3章  国家との対話

3.1 対話は何故必要か

 政府及び警察、司法組織のような国家機関との対話と交渉は、トライデント・プラウシェア2000(TP2000)の活動にとって大変重要な部分である。 核ミサイルのトライデントを撤廃することによって国際的、人道的責務を実際に果たそうとする積極的な気持ちが英国政府にありさえすれば、私達が自らこのような行動にでる必要はなく、プラウシェアという軍縮行動を中止できるのである。

 私達が政府や国家機関の発言に耳を傾けており、変化する状況の中にあって、私達の目標、目的、行動が正しく存続していることを、常時点検していることを確かめるために対話は必要なのである。

 また、分別のある理論的議論で(政府に)圧力をかけることが必要であるし、厄介な問題、見え透いた矛盾や偽善的行為、また最終的には権力者につながるあらゆる悪弊について、問いただすことも必要である。

 定期的に届く書簡や人々との交流の中から得られる対話は、私達の積極的かつ具体的な軍縮行動を支え、活性化し、力づけてくれる。

 統計的にみると、核廃絶の決意表明をしたために逮捕され服役している人々を含めた、TP活動への増え続ける誓約者に加え、国会議員、聖職者、大学教授、諸団体からの支援が伸びている。

 政府に宛てた書簡への回答がなかなかこないので、支援してくれる国会議員に書簡を書いてもらうことにより、私達の質問が無視されずにまともな回答が貰えるよう努めている。 こうすれば国会議員も論争の新しい展開に遅れることがない。 私達の質問のうち、いまだに回答を貰えないものもある。 特に100キロトンの核弾頭がどのくらい正確に軍事目標と民間人を識別できるかという非常に難しい質問がその一つである。 そこで私達は、支持してくれる国会議員に下院で質問をするよう依頼し、その結果興味深い回答を入手した。(本章3.4参照)

 社会的、政治的変革を創出するために、対話と抵抗は共に手を携えて進むのである。

 

  

トライデント・プラウシェアは英国政府が核軍縮推進に努めるよう要請する

_)英国トライデント潜水艦システムの24時間監視体制は、即刻中止されなければならない。

_)米国から新しいトライデント・ミサイルを購入すべきではない。

_)英国所有のすべての核弾頭を発射装置から取り外し、別途保管しなければならない。

_)英国内に、米国の核兵器をこれ以上配備しない。英国は、ヨーロッパからすべての核兵器を回収し,核兵器を最初に使わないという先制不使用と、いかなる状況においても非核保有国に対し核兵器を使用しないという政策を確立するため、NATO同盟諸国と共に力を尽くすべきである。

_)トライデント・ミサイルは米国に返還し、核弾頭は核兵器保管施設(AWE)、オルダーマストン、バーグフィールド(Aldermaston/Burghfield)に、双方が合意する期日までに返還されるべきである。

_)遅くとも2010年の完結を目指して、英国所有の核兵器の安全、かつ速やかな解体を行うための可能な日程を確約する。

_)トライデントに代わるものの探索や、再度核兵器の入手を画策しないことを誓う。

_)英国所有の核兵器の設備を、核兵器工場の管理、生産に関する研究と開発ではなく、核兵器とその設備の解体の方向へと転換する。解体に伴って生じる核物質は、国内外の厳しく、実効性のある安全基準と監督のもとで、安全に管理され廃棄される。また、大量破壊兵器に関する国際協定の重要性を立証する。

_)世界中の核兵器を整然と継続的に削減しようとする核保有国の決断に参画し、できるだけ速やかに核兵器に関する暫定条約の交渉と実現を目指して、英国も積極的にたゆまず努力する。この努力が誠実で建設的なものであるか否かは、国連総会の決議、核不拡散条約の再検討過程、軍縮会議、G5、NATO、その他の関連会議における英国の姿勢から判断されるであろう。

   

3.2 政府ならびに軍部との対話の大要

 1998年、活動開始以前の2月から5月に、自主的に助言を申し出たグループの人々に意見を求めた。彼らは私達の戦略の概要をまとめ、トニー・ブレア宛ての最初の書簡の草稿を練るのに協力してくれた。彼らは会合や、今後始まるであろう交渉の場においても、私達を直ちに助けられる体勢で、舞台の袖に控えており、時には助言も与えてくれる。私達は、活動計画全体、その間の交渉や対話をすべて公開すること、また当局からトライデント・システムの完全撤廃に同意する公文書を受け取らない限り、すべての軍縮行動を計画どおりに進めることに同意した。交換可能な基本点は一つである。すなわち、政府が軍縮を行うか、私達がそれを行うかである。対話や交渉に当たる代表者が持ち帰った話し合いの同意事項を受け入れるか否かを決めるのは、TP2000のすべての誓約者である。この同意事項は、本章3.1の囲み記事に表示されている基本精神に即するものでなければならない。

 政府高官と国会議員に接触する努力を続け、会談を持とうとしたが、不成功に終わった。1998年3月18日、トニー・ブレア首相に書簡を送った。これは、その後長期間にわたって送り続けた一連の書簡の第一弾であった。この書簡の大要は以下に記されており、他の書簡の何通かは全文が掲載されている。ウエッブ・サイトが2、3ヶ月ごとに最新のコピーを保存している。

 1

 日付:1998年3月18日

 差出人:シルビア・ボイズ(Sylvia Boyes)、トレーシー・ハート(Tracy Hart)、エレン・モクスレイ(Ellen Moxley)、ブライアン・クウェール(Brian Quail)、ヘレン・スティーブン(Helen Steven)、アンジー・ゼルター(Angie Zelter)(当時のTP2000のコアグループ)

 宛先:トニー・ブレア(Tony Blair)英国首相

 コピー送り先:エリザベス女王陛下、外務大臣、国防大臣、法務長官、法務総裁、海軍軍令部長及び海軍本部委員会第一軍事委員、トライデント潜水艦艦長全員とFOSNNIとFOSMの海軍少佐全員

 内容 :英国政府が国際法と1996年7月8日に出された国際司法裁判所(International Court of Justice - ICJ)の勧告的意見に従い、直ちに核廃絶に踏み切る必要性を概説; 核廃絶に関する明確で実行可能な九つの基本的要素を含むTP2000の目標と目的を述べ、核不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons - NPT)第六条に従い、英国所有の核兵器廃絶に直ちに踏み切る必要性について話し合うための会談を要請した。

 この書簡のコピー1000部は、「公開書簡、法に従え-トライデントを撤廃せよ-英国首相トニー・ブレアへ、TP2000の地球市民より」と銘打って、広く配布された。

 (次に本書簡全文を掲載する)

 トニー・ブレア首相

 ダウニング街10番地

 ロンドン、SW1A2AA

 1998年3月18日

 トニー・ブレア殿

 トライデント核ミサイル撤廃政策に関する首相との会談の要請について

 現代に生を受けた者として、首相も核兵器の危険性とその脅威をよくご存知でありましょう。過ちや愚かさから、核兵器が現代文明を破壊し、人間を含む地球上のほとんどの種を滅ぼす可能性があることに、恐怖を感じておられることと思います。新しい世紀に核兵器の廃絶のため迅速に行動される首相の姿を私達は見たいと思っていましたが、その兆しは一向にありません。

 そこで「英国の核兵器使用に関する決定は、すべて首相である貴方の手に委ねられている」ため[Ref. 1]、私達が、今、実行されなければならないと確信する政策を話し合うために、政府の最高責任者である貴方との会談を要請いたしたく、この書簡を書いております。この政策は、英国の有権者の大部分が長年にわたって抱いてきた見解に沿うものであり、また、国際的責任とこの国にふさわしい法的、人道的規範に合致するものであります。

 労働党は選挙公約で、大量破壊兵器の拡散に反対し、「核兵器を世界中から除去する」というゴールを目指し、専念すると明言されました。しかし、英国の行動自体は、国連や他の国際会議における最近の投票記録から明らかなように、このゴール達成のために努力を続けているようには見えません。英国政府がジュネーブ条約(Geneva Convention 1949年)への追加議定書2項目(1977年)を、1998年1月に批准したことを私達は歓迎しました。しかし、貴方が「ここに提出された規定は核兵器使用に対していかなる影響も持たず、その使用を規制、または禁止するものではない」と繰り返し主張されたことに、私達は愕然としました。[Ref.2]

 ロビン・クック(Robin Cook)外務大臣が現政府の「倫理的外交方針」の追求を言明されたとき、私達は希望に溢れました。しかし、それから数ヶ月にわたり、外務省と国防省のスポークスマンは核兵器保有と核「抑止」政策を継続する決意を、繰り返し表明しました。大量破壊につながる核兵器が倫理的外交方針と相容れるとは考えられません。核「抑止」も、可能性があり、信頼できる国防政策とは思えません。核抑止政策は、二超大国間の冷戦中に推進され、両国間の核武装競争は、世界を何回も破壊できるところまで来てしまいました。核戦争のシナリオは、科学的にも軍事的にも現実からかけ離れたものとなり、核兵器の無謀な拡散は現在も続いています。核兵器の保有は、核兵器以外の大量破壊兵器に対応できる方法として正当化されています。このような危険をはらむ矛盾した政策を保持し続けることから、英国が本当は何を防止したいのかがはっきり見えてきます。英国政府は世界中にメッセージを送り、防衛のため、また、軍事的、政治的目的の達成のためには、時には核兵器が必要であると言っていますが、私達は核軍縮に直ちに取り組むことが急務であると確信しております。現在、知的議論は核軍縮の方向に傾いており、地政学的にも軍縮が可能な状況にあります。今行動を起こさなければ、この絶好の機会を逃すことになりましょう。

 さらに、国際司法裁判所の勧告的意見について申し上げます。この勧告は核兵器による威嚇あるいはその使用は一般に国際人道法に違反するものであり、国家はあらゆる面から核軍縮について協議し、結論を出す責務を負うとしています。[Ref. 3] また、1995年の核不拡散条約の延長期限を検討する会議における175カ国の当事者による無投票の決議について申し上げます。その決議には、「核兵器撤廃を究極の目標とし、核保有国が世界中の核兵器削減のために組織的かつ建設的な努力をすること、また厳しく、実効性のある国際的管理のもとで完全な核軍縮を行うこと」が含まれています。[Ref. 4] 英国はこれらの決定に全面的に従いました。

 TP2000や世界中の市民団体は、国際司法裁判所が核抑止の姿勢の正当性を否定したことは当を得ていたと考えます。非核保有国との争いにおいて「自国の存亡のために」核保有国側が先んじて核による威嚇を行うことは、非核保有国の通常兵器による攻撃に対し、核兵器で先に応戦するのと同様に違法であると考えます。また核攻撃に対する大規模な報復も法を逸脱するものであります。冷戦後におけるトライデントの「準戦略的」役割を構築する動きのあることに気づいておりますが、そのような使用は間違っており、国際人道法に矛盾すると考えられます。私達は核兵器の保有が、世界共通の倫理観に反すると確信いたします。新しい世紀において私達は現実的な安全保障の問題、たとえば構造的貧困、広範囲にわたる環境の悪化、国際的テロリズムの拡大等に立ち向かわなければなりません。トライデントの配備は、これらの問題のために捧げられるべき人的、物的資源を無駄に使っております。私達は愛と正義の力が私達の争いを解決すると確信しています。これは権力による虐待に屈服したり、残虐行為を容認するということではありません。争いを解決するために行使する私達の手段が、私達の心の奥にある倫理性と一致するものでなければならないということであります。

 TP2000の活動に関わる多くの人々は、貴方の政府が私達の代表として選ばれて以来10ヶ月の間、トライデント・システム継続の違法性について書簡を送り続けてきました。回答のほとんどは、一貫して、国際司法裁判所の勧告的意見は、「英国のまったく自衛的な核政策の変更を要求している」とは思わない、と言う文言に沿ったものでした。[Ref.5] 貴方はまた、「政府の核抑止の姿勢は、まったく国際法に矛盾していないと確信する」とも述べておられます。[Ref. 6] 私達は、この勧告的意見に対するあなたの解釈と、引き続き核兵器に依存する姿勢を、もっとも懸念するものであります。[勧告的意見の趣旨の分析については、補遺1参照]

 私達は貴方との会談を希望すると共に、率直にかつ敬意を持ってTP2000運動が提案する計画と組織についてご説明したいと願っております。私達は国際法と地球市民の責任に基づき、トランデントを基盤とする英国の核兵器システムの撤廃に平和的かつ安全に責任をもって具体的な助力をしようとする市民グループであります。英国所有の核兵器の撤廃に対する政府の明確な意思表示及び非核安全政策の履行が見えてこないことと、事の緊急性を考慮して、私達は、1998年8月11日にファスレーン(Faslane)においてこの責任の重い非暴力行動の実行に踏み切るつもりでおります。しかし、私達は今もなお、首相と会談を持ち、私達がこのような行動を始める必要がないという言葉が首相から伺えるよう願っております。

