岩波書店「世界」2000年9月号,p.47-54から転載.バージョン1.1
(2006.2.9)
私たちはなぜ核兵器を破壊するのか*
アンジー・ゼルター 訳・大庭里美
核の脅威は刻一刻と、
私たち人類を破滅に追いやろうとしている。
国家が何もしてくれないと
不満を言っているひまはない。
私たちひとりひとりが、
軍縮のための役割を果たさなければならない。「いったいぜんたい、敵国住民を大量に殺し、大気を汚染し、ガンやケロイドや白血病を発生させたり、将来生まれてくる子どもたちに大量の先天的障害や精神発達の遅滞を誘発したり、敵国の国土を荒廃させたり、食料を汚染して食ぺられないものにするなど、このような行為が常識に照らしてみて、『基本的な人道的考慮」と両立でさるだろうか。自信を特って両立しうると答えられないかざり、核兵器は国際人道法に違反するかどうか、したがって、国際法に違反するかビうかという議論は、もう決着をみている。もちろん核兵器は国際人道法、したがって国際法に違反するのである。」
−−国際司法裁判所、一九九八年七月八日、「核兵器の威嚇または使用の合法性に関する勧告的意見」に付された、ウィラマントリー判事の個別意見より
はじめに
私がお話しすべきことは、いたって単純なことです。
世界は死滅しつつあります。原子力発電、核兵器、武器輸出、原生林伐採、商業漁業、農薬使用、マイカーの利用、世界銀行の融資と発展途上国の膨大な負債、とりわけ世界貿易機構(WTO)を通じた世界的な「自由」貿易などの活動が、「非道徳的」で「持統不可能」だと認識する人々はますます多くなっています。
多くの先住民族とその文化が死滅させられようとしていますし、人間社会が破壊されつつあるように、自然の生態系もまた崩壊しようとしています。おびただしい数の生物種が絶滅しましたが、すべての生命はその生物の多様性に依存してきていたのです。地球温暖化は空前の気候変動をもたらし、オゾン層破壊はさまざまな生物に深刻な健康問題を引き起こしています。
これらすべての現象はつながっています。「権力の濫用」というつながりです。そして、核兵器の保有とそれを使用するという威嚇は、究極の「権力の濫用」です。
政府、国家、そしてひとにぎりのエリート集団が、国際金融機関や多国籍企業と一緒になって、伝統的社会から土地と資源を取り上げています。個人が力を失い、閉じ込められ、飼いならされ、産業に組み込まれていくにつれて、私たちの精神は次第に貧しくなり、生活の質は低下しています。
現在の社会機構は、私たちが今必要としていることに応えるには、無力なように思えます。だからこそ、普通の人が、思いやりと愛のある世界の創造のために、実りのない、生命を破壊するような構造を平和的に中止させ、それに代わる有益なものを創造する責任を持ち始めているのです。人々は、その社会が破壊されたり、国民の名において、非常な悪業が行われたりするのを見たとき、直接行動を起こし、必要な変化を創り出します。非暴力直接行動は、変化のための触媒であり、今や世界的な規模で起きています。例えば、森林破壊に対する平和的な阻止行動や、ダム建設阻止のための断食、川を汚染する金採掘防止のためのサボタージュ、石油汚染をくい止めるための不買運動、そして民衆による直接的非武器化行動などがあります。
直接行動は、人間が生来もっている自己防衛のメカニズムです。そして、もっと重要なことは、ある地域における闘いは、国際協調の精神において、また、私たちは地球全体のために行動しなくてはならないという認識において、地球上の他地域のそれとつながっているということです。このことは人間のみならず、この傷つきやすい地球のすべての種、および物質的精神的構造すべてに関連しています。このようにして、私のように自らを一地球市民」と呼ぶ人々がどんどん増えているのです。
この世界的情勢の中で、私はプラウシェアの非武器化行動を起こしました。
核抑止論の誤り
核兵器は、無責任で、不道徳、短絡的、自己欺購的、偏狭で、民族主義的、権力支配的な考え方の究極のものです。世界の安全は、大量破壊という脅しによって保障されるものではなく、社会のあらゆるレベルで、紛争解決のための実効的で平和的な構造を確立することによってのみ、実現されるのです。
