(佐賀新聞,2009年5月2日,22ページ.同社の許可を得て転載)
揺らぎの中で(下)▼佐賀大理工学部教授・豊島耕一さん
国民保護
「有事」演出 見抜く目を
□北朝鮮のミサイル発射問題で、日本政府の対応をどう見たか。
■非常に一面的で一方的。過度な緊張感をあおり、まるで戦後初の「空襲警報」だった。破壊措置命令に基づきPAC3(地対空誘導弾パトリオット)が東北地方に配備されたが、日本海から太平洋までの軌道をカバーする態勢ではなく、有事を演出するショーに見えた。発射を思いとどまらせるため関係国に使節団を送るなど、積極的な外交努力は見て取れなかった。北部九州へのPAC3配備を含め、ミサイル防衛(MD)システムの普及に向けた宣伝に利用したようにみえる。
□こうした事態には、どう対処すべきと考えるか。
■弾頭が付いておらず、落下する破片が対象なら「防災」として対処すべきだろう。宇宙からの落下物をめぐる対応と何ら変わらず、いたずらに「迎撃」という軍事用語を使うべきではない。市民も冷静に対応すべきだ。政府としては、発射回避に向けて外交努力を優先しなければならない。ただ、「やめろ」というだけでは説得力がない。核兵器開発を目指す国がこうした実験をするのは脅威で、歯止めをかけなければならないが、北朝鮮側も在日米軍が保有する巡航ミサイルなどを脅威に感じているだろう。日米サイドも、軍備縮小など緊張を和らげる材料を示しながら交渉する姿勢が重要だ。
□国民保護法の制定など、有事を想定して、国が市民を管理しようとする動きが強まっているとされる。
■法の名称は「保護」となっているが、戦争準備や軍備増強のための「心理的な動員」を促す側面があると思う。有事を演出し、緊張をあおるような政策と一体的なものと考えている。市民は巧みにコントロールされかねない。国民保護法が適用されるような場面では、どういう勢力が何を目指しているのか、よく見極めないといけない。
□憲法九条を含む改憲論議の行方は。
■憲法改正手続きを定めた国民投票法が二〇一〇年に施行される。準備は着々と進んでいるようだが、今回のような発射実験が繰り返されれば、敵地攻撃能力さえ容認するような改憲派が増えることが考えられる。それでなくても、自衛隊の活動域は世界各地に広がってきており,不測の事態が起きれば、「現行憲法の制約」をあげつらって九条が狙い撃ちされる恐れがある。ソマリア沖の海賊対策など小刻みに「慣れ」が重なり、改憲の動きが出てきたら速いかもしれない。このような風潮に安易に流されず、多様な政治的な見方や立場を踏まえながら、一人ひとりが平和憲法の理念を真剣に考える必要がある。
□オバマ米大統領のプラハでの核廃絶演説をどう受け止めたか。
■画期的だった。包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准を目指すなど具体策を打ち出しており、政策の一大転換だと感じた。ただ、彼一人で成し遂げられるものではなく、軍事産業からは圧力もかかるだろう。孤立しないように、核廃絶運動を進めてきた市民団体の責務は重くなる。被爆国である日本の政府はこの問題で、米国のサポート役にとどまらず、リードしていかなければならない。