 熟考の末、TP活動中止を判断する基準を次のように定めました。

 首相、外務大臣、あるいは国防大臣が、英国所有のすべての核兵器を2000年1月1日をもって撤廃し、政府は非核安全保障政策を履行する旨、書面、あるいは下院での声明の形で表明する場合、TP2000はその行動を中止するということであります。

 このような作業には、他の政府機関への照会や交渉なしに、政府が直ちに施行するよう直接指示できる手続き上の変更と、外国の業者や同盟国との協議、国際間の交渉を必要とする政策上の変更が必要であることを私達は認識しております。

 TP2000は、英国の核戦力の撤廃が真摯に推進されていると納得できる場合、いつでも私達の直接行動を中止するつもりでおります。しかしこの実施が覆されたり不当に後退または延期された場合には、行動を再開いたします。英国を非核化する過程では、以下のような明確で実行可能な要素を政府が真剣に遂行することが不可欠であると考えます。

 _)英国トライデント潜水艦システムの24時間監視体制は、即刻中止されなければならない。

 _)米国から新しいトライデント・ミサイルを購入すべきではない。

 _)英国所有のすべての核弾頭を発射装置から取り外し、別途保管しなければならない。

 _)英国内に、米国の核兵器をこれ以上配備しない。英国は、ヨーロッパからすべての戦術的核兵器を回収し、核兵器を最初に使わないという先制不使用と、いかなる状況においても非核保有国に対し核兵器を使用しないという政策を確立するため、NATO同盟諸国と共に力を尽くすべきである。

 _)トライデント・ミサイルは米国に返還し、核弾頭は核兵器保管施設(AWE)、オルダーマストン、バーグフィールド(Aldermaston/Burghfield)に、双方が合意する期日までに返還されるべきである。

 _)遅くとも2010年の完結を目指して、英国所有の核兵器の安全、かつ速やかな解体を行うための可能な日程を確約する。

 _)トライデントに代わるものの探索や、再度核兵器の入手を画策しないことを誓う。

 _)英国所有の核兵器の設備を、核兵器工場の管理、生産に関する研究と開発ではなく、核兵器とその設備の解体の方向へと転換する。解体に伴って生じる核物質は、国内外の厳しく、実効性のある安全基準と監督のもとで、安全に管理され廃棄される。また、大量破壊兵器に関する国際協定の重要性を立証する。

 _)世界中の核兵器を整然と継続的に削減しようとする核保有国の決断に参画し、できるだけ速やかに核兵器に関する暫定条約への交渉と実現を目指して、英国も積極的にたゆまず努力する。この努力が誠実で建設的なものであるか否かは、国連総会の決議、核不拡散条約の再検討過程、軍縮会議、G5、NATO、その他の関連会議における英国の姿勢から判断されるであろう。

 私達は1998年5月2日にTP2000運動を公表し、同年8月11日に軍縮行動を始めます。その間、先に延べたTP2000行動を中止する基準について、また首相の安全保障に対するお考えと国防政策について、さらに私達が倫理的、人道的であり、非武装、非暴力で合法的と信じる私達の行動計画について貴方と話し合う時間が与えられるよう願っております。同封のハンドブックには、私達の運動の大要がかなり包括的に記されておりますので、お役に立てばよいと思います。来る5月2日、私達は核犯罪阻止運動への参加のため署名した人々、また自主的に軍縮行動に参加する人々の名前・住所の一覧を発表いたします。新しく運動に加わる人々が次々といるため、この一覧は随時改定されます。

 私達はTP2000のコアグループのメンバー、自主参加の専門家、仲介者でチームを構成しており、その中から4_6人が首相と政府の代表者との会談に望みます。私達は英国所有の核兵器撤廃と非核防衛政策に向けて、直ちに一歩を踏み出す必要性を話し合うため緊急の会談を設定してくださるよう願ってやみません。

 敬具

 シルビア・ボイズ、 トレイシー・ハート、 エレン・モクスレー、ブライアン・クウェール、 ヘレン・スティーブン、 イアン・トムソン(Ian Thomson)、 アンジー・ゼルター

 TP2000ハンドブックと参考資料リストを同封いたします。

 2

 日付:1998年3月20日

 差出人:ミセス・ジャニス・リチャーズ(Janice Richards)秘書官補

 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:3月18日付け書簡の受領と簡単な謝辞。近日中に返事をするとのこと。

 3

 日付:1998年3月25日

 差出人:シルビア・ボイズ、トレーシー・ハート、エレン・モクスレイ、ブライアン・クウェール、ヘレン・スティーブン、イアン・トムソン、アンジー・ゼルター(当時のTP2000のコアグループ)

 宛先:軍縮行動に好意的と思われる100人の国会議員

 内容:TP2000の活動内容の短い説明とトニー・ブレア宛ての公開書簡を同封、「政府と話し合いを持つための適切な手順の教示を依頼し、いかなる助言、提言も歓迎する」旨記した。

 4

 日付:1998年4月3日

 差出人:フィリップ・バートン(Philip Barton)秘書官

 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・デルター

 内容:会談は拒絶。現政府は、トライデント保持という公約に基づき選ばれており、「政府は国際司法裁判所の勧告的意見が、英国の自衛的な核抑止の姿勢の変更を求めているとは考えていない」と述べている。

 5

 日付:1998年5月2日

 差出人:シルビア・ボイズ、トレーシー・ハート、エレン・モクスレイ、ブライアン・クウェール、ヘレン・スティーブン、アンジー・ゼルター(当時のTP2000のコアグループ)

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:会談が許可されず残念であり、先の書簡で述べた本質的問題提起に対し、まともな応答がないことに当惑している。再度会談を要請し、TP2000が広く、広島、ゴーテンバーグ(Gothenburg)、ゲント、ロンドン、エジンバラで行動を開始したことを告げ、この活動に賛同し積極的にトランデント・システムの撤廃に当たる用意がある62名の地球市民の一覧を同封した。

 6

 日付:1998年5月8日

 差出人:ミセス・ジャニス・リチャーズ秘書官補

 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:5月2日付け書簡の受領と簡単な謝辞。近日中に返事をするとのこと。

 7

 日付:1998年5月19日

 差出人:シルビア・ボイズ、トレーシー・ハート、エレン・モクスレイ、ブライアン・クウェール、ヘレン・スティーブン、 アンジー・ゼルター(当時のTP2000のコアグループ)

 宛先:ロビン・クック外務大臣、ジョージ・ロバートソン(George Robertson)国防大臣

 内容:5月18日付けの書簡に対する首相の回答に失望した旨を述べ、緊急に核軍縮問題を話し合うため、外務大臣、国防大臣、あるいは彼らと同等の地位にある人との会談を要請。

 8

 日付:1998年6月30日

 差出人:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)(TP2000のコアグループ)

 宛先:マイク・グレゴリー(Mike Gregory)少佐、FOSNNI、ファスレーン海軍基地司令官

 内容:英国政府が自ら核兵器撤廃を行うという明確な意思表示をしないならば、TP2000は8月11日、ファスレーンにおいて平和的かつ安全に、責任をもって行う英国トライデント・システム撤廃の行動を開始する旨、ファスレーン海軍基地司令官に通告。ニュルンベルク諸原則(Nuremberg Principles)に包含される法的規定を指摘し、今後大量破壊組織に関わらないことを求め、TP2000のメンバーとの会談を要請。

 9

 日付:1998年7月1日

 差出人:アンジー・ゼルター(TP2000を代表して)

 宛先:すべての国家元首、16のNATO加盟国の外務大臣及び国防大臣

 内容:「核兵器を違法として阻止し、TP2000に賛同する地球市民が、NATO加盟国全元首と大臣に、核による犯罪の中止を求める」この書簡と、3月18日付けのトニー・ブレア宛ての公開書簡のコピーを送った。会談は拒否されたこと; 次の質問事項、すなわちトライデントの使用は非戦闘員を傷つけず、中立権を侵害せず、環境を汚染せず、人類及び他の種に対し遺伝的障害を与えない等についての証拠資料もいまだ受け取っていないこと; NATO加盟国として、彼らもまた「NATOの名において行われたことに対し、責任があること」を指摘した。 2000年1月までにトライデント・システムの撤廃を実施するよう、NATO各国が英国政府を説得して欲しいと依頼した。 更に「NATO内で核軍縮支援のために何ができるか」を打診する緊急会議の開催も依頼した。

 10

 日付:1998年7月6日

 差出人:J.R.M.ハーバー(Harbour)海軍軍司令官、FOSNNI長官

 宛先:ミスター・マッケンジー

 内容:1998年6月30日付書簡の内容にFOSNNIは注目し、回答のためこの問題担当の国防省に転送したとのこと。

 11

 日付:1998年7月6日

 差出人:ブライアン・クウェール(TP2000を代表して)

 宛先:好意的な国会議員全員

 内容:TP2000活動の概要を述べ、トニー・ブレア宛ての公開書簡を同封し、この問題に対する彼らの見解を求めた。

 12

 日付:1998年7月9日

 差出人:TP2000ウッドワース・アフィニティ・グループ(Woodwoses affinity group of TridenTPloughshares 2000)

 宛先:法務長官ジョン・モーリス(John Morris)閣下

 内容:TP2000は、1998年3月18日にトニー・ブレア首相とその他の人々に書簡を送った。私達は英国所有の大量破壊兵器の即時撤廃と解体を必要とする理由を概説した。これらの事実は、首席法務官である閣下に、単純な選択肢を提示するものである。すなわち、プラウシェアの誓約者を正当な理由なしに違法な陰謀に巻き込まれた署名人とみるか、あるいは英国政府が国際的、人道的法律に違反しているという見解をとるか、という選択である。

 13

 日付:1998年7月15日

 差出人:P.ホフマン(Hofman)、外務省、 ボン

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年7月1日付け、クラウス・キンケル(Klaus Kinkel)博士宛ての書簡への謝辞。ドイツ政府は長期間にわたり核削減を促進してきたが、「現存の国際機関や集会は以下の目標の追求に力を注ぐべきである」。すなわち戦略兵器削減交渉_(Strategic Arms Reduction Talks_ - START_)の批准と兵器製造用核分裂性物質の供給禁止、この二つが最重要課題である。

 14

 日付:1998年8月1日

 差出人:モラグ・.バルフォア(Morag Balfour)、シルビア・ボイズ、 デビッド・マッケンジー、 エレン・モクスレー、 ブライアン・クウェール、 イアン・トムソン、 レイチェル・ウェナム(Rachel Wenham)、 ヘレン・スティーブン、 アンジー・ゼルター(当時のTP2000コアグループ)

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:「ファスレーンとクールポート(Coulport)基地における8月11日の軍縮行動直前の最終アピール」と題した本書間には、私達の3月18日付け書簡に対し詳しい回答を頂きたいと願っていること;「戦略防衛の見直し」(Strategic Defence Review)からは、核軍縮に向けての歩みが真摯で満足できるものであるとは読み取れないので、私達の直接的軍縮行動は中止しないこと;現在トライデントに配備されている核兵器を、国際法に違反することなく使用するのは不可能であると述べた。また、英国トライデント・システムの撤廃を誓約する97名の地球市民の名前を伝え、彼らが与えたいかなる被害も法的正当性を持ち、自己防衛のために行った最後の手段であって、理に適っている旨記した。

 15

 日付:1998年8月5日

 差出人:サイモン・ギレスピー(Simon Gillespie) 海軍軍司令官、 軍事担当大臣(Minister of State for the Armed Forces)補佐官

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年5月19日付けジョージ・ロバートソン宛ての書簡への謝辞。政府は世界中から核兵器を除去することに努力してはいるが、その日程を勝手に設定することは考えられないこと;大きな核兵器工場と核拡散の危険が残されており、他方、英国の最小限抑止力保持の問題も残されていること;「トライデント・プラウシェアは公然と、機会あるごとに、犯罪的行動を起こす意志を表明している」が、TP2000が「自らの抗議行動を合法的手段に変更し、軍人に対しその職務の拒否を奨励するような行動を中止するまでは、会談を持つことはできない」と記されていた。

 16

 日付:1997年8月7日

 差出人:スティーブン・ウィルマー(Stephen Willmer)、 国防省軍備調整局(Proliferation and Arms Control Secretariat, MOD) 次官

 宛先:ミスター・マッケンジー

 内容:1998年6月30日付けグレゴリー少佐宛ての書簡への謝辞。「軍人に対し、その職務遂行の拒否を直接奨励すること」は言語道断であること; 自衛のために抑止力を持つ英国の姿勢は、「国際法に矛盾するものではなく、その姿勢を支援し、ニュルンベルグ諸原則のもとでは違法とされる軍事行動に携わっても、何ら問題はない」こと; 戦略兵器削減交渉の経過、核分裂性物質製造の禁止に関する条約、及び軍備制限の進展の現れである包括的核実験禁止条約(Comprehensive Nuclear Test Ban Treaty - CTBT)の批准に言及;英国の核兵器保持は「我々の安全保障にとって必要な要素」であること; いずれにせよ英国核軍事力は現在「削減の方向に向かっており、すべてのトライデント・ミサイルは攻撃態勢をとってはいない」と記されていた。