大量破壊で脅すことは間違っています。核兵器配備と核抑止政策に依存することは、間違っているだけではなく犯罪です。破壊的兵器への依存を、現在のように大規模に続けることは、非常に深いレベルで暴力を促進し、人間性の土台と社会正義を冒すことになります。そのことは、いつわりのない公正な国際関係の可能性をむしばみ、平和な世界の可能性を打ち砕きます。
核抑止論は、真に人間性にあふれた世界に向かって進化・発展することに失敗したことを表すもので、すべての大量破壊兵器を廃絶しなければ、「力は正義なり」という粗野な権力政治の末熟な哲学にいつまでも囚われ続けるのではないかと心配しています。一方、国際人道法の尊重は、強靭な平和文化の建設と、最終的には戦争を禁じる地球社会を目指す私たちの目標の中枢であると考えます。
トライデント・プラウシェア二〇〇〇
トライデント・プラウシェア二〇〇〇は、核兵器廃絶を目指す、長く名誉ある市民主導の運動の中で、もっとも新しいものです。イギリスの平和運動が低調になっている今、それは私たちのエネルギ−をもう一度活性化させ、最終的には核兵器廃絶の可能性に焦点をあてます。冷戦の終結によって開かれた軍縮可能性の窓は永遠に開かれているのではなく、むしろ現在それは急速に閉じられていっています。私たちは、政府が包括的、絶対的な核軍縮に向けての行動を開始するために、市民が単なるおしやべりではなく、必要な圧力をかけることを目指しています。
五五年前、広島と長崎で初めて核兵器が使用されて以来、多数の国々が核を禁止しようとしてきました。しかし、核保有国による権力濫用のために、その試みはほとんど成功していません。
私たちの惑星では、ウラン採掘、核兵器製造、実験、配備、そして廃棄物を生み出すことなど、核の連鎖がもたらす影響によって健康と環境が脅かされており、偶発的核惨事の危険にたえずさらされています。カナダの専門家、ロザリー・バーテル博士の計算によると、少なくともこれまでに世界中で一三〇〇万人がこの複雑な核の連鎖の結果として、亡くなったり、病気になったりしているということです。
八〇年代、冷戦の危機が最高潮であった時代、世界中で何百万人もの人々が抗議に立ちあがりましたが、冷戦終結後の現在、核兵器が今もなお強要している危険を多くの人たちは忘れてしまっています。今もなお、事故は起きており、海や土地を汚染し続けています。私たちは今もなお、核兵器に反対し続ける必要があるのです。さらに重大なことは、政治家たちがやろうとしないのなら、自分たち自身で核兵器を非武器化する権限があるということを、人々が忘れてしまっていることです。
イギリスだけで少なくとも五隻の潜水艦が、原子炉と何百発ものミサイルを積んだまま世界各地の海底に沈み、安全なレベルになるのに、何千年もかかる放射性物質を垂れ流しています。
マーシャル諸島では、先天的に骨のないクラゲのような赤ちゃんが生まれ続け、彼らの土地が何千年もの間、汚染されて居住不能になっています。
老朽化し、錆びていく退役した原子力潜水艦が、イギリスだけで少なくとも一一隻ありますが、それらの放射性廃棄物の安全な処分方法の手がかりさえわかっていないのです。
イギリスの大多数の国民は、対大陸間弾道ミサイル(ABM)条約のみならず、宇宙の平和利用に関する条約に違反し、国際平和をはぐくむ人類の努力を台無しにする、次世代の核兵器研究が進行していることを知りません。
今や、毎日のように人権が論じられているのに、核兵器による威嚇が国際法の秩序全体を崩壊させ、子どもの人権、土地の権利、環境保護と持続可能な生活など、ようやく獲得された国際的成果を、ないがしろにするものだということを指摘する人はほとんどありません。
トライデント・プラウシェア二〇〇〇は、これらの問題をもう一度最重要課題として据えるために、市民による軍縮を目指し、すべての人が世界の核軍縮のために最後のひと押しをするよう呼びかけ、それはある程度成功しています。
軍事施設・メイタイムの非武器化
一九九九年六月に、私たち、デンマーク、イングランド、およびスコットランド出身の二人の女性、ウラ、エレン、およびアンジーの三人のグループが実行したメイタイム非武器化行動についてお話ししましょう。メイタイムはスコットランド、ゴイル湖にあるトライデント関連研究施設です。
