法人化は困ったことだと雑談で言う人は多いですが、本当にそう思っているのだろうか、実は、法人化を歓迎している人たちもいるのではないか。法人化を歓迎するというのは何か勘違いしているのではないか、あるいは、違う価値観を持っているのか、沈黙からは判断できないところがあります。国立大学教員95%の沈黙をどう了解すればよいのか難しいのですが、見方によっては、そういう人たちは政治的には存在しないとも考えることができますから、3,000人もの人が意見を公的に表明したことは結構大きな事件であったのではないかとも考えています。

 先ほど「意見広告の会」の方が言われたように、これをどのように継続していくかが重要だと思います。この3000人の声が法人化後に次第に小くなっていくのか、あるいは、法人化による問題が多発することを契機に、沈黙していた95%の中から,考えを表明する人たちが出てくるのか。後者のような流れを作るきっかけをどのよう作るか、この会で、きょうの午後も含めてですが、考えていく必要があります。そういう流れを作る機会を用意する場という意味で、豊島さんがこういう重要な会の開催を提案されたことの意義は大きいと思います。こういうものが何もなければ、既に3000人の声は急速に失われてしまっていた可能性があると思います。 

 ところで、昨日の数学会で、学術振興会の方が来て科研費について話しをされました。学術振興会は10月から独法化されますが、同じく独立行政法人化される理化学研究所と学術振興会とは、学術的活動が主務であるからということで、中期目標に数値目標を記載することについて最初随分抵抗したらしいのですが、報道されたように、かえって新しい独立行政法人の中で一番たたかれました。国立大学が準備している中期目標・中期計画の素案に数値目標を書いているところはほとんどないと思いますが、多分それは通用しないんだと思います。そういう意味で、法人化を推進している人たちは非常に誤解をしているのではないかと思いました。

 それから、運営費交付金がどうなるかというのは全くわからない、ということも強調されていました。今までですと、国立学校特別会計に一般会計から1兆6000 億ぐらいが振り込まれていたわけですが、それが補助金という形で一般会計になったとき、どの程度の額となるか予想がつかない状況のようです。先ほども財務のお話がありましたけども、法人化が高等教育予算の大幅なカットにつながる危険性が残っています。

 あと、政府がだましたと思われる例としては、国立大学法人法が通った直後に、国立大学法人の評価機関が3つ増えています。総務省の独立行政法人評価委員会が、国会での答弁をひるがえして、直接国立大学の廃止を勧告することがあると、いうようなことを言っています。これは7月10日に報道されたものですから、その前から言っていたのかもしれません。それから、総合会議技術会議が、直接国立大学法人を評価する方針を明かにしています。その場合には、任期制を導入しているかどうか、というような観点で評価すると言っています。また、内閣府自身も、中期目標期間終了時に、独立行政法人の改廃等についての判断に関与する方針を閣議決定しています。それから経済産業省は、三菱総研に大学評価を委託しています。また、この前、自民党の行革推進本部の太田誠一氏が、独立行政法人教員研修センターの廃止を勧告する、と言ってましたが、自民党の中でも独立行政法人を評価するつもりのようです。国立大学法人法は実質的内容が何もない委任立法であるために、勢力あるところはすべて発言権を持つと状況になってきた、という気がします。

 そういう意味で、大学の意思を表明するルートとして、文部科学省の一部となっている国大協ではなく、新たな大学の連携様式が出てくることが必要であるという気がします。この4年間で一番感じたのは、『ファーブル昆虫記』の狩人蜂の話との相似性です。スズメガの幼虫は神経系を破壊されて生きたまま蚕食されるという話をよくご存じかと思うんですけど、国立大学はまさに中枢神経系を外から制御されている状況にあると感じます。こういった中枢神経系による支配とは異質の統合原理を国立大学はボトムアップに形成していくことが不可欠となっているように感じています。

 司会がしゃべっているのはちょっと問題がありますね。ぜひほかにご意見をどうぞ。藤村さん、どうですか。

【豊島】 午後のセッションが大変混んでいます。今いいチャンスだと思いますので、ぜひ発言をお願いしたいと思います。学生の方も見えているようです。

岡山茂 氏(アレゼール日本)