 17

 日付:1998年8月10日

 差出人:ミセス・ジャニス・リチャーズ秘書官補、ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年8月1日付け書簡に対する謝辞。近日中に返事をするとのこと。

 18

 日付:1998年8月17日

 差出人:A.バートン(Burton)、 外務省安全保障政策局

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年5月19日付け書簡への謝辞。軍備制限の進展に対する評価を「戦略防衛の見直し」から引用し、政府は「核兵器除去に関する最終期限の設定」に同意しないこと;すでに届けられた何通かの返信で述べられていたTP2000の犯罪的行動に対する批判を繰り返し、「TP2000がその抗議を合法的手段で行わないならば、会談をもつことはできない」と記されていた。

 19

 日付:1998年8月24日

 差出人:アーサー・C.エグルトン(Arthur C. Eggleton)国防大臣、 オタワ、カナダ

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年8月1日付け書簡への謝辞。 英国国防政策の基本的細目について意見を述べるのは適切でないが、「カナダは英国を評価し、信頼できるNATOの協力国と考えている」こと;NATOは核軍事力への依存を大幅に制限したこと;NATOには政治的役割があり、それは平和を維持し、いかなる争いも阻止することであること;「加盟国の核軍事力は、ヨーロッパ・大西洋地域における戦争の抑止と安定に多大の貢献をしている」こと;「カナダは非核保有国として核不拡散と核軍縮への取り組みを強く支持する」こと;「カナダは国際司法裁判所が核不拡散条約第6条を再確認したことを歓迎する」こと;インドとパキスタンの核実験を強く糾弾すること;自分の日程上、会談する時間は無いが、本書簡がTP2000の問題提起に答え、役立つよう願うと記されていた。

 20

 日付:1998年9月1日

 差出人:セオドロス・パンガロス(Theodoros Pangalos)外務大臣、アテネ、ギリシャ

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:書簡への謝辞。 「ギリシャは核兵器を徐々に撤廃することに賛成してきた」こと;ギリシャは大量破壊兵器の生産を削減し、その拡散を無くすためにはいかなる努力も惜しんではならないと確信すること; したがってギリシャは、核軍縮について、近い将来世界中の理解が得られるよう望んでいると記されていた。

 21

 日付:1998年9月4日

 差出人:フィオナ・J. ホープ(Fiona J. Hope)、軍事担当大臣秘書官補

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1998年8月1日付け首相宛ての書簡に対する謝辞。同書簡が首相から転送されてきたこと;サイモン・ギレスピー海軍軍司令官の回答に付け加えることは無いこと;政府はトライデントが違法でないと確信し、「世界中からの核兵器除去というゴールを目指して」努力しているが、他方、「英国の安全保障に欠かせない要素」として、トライデントの保持は必要であると記されていた。

 22

 日付:1998年11月1日

 差出人:モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 クレア・ファンレー(Clare Fearnley)、 デビッド・マッケンジー, ジョイ・ミッチェル(Joy Mitchell)、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ(Jane Tallents)、 イアン・トムソン、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター(当時のTP2000コアグループ)

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:100キロトンの核兵器が、合法的にどのように使用できるのかを示す具体例の提示を依頼; ユリヤミー(Yulyamy)が攻撃目標一覧に掲載されていないという確証の提示も依頼; トライデントの正当かつ徹底した見直しを要請;「公然と機会のあるごとに、犯罪的行動を行う意志を表明する」のは私達ではなく、英国という国であることを述べた。更に、国際法を誤解しているのは英国政府であること; 軍人は法に反する命令に決して従ったり、それを実行したりしてはならないことを再度述べ、膝を交えた会談を要請した。最新の誓約者一覧を同封。

 (次に本書簡全文を掲載する)

 トニー・ブレア首相

 ダウニング街10番地

 ロンドン、SW1A2AA

 1998年11月1日

 トニー・ブレア殿

 1998年8月5日付けサイモン・ギレスピー軍司令官の書簡に関連する、同年9月4日付けの返信をありがたく頂きました。その書簡から、さらに申し上げたいいくつかの新しい問題が出てきました。

 1.

 政府はトライデントが違法でないと確信しておられるかもしれませんが、私達にはその確信が間違っていると思われます。もしトライデントが違法でないならば、政府は何故100キロトンの核弾頭が、どのようにして、どこで、いつ、合法的に使用され得るかという詳しい例を、一つで結構ですからご提示くださらないでしょうか。私達はその例を待ち望んでおります。

 トライデント・ミサイルを操作誘導するコンピューターに入力されるばかりになっている攻撃目標について、正当かつ徹底した見直しが行われたかどうか、私達は納得しておりません。国際司法裁判所の勧告的意見は、核兵器の法的扱いについて次のように結論しました。すなわち、一国の存亡が懸かる危機的状況にあっても、核兵器使用は国際人道法に遵守して行われなければならない、と。したがって、明らかに広範囲にわたり市民に被害を及ぼす元凶となるいかなる武器の使用も、この基準を満たすことはできないと思われます。

 予想される攻撃目標の一つに、ユリヤミー(Yulyamy)という人口2万8千人のノルウェー国境に近いロシア北部の町があります。ロシアの原子力潜水艦を修理するロシア海軍造船所が近くにある町です。この造船所の上空に向けてトライデント核弾頭が発射された場合、それは直径870メートルの火の玉となり、その町は完全に壊滅するでしょう。人口のほぼ90%は、放射線と高熱と建造物の倒壊によって死亡し、犠牲者のうち約7千人は子供と思われます。爆発は、広島と長崎の時と同様に、学校、病院、教会を破壊し、生き延びた少数の人々も重傷を負い、爆心地から4.5キロ離れていても、屋外にいれば3度の火傷を負うでしょう。爆心地から10キロ離れているセベロモルスク(Severomorek)の町でも激しい爆風による被害と多くの被爆者がでるでしょう。以上の状況には、ノルウェー住民にまで及ぶ広範囲にわたる放射能の二次的影響については、一言も触れておりません。国際法をどのように解釈すれば、このような事態が合法的であると考えられるのか、私達には分かりません。ユリヤミーやこの町と同じような状況にある場所が、あなたの攻撃目標の一覧には無いことを、保証していただけますか。

 必要なのは、トライデントを正当かつ徹底的に見直し、そこから司法官が最新の核兵器それ自体の細部について、またその攻撃目標、市民に対し起こりうるであろう影響を検討し、環境に及ぼす長期的影響について熟慮することであります。これらのことは、国際法に示された規定に即していなければならず、したがってこの見直しは議会内外で公開討議がなされるべきであります。このようなトライデントの法的見直しを実施していただけるでしょうか。

 「世界中からの核兵器除去を目指し、努力する」と言われますが、一方では「最新の安全保障環境の中で、政府は最小限の核抑止力が英国の安全保障にとって必要な要素である」と結論されました。

 「戦略防衛の見直し」のなかで政府は、「冷戦の終結は英国の安全保障環境を変えた。世界戦争の影は世界を覆っておらず、我々がこれまで感じていた西側ヨーロッパ諸国や英国に対する直接的脅威はもはや存在しない。また、我が国の海外領土に対する重大な脅威に直面することもない」と明記しています。英国の存亡が今のところ脅かされていないのであれば、現在のトライデント配備に代表される英国の核兵器使用が与える脅威は、まさに法に違反しています。これに対抗して、英国の存亡を直接脅かす状況が将来起こりうると政府が反論すれば、その論述から、政府の本音は核兵器の除去に賛成することではないことが分かります。これは明らかに核不拡散条約の目指すところに違反いたします。

 「政府は、より広範囲の安全保障環境を視野に入れることなしに、核兵器除去の期限を勝手に設定することが、現実的、かつ実効性のある方法であるとは思わない」と言われます。しかし、私達は何らかの期限を設けることのほうが現実的で実効性があると考えており、そうしなければ永久に待たなければならないでしょう。何十年経っても核不拡散条約の目指す世界中の核軍縮が完結しないのは、期限を設けなかったことに起因する結果のよい例であります。私達の設定した期限が独断的とお考えならば、首相ご自身で期限を提示していただきたいと思いますが、どうか現実味のある実行を伴うものをお願いいたします。

 4.

 ギレスピー軍司令官は、「トライデント・プラウシェアは公然と、繰り返し、犯罪的行動を行う意志を表明した」と述べておられます。私達は犯罪的行動と呼ばれるようなことに絶対関与してはおりません。私達はただ、国際法を支持し、政府が私達には大規模な犯罪的行動と思われることに関与し続けるのを阻止しようとしているに過ぎません。国際慣習法は、数世紀にわたり中立国や局外者を保護し、戦争という最悪の行為から環境を守り続けてきました。これらの慣習法は、ナチスによる大量虐殺の責任を追及する法的論拠の前提ともなりました。慣習法はまた、現在ルワンダや旧ユーゴスラビアにおける残虐行為に関与した指導者や官僚たちが告発されている、ハーグの戦争犯罪法廷においても適用されています。人間の基本的行動の規範や基準に反するものを英国政府が非難なさるのは当然ですが、これらの慣習法の下では、政府自体も有罪であることを認めなければなりません。これらの規範や基準は、数百万の人々を撲滅し生態系全体を破壊する力を持つ兵器を政府が配備していることにも適用されるのです。

 5.

 政府から頂いた数通の書簡の中で「軍人に対し、その職務遂行を拒否する」よう直接奨励することは「言語道断である」と言われていますが、これは的外れなご指摘です。軍人は法律に関し間違った指導を受けており、彼らが与えられる命令は法に反するもので、その結果、彼らは重大で非常に深刻な慣習法違反に加担することになると言う点が見落とされているのです。責任を持って行動する地球市民として、私達はニュルンベルグ諸原則と国際慣習法に関する情報を彼らに提供し、法に反する命令には決して従うべきでないと伝える責任があるのです。

 私達の見解によれば、「犯罪的行動を行う意志を、公然と繰り返し表明している」のは英国政府であります。しかし、政府が犯罪的行為に巻き込まれていることが、私達の対話をより効果的に続けられるよう会談を持ちたいとお願いすることの妨げになるとは思えません。国際法、倫理、防衛についての解釈が違ってはいても、話し合いを始めることは間違いなく建設的であり、個人的には首相も好ましいと考えておられる開かれた政府の精神に合致すると確信いたします。直接膝を交えた会談が持てるよう、再度お願い申し上げます。

 一方私達は、TP2000軍縮行動の第2回「公開」活動を11月9日から16日に、ファスレーンとクールポートにおいて、公然と責任を持って行う私達の方式により実行することをお知らせいたします。なお、最新のTP2000誓約者一覧を同封させていただきました。

 平和と愛をもって、

 モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 クレア・ファンレー、 デビット・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 フライアン・クウェール、 ジェーン・タランツ、 イアン・トムソン、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター

 23

 日付:1998年11月14日

 差出人:ミセス・ジャニス・リチャーズ 秘書官補 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・セルター

 内容:1998年11月1日付け書簡に対し、できるだけ速やかに回答するとのこと。

 24

 日付:1999年2月11日

 差出人:モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 クレア・ファンレー、 デビッド・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター、 (当時のTP2000コアグループ)

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:「大量殺戮の脅威が有する違法性、不道徳性に関し、私達が提起した問題への本質的回答はゼロ」と題した11月1日付け書簡への回答の約束を履行していただきたいこと; 2月1日に起った潜水艦ベンジャンスへの廃絶行動に触れ、あのようにたやすく進入できるということは、「核兵器が英国民を攻撃から守るものではなく、かえって危険を助長する、時代遅れのステータス・シンボルでしかないことがはっきりした」と述べた。最新の111名の誓約者一覧を同封。

 25

 日付:1999年2月19日

 差出人:ミセス・ジャニス・リチャーズ秘書官補 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:2月11日付け書簡への謝辞。回答が送られていなかったことを謝罪し、近日中の送付を確約。

 26

 日付:1999年3月23日

 差出人:モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 デビッド・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ、 イアン・トムソン、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:首相宛ての公開書簡_の印刷コピーを女王陛下、外務大臣、国防大臣、法務長官、法務総裁、海軍軍令部長、及びトライデント潜水艦艦長全員に送付したこと; 政府がTP2000の軍縮行動を引き継ぎ、英国所有のすべての核兵器を解体するよう依頼; これまでのTP2000の活動内容を総括; 政府から回答の無い主要質問を列挙して、これらの質問に対する理に適った回答を待っていることを述べた。