メイタイムでは、トライデント潜水艦を、音響装置、レーダー、そして音波探知機などに、探知されず航行させる研究が行われていました。私たちは窓から中に入り、あらゆる研究設備を湖底深く投げ捨てました。積んであったすべてのコンピュータ、ファックス、電話、本、ディスク、道具など動かせるものはなんでも投げ捨て、潜水艦の模型に進入し、ウィンチ・コントロールをこわし、複雑な配線とスイッチをすべて切って、制御不能にしました。設備の損害額は、当初数十万ポンドと見積もられました。
私たちはスコットランド拘置所に四カ月間拘束され、その後さらに一カ月の裁判が行われました。ウラとエレンは二人の弁護士を雇い、私は自分で抗弁を行いました。
私たちは、自分たちの行動は犯罪ではなく、確立された国際法の原則に従って現在進行している犯罪的行為を止めることを目的とした非武器化の行為である、と主張しました。私たちの裁判官、マーガレット・ギムプレット判事は、公平な精神の持ち主で、専門家証人の出席を許可しました。証言に立ったドイツ人の判事は、八〇年代ドイツで、ドイツへの核兵器の違法な配備に抗議して、二〇名の裁判官と検察官が阻止行動に参加した様子を説明し、載判官の精神的独立を励ますことができました。私はこのことがギムプレット判事に、政府の政策がかならずしも合法ではないということを認めるのに必要な、力と連帯感を与えたのだと確信します。同様に、アメリカの有名な法学者ランシス・ボイル氏は、トライデントの犯罪性について説得力のある証言をしました。また、英国プラッドォード大学平和学ポール・ロジャース教授は、トライデント・システムの配置と一〇〇キロトンの核弾頭の効果、および事故の可能性について、専門家としての証言を行いました。
イギリスは四隻の核弾頭搭載原子力潜水艦を保有し、それらには「前衛」(Vanguard)「勝利」(Victory)「警戒」(Vigilance)「報復」(Vengence)という、いずれもVで始まる恐ろしい名前がつけられています。各艦にはミサイル一六基が搭載され、一基は一〇〇キロトンの核弾頭三個を搭載、それぞれが別の目標を攻撃できます。四隻のうち常に三隻が稼動しています。すなわち一四四発のミサイルが、常に発射可能なのです。核弾頭一個は広島型原爆の八倍の威力を持っています。
拘束期間中、ずっと支援してくれた何百人の人々にとって喜ばしいことに、私たちは無罪となり釈放されました。
一〇月二二日のスコットランドの新聞は、判決について次のような見出しで報道しています。
「核兵器を違法とする判決に騒然」(『ザ・スコットマン』、一九九九年一〇月二二日)
「一裁判長が裁判の歴史を創り、政府の核兵器配備が国際法に違反するという判決は政治的な嵐を巻き起こした。一国の裁判所が核による国防システムを違法と宣言したのは、初めてのことであり、ギムブレット裁判長の決定という死の灰は、他の核兵器保有国にも降るだろう」(『へラルド』、一九九九年一〇月二二日)
スコットランド議会、ウェールズ議会、そしてイングランド議会で、私たちの無罪判決を支持する決議や声明が発せられました。政府はやむなく、法務総裁への付託と呼ばれる、スコットランドでは非常にまれな法的手続きにふみきりました。
核兵器廃絶は、私たちすベての市民にかかっています。そして、これには日本の市民とグループも関わっています。トライデント・プラウシェア二〇〇〇は、意識的に国際的な性格をもっており、一九九八年五月、広島を含む世界数カ国の都市で運動開始の記者発表がなされました。トライデントミサイルの問題は単にイギリスだけの問題ではなく、地球全体に影響を及ぼすからです。外国人が非武器化行動に参加し、裁判でイギリスの核兵器による脅威について論じることは、裁判所と政府にとってかなり厄介なことです。彼らはそれをイギリスの国内問題とみせかけたいのですが、外国人が法廷に立って、イギリスの核兵器が脅威だから平和的に非武器化する必要があると説明するとき、無関係を装うことはそう簡単ではありません。