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【岡山】 アレゼール日本(高等教育と研究の現在を考える会)の事務局長しております岡山です。私たちは今年4月に『大学界改造要綱』という本を藤原書店 から出版しました。その準備に明け暮れていて国立大学法人化法案への反対運動には積極的には関わってこれなかったのですが、6月30日には遅ればせながら 反対声明を発表しました。

●──フランスの大学改革

 私たちは、非常勤講師や学生も含めて大学界を一つにするということを重要な目的にしていて、専任教員の権利とかに関しても、それを問い返すという立場から 話を進めてきたところがあります。学問の自由を主張するというときに、大学内部の不平等を無視するわけにはいかないという思いがあって、反対運動にも気後 れしたところが確かにありました。ただし文部科学省の問題の立て方や改革の方針は私たちの考えとまったく矛盾していて、こういうものが通ってしまってはた いへんだということは認識していたので、私たちも反対声明を出したわけです。

 私たちはフランスの「アレゼール」という組織を参照しながら大学問題について考えています。例えばフランスだと19世紀末にすでに大学は法人として認め られていますし、中期目標は1988年に導入されて、それ以来少しずつ定着してきているという状況です。日本は法人化と中期目標を一緒にやるという乱暴な ことをやったわけですけれども、フランスの場合はそういう土壌があるので、90年代に水面下でネオリベラルな変化が浸透しました。フォルー・レポート、ロ ラン・レポート、アタリ・レポートなど、政府の諮問によるレポートが90年代後半に出ますが、そのたびごとに大きな反対運動が起きて国は改革案を撤回しま した。こうして反対運動に対する目配せをきちんとやったわけです。それがむしろガス抜きになって水面下でのネオリベラルな変化がすみやかに進行したという ところがあります。リュック・フェリー教育相になってからも、やり方が強硬というか、水面下にあった問題を表に出してきたこともあって、今年5月に提出さ れた法案にはげしい反対運動が起きました。日本では7月に政府が会期延長までして法案を通しましたけれども、フランスではこの秋に先送りしており、これか らの展開が注目されています。フランスと比べて日本の文部省は強引だし、われわれも90年代から運動を組織できなかったということもありますが、フランス を通して日本の問題も見えてくることもあるかと思います。そういった点からわれわれなりに分析し、提言していきたいと思っていますので、どうかよろしくお 願いします。(拍手)

【豊島】フランスの場合、中期目標があるということですが、それは日本の場合と同じように、文部科学省が大学に与えるというような制度なんでしょうか。

●──対等契約

【岡山】 国民教育大臣が目標を設定するとか、そういったことはありません。四年後の評価が次期の契約に影響するということはありますが、契約は契約で あって対等だと思います。日本の国立大学法人化は、イギリスからエージェンシーというアイデアを持ってきて、それとフランスの中期目標、コントラクチュア リザシオンといいますが、それを一挙にごっちゃ混ぜにしてやっていくといった感じの作り方だとぼくは思っています。昔、東京大学をつくるときに、ドイツの モデルとフランスのモデルをごっちゃ混ぜにして、大学だかグランド・ゼコールだかわからないものができてしまったのと同じ経過がいまだに続いている、そう いう状況だと考えています。

小野政美氏(小学校教員)

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●−『教育基本法改悪反対!12.23全国集会実行委員会』と愛知での活動報告

【小野】名古屋から来ました小野と申します。小学校の教員で、日教組に所属しています。『憲法と教育基本法の理念を実現する愛知の会』事務局次長で、教育基本法「改正」市民連絡会など全国的ネットワークで活動しています。この夏8月8・9日に、名古屋で、高橋哲哉さん(東大)、小森陽一さん(東大)、三宅晶子さん(千葉大)、大内裕和さん(松山大)の4人と、市民連絡会、「京都の市民会議」、「福岡の会」、「愛知の会」の4団体が呼びかけて、『教育基本法改悪反対!全国合宿IN名古屋』を開きました。教育基本法改悪反対の一点での共同のためです。日教組関係者、全教、独立教組などと、全国の市民運動関係者、小森、三宅、大内さんら約100名が参加しました。そこで、さまざまな形で進められている地域的・全国的運動を、教育基本法改悪反対の一点で一致できる個人・団体が「大きな川の流れのような」の共同の運動にするために、ネットワークを広げること、年内に全国集会を開くこと、衆議院選挙立候補者全国アンケートに取り組むことなどを決めました。