 27

 日付:1999年3月24日

 差出人:S.M.ギレスピー司令官

 宛先:ミズ・ゼルター、

 内容:1998年11月1日及び1999年2月2日付けの首相当て書簡への謝辞。核兵器をいかに合法的に使用できるかについて説明することはせず、核兵器使用は国際法の必要条件に即しているという政府回答と同じ見解を堅持。「外部の攻撃から英国を守るため、政府が核兵器の使用を」瞬時に決断し、予告無しに行動に移らねばならないほど事態が緊急である場合には、大臣たちは法的助言を受けることができること; 「オルダーマストン・ウィメン・トラッシュ・トライデント(Aldermaston Women Trash Trident Group:オルダーマストン女性トライデント廃棄グループ)」が潜水艦ベンジャンスに乗船したような場合には、「核兵器の安全性について折衝する余地はまったく無い」と述べ、私達と会談しない理由を再度説明している。 しかし私達が提示した本質的問題に回答することは拒否。

 28

 日付:1999年5月24日

 差出人:モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ, デビッド・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ、 イアン・トムソン、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター

 宛先:トニー・ブレア

 内容:11月1日及び2月2日付けの返信への謝辞。受領通知の無い3月23日付けの公開書簡_に対する内容のある回答を頂きたいと依頼した。

 29

 日付:1999年7月9日

 差出人:フィリップ・バートン秘書官 ダウニング街10番地

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:1999年3月23日付け公開書簡が同封された、同年5月14日付けの書簡に対する謝辞。「世界中の核兵器除去」に対して政府がどのように努力しているかを記し、事態が確実に除去の方向に向かっていると政府が納得したとき、英国所有の核兵器も交渉の場に加えられることは確実であること; 「自衛上核抑止力を保持する英国の姿勢は国際法に矛盾するものではないと、政府は確信している」と述べている。潜水艦の安全性とオルダーマストン・アフィニティ・グループが「難なく捕らえられ、その場から無事連行された」ことに触れ、トライデント・プラウシェアが「自らの抗議行動を合法かつ平和的に変えるまでは」会談は不可能であると述べている。

 30

 日付:1999年8月31日

 差出人:アンジー・ゼルター、シルビア・ボイズ、 ブライアン・クウェール、 デビッド・マッケンジー、 イアン・トムソン、 ジョイ・ミッチェル、 ジェーン・タレンツ、 レイチェル・ウェナム

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:1999年7月9日付けのフィリップ・バートン氏からの返信への謝辞。私達が提示した本質的論点に対し回答を渋っていることへの懸念を再度述べる。「英国の核政策の違法性」及び「軍縮推進を図るため」英国はもっと多くのことができることを重ねて強調し、「政府が国際法の課する責務に違反する政策を実施しないよう阻止する責任が、私達一人ひとりにある」と信じていることも述べた。核不拡散条約の実現に向けて英国がとりうる実効性のある手段のいくつかを概説した。その中には「核軍事力の増強やその質の向上、発展を阻む法的拘束力を持つ約定を結ぶ」「核軍事力による警戒態勢をすべて解除する」「いかなる事態においても、核兵器を先んじて使うことはしない」等が含まれている。更に、ニコラス・ライル卿が証明したような政府の考え方を論評し、リー・バトラー軍司令官の論文を同封した。また、「私達の抗議手段は平和的かつ合法的であると確信していること」を繰り返し述べ、最新の誓約者143名の一覧を同封した。

 31

 日付:1999年11月10日

 差出人:D.M.ウイリアムズ(Williams)通信事務官 ダウニング街10番地

 宛先:ミスター・マッケンジー

 内容:前回の書簡への謝辞。同書簡は、回答するよう国防省へ転送したとのこと。

 32

 日付:1999年11月12日

 差出人:アンジー・ゼルター(TP2000の代表として)

 宛先:グレゴリー(Gregory)少佐、クールポート及びファスレーンのクライド(Clyde)海軍基地司令官、 FOSSNI

 内容:ファスレーンとクールポートで引き続き行われている犯罪行動に関する懸念を述べ、犯罪的、非道徳的行動をとるよう部下を扇動し、有り難くも無い部署に就かせている彼の責任について述べた。新しいチラシを同封し、それに対する感想と、核犯罪への準備を止めるために、彼らは何をしようと思うかを尋ねた。

 33

 日付:1999年11月15日

 差出人:N.P.B.モートン(Morton)司令官、FOSSNI長官

 宛先:アンジー・ゼルター

 内容:1999年11月12日付け書簡への謝辞。同書簡への対処を考慮するためロンドンの国防省に転送したとのこと。

 34

 日付:1999年11月16日

 差出人:イアン・トムソン、 ジェーン・タレンツ、 シルビア・ボイズ、 レイチェル・ウェナム、 マリリン・クローサー、 マギー・シャンレー(Maggie Charnley)、 キャスリン・アモス(Kathryn Amos)、 ヘレン・ハリス(Helen Harris)、 モラグ・バルフォア、 ジョイ・ミッチェル、 デビッド・マッケンジー、 アンジー・ゼルター、 ブライアン・クウェール

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:1999年8月31日付けの私達の書簡の受領を感謝し、返信を楽しみにしていると告げた。グリーノック(Greenock)裁定のコピーを同封しその幾つかの部分に注目するよう要請; 私達が懸念する「トライデントがもたらす切迫感のある継続的な脅威」また国際人道法の下では、トライデントは違法であるという私達の確信を分かち合うために会談を持つことを要請;更に「私達は直接行動によるキャンペーンを続けるつもりである」こと;「軍関係者やトライデント・システムに巻き込まれている民間人に、彼らが違法行為に携わっていることを勧告する方法を模索しており、そうすることが私達の責任である」と考えている旨記した。

 35

 日付:2000年1月19日

 差出人:スティーブン・ウィルマー、国防省 軍備調整局次官、 ホワイトホール、ロンドン

 宛先:デビッド・マッケンジー

 内容:1999年8月31日及び11月16日付け首相宛ての核軍縮とトライデントの合法性に関するトライデント・プラウシェアからの書簡への謝辞。この件については、すでにトライデント・プラウシェアが受理した複数の書簡に述べられたことに、自分が付け加えることはないこと;政府は昨年10月グリーノック裁判所において下されたギムブレット(Gimblett)判事の判決を承知していること;政府は、英国の最小限の抑止力という概念が国際法に矛盾するものではないと確信している旨述べている。

 36

 日付:2000年2月11日

 差出人:キャスリン・アモス、 モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 マギー・シャンレー、 マリリン・クローサー、 ヘレン・ハリス、 デビッド・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ、 レイチェル・ウェナム、 アンジー・ゼルター

 宛先:トニー・ブレア首相

 内容:1999年8月31日及び11月16日付けの私達の書簡に対する2000年1月19日付けの返信への謝辞。「英国の最小限の核抑止力という概念が国際法と矛盾するものではない」となぜ政府が確信するのか、それを理論的に説明するために、なぜ本質的な問題を持ち出すことができないのかについて私達は強い関心を持っている。この関心に答えるため「仮想の状況をあれこれ考える」必要はないと述べた。

 37

 日付:2000年3月2日

 差出人:スティーブン・ウィルマー、 国防省 軍備調整局次官、ホワイトホール、ロンドン

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:2月11日付けのトライデントの合法性に関する首相宛て書簡への謝辞。指摘されているように、政府は英国の最小限の核抑止力の概念が国際法と矛盾するものではないと確信している旨しるされていた。

 38

 日付:2000年5月10日

 差出人:キャスリン・アモス、 モラグ・バルフォア、 シルビア・ボイズ、 マギー・シャンレー、 アリソン・クレーン(Alison Crane)、 マリリン・クローサー、 ヘレン・ハリス、 デビッド・マッケンジー、 ジョイ・ミッチェル、 ブライアン・クウェール、 ジェーン・タレンツ、 アンジー・ゼルター

 宛先:トニー・ブレア

 内容:1998年3月18日付けの最初の公開書簡を送付して以来、首相とその政府に対して私達が提示してきた中核となる質問について、私達にとって意味のある回答を与えることをあなたが渋っているのに苛立ちを覚える。100キロトンの核兵器使用後の予想結果をご教示いただいたが、このような兵器がいかなる状況において、それが自衛のためもっとも緊急な事態であるにせよ、合法的に使用できるのであろうか。

 (本書簡の全文は書簡40の後に掲載)

 39

 日付:2000年6月17日

 差出人:ジョン・スペラー(John Spellar)軍事担当大臣

 宛先:トニー・ベン(Tony Benn) 議員

 内容:5月18日付け大法官宛ての書簡への謝辞。これらの問題に関してあなたがすでに受領した多くの書簡の内容に、私が付け加えられることは残念ながら何も無い。

 40

 日付:2000年7月3日

 差出人:アラン・ヒューズ(Alan Hughes) 国防省 核政策局長

 宛先:ミズ・ゼルター

 内容:5月10日付け首相宛ての書簡への謝辞。私達の核兵器政策を支える法的論議の中に不問に付したい点があるために、政府は核兵器使用の可能性に関し想像し得る何らかの計画を明らかにできないのである、とあなたは推測している。しかし、それは間違いである。我が国の持つ正確な戦闘能力について、ある程度の不確実な部分を保持することが、最小限の抑止力の概念には必須の要素なのである。

 (本書簡の全文は書簡42の後に掲載)

  

 トニー・ブレア首相 10 ダウニング街 ロンドン SW1A 2AA

 2000年5月10日                 

 国際法重視に関して

 トニー・ブレア殿 

 英国政府の首相として、トライデントに搭載されている、100キロトンにも及ぶ核弾頭の使用に最高の責任を持つ貴方に改めてお願いを致したく、これを書きます。国防省のスティーブン・ウィルマー氏を通じて2000年3月2日付けで返事をもらいました事、感謝いたします。

 しかしながら、貴方の回答は、1998年3月18日に私達が最初の公開書簡を首相と、政府とに宛てて送った時から、一向に質問の核心には触れていない事に落胆せざるを得ません。質問とは端的に言うなら、「100キロトンの核兵器を使わざるを得ない状況といったものがあるとして、たとえ自己防衛の為とはいえ、一体どんな状況下でそれが合法的使用となり得るのでしょうか。」ということです。

 貴方は「核兵器の合法的使用を決定する基準は非常に厳しいものであるべきだ」と述べておられますが、具体的な基準は示されていません。核兵器の使用が合法か否かは、どのような状況下でその核兵器が使用されるに至ったかで判断すべきだし、またその「基準」を厳密に定めるために仮想の空論を行うことは意味がないとも述べておられます。

 国際人道法の主要原則を破ることなく、どうやって100キロトンもの爆発力を搭載した武器を使用できるのか政府に説明を求めたいと思います。その説明が無ければ「攻撃目標として軍、民の区別をつけられない」(国際司法裁判所の勧告的意見 78節)との危惧をもつのも当然のことです。今後いかなる場合に核使用が認められる「状況」が訪れるのかは予測がつきません。しかしながらどんな「状況」であってもトライデントが使用されるのは違法であるのは明白です。

 政府はトライデントの弾頭は外されていると私達に確約しました。しかし、簡単な通達の後に再び弾頭を配備する可能性はあります。私達は独りよがりの論争をしたいのではなく、あなた方政府が、現在、トライデントの使用に関してどのような緊急時対策を持っているのかを聞きたいのです。入手できる情報からわかっている事は、その攻撃目標の多くは人口の密集した地域とその周辺であろうという事です。

 英国の攻撃目標設定の方法はNATOと米国との方法に準じています。情報公開されている米国の資料によれば核兵器の攻撃目標とされるものを以下のように示しています。

 ・大量破壊兵器とその運搬手段、更に大量破壊兵器関連の司令、監督部、生産ライン、補給機関

 ・陸軍とその関連の司令部、監督部、支援部隊

 ・航空防衛施設と支援基地

 ・海軍基地、戦艦、その関連施設組織と指令、監督組織

 ・大量破壊兵器を所有する民間の関係者(組織や実施機関)

 ・地下施設

   [ US Department of the Army, Department of the Navy, Department of the Air Force, “Doctrine for Joint Theater Nuclear Operations” JoinTPub 3-12,1,1996年2月9日]

 同様に、米国の共同核作戦の原則は以下の通りです。

  「共同核作戦の作成にあたっては種々の戦術、要因を考慮に入れる必要がある」

 ・対抗価値標的(対軍需施設)…敵国軍及び軍関係施設、工場、資源庫、戦闘能力を搬出する施設

 ・対抗戦略標的(対軍事施設)…爆薬庫、弾道ミサイル、潜水艦基地、大陸間弾道弾格納庫、弾道迎撃及び航空自衛用の軍事施設、C2(司令、監督)用基地、大量破壊兵器格納施設など。

 [US Department of the Army, Department of the Navy, Department of the Air Force,

 

 “Doctrine for Joint Theater Nuclear Operations”, JoinTPub 3-12,1995年12月18日]

 このような軍事目標物の存在地は私達も知っています。その多くは人口の密集した地域に隣接しています。 トライデントが「武力紛争に適用される法の原則及び規則」(国際司法裁判所の勧告的意見 95節)にのっとったものとは認められないのはこの点にあります。