私たちの主張は、非常に明快です。核兵器は大量破壊兵器であり、したがって、これを精密に用いて的確に敵だけを攻撃したり、不正を正と見せかけて使用することはでぎません。法は倫理に基づき、人道的倫理に適合する限りにおいてのみ、尊重されるものです。政府、兵士、および軍隊は、法によって、合法とされ、権限を得ているのであって、それゆえに法はかれらにとって絶大な重要性を有しているのです。兵士が一般の殺人者から区別されるのは、社会のためという法の許可を得ているということです。兵士による合法的殺人は、法によって慎重に制限されていますが、その中でもっとも重要なのは国際人道法です。私たちに対するグリーノック裁判所の無罪判決は、私たちに犯罪的意図がなかったことを証明し、同時にイギリス核戦力の犯罪性を、明確に指摘しました。
トライデント・プラウシェア二〇〇〇の参加者は、必ず平和的でオープンで、責任ある行動をすることを誓約し、誰に対しても友好的にふるまい、人に対して暴力を振るうことはありません。その上で基地ではさまざまな阻止行動が行われます。
たとえば有名クワルテットがゲート前でバッハを演奏しましたが、演奏があまりに見事なので警官たちも音楽を楽しみ、演奏が終わるのを待って逮捕しました。障害者の人たちが車椅子に体をつないで封鎖に加わることもあります。ゲート封鎖だけでなく、フェンスを切ったり、よじ登って基地に侵入することもあり、あるスウェーデン人牧師は、逮捕されたとき片方のポケットには聖書、もう一方にはハンマーを持っていました。
与えた損害が大きけれぱ、それだけ有罪となった場合の処罰は厳しくなるでしょう。下級裁判所では、ほとんどの人たちが有罪になっています。これまでの行動の大部分は些細な罪ですが、最小限の行動で最大の効果を上げているといえます。過去一年半の間にかなりの損害を与えた非武器化は六回にのぼります。
私たちの非武器化行動は今後、より強固な国際ネットワークとなっていくでしょう。また、私たちの請願を支持する署名も集めています。
国際法からみる核兵器の違法性
一般的に、核兵器は明らかに下記の国際法に違反しています。
(1) 不必要な苦痛を与えると思われ、(核兵器の使用に)付随して、市民の生命が失われる可能性を、最大限避けることができないため、サンクト・ペテルプルク宣言(一八六八年)に違反する。
(2) 中立国の不可侵性が保障されないため、ハーグ条約(一九〇七年)に違反する。
(3) 長期にわたる放射能汚染は、無辜の人々の生命と健康を冒すので、世界人権宣言(一九四八年)に違反する。
(4) 負傷者、病人、虚弱者、妊婦、市民の病院と保健従事者の保護が保障されないので、ジュネープ条約(一九四九年)に違反する。
(5) (核兵器の使用に)付随して、市民の生命が、大量に失われると思われ、環境への長期にわたる深刻な損害をあたえるので、ジュネープ条約への追加議定書(一九七七年)に違反する。
これらの条約と宜言に対する重大な違反は、一九四六年のニュルンベルク諸原則にもとづく犯罪行為と規定されます。ニュルンベルク第六原則に、平和に対する罪、戦争犯罪、および人道に対する罪が規定されています。ニュルンベルク第六原則(a)は、平和に対する罪を、「侵略戦争あるいは国際条約・取り決めに違反する戦争を計画、準備、開始、実行すること、またはこれらの行為を行うための共同謀議に加わること」と規定しています。ニュルンベルク第六原則(b)は、戦争犯罪を「戦争に関する法、または慣習を侵害すること」と規定し、ニュルンベルク第六原則(c)は、人道に対する罪を、「平和に対する罪、または戦争犯罪が実行されるとき、あるいはそれに関連して起きる、殺人、皆殺し、……および民間人に対する他の非人道的行為」と規定しています。
さらに、イギリスは、核兵器の迅速で完全な廃絶に向けての努力をしていないという点で、核不拡散条約(NPT、一九六八年)にも違反しています。
国際法の基本原則
国際法には、二つの基本原則があります。「第一の原則は、民間人と民間人の所右物の保護と、戦闘員と非戦闘員の区別を確立することである。各国は、けっして民間人を攻撃目標としてはならず、したがって、軍事目標と民間施設を区別でぎないような兵器を便用してはならない。第二の原則によれば、戦闘員に不必要な苦痛を与えてはならないことになっている。つまり、そのような害を与え、苦痛を増大するような武器の使用を禁じている。第二原則の適用において、国家は、使用する武器の選択を、制限されでいる。」