イラク反戦運動は全国で大きく盛り上がりましたが、厳しいことを言えば、日本の有事法反対運動、教育基本法改悪反対運動、国立大学法人法反対運動には、大きくは繋がりませんでした。国立大学法人法反対運動もまた、教育基本法改悪反対運動との連繋が出来ませんでした。私は、率直に言って、運動を担ってきた大学人の中でも、連繋の意識が非常に弱かったという認識を持っています。9月はじめ、12.23全国集会を日比谷公会堂で開くことを決め、10月4日には、教育基本法改悪反対の一点で結集する広範なネットワークである『教育基本法改悪反対!12.23全国集会実行委員会』を立ち上げます。準備会には、東京外大の岩崎さんも参加し、「大学法人法」闘争について発言してもらいました。

教育現場では、実はもう既に教育基本法改悪が前倒しで先行しています。去年4月から新学習指導要領が実施され、国定修身教科書とも言うべき『心のノート』が、小中学生全員に配布され、文部科学省による活用調査もされています。愛国心評価通知表も全国で使用され始めました。主幹制導入、校長中心のトップダウン学校経営、人事考課制度、不適格教員制度、5段階人事評価、5段階研修制度、「日の丸・君が代」強制、奉仕活動義務化、不服従教員処分、ジェンダーフリー教育攻撃など、全面的な教育内容介入・教員攻撃が、石原都知事・横山教育長の東京都を先頭に行われています。

本日午後のセッションで、教育基本法改悪との関連で議論されると聞いていますが、私は、午後、「つくる会」教科書問題を機に韓国・中国・日本の関係者でつくられた『歴史教育アジアネットワーク』の第2回総会があり、そこで報告することになっていますので、今発言させていただいた訳です。先ほど、豊島さんも教育基本法改悪問題との連繋と言いますか、その問題をきちんと捉えなければいけないと言われたわけですが、私の住む愛知県の学校現場では、「先進的」に、私も所属する県教員組合(日教組)が県教委の下請機関・官僚装置になっていたり、教員が学校でものが言えない状況が作られたりしています。「日の丸・君が代」強制も全国一早く100%を達成しています。ここ数年前から、残念ながら「経たず歌わず」は、私一人になり、マスコミからはいつ処分されるんですかなんて言われたりしています。

そういう状況が進行する中で、先ほど述べた人事考課制度、指導力不足教員制度、研修制度など、教育基本法改悪の前倒し実施が先行し、その総まとめとして、教育基本法の改悪が出てきています。

もうひとつの問題は、国立大学が法人化されていく中で、教育基本法10条の問題として、議論はされているとは思うんですが、運動としてはあまり繋がって来なかったと言えると思います。そういう訳で、12月23日に、いわば運動のひとつの結節点として、日比谷公会堂で全国集会を行います。呼び掛け人は、この間、教育基本法改悪問題で講演等で全国各地を組織して廻っている若い世代の高橋哲哉(東大)、小森陽一(東大),三宅晶子(千葉大),大内裕和(松山大)の4人の研究者になってもらっています。

私も、1948年生まれの古い運動世代の人間で、運動の停滞の責任を感じているんですが、小学校現場での実践と市民運動を繋ぎながら愛知を中心に活動しています。愛知では、9月24日に、『憲法と教育基本法の理念を実現する愛知の会』主催で、各大学の共同の取り組みがあまり行われていないこともあり、愛知の3国立大学、名古屋大学・愛知教育大学・名古屋工業大学の職員・職員組合の委員長などに呼びかけて、シンポジウム『国立大学法人法成立と教育基本法改悪問題』を行いました。約50名が参加し、総括的報告を名大の植田健男さん、3大学からは各現場報告をしてもらいました。特に、名古屋工業大学は、「国立大学法人法」の「先進大学」として、そのトップダウンの大学管理運営の実態が明らかにされました。そこでも、教育基本法改悪問題と国立大学法人化問題との繋がりの認識が非常に甘かったということが、植田さんはじめ参加者から出されました。本日午後行われるセッションで、ぜひそのあたりのことを議論していただきたいと思います。10月4日、渋谷の勤労福祉会館で、「教育基本法改悪反対!12.23全国集会実行委員会」の立ち上げ会議を開きます。日教組と全教など、これまでの歴史的経緯からそう簡単にはリンクできませんが、教育基本法改悪反対の1点で共同するネットワークにしたいと考えています。ぜひ、ここに来ておられる方々にも参加して頂いて、共同して、教育基本法改悪反対闘争を進めていきたいと思っています。国立大学法人法反対闘争の成果を生かしつつ、そこで出てきた問題と、教育基本法改悪反対闘争での共通する問題を繋げていくことで、教育基本法改悪を阻止する闘いが、国立大学法人化をいわば無化していく闘いに繋がっていくと思います。どうかよろしくお願いいたします。ありがとうございました。(拍手)