 「英国が最小限の抑止力を最低限のレベルで維持することのできる国であるためにはこういった分野は極秘にする必要がある」と聞けば、英国政府は核兵器政策の法的見解も極秘にしているのではないかと私達は考えざるを得ません。核緊急時対策が合法か否かに対する政府見解が示されないのならば、「仮説のもとで厳密な境界線を提示することには意味がない」という考えも否定されるのです。戦闘計画の詳細を極秘にする限り、核政策の合法性は私達にとって重要な関心事であり、これは公の調査、討論の対象となるべきものであります。特にトライデント弾頭の使用により法的違反を侵すことになる軍人にとっては重要な問題です。

 政府がトライデント使用の合法性を明確にすることを拒み続けているのは、たとえ国際法に違反しても、ある状況においてはそれを使用するかのような印象を与えます。

 平時におけるこれらの問題の検討が徹底的に行われていなければ戦時の重圧の中で、国際法の厳守を綿密に審査することなど期待できません。 今、この質問に答えが欲しいのです。そうでなければ合法的な行動を保障する基本的なチェックすら機能していないことになります。地球上の見識ある人々は自国の政府が主張するように核政策が違法ではないということに疑問を感じているのです。平和と法秩序を求める私達にはその答えを得る権利があります。核抑止力には極秘事項が不可欠なようですがこれは国際法上の規定、世界の長期的安定、全世界的な核軍縮の見通しといったものに反するものです。

 リー・バトラー将軍の言葉を思い出してください。米国の核軍事戦略指揮官としてあらゆる軍事計画に関与したバトラー将軍は「先のワルシャワ条約機構では12500の攻撃目標が明示されていた」と知って驚きました。それらの標的を個々に調べて、彼は「この軍事計画は今まで見た中で最も不合理で無責任なものだ。」と話したのです。冷戦を核による大破滅無しに乗り越えたのは偶然の産物だったことに気づいたというわけです。米国の攻撃目標設定計画の真の重大さと意味するところを正しく理解するのに30年かかり、彼はこう述べています。「核の時代を終わらせるために私は先頭に立って行動する責任があった。」[99年11月3日 カナダ核兵器廃絶ネットワークにおけるリー・バトラー将軍(General Lee Butler) の証言より]

 英国においても同じように指揮官達は英国の攻撃目標や色々な戦争のシナリオ、戦略を戦場の外で詳しく調べることのできる機会を、そして攻撃が国際人道法の侵すことのできない基本的原則にのっとって行われるのかを調べることのできる機会を与えられているのか、私達は知りたいと思います。

 貴方は私達と会談する用意の無いことを示しました。前向きな回答とはいえません。紛争を解決するのに大事なのは常に外交で、双方の立場がどうであれ話し合いから解決法が生まれるのです。国際間でも国内問題でも。 あなたは北アイルランドの平和のために、暴力行使団体を自認しているグループとは喜んで話し合いを持つとの事です。人を脅すことの無い核廃絶運動家との話し合いを拒むのは、目的達成のためには血を流すことを認める人々を肯定すると思われても仕方がありません。

 話し合いを避けようとする理由の一つは、あなたは自分が法や道徳について深い知識を持っていないと感じている、または、たとえ違法であるとしても政策を変える意図が全く無いからではないでしょうか。正式の信任状を携えた、しかも実力行使を伴わない人達ともこの問題については話し合いを拒絶していると聞いて、その疑いを強くしています。1999年の夏、当時の国防大臣ジョージ・ロバートソンはスコットランドの前法務総裁マレー上院議員や下院議員、法律家等が代表団として会見を申し込んだ際、その目的に意義を認めないという理由でこれを断りました。私達と会って話をするのを拒む理由がどうであれ、私達はこれからもあなたが是非ひざを交えた話し合いの場に出てこられるよう要望し続けます。

 核不拡散条約に関する第六回の各国代表の再検討会議という重要な時期に、英国は国際社会に対して30年来の約束を果たし、意義ある核軍縮に取り組むべきだと提案します。追って、私達は英国核兵器施設の中枢であるオルダーマストンへ行き、市民の軍縮運動を今までと同じく、公然と、責任を持って、そして安全に、非暴力で行うでしょう。核の犯罪を阻止するための誓約書に署名した161名の一覧を同封します。

 平和と愛をこめて

 キャスリン・アモス(Kathryn Amos) モラグ・バルフォア(Morag Balfour) シルビア・ボイズ(Sylvia Boyes) マギー・チャヌリー(Maggie Charnley) アリソン・クレーン(Alison Crane) マリリン・クローザー(Marilyn Croser) ヘレン・ハリス(Helen Harris) デビッド・マッケンジー(David Mackenzie) ジョイ・ミチェル(Joy Mitchell) ブライアン・クエイル(Brian Quail) ジェーン・タレンツ(Jane Tallents) アンジー・ゼルター(Angie Zelter)

  

 41

 日時:2000年7月31日

 差出人:キャスリン・アモス(Kathryn Amos) モラグ・バルフォア(Morag Balfour) シルビア・ボイズ(Sylvia Boyes) マギー・チャヌリー(Maggie Charnley) アリソン・クレーン(Alison Crane) ヘレン・ハリス(Helen Harris) デビッド・マッケンジー(David Mackenzie) ジョイ・ミチェル(Joy Mitchell) ブライアン・クエイル(Brian Quail) ジェーン・タレンツ(Jane Tallents) アンジー・ゼルター(Angie Zelter)

 宛名:トニー・ブレア

 内容:三ヶ月ごとに行っている公開の軍縮キャンプを控え、現在のトライデント・プラウシェア誓約者名の一覧を同封してこれを送ります。4月24日から5月20日にかけてニューヨークで行われたNPT(核不拡散条約)再検討会議において前向きな対応をされたことに敬意を表します。核軍縮に関していえば、言葉による外交活動を主導するだけでは英国にとって充分とはいえないでしょう。実質面でもリーダーシップを取られるよう期待します。私達が提示した重要で真剣な質問に対する本質的な回答を心からお待ちしています。

 42

  (全文は7月3日の手紙の後に掲載)

 日時:2000年9月28日

 差出人:スティーブン・ウィルマー(Stephen Willmer)

     国防省 軍備調整局 次官

  ホワイトホール ロンドン

 宛名:アンジー・ゼルター

 内容:7月31日付の手紙へのお礼とそれに対する返答。 英国の抱える核不拡散の責務や2000年NPTの再検討会議などにも触れた長い手紙。英国の核政策、運搬システム、核分裂性物質、核兵器の準戦略的使用についても触れている。

  

  

  

 2000年7月3日

 ゼルター様               ロンドン SW1A 2HB ホワイトホール

                      国防省 本館 7136号室

                      核政策局長官

 わが国の核兵器政策に関する5月10日付けの首相宛て書簡をありがとうございました。

 これに返答をするよう指示を受けました。

 先ず回答が遅れたことについてお詫び申し上げます。これは国防省内における管理上のミスによるものです。

 軍事担当大臣(スペラー氏)はあなたの書簡を大法官に転送したトニー・ベン議員にはすでにお返事を差し上げております。その内容をあなたはすでに承知されていると思います。そうであれば、3月2日付のスティーブン・ウィルマー氏の手紙に我々が付け加えることは殆どないことがお分かり頂けると思います。彼の言う通り、核兵器を使う基準は非常に厳しいものです。その基準を仮説による推論を元にして厳密に定めることは意味がないとするのが我が政府の立場です。できる事はその使用が考慮された時点での核兵器使用を合法であると判断することです。ある状況で合法である事が別の状況では違法であることもあるのです。英国の最小限の核抑止力が国際法に反していないことを我が政府は幾度となく明確にしております。

 政府が核兵器使用の可能性に関し想像し得る何らかの計画を明らかにしないのは我々の核兵器政策を支える法的論議に不充分な点があるからではないかとあなた方は推論されました。これは正しくありません。我々の持つ正確な戦闘能力をある程度あいまいにしておく事は信頼できる最小限の抑止力には必須の要素でもあるのです。ある程度のあいまいさを維持し、最小限の抑止力を保有するために、この分野で秘密事項は必要なのです。

 お返事が遅れましたこと誠に申し訳なく思っております。

 アラン・ヒュー(Alan Hughes)

  

 国防省 軍備調整局(Proliferation and Arms Control Secretariat)

 次官

  本館 9152室 ホワイトホール ロンドンSW1A 2HB

 2000年9月28日

 ゼルター様

 核軍縮に関する首相に宛てた7月31日付け書簡を受け取りました。国防大臣に届けられ私がお返事をすることになりました。政府の核政策と2000年核不拡散条約(Non-Proliferation Treaty)再検討会議の議事内容についてのご質問ですが順を追ってお答えしたいと思います。

 核兵器に関して

 どの国家でも国の安全保障の条件と、それが核戦力を必要とするか否かを決める責務があります。政府は各国のこのような責務を認めております。同時に政府も英国の国防、外交と安全保障政策を決定する際、そのような責務を行使する権利を持っていると考えており、その際、非核保有国、あるいは核の開発、取得、保持に関してNPTに関与しない国への支援を行わないという、NPT第一条の下での英国の責任を考慮に入れております。NPTの下にある182もの国が、その理由がどうであれ、条約に定められた非核保有国として、自発的に、核兵器保有を求めないという法的拘束力のある確約をした事実を、英国政府は歓迎しています。このような確約を行った国に対して、英国政府はそれを守ることを期待し、また、国際原子力機関(International Atomic Energy Agency)の世界的活動やイラクにおける 国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)/ 国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)といった特定の活動を全面的に支持します。政府はNPTで義務付けられた核兵器の地球上からの排除を可能にするために必要な条件の確立を目指しています。NPTを批准した186ヶ国と共に、まだ批准していない4カ国(キューバ、インド、イスラエル、パキスタン)に対して非核保有国として同意するよう説得を続けています。政府はこれらの国の安全保障あるいは国際間の安全保障と安定といったものが彼らの核の選択権を未解決のままにしておくことで達成されるとは思っておりません。またこれらの国が国際法に準じてそういった選択をする権利を否定しているのでもありません。国際法上の英国の責務を鑑みれば、そうした選択をしない方が自国の利益をより満足させるのではないかと説得したいのです。

 あなたは核兵器の準戦略的使用の可能性が意味することを誤解されているようです。万が一英国によってそれが使われるとすれば、それは完全に戦略的効果の為なのです。英国が持つ、自国とその同盟国を防衛する強い意志を侵略者が誤算したことを、限定的ではあるがはっきりとした政治的信号を送ることで知らしめ、侵略を止めさせることが準戦略的使用の意義なのです。核兵器を所有しているからには、そのような状況下ですべての核兵器を自由に発射するより他に、このような信号を送れる方法を持たないことが責任ある態度であると、政府は考えておりません。おわかりのように、英国が核兵器を使う事態に直面する可能性は限りなく低いのです。

 核政策に関して

 政府はこの地域の全ての国が是認する核非武装地域の設定を支援しています。英国はNPTに従って核不拡散の責務を受け入れている国々に対して長年にわたり、次のような保証をしています。つまり、英国は英連邦とその従属領域、その軍隊、その同盟国、安全保障条約を結んでいる国等に対して、核保有国と連携した侵略行為や何らかの攻撃を受けない限り、それらの国を核兵器で攻撃することはないという保障です。英国はこの同じ保障を、条約議定書への承認や署名を通して、条約の形で核非武装地域に広げようとしています。NPT条約下の核保有国として、また国連安全保障理事会の常任理事国として英国は、他の常任理事国と同じように、非核保有国が核による威嚇や攻撃を受けた場合、援護の手を差し伸べるよう直ちに安全保障理事会に働きかけます。このような条約に定められた責務に従順で、英国とその同盟国に対して侵略行為を企てることのない核非武装地域の安全に対して英国の核抑止政策の存在が脅威になり得るとは考えにくいのです。

 輸送手段に関して

 政府は他の多くの国際組織と同様、弾道ミサイルの拡散に対し、国家間で注意をする必要があると考えています。ミサイル技術制御体制関係の人々を含む公開討論の場で様々な調査のための提案がなされましたがこれに関する国際間の意識は未熟で、はっきりとした統一見解は現時点では出されていません。しかしながらこの問題を闇に葬らないことをここではっきりとお伝えしておきます。

