スピーチ原稿をもとに文章化しました.時間の関係で当日省略した部分もあります.また言い回しを少し変えたところもあります.豊島耕一 |
佐賀大学で物理学を教えている豊島と申します.独法化阻止全国ネットの事務局長をしております.この会見のために尽力して下さった韓国側の皆さん,そして出席していただいた報道関係の皆さんに心から感謝を申し上げます.
全国ネットの紹介を兼ねながら,配付資料の紹介を致します.資料の一枚目は呼びかけ文と規約,その裏は賛同人,呼びかけ人の名簿です.私たちのメンバーの多くは国立大学の教員ですが,ジャーナリスト,元大学教員,国立大学以外の教授,それに一般市民なども多く含まれます.
次のページにこれまでの主な活動をまとめています.いくつかピックアップしますと,参院選の候補者へのアンケート,2度にわたる国会内集会(何れも数名の国会議員が出席),同じく2度の文部科学省交渉,そして一年ちょっと前のここソウルでの韓国教授組合との話し合い,文部科学省を囲む人間の鎖,ユネスコ事務局長への手紙,などがあります.
その次のページは呼びかけ文の長文バージョンの英語版です.さらに次は,国内の外国人特派員協会での記者会見を想定して作った,法案の問題点をまとめたものです.(最後の「週間金曜日」の文章は省略)
さて,わが国でつい先日,残念なことに「有事法」が成立してしまいました.皆様の関心の中心はこの問題にあるだろうと想像しています.しかし,私がこれから申し上げる大学の問題もまた,長期的に,戦争と平和の問題を大きく左右するものであり,是非とも皆様に注意を向けていただきたい,それに値する問題であることを,まず申し上げます.
「有事法」が国会を通った今,これに対してはそれを発動させない,廃止していくという持続的な努力を要する課題に変わったのですが,一方この大学の「独立行政法人化」は,この数日間で国会を通るかどうかという,極めて切迫した状況にあるのです.本日もまさに参院の委員会審議が行われています.次回は明後日で,そこで強行採決されるのではないかと心配しています.
なぜ大学問題が戦争と平和の問題なのでしょうか? それは,「独法化」が,大学における学問の自由の抑圧そのものであり,歴史が教えるところでは,そのような抑圧の後に来るものは悲惨な事態だということだからです.
日本で「学問の自由」と「大学の自治」について語られるとき,必ず話題になるのは,滝川事件(1933)や天皇機関説事件(1935)です.前者は,京都帝国大学法学部の滝川教授の学説が「左翼思想」であるとして大学をクビにされた事件,後者は東京帝国大学教授だった美濃部達吉博士の学説が「不敬罪」であるとして弾圧された事件です.そのあとに,あるはそれと平行して起こったことは,大変な侵略戦争でした.
「学問の自由」が,人々が自由にものを考えるということに基礎にあり,これが破壊されればすべての自由が危ないのです.その自由の破壊の上にしか,凶暴な戦争という行為は成り立たなかったのではないでしょうか.
しかし戦前でもある程度大学の自治は存在していました.そして上の事件は,これに対する政府の,いわば「ピンポイント攻撃」でした.ところが今回の独法化は,国立大学の自由と自治への前面攻撃です.
何故か,それを示すのに,この法案の最も重大な条文,30条を見てみましょう.英文資料の冒頭の項目にもありますように,何と,文部科学大臣が,全国97の大学,学部の研究・教育の目標を決めると言うのです.その第一項目には「研究・教育の質の向上」があり,これは研究・教育の内容にまで干渉できる文言になっています.一体,古今東西,あらゆる学問分野についてその活動の「目標」を決めることが出来るような人など存在したでしょうか?
これからも現れることがあるでしょうか? これは,学問内容を政府が支配するという宣言以外の何ものでもありません.
これを実行するために,学内においては独裁的な権限を持ち,政府に対しては従順な存在となるよう条文で規定された「学長」が置かれます.
独法化が提案されたとき,批判の多くは「新自由主義」的改革だという観点からのものでした.その要素も重要です.また,学問の発展を阻害するとも批判されました.これもまさにその通りです.でも,私たちが強調したいのは,それどころではない,もっと巨大な危険があるということです.そうでなければ私もこうしてわざわざソウルまで来なかったかも知れません.
このような問題の重大性に比べ,日本のマスコミはその本質だけでなく,国会審議すら報道しないのです.委員会審議はもちろん,衆議院本会議の通過ですら,報じたのは一紙あるかないかでした.私がここに来た理由は,韓国の同僚の皆さんに協力,共同をお願いするとともに,この問題を韓国のマスコミで報道して頂きたいと思ったからです.それの国内へのエコーバックを期待しています.
この問題はもちろん日本の国内問題ですが,しかし大学は国際公共財であり,その自由の抑圧は国際問題なのです.しかも,上で申し上げたように,戦争と平和の問題,これは全く国際問題ですが,これと密接につながるのです.皆様のご理解をお願いします.どうもありがとうございました.