「周辺事態法」に反対する佐賀大学教員の声明

 政府は、この通常国会で、「周辺事態法」などのいわゆる日米ガイドライン関連法案の成立を図ろうとしています。この法案は、実質的な安保改定とも言われる新「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」の実効性を確保するためのものです。そしてこの法案には多くの具体的な問題点が浮かびあがっています。
 第1に、日本の米軍支援が求められる範囲=「周辺」の定義が曖昧であることです。従来までの安保条約の「極東とその周辺」とは違うのか。その「周辺事態」を認定するのはだれなのか。これらの曖昧さは、際限のない米軍への軍事協力にのめり込む危険性を孕んでいます。
 第2に、自治体と民間の協力が想定されていることも重要な問題です。法案には、「関係省庁は自治体に協力を求めることができる」という規定があります。今年2月、政府は自治体首長に求める項目として、空港・港湾施設の使用、物資輸送への協力と給水、公立病院への患者の受入れなどを例示し、民間に対しても、人員・物資の輸送や廃棄物処理、民間病院への患者の受入れ、企業の所持する物品・施設の貸与を求めています。
 まさしく軍事活動への動員が想定されていますが、自治体や民間が拒否できるのか曖昧なままです。それは、憲法で保障された地方自治、営業の自由、人権などを犯す危険性を秘めています。
 その他にも、「後方地域捜索救助活動」や「船舶検査活動」での武力の使用が盛られており、法案と一体の「新ガイドライン」には敵地先制攻撃の可能性も検討されています。これらは憲法9条の「武力行使の禁止」や日本の軍事力行使の基本方針である「専守防衛」に反するものです。
 現在でも、沖縄の基地問題や、低空飛行訓練、「思いやり予算」、日本各地での実弾演習など、日米安保の現実は国民に大きな負担を強いています。果たして、日本のように他国の軍隊の駐留経費を肩代わりしている国があるでしょうか。アメリカは、自国やヨーロッパでも実弾演習や低空飛行訓練を勝手気ままに実施しているのでしょうか。そのような安保条約のもとでの不当な犠牲を是正されることなく、何故、新たな負担と犠牲とを私たちは引き受けなければならないのでしょうか。
 地方に住む私たちは、自治体と民間に軍事支援が強制されるのではないかと心配しています。高知県での、入港艦船が核兵器を搭載していない事の確認を求める条例の制定に対する、政府の執拗な妨害は、そのような懸念に根拠を与えています。平時の今ですら自治体の自己決定権をみとめていないのです。
 私たちの住む佐賀県には、便数が少なく軍事利用の容易な佐賀空港や、唐津、伊万里の港湾があります。そのような施設が軍事利用される可能性は否定できません。朝鮮半島の有事が想定されているだけに、私たちは地理的に近い北部九州が後方支援の場になることを強く懸念しています。
 このような「戦争協力法案」とも言えるような危険な法案に私たちは反対します。
 同時に私たちは、上記のような多くの疑問と懸念に対して、政府は、まず、国民への「説明責任」を果たすことを求めます。十分な情報に基づいて国民の間で幅広い議論が交わされ、そのコンセンサスが形成されることを望みます。
 冷戦が終焉した現在、アメリカへのより緊密な軍事協力に踏み込むことは、世界、特にアジアでの緊張緩和に逆行することだと、私たちは思っています。むしろ今こそ、日本国憲法の平和主義を高く掲げ、武器なき平和の構築のために日本政府が最大限の努力をすることを、私たちは強く求めるものです。すべての国の「教え子を戦場に送らない」ために。

呼びかけ人 飯盛信男(経) 上野景三(文教) 岡本悟(農) 中原徹(理工) 藤條純夫(農) 東城國裕(文教) 豊島耕一(理工) 畑山敏夫(代表、経) 山本千洋(文教) 渡辺訓甫(理工)

1999年4月8日,12日  4月30日(署名者発表)

署名者 [ 5月12日現在教員138名(呼びかけ人含む),総計159名.]


リンク(防衛庁サーバー) |周辺事態法安保条約,ガイドラインなど