 核分裂性物質に関して

 他国の核分裂性物質の平和的活用の条件については政府が口を出すことではありません。世界中の多くの国が信条的にも実質的にも重要な問題としてこれと取り組んでいます。それは国際原子力機関(IAEA)による保護規定が適用されるか否かを決めるNPTに不可欠の部分でもあります。英国はすでに爆発用の核分裂性物質の生産を中止し、国内の全ての再加工や濃縮のための施設はヨーロッパ原子力共同体(EURATOM)の下にあり、IAEAの査察を受けています。政府は1995年に定められた協定に従って、確認し得る全世界の核分裂性物質の生産を止めるよう、兵器用核分裂物質生産禁止条約(Fissile Material Cut-Off Treaty : FMCT))の交渉を続けていきます。この件における実質的な交渉は、しかしながらまだ始まってはおりません。核兵器用物質がこれ以上生産されないという保証、それに必要な証明手段の確立がなされれば、このような条約は地球上からの核兵器廃絶に向けた大きな、欠くことのできない一歩となるでしょう。後戻りできない核軍縮への歩みの中では、国際保護規定の枠外にある山と積まれた核分裂性物質の存在にも言及しなければなりません。しかしFMCTの範囲内のみでこの件の論議を進めることは、全体交渉開始を遅らせ、より良い結論への道のりを遠ざけることにもなりかねません。更に、核分裂性物質の蓄積に関しては、米・ロ・国際原子力機関三者首脳会議や、ロシアの余剰プルトニウム処置問題に関するG8協議で、また英国が戦略防衛の見直しの中で提言したような各国独自の政策を通してすでに述べられてもいるのです。こういった視点から、政府は蓄積された核分裂性物質の問題をFMCT交渉に持ち出すことには賛成できないのです。

 軍縮基盤に関して

 軍縮という領域で監督、実行の鍵を握るのは国際原子力機関(IAEA)であり、包括的核実験禁止条(CTBT)機関であります。その使命を果たすために、政府は一貫して予算的支援を続けて来ました。英国に課せられた寄付額はすでに払い終えております。国防省、外務省、通産省は全て積極的に核拡散の防止、核軍縮の推進に努めており、必要に応じて国家予算も投じています。例えばオルダーマストンの原子力兵器基地では核兵器の削減、廃絶の確認行動に着手しており、今年の核不拡散条約再検討会議では向こう3年間に8400万ポンド(約148億円)の予算をソ連時代の核の安全保障対策に計上しています。政府はすでに10年以上にわたり、ロシアのプルトニウムを核兵器に使わず、安全に処理するために7000万ポンド(約123億円)の支出を公言しています。これはまた戦略兵器削減交渉(START)プロセスと平行して行われる重要な事です。

 あなたは2000年NPT再検討会議における最終決定(Final Document)の採択方法に関する幾つかの質問をされました。この最終決定は一括法案として討論され採択されたもので、その各々の側面をばらばらにしては扱えないものであることをわかっていただきたいと思います。政府は再検討会議の結論に満足しております。地球全体の核不拡散と軍縮に向けた動きの中で、NPTが重要な土台となることをはっきりと示したものであるからです。外務省大臣ヘイン氏を団長とする英国連邦代表団はこの会議で意義ある建設的な役割を果たしました。再検討会議で支持された一連の法案の多くは英国がすでに戦略防衛の見直しで提言し、以後用いていた法案であった点も評価できるものです。再検討会議で出された結論は、これから先何年にもわたる仕事の実質的な枠組みとなるもので、政府はこの合意内容を具体的な国際間での進展に反映させるべく努力をしています。

 再検討会議を終えて、その最終決定に従って政府が先ず取り組むのはSTARTプロセスにおける米ロの更なる戦略兵器削減であり、早急なCTBTの実質的効力発揮、早急なFMCT交渉の開始と完結です。政府はこの会議が確認作業に対する重要性を認めたことを特に評価しています。再検討会議に出席した英連邦の代表議員がこれを提案しましたが、これはすでにオルダーマストン原子力兵器基地で私達が行っているものなのです。信頼できる強固な確認作業の実施は世界を核兵器から解放するために不可欠であり、そこから生まれる様々な問題を解決していく中に大きな進歩が見られるのです。そしてそのために英国が果たさなければならない役割は大きいのです。

 英国の最小限の核抑止力を更に削減することに関する政府の見解についてのお尋ねがありました。政府はすでに国内の核兵器工場でかなりの量の単独削減を行ってきました。戦略防衛の見直し以降、英国は他の核保有国と比べてはるかに少ない核兵器しか保持しておりません。トライデント発動の可能性も従って大変に少ないのです。細かいようですがあなたの手紙にあった数字は間違っていて、英国が現在米国から入手しているトライデントD-5ミサイルは200機ではなく58機です。機能できる弾頭の数も200には達していません。戦略防衛の見直しでは他の対策も審議されましたが、危機下で英国の核抑止が果たすべき安定性を損ない、不安を招きかねないという新たな危険を理由に除外されました。我が国の核兵器に関してはNPT第1条で定められた核不拡散の義務、そして国家の安全保障の条件を満たす範囲で完全に透明性を保っています。他の核保有国と比較しても英国の透明性は明らかに勝っています。更に細かい間違いを指摘すれば、国内での弾頭の輸送は周囲の地域に危険を及ぼすという可能性はありませんが、国防省は更に、事前に輸送地域の警察に対し、輸送の時期とルートを伝えています。

 英国の核抑止力は、国際社会における安定性の助長を考慮した国際戦略構想のもとで必要と認められたものであり、安全確保の主旨にのっとったものなのです。現在の戦略構想では戦略防衛再審査で得られた結論に政府が修正を加えるといった意向はありません。しかし、様々な状況下で明らかなように、政府は一貫して地球上の核兵器除去を推し進めるものであり、国の安全保障を維持するために核兵器を使用するといった判断を行わずに済む世界を作ろうと努力するものであります。この春のNPT再検討会議において、わが国の代表は全世界からの核兵器削減と廃絶に向けた系統的、発展的な力を求める提案書を提出し、広く認められました。参考までにコピーを添付します。

 次のお尋ねはわが国とそして他のヨーロッパNATO加盟国における米国の戦術核兵器の配備についてでした。加盟国はヨーロッパの準戦略的軍事力において可能な限りの兵器をすでに削減しており、それはこの10年間で85%以上、冷戦中に比べれば95%にも及んでいます。格納庫数も約80%は削減されています。NATOがヨーロッパで所有する準戦略核兵器は数百であり、数千の同種兵器を所有するロシアと比べて少ないことがわかります。わが政府、そしてNATOの国々は、英国とその同盟国の安全保障政策において核兵器が持っている役割は減少しつつあり、実際に核兵器を使用する可能性は限りなく少ないことを明言しております。NATOが核使用に至るのにかかる時間は数分間ではなく、数週間であるのが現状なのです。しかしながら、ヨーロッパ・環大西洋地域で起こり得る大戦の不条理性を強く訴えることで、ヨーロッパの安全保障と安定を確保するために核兵器の貢献は大きいとNATOは判断しているのです。ヨーロッパ内に米国の核兵器基地を置くことと、NATOに専心することでヨーロッパと北アメリカのNATO加盟国間の基本的な政治的、軍事的絆は作られるのです。同時に、非核保有国がNATOの核政策に同意することで、NATOは連結を強め、加盟国が自分達の安全を維持し、その責務とリスクとを分け合って背負っていくことの表明になるのです。準戦略的核軍事力に関するNATOの現行の政策を、信頼できる抑止力の主要な基本原理として我が政府は全面的に支持するものです。

 次のお尋ねは核兵器の先制使用を防ぐために政府はNATOの核ドクトリンを修正するのか、というものです。NATOには先制使用、不使用に関する規約はありません。加盟国が侵略を受けた時どう対応するのかは予め決められているべきでなく、実際にそのような状況が生じた時に決定すべき事とされているのです。そうすることで「侵略者に対して加盟国はどう反撃するかわからない」という意思表示しているのです。政府もこの考えを支持するものであり、修正の必要を認めていません。核兵器の先制不使用という条文が実際に国際信頼や核軍縮を助長すると判断されてはいないのです。仮に核保有国が何らかの極限状態に陥って、自己防衛のために核兵器使用もやむを得ないという事態になった場合、理論的に実際に起こっている危機とはかけ離れた観点から考えられた先制不使用の条文にのっとって決定を下すのは難しいことです。NPT再検討会議の最終決定で言われている通り、核兵器使用やその脅威から身を守る唯一の絶対的な保障は核兵器の全面排除なのです。そのゴールに向かって現在の安全保障体制や非核地帯を進めて行くことが現実的で実効性のある方法であると政府は確信しています。

 政府は全世界的核兵器廃絶に向けての前進的な確約に合意できればいつでも英国の核兵器を各国間協議の場に提供することを明らかにしています。つまり全ての核保有国が核の全面廃止に同意し、それに従うという取り決めに賛同するものであります。しかしながら英国の核兵器工場を削減する前に米国とロシアの核兵器工場の更なる削減が必要であるという事もまた明らかにしています。2000年に行われたNPT再検討会議とその準備委員会で出された共同声明をふまえて、政府は核保有国間の核不拡散、核軍縮に向けた協力体制を維持すべく努力していきます。

 以上、現状をお分かり頂ければ幸いです。

 ステファン・ウィルマー

  

  

3.3 警察との対話 

 1 .

 日付:2000年6月20日

 差出人:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)

 宛先:警察部長 ジョン・オール(John Orr)

 コピー送り先:「L」分団 監査官 ステファン・ギリガン(Stephen Gilligan)

 内容:8月1日に予定されている封鎖について州議会に報告をした。国際法に準じて行われるTP活動の法的責務とこのキャンペーンの概要を説明した。ストラスクライド(Strathclyde)警察がその職務として取り締まることは認めたが、活動家を逮捕しないこと、トライデントを犯罪的陰謀として取り調べないことを要請した。

 2.

 日付:2000年6月24日

 差出人:「L」分団長 ハリー・バンチ(Harry Bunch)

 宛先:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)

 内容:ストラスクライド警察は、異議申し立ての権利と法執行の権利との絶妙なバランスを公明正大に行う旨通知してきた。私達の「法解釈」についてはコメントできないとしている。

 3.

 日付:2000年8月11日

 差出人:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)

 宛先:警察部長 ジョン・オール(John Orr)

 コピー送り先:ハリー・バンチ(Harry Bunch)

 内容:軍事政策に関する事項なので、ジョン・オール氏宛てに書簡を送ることを説明した。

    ストラスクライド警察が、トライデント活動の合法性を認めながら活動家を逮捕すれば、それは決して公明正大ではないと述べた。トライデントの法遵守に対する警察の「公正な判断」を再度要請した。

 4.

 日付:2000年8月24日

 差出人:警察部長 ジョン・オール(John Orr)

 宛先:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)

 内容:ICJ(国際司法裁判所)勧告、ヘレン・ジョン抗告、ギンブレット判定そしてこれから行われる法務総裁の事件付託の審問を踏まえて、これを「抗告」とみなしている。警察の公正な対応について繰り返し、1998年にTPがダンバートン(Dumbarton)警察に提出した政府への告訴に言及した。ジュネーブ条約はストラスクライド警察には適応されないと述べられていた。

 5 .

 日付:2000年9月6日

 差出人:デビッド・マッケンジー(David Mackenzie)

 宛先:警察部長 ジョン・オール(John Orr)

 内容:ストラスクライドに求めているのは対応の公正さではなく、法を守り執行することであると述べた。ヘレン・ジョン判決には限界があること、国際法の原則をTPにも適応すべきであることを説明。担当区域における活動に国際法を適応するか否かについて独自の相談ができる民間警察の必要性を再度訴え、ジュネーブ条約適応の可能性も指摘した。

3.4  「これがお役に立つといいのですが」

 国会での声明、質疑応答、及び政府大臣からの書簡を検討。

 このタイトルは政府からの手紙の最後によく記されている文章を皮肉ってつけたものである。私達からの質問を拒絶した後で記されることが多いのだが、そのくせ、それらの手紙は不思議と役に立つのである。つまり手紙は核施設を自らが仕掛けた爆弾のわなにかけることがあるのだ。(hoist with its own petard)このわなは時ならぬ時に発火する火薬のたるに付いている点火装置である。ちなみに‘hoistユという言葉はもともとオランダ語で“爆発”という意味である。

 この分析は反核運動家や、友好的な議員が提起した議会での質問、戦略防衛の見直しなどからのおびただしい量の手紙に対する政府からの返事をもとにしたものである。それらはトライデントの法的正当性を主張している。政府の主張や手紙の内容は繰り返しが多いのでここで新たに述べられていることは少ない。ジュネーブ条約への追加議定書や核兵器交渉における英国の記録、警備廃止や、核兵器の先制不使用に関する見解といった他の分野の興味があるのならば、世界法廷プロジェクト(World CourTProject)のジョージにその旨伝えれば送ってもらえる。

 形式は政府の資料の引用にコメントを加えたもので4つのセクションからなるが、多少重複した部分がある。資料の部分のみが繰り返し載っている場合もあり、同じ資料が複数のセクションに載っていることもある。

英国の核政策

 国防相ジェフリー・フーンからマレー上院議員へ、1999年11月3日

  「現状の安全保障の状況の中で最小限の核抑止力を維持しながら、兵器制御の改善に向けた行動と核兵器を廃絶するという究極のゴールとを結びつけることが、英国の安全保障に対し、倫理的、武力的に一貫して大きく寄与するものとなるのである。」