これらすべての宜言、協定、および条約は、現代の国際慣習法の中核的要素を形成しており、イギリスはその拘束に対して、反対してきていないので、それらの法に拘束されます。実際、イギリスは、慣習法としての地位が確立した判決においては、国際法廷の判決を一貫して支持しています。
たとえば、ニュルンベルク国際軍事法廷、旧ユーゴスラビアに関する国際刑事法廷、およびルワンダ問題についての国際刑事法廷においては、これらの慣習法を確認しました。
いいかえると、核兵器の違法性を評価するために使われる、国際人道法の原則は、国際法秩序の中で、十分確立されているのです。これらの慣習法は、いつの時代もすべての国家を拘束しています。
地球市民による軍縮行動
これまで頻繁に問われてぎたにもかかわらず、イギリス政府は、国際司法裁判所(ICJ)に対しても、イギリス国民に対しても、どのようにして核兵器を合法的に使用する可能性があるのか、一度も説明していません。シミュレーションの概略一つさえも示していないのです。政府は、そのような状況を詳しく予想することはできないし、それゆえにそのときになってみなけれぱ、核兵器の合法性について確定することはできないというのです。これまで、イギリス政府は、自分自身で合法性に関する独自の審査をすることもできず、また進んでそれをしようとしたこともありませんでした。
このような考えはばかげています。もし、事前に合法性審査とシミュレーションが行われないのなら、イギリスの存亡を左右するような防衛戦争の真っ只中で、どうやって核兵器の実際の使用に関する合法審査がなされうるでしょうか。 ICJによれば、核兵器の使用が合法とみなされるのは、そのような状況においてのみなのです。イギリス政府が、独立した合法性審査のために、国民にシミュレーションをただ一つも示すことができないという事実は、結局合法性はないということなのです。
核兵器を宇宙に配備するという新しい、そしてより危険な研究が続けられています。核不拡散体制は、急速に崩壊しつつあります。世界は、恐るべき社会的、環境的危機に直面しており、それは協力的で非暴力の手段による紛争解決を求めています。国際法を、他国には求めるが自らには適用しないという核保有国の偽善はこの数十年来国際社会を不安定にしており、国際法秩序を根本から掘り崩しています。法の秩序を求める多数の国々は、今こそイギリスを国際司法裁判所に引き出し、トライデント核兵器を裁判にかけることで、ICJ勧告的意見を実行に移す第一歩を踏み出さねばなりません。私たちに今必要なのは、勧告的意見よりむしろ法廷の判決なのです。
しかし一方、地球市民としての私たちは、政府が私たちや地球社会のために何もしてくれないと、やきもきしながら不満をこぽしている必要はありません。いずれにせよ、権力者の利益のために、法はしばしぱ踏みにじられてきました。私たちには、自分自身が核の犯罪に加担するのを防ぐための予防的行動をする責任と権利があります。みなさまも私たちの仲間に加わっていただき、民衆による軍縮の過程で、それぞれ独自の役割を果たされることを希望します。
【訳】おおば・さとみ
(プルトニウム・アクション・ヒロシマ代表)註:この訳出は、ゴイル湖活動家支援の会とアンジー・ゼルター全国講演翻訳チームの協力のもとでなされたものです。
アンジー・ゼルター(Angie Zelter)は1951年、イングランド生まれ。核兵器廃絶をめざし、直接行動によって兵器を破壊する「トライデント・プラウシェア2000」を提唱し、そのメンバーの一人として活動。兵器は破壊するが人間に対しての暴力は否定する「非暴力直接行動」の様子は、本誌1999年11月号の彼女自身による寄稿(「地球市民の責任」)でも紹介されている。1996年、ブリティッシュ・エアロスペース兵器工場に侵入、また1999年には原子力潜水濫関連施設に侵入していずれも起訴されたが、「彼女たちの行為は正当なものだった」として二度とも裁判で無罪を勝ち取った。今年3月に来日し、東京、大阪、広島、長崎、那覇など、8都市で講演。本稿はその際の講演記録の抄訳に加筆、修正したものである。
* 転載者註 核兵器本体に触れるという意味ではありません.トライデント・プラウシェアズはそのような行為を厳禁しています.