【司会】 どうもありがとうございます。では、もう時間なんですが、ほかに。

東大学生

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●──東大学生の活動

【学生】 こんにちは。学生です。東大の教養学部で「国立大学独立行政法人化に反対するぞうの会」という会で、この間、法案の制定に反対して、ここにいる関係者の皆さんとも連帯して、集会やデモや国会での抗議行動などをぼくらも頑張ってやってきました。学内で「法人法制定反対」をうったえる看板を出したり、ビラをまいたりとかして学生に訴えてきました。法案が制定されてしまったことは非常に悔しいですが、現に法案が制定された今、どんどん危機が深刻化していると思います。

 法律が通っただけではなくて、具体的に大学そのものにいろいろな動きが起こっていると学生の立場から感じています。この七月には、本郷で韓国朝鮮文化研究専攻が防衛庁の研究官を招いて、日本の軍事情勢についての講演が行われようとしていました。今年の春は、イラク戦争の問題とか有事法制の問題とかもありましたけれども、北朝鮮に対する危機感を煽って日本が軍備強化する動きが進んでいる中で、大学が大学の当局として、防衛庁の研究官を呼んで講演をするというのは問題ではないかと考え、僕等は、抗議の声をビラとしてまいたところ、それを中止にできて、非常によかったと思っています。こういうふうに、大学の学生や院生に対する教育の内容などもすごく変わっていくだろう、いろいろ(国家・資本の観点から)選別的なものに変わっていくだろうという危機感を強くしました。

 今回制定された国立大学法人法が、憲法や教育基本法に違反しているというご指摘にぼくは共感します。しかし今の日本の情勢を見ていると、それは違反しているというどころか、先ほどもお話があったように、教育基本法や憲法そのものをまるごと変える方向で行っていることが、非常にピンチというか、危機なのではないかと思っています。法人化の流れもそういうのと一体だというか、そういうことをぼくらもはっきりさせていかないといけないと思っています。

 学生の中に反対の声を、ぼくらもつくり切れなかったと思っています。法人化というと、いろいろごちゃごちゃとややこしい話が多くなって、わかりにくいところが、正直に言うと学生の中にもあったと思います。どういう問題なのかをもっと明確にして、教育基本法、憲法改悪の問題と統一して訴えていくことが大切だと思います。今回の第2次改造内閣なども、ものすごい改憲派の人たちばかりが並んでいる顔ぶれになって、本当に大変な状況だと思います。そういう下で、大学の中での具体的な動きとしても、学生にとっては会費の値上げや、学生自身の自治活動破壊はすごく切実な攻撃がかけられてくると思います。そういう動きに対しても、ぼくら学生も教職員の皆さんと連帯して、頑張って運動していきたいと思っています。よろしくお願いします。(拍手)

【司会】 それでは最後に豊島さんによろしくお願いします。

【豊島】 皆さん、ご熱心な討論、どうもありがとうございました。午後もよろしくお願いします。

 昼休みを利用して、全国ネットワークの総会を開きたいと思っています。そうは言っても全くオープンな組織で、入会金を払ったかどうかはチェックしませんし、またあらためてここで入っていただきたいと思います。ここでは解散するかどうかという重大なことを議論しますので、新しい組織に衣替えするかとか、それについて話し合いたいと思いますので、ぜひ多数参加いただきたいと思います。そのために昼休みの時間を長く取っています。全国ネットの総会をこの場で50分から始めますので、できるだけたくさんの方のご参加をいただきますようお願いします。それではどうもありがとうございました。

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