 これは英国政府の見解を集約したもので、1998年7月8日の戦略防衛の見直し(SDR)、60項を繰り返したものである。

 「トライデントは我々が持つ唯一の核兵器である。今後30年間は抑止力としての効力を持ち得るものである事を認識する必要がある。このために我々は4隻のトライデント潜水艦が必要なのである。」(SDR 62項)

 こうして「現在の安全保障状況」が数十年にもわたって正当化されるのである。2028年まで続くのであれば、私達の多くはどっちみちもうあの世に行っているのかもしれない。

 「(中略)トライデントに代わるものの必要性がはっきりと証明されたとして、それを設計、生産する最小限の能力さえ放棄してしまうのは時期尚早だ。」(SDRの支援文「核抑止、兵器制御、核拡散」14項)

 これはまさに政府が核兵器の無い世界などあり得ないと思っている事の表れである。「核抑止が存在する」のではなく、単に核を持っているのである。このSDR支援文「核抑止、兵器制御、核拡散」の13項には次のような記述もある。

  「潜水艦が戦争抑止のためのパトロールをするのを止めろとか、ミサイルから弾頭を外して陸上に保管しろなどという、更に急進的な「警備廃止論」の検討も行った。しかし、潜水艦を基盤にした核兵器による最小限の核抑止力を維持するためには、どちらの提案も取り入れることはできないという結論に至った。」

 世界法廷プロジェクトのある支援者は次のように指摘した。

  「人類と、この地球上にいる全ての生き物の運命は、核兵器工場を維持するという究極の、抗えない正当化によって危険にさらされるのである。」

 これはしかし1996年7月8日に出された国際司法裁判所(IJC)の勧告的意見105節Fの見解とは違っているものである。

  「厳重で実効性のある国際監視のもとで、あらゆる局面における核軍縮に向けての最終的な誠意ある話し合いを求めていく責任がある。」

 これは英国が2000年5月の核不拡散条約(NPT)再検討会議でその行動要綱を認め、2000年11月には「新アジェンダ」決議案 に同意して確約した内容と食い違いがある。

 国防省 スティーブン・ウィルマーからアラン・ウィルキー(Alan Wilkie)へ

  2000年4月20日

  「核廃絶を実現させるための確実な方法として、最小限の核抑止力の保有は、賢明で誠実なる政策である。これは英国の身近な安全保障と将来目指しているゴールとのどちらのためでもあるのだ。」

 核戦争への準備をすすめている実情で、どうやって核兵器の無い世界の実現に希望をもてるのか、あいまいなままである。

情報伝達の拒否

 元国防大臣ジョージ・ロバートソン(George Robertson)からオースティン・ミチェル(Austin Mitchell)議員へ

  1999年8月23日

  「親愛なるオースティン

  トライデントの合法性についての話し合いを申し出られた1999年7月22日付けの手紙、

  受け取りました。

   しかし、このような話し合いで多くの目的を達成できるとは考えにくく、我々は再度我々の立場を明確にしたいと思います。核兵器を所有し、使用することが、指摘されているほど違法なことではないと我々は考えます。また、我々の意見は国際司法裁判所の意見と相対するものでもありません。国際法にのっとって、核兵器の使用が認められないのならば、そのように彼らは通告するはずです。」

 これはまさに典型的な拒絶姿勢である。この時、会談を申し込んだのは3人の国会議員とスコットランドの前法務総裁マレー上院議員であった。事情をよく知っている、身分の高い人達とでさえこの問題を話し合うことは完全に拒否されたのである。しかも確固たる理由も無く、一方的な主張によって。

 国防省 アラン・ヒューズ(Alan Hughes)からシスター・メリー・ランパード(Sister Mary Lampard)へ 2000年6月26日

  「トライデント核弾頭の出力量についてのご質問ですが、政府としてはこれにお答えできません。そのような情報は機密扱いとなっています。」

 トライデントの合法性はその効力、つまり出力量にかかっている。機密事項となっている情報は違法性に触れられないための一つの方法である。

 国防省 スティーブン・ウィルマーからアンジー・ゼルターへ 2000年3月2日

  「核兵器を合法的に使用すると決定する基準は非常に厳しいものであるべきです。しかしある状況下で合法とされるものが、別の状況下では違法であることもあり得ます。その基準線をどこで引くのかを厳密に定めるための仮想の推論を行うことは意味が無いと政府は考えています。また、国防省が核兵器使用の可能性をも含めて概念的に構想する計画案を、公開審査の場に出すべきだとも考えていません。この分野における非公開事項は、英国が最低限のレベルで安心できる最小限の核抑止力を持っていられるためには重要なことなのです。」

 この文章は全体として読んで頂きたい。「概念的構想」には必然的に法的基準が含まれているが、これらの法的基準そのものは抑止力維持に不可欠であるために公開することはできないとしている。従って法基準の考え方も機密扱いにされることになる。このような規制の下で、裁判所はどうやって正しい判断を下せるのであろうか。どのようにトライデント反対派は法の限界を確認できるのであろうか。こういった疑問は次に挙げる国会答弁で更に確固たるものとなった。

 核兵器の合法性 1999年11月17日_12月21日

 下院 書面による質問 1999年12月13日 コラム30w

 核抑止政策

  トニー・ベン(Tony Benn)氏:法務次官に、英国核抑止政策の合法性に関する見解を求める。[102132]

  法務次官:(中略)慣習上(代々引き継がれた政府間の)質問に対する法務官からの回答の要旨も、その質問が提出されたという事実も例外的状況を除いては非公開とする。

  トニー・ベン氏:法務次官に、核抑止政策の国際人道法違反の政府内責任を個人的に訴追する許可を求めた事に対する政府側の説明について尋ねる。[102131]

  (中略) 1957年のジュネーブ協定に基づき、去年出された個人的訴追許可の請求は受理された。しかし、法務官は政府の核抑止政策は国内法にも国際法にも違反しているとはいえないとし、従って、許可は認められなかった。

 当然、このような発案は多くの核兵器反対者から出され続けてきた。ここで、何年にも及ぶこれらの厳しい拒絶体制についてもう少し考えてみよう。

 軍事担当大臣 ダグラス・ヘンダーソン(Douglas Henderson)からニゲル・ウォーターソン(Nigel Waterson)議員へ

 1999年6月1日付けレスリー・ダルトン(Leslie Dalton)の手紙に答えて

  「ニゲル様

  (中略)“(国際司法裁判所の勧告的)意見”が英国及びNATOの全く自衛的な核抑止政策を根本的に変革するよう求めるものにはならい事を確信しています。なぜならトライデント潜水艦の操作員達はニュルンベルグ諸原則に従って合法的な作業を行っているからです。

  英国の核兵器使用の決定は常に大臣達が中心となってされるべきものであります。核の選択肢は、最小限の安心できる抑止力を維持するため我々に必要なものであり、大臣や官僚、役人が戦略防衛の見直し(SDR)の内容に従って、その選択肢を考慮しますが、その際政府内の法律助言者から法に関する助言を受けることができるようになっていました。また、何らかの攻撃から自国を守るために核兵器の使用を考えなければならないような緊急の事態が起こった場合にも、法に関する助言が与えられるのです。このような状況下での法に関する情報操作が充分であったことに我々は満足を覚えています。」

 とても説得力のあるものとはいえないが、これはトライデントの合法性を戦略防衛の見直しと照らし合わせた記述である。どのような「法に関する助言」が与えられたのかはわからないままである。核危機の最中に、熟考された法的助言が求められるとするのは真実味を欠き、80年代の民間防衛構想にも共通するものである。

英国核抑止の合法性に関する政府見解

 国防担当大臣ジョン・スペラー(John Spellar)からアラン・キーン(Alan Keen)議員へ

 2000年7月27日付けジョアンナ・バズレー(Joanna Bazley)からの手紙に答えて

  「実際、国際司法裁判所は、核兵器使用による脅威、またその使用の法遵守は、国際法で特に禁止されてはいない他の兵器の合法性を決めたのと同じ法によって統制されるべきであると認めているのです。合法か否かは使用の脅威、または実際の使用がどのような状況下で実行されるのかにかかっています。ある状況下では合法だったものが他の状況下では違法であることもあるのです。合法と違法とを分けるラインをどこに引くかを厳密に決めるために仮想の推察を行うことに、政府は意義を見出せないでいます。(中略)

  

  国際司法裁判所の勧告的意見を考慮に入れれば、最小限の核抑止力を持つことは国際法と完全に合致していると政府は認識しています。ですから公開の質疑に答える必要はないのです。」

 上記の抜粋文で、最初と最後に国際司法裁判所の意見を持ち出して説明していることに注目して欲しい。こういった説明の仕方は幾つかの手紙や供述で使われている。だから私達はその意見の持つ権威について論争する必要はないのである。政府がもうはっきりさせてくれているのだから。

 しかしながら大きな二つの問題点がある。この回答は核心に触れていない。政府に要求しているのは「仮定的考察」ではなく、一般的な法のガイドラインであるという点。政府に求めているのは「核兵器」全般の合法性についての説明ではなく、トライデントについてであるという点である。

 国防省 スティーブン・ウィルマーからジェフリー・カーナル(Geoffrey Carnall)へ

 1999年12月15日

 「国連憲章2(4)条に反し、51条の全ての項目にも合致していない、核兵器による威嚇と力の行使は違法である、という裁判所の判断に政府は全面的に同意するものです。2(4)条では国連の主旨に反する方法での力の行使を禁止しています。(中略)

   加えて、裁判所が明らかにし、英国が証人として裁判所で申し立てたように、国際人道法の主旨と規則は他の全ての武器と同じように、核兵器にも適応されるものであります。(中略)

  

   政府がすでに明らかにしている通り、英国が核兵器の使用を視野に入れるのは自衛のため、そして緊急事態が生じた時のみで、それも武器使用の戦闘に適用される国際法、人道法に準ずるものです。(中略)

  

   しかしながら核兵器などの武器が及ぼす脅威、またはその使用が違法か否かはその時のあらゆる状況を考慮して判断されるべきものです。具体的にどのような状況に直面するのかを事前に予測するなどできることではありませんし、特定の状況を仮定して考えてみる事が有効であるとは思えません。(中略)

 政府が法的な立場を説明した中で、これが最も詳しい説明である。「特定の状況」を考慮することは意味が無い、と拒否するのは、政府からの手紙で常に述べられていることである。

 しかし、大筋で政府は英国世界法廷プロジェクトとトライデント・プラウシェアの考え方に非常に近い立場をとっていると言える。それは核兵器が人道法に準ずるべきものであり、人道法はどんな状況においても適用され、抗えないものである、という事である。

 それならば意見(国際司法裁判所の勧告的意見 86節、105節2D)が示すように、攻撃目標として民間と軍事施設とを区別できないような兵器は違法である、という私達の主張を、政府は認めるべきではないのか。それが例え脅威や攻撃からの自衛のためであっても、人道法が定める規定には従わなくてはならない。(勧告的意見 42節)

  ここに大きな落とし穴がある。この説明のどこにもトライデントがこの条件を満たせるかという記述がないのである。だから公的に責任のあるトライデントの法監査が求められるのである。

  核兵器の合法性 1月10日

  下院 書面による質問 核兵器

 

 フーン(Hoon)氏: (中略) 核兵器に関する章(「軍隊のための武力紛争に関する法律」より)を引用します。

    「国際法には核兵器の使用禁止を明示あるいは暗示する特定の規則はない。核兵器使用の合法性は、自己防衛や敵対行為対処の生得権を規制するような規則を含む国際法の一般的な規則の適用にかかっている。これらの規則は自然全体の否定を暗示するような、現実の状況からかけ離れたところで適用されるものではない。核兵器の使用、その使用による脅威がある特定の場合に合法であるかどうかは、その時のあらゆる状況にかかわっている。核兵器も普通の兵器に適用されているのと同じ一般的な原則に言及しながら取り扱われるべきである。(中略)」

  

  政府の「これらの規則は自然全体の否定を暗示するような現実の状況からかけ離れたところで適用されるものではない。」という一文は裁判所の「核兵器の使用及び脅威は武力紛争においては一般的に国際法の規則とは相容れないものであり特に人道法の規則や原則には全く合致しないものである。」という判決文と食い違っている。

  フランシス・ボイル(Francis Boyle)教授は以下のように述べている。

   「この言葉は役に立つ。少なくとも将来英国の核兵器廃絶運動の法廷で使える言葉である。私達は英国政府の説明を言葉どおりに受け取り、特定の核兵器の是非について論争するだろう。これは私達がグリーノック(Greenock)でずっと行ってきた事であり、核兵器の違法性について抽象的な論議をしてきた訳ではない。そうではなく、トライデント_の特徴(標的戦略、破壊力、損傷量、配備、司令指揮、など)が国際法の下で、犯罪的行為であると論じたのだ。」

  

