5・21国大協文書はみずから「独法化」への道を選ぶものである

     国立大学独法化阻止全国ネットワーク(独法化阻止ネット)

              事務局長 豊島耕一
             (佐賀大学理工学部,toyo@cc.saga-u.ac.jp)

 去る5月21日の国大協設置形態検討特別委員会・専門委員会連絡会議で審議了承された2文書,「国立大学法人化についての基本的な考え方」と「国立大学法人化の1つのありうる枠組」が公表され,すでに議論が興っています.独法化阻止ネットも簡潔に意見を表明してこの議論に加わりたいと思います.以下では前者の文書を「考え方」,後者を「枠組」と略します.

 まず「考え方」と「枠組」とが同一の書き手によるものとは考えられないほど趣旨が異なっているという点を指摘しなければなりません.

 前者で,「憲法が保障する学問の自由は,直接的には,国家から自由であることを意味する」とし,国の関与は「不正を防止し監視する仕組み....以上に,....大学運営に,外部からの規制を持ちこむことは,高等教育研究のシステムを歪める危険性が強い」と断じています.ところが後者「枠組」では「中期目標の認可」や国による評価など,「国家から自由であること」を全く否定する仕組みを際限なく導入しているのです.「考え方」部分にも問題がないわけではありませんが,そこだけを読んで安心してしまうような迂闊な読者は騙されてしまうかも知れません.

 通則法と「枠組」との目立った違いは「中期目標」作りを官庁から大学に移したことぐらいのようです.「中期目標」,「中期計画」の概念の導入と,それらの官庁による認可,評価制度はそのままです.さらには,通則法には明示されていないにもかかわらず,国による評価に基づく資金のコントロールまで提言するに至っています(II-20).人事制度では任期制の導入を奨めており,また能力・業績給まで提言しています.「監事」として文部科学省天下りのポストが準備されています.

 「枠組」の見過ごせないもう一つの特徴は,最近の国立学校設置法や学校教育法の改悪点,いわば「隠れた大学管理法」をそのまま引き継いでいることです.「法人化」されれば少なくとも前者の法律から自由になるのですから,これらの点についても当然再考すべきであったはずです.ところが学長への権限集中と教授会,評議会の諮問機関化などの非民主的な改悪をそっくり,何の疑問もなくみずからの案に取り込んでいるのです.

 「考え方」の部分では,なぜ法人化か,現行形態のどこがまずいのかという点が全くと言っていいほど吟味されていないことが最大の問題点です.国立大学がしばられる法律自体に問題があるのか,それとも運用の仕方が悪いのかの分析もされていません.例えば「組織の設置改廃」に制約があるといいますが,これは最近大幅に自由化されたはずです.もし法律が悪いというのであれば,国立学校設置法の改正ではなぜダメなのか,どこに限界があるのかを検討すべきです.このような作業の形跡が見られない以上,「はじめに法人化ありき」という姿勢で作文されたものであると見なさざるを得ません.

 これらの文書の性格は,故意か不作為かは別として全体として人を欺くものです.なぜなら「考え」で述べた事とほとんど180度違ったことが「枠組」にプログラムされているからです.(このようなもので欺かれるとしたら,欺かれる方も悪いと言えます.)また,文書の隅々まで散りばめられた「高度化」,「活性化」,「自己責任」,「個性化」などの官庁用語の数々は,この文書の本当の著者は誰なのかと疑わせます.

 「枠組」は,独法化をめぐるせめぎ合いにおいての意図的な「オウン・ゴール」以外の何ものでもありません.このようなチームではゲームに勝てるはずがありません.委員会メンバーは総員交替すべきではないでしょうか.また,いやしくも「最高学府」の最高責任者たちが集うであろう6月12日からの国大協総会において,このような案が間違っても認められるような事があってはなりません.

 最後に,たとえこのような案であっても,国大協が言う「通則法をそのままの形で適用することには反対」という条件を満たしていることに注意すべきです.むしろこのような,少しでも通則法から変更されれば独法化を受け入れるかのような曖昧な姿勢が今日の事態の原因です.国大協は「独立行政法人制度およびそのいかなる亜種も許さない」という「国民にわかりやすい」姿勢を取るべきです.

2001年5月28日

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独法化阻止ネット呼びかけ文
 日本語 http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet/plea-znet.html
 英語  http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp/znet/pleae.html