  ピーター・ワイズ(Peter Weiss 反核法律家協会)は次のように述べている。

   「(中略)勧告的意見の35及び36節で“核兵器の独特の特徴”が挙げられているが、とりわけその巨大な破壊力は“いかなる空間にも時間にも閉じ込めておくことができない”ものであり、その潜在的な力は大惨事を引き起こし得るとしている。35節の第3段落では核兵器から排出される放射線物質が“広い範囲にわたって健康、農作物、天然資源及び人口統計”に及ぼす影響について述べている。裁判所の見解は“イオン化された放射線物質は将来的に環境や食物、海の生態系を破壊し、次世代の人々に遺伝因子による欠陥や病気を引き起こす可能性がある。”というものである。トライデント_の持つ破壊力を知ればこれらが全てトライデントへの警告であるとわかるはずである。」

 ピーター・ワイズ氏は首相が引き合いに出した“自己防衛の生得権”についても述べている。勧告的意見の41節でICJは“自己防衛とは武力攻撃に比例し、かつ反撃のために必要な措置しかとってはならない”という一般的に受け入れられている原則を踏まえ、ニカラグアのケースを引用した。そして42節で次のように言っている。

    「このように比例性の原則から言えば全ての状況下で核兵器の使用が全く認められないという訳ではない。しかし同時に、自衛の法のもとにおいて比例性のある武力の行使が合法であるためには、武力紛争に適用される法、とりわけ人道法の原則と規則の要件に合致しなければならない。」

 簡単に言ってしまえばこういう事だ。__ あなたが核兵器を見せてくれれば私も私の兵

 器を見せましょう。これは人道法に反するものでありますから、自己防衛だとか必要性

 だとか、そういったことには触れないで下さい。___

 しかし、英国のトライデント・システムには準戦略的要素があって、幾つかのミサイルに付けられている弾頭は一機でしかも爆発力の弱いものであると、主張されるかもしれない。

 国防省CHJ・デービス(CHJ Davies)からリズ・ウォーターストン(Liz Waterston)へ  1998年10月27日

   「準戦略的軍事力は、戦略核兵器の応酬が避けられなくなることを怖れる自己抑止が働いて、核武装した侵略者が、我々に対して賭けに出るようなことが絶対にないことを保証するための重要な要素である。そのような時に限定的に核兵器を使って、英連邦が自国を守る確固たる意志を持つという政治的メッセージを相手に送る事ができるからだ。英国はトライデントのミサイル弾頭の威力を一定の柔軟性を持って選ぶことができる。」

 この準戦略的軍事力が「たった」1キロトン位の小さな爆発力から通常の100キロトンの爆発へ移行するまさに第一段階となると言える。「たった」1キロトンでもそれは大きな爆発でありトリニトロトルエン(強力な爆薬)を満載したトラック35台が人ごみの中庭に駐車しているようなものである。そこから致死量の放射性物質が流れ、無差別の殺戮が行われるのだ。 はっきりさせておきたいのは、トライデントがたとえそのように最小限の威力で使えたとしても、100キロトンの爆発力を保有していることに変わりはなく、そのような破壊のモンスターは法的な議論の対象となるべきものなのだという事である。

 核兵器の合法性 1月10日

 下院 書面による質問 核兵器

   コービン氏(Corbyn):国防相への質問

 (1)100キロトンのトライデントが軍事標的に与える長期的影響についてどのような調査を行ったか。[104074](2)100キロトンのトライデントの弾頭爆発が軍事標的に隣接する地域の市民に及ぼす影響についてどのような調査を行ったか。[104073] 

   フーン氏:我々が核抑止の基盤として所有しているトライデントのミサイルの弾頭は

 1994年以来外されています。必要最小限の抑止力の判断材料は包括的なコンピューターモデルから得られるもので、これにより、核爆発の影響は調査されるのです。多方面にわたる要素がこの調査で考慮されます。1998年2月4日、ロバートソン上院議員がニューポートウエスト選出の下院議員フリン氏に示した公文書の655wでその調査対象を次のものとしています。兵器の威力や構造。採られている運搬システムの精密性。標的の特徴と構造。周囲の地勢の特徴。爆発の高度。地質学的、気象的条件。

  なお、抑止、安全、国際協定に関する政府情報へのアクセス実施規約の控除項目1にあたるので英国核兵器威力の情報は公開されていません。

 「調査で考慮される多方面にわたる要素」のなかの最も重要な要素__ 一般市民へ与え得る影響__については触れられていない。このような問題を避けている限り、また、トライデントの核威力が公開されていない限り、私達も、政府顧問法律家も、核兵器使用の合法性について調査したなどとは言えないのである。

 国防相 スティーブン・ウィルマーからジョージ・フェアブラザー(George Farebrother)へ 1999年9月10日

    「国際人道法の一般原則が英国とスコットランドの法律にも則している事はあなたがおっしゃる通り当然のことです。あなた方は英国の核抑止力はこれらの原則に反しているのだからこれに反対することは法的に正当であるとしている訳です。政府は非暴力で、法律に従って主張を起こす権利を尊重しています。しかしながら、ご存知のように政府はトライデントが国際法に準じているという事、又これを操作し、運営する職員の仕事も完全に法を守っているという事に確信を持っております。英国裁判所がこれと違うことを認めない限り、警察や警備員が私有地への不法侵入、防衛装置への不法接近を防ぐのは法に基づく義務なのです。(中略)

 第一行目では英国世界法廷プロジェクトの考えがトライデント・プラウシェアのそれと全く一致している。最後の行は将来的に覚えておく必要がありそうだ。「英国裁判所がこれと違うことを認めない限り」の一文に全てがかかっていそうだからである。

 法務長官室 スティーブン・パーキンソン(Stephen Parkinson)からアンドリュー・グレイ(Andrew Gray)へ 2000年1月7日

    「核兵器、特にトライデント・システムに関する法的な問題が提起され、その調査をする義務があるとするあなた方の意見に法務長官は同意しておりません。政府は英国の最小限の核抑止は国際法に基づく責務であると確信しております。」

  

  法務長官側からの唯一の手紙である。自信に満ちている。「その調査をする義務」が必要に

 なる時がくるのを見届けなくてはならない。少なくともこの手紙の終わりに「これがお役に立つといいのですが」は書かれていなかった。

 国防相 ジェフェリー・フーン(Geoffrey Hoon)からマレー上院議員へ

     1999年11月3日

  「又我々は世界中の核兵器や、生物兵器、化学兵器蔓延の危険を取り除く為の努力もしておりますが同時に、英国の利益を守るための強健な防衛力をも維持している訳です。

   核兵器を使用するのはあくまでも自己防衛の必要時、緊急事態発生時であります。」

 これには多くの疑問を抱く。核兵器の使用は緊急事態発生時のみ、という部分である。これが何を指しているかが決して明らかにされないのである。この文によれば生物兵器や化学兵器の脅威を取り除くため、「英国の利益」を守るために核兵器が使われることがあり得るというのだが、それが緊急発生時の説明なのであろうか。あまりに簡単すぎる説明ではないか。政府は私達の再三にわたる要望を無視してこれについての明言を避けてきた。「英国の利益」とは一体何なのか、決してはっきりとは示されないままである。

ニュルンベルグ原則に対する担当士官責任

 軍事大臣 ダグラス・ハンダーソン(Douglas Henderson)からニゲル・ウォーターソン(Nigel Waterson)下院議員へ

 レスリー・ドルトン(Leslie Dalton)からの手紙に答えて 1999年6月1日

   「(ICJの勧告的)意見が英国やNATOの完全なる防衛のための核抑止政策を修正せよというものではないと確信します。つまりトライデント潜水艦で作業をしている士官はニュルンベルグ諸原則に反した行動をとってはいないという事です。」

  

 ニュルンベルグ諸原則に関する発言は簡潔で根拠の無いものである。しかし、ここで私達は国際間の法規定についての勉強が必要であることをはっきりと認識することができた。

 下院 書面による質問 1999年12月20日

 コラム362w (国際法規定に関する)研修

 ドゥリュー(Drew)氏:国防相の書記官への質問

 士官達 (b)その他の軍人達 に対して国際法規定を理解するためのどのよう

 な研修が行われているのか教えて頂けますか。[103228]

 スペラー氏:国際法に関する研修、特に「武力紛争法」に関する研修はハーグ条約、ジュネーブ条約での決定事項に従って、陸、海、空、全ての軍隊で士官にも他の階級の軍人にも基礎研修として行われております。更に専門養成コースでは軍事行動や戦闘遂行の合法性などを盛り込んだ国際法研修が広く、単隊や(陸,海,空)複数隊合同で行われています。実際に配備につく前には、通常、法律の専門家による関連国際法の研修や講習が全ての軍隊の編制部隊に対して行われています。

  ということは、トライデント潜水艦で作業をしている士官達はニュルンベルグ諸原則が自分達にも及んでいて、法に反して発せられた、発射せよという命令に従ってはいけないということを知っているはずである。下記に示した資料から判断すると、基本的なガイダンスは 「軍隊のための武力紛争法( Law of Armed Conflict for the Armed Services) 」を基にしているようで、これは2000年末には改訂されることになっている。

  核兵器の合法性   1月10日

  下院 書面による質問 核兵器

    

   コービン(Corbyn)氏:国防相への質問

  1.  核兵器の使用または使用による脅威を行う事を命令される軍人に対し、ニュルンベルグ原則を適用するということを公言するのかどうか。
  2.  トライデント操作軍人に、国際司法裁判所の核兵器に関する勧告的意見に基づいて国際法に従う責務があることをどの程度知らせているのか。

      フーン氏:(中略)(「軍隊のための武力紛争法」の中の)核兵器に関連する部分は1996年の国際司法裁判所の核兵器使用及び使用の脅威に関する勧告的意見に従って再度承認されています。

 核兵器に関する部分は再承認されているという事実は、勧告的意見が国の法判断基準や、ト

 ライデント潜水艦への法的勧告に何の影響力も持っていなかった事を示している。しかし、以下のやり取りを見ると、この勧告の受け止め方の重要性がひどく軽んじられていることがわかる。

 核兵器の合法性  1月10日

 下院 書面による質問 核兵器

   

   コービン氏:国防相への質問

   トライデント使用の際の国際法適用についてどのような討議を誰と行ったのか。[104072]

   フーン氏:トライデント使用の際の国際法適用について特別な討議を行ったわけではありません。英国の最小限核抑止は国際法と相容れないものではありません。

   コービン氏:国防相へ質問

   トライデント潜水艦に勤務する軍の高官たちに、核弾頭の具体的な破壊力や、ミサイルが攻撃することになる標的について、どのような情報を提供しているのか。[104077]

 

 フーン氏:我々の核抑止力を支えるトライデント・ミサイルの弾頭は1994年以来外されています。核兵器を使用せざるを得ないような状況になった場合、巡視している潜水艦の乗組員はその職務遂行に必要な情報を得ることになります。抑止、安全、国際協定に関する政府情報へのアクセス実施規約の控除項目_にあたるので、これに関する詳細は公開されていません。

 これは重大な事である。「トライデント使用の際の国際法適用について特別な討議を行ったわけではない」ならばどうやって士官達はニュルンベルグ原則に基づく責任についての正しい知識を得るのか。国際法は核兵器全体に及ぶものというよりはむしろトライデントそのものに適用されるべきものなのに。

 核弾頭が「外されている」というのは表向きのものである。それが簡単に再装備され得るのは周知の事実だ。(必要とあればいつでも警戒態勢のレベルを上げることができるのだ。SDR68項)コンピューターによる構想も存在しているはずである。一体、操作する士官達は自分が何を標的にするのか知っているのだろうか、それともわからずに発射するのだろうか。「その職務遂行に必要な情報を得ること」ができたとしても、それは発射の命令が下った時に自分達のする事が正当な行為であるかどうか判断できるだけの充分な情報といえるのだろうか。攻撃目標とされる地域に住む人々にトライデントの核弾頭が与える影響についての考察が明らかに不充分である現実で、彼らが緊急時にニュルンベルグ原則を判断の基準として考えることができるほどの情報を与えられているとは思えないのである。そして彼らは戦争犯罪人となってしまうのである。

 3.1 対話と交渉 チーム

 A Summary of Dialogue and Negotiation Work of TP2000 -Angie Zelter TP2000における対話と交渉の活動概要_ アンジー・ゼルター 2000年

 The Strategic Defence Review-CND Submission, William Peden, 戦略防衛の見直し_反核運動 提供 ウィリアム・ピーデン 1997年6月

 Taking Nuclear forces off Alert-Commander Robert Green 核兵器廃絶への警鐘 ロバート・グリーン 司令官

 3.2 政府ならびに軍部との対話の大要

  全ての手紙のコピーはコアグループが所持している。私達のホームページで見られるものも多数あり。

 3.4 「これがお役に立つといいのですが」

  この項 ジョージ・フェアブラザーが2000年11月に執筆。

  更に詳しい事が知りたければ彼、または世界法廷プロジェクトグループに連絡のこと。

 (10章の「トライデント関連住所」を参照)