メールリスト abolition japan への投稿を,わずかに字句修正して転載します.末尾に9日付追記.

護憲運動の分断が心配--赤旗11月5日付け論説について

             佐賀大学/九条広告支援の会 豊島耕一

 しんぶん赤旗11月5日付けに論説「憲法運動は無差別テロ支持勢力にどういう態度をとるべきか」が掲載されました.また,同様の趣旨の論説「暴力集団の“泥合戦” 改憲反対運動に入り込む『革マル』と『中核』」が5月18日に載っていました.

 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-11-05/2005110504_01_1.html
 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik4/2005-05-18/05_01_0.html

 これらの論説は,一見当然のことを言っているようにも思えますが,バランスと配慮を欠いているだけでなく,次のような重大な問題点を含んでいると思います.

 いずれも,革マル派,中核派の2団体を批判の対象としており,これらの集団を「無差別テロ支持勢力」とし,護憲運動からの排除を求めています.しかしその理由は,彼らのいくつかの言動を挙げているだけで,護憲運動の上での具体的の障害や妨害については述べられていません.これでは結局「思想」による運動からの排除と言わざるを得ません.

 護憲の一点で思想信条を越えて協力すべきだといいながら,特定のグループをその発言内容を理由に排除するということは,どうしても理屈が通りません.引き合いに出された発言や思想というのは,主に9.11事件など「テロ」に対する彼らの共感や賛同で,だから「無差別テロ支持勢力」であるというのです.それはそうかも知れません.しかしそうなると,自民党や公明党など与党に属する人も排除しなければならなくなります.なぜなら両党は,アメリカによる最も大規模な無差別テロ,すなわちアフガン戦争やイラク戦争を支持しているので,「無差別テロ支持勢力」と認定せざるを得ないからです.これらの政党の末端の一部や個々の党員が護憲運動に加わりたいと申し出た場合も当然「排除」しなければならなくなります.しかし実際にはこれらはむしろ歓迎すべきこととされるのではないでしょうか.

 護憲運動に限らず,何らかの市民運動,政治行動への参加「資格」の適否は,思想や所属団体によってではなく,運動や団体の行動目的や行動方法に即して具体的,実際的に判断するべきではないでしょうか.単なる集会や討論会なら,会の進行を乱さない限りだれでも「有資格」だが,何らかの直接行動(もちろん非暴力)を伴うとなると,非暴力を貫けるかどうかという事前判断が重要になる,といった具合にです.ところがこれらの文章は,そのような具体的な障害について,その例さえも一切挙げていません.2団体を「暴力集団」であるとしていますが,過去の事例を引いているだけで,現在の護憲運動の中で暴力事件があったとは書かれていません.それとも「予防的先制攻撃」ならぬ「予防的排除」なのでしょうか?

 共産党が左翼,リベラルに大きな影響力を持つことを考えると,この文章の様々な悪影響が心配されます.何よりも護憲運動に分裂が持ち込まれる恐れがありますが,その分野に限りません.このことは次のような私の体験から痛切に感じることです.

 東北大学や山形大学の学生寮の廃寮問題では,運動に関わっている学生らが「新左翼系らしい」という「情報」だけで,これらの大学で行われた,とんでもない不法行為や権利侵害が,「民主勢力」の多数から見逃されてきました.しかもその「情報」というのが決してあからさまに語られることはなく,「耳打ち」で伝えられるだけです.極めて不明朗で,アカウンタビリティーの対極にある事態です.これが,民主主義と人権のチャンピオンであるべき共産党を含む左翼・リベラルと呼ぶべき人々の間で起こっている事態なのです*.

 ある大学の知り合いから,「D寮はF派の巣窟になっているから,廃寮反対運動の支援など止めた方がいい」と言われたことがあります.学生には全く申し訳ない喩えなのですが,分かりやすくするために敢えて使いますが,これは,「フセインは独裁者だから戦争もやむを得ない」と言うのと同じです.人権や団結権は普遍的なもので,何派には許されるが何派には認められない,というようなことはありません.民主主義が口先だけのものかどうかが試されているのですが,はっきり言って,その自覚のない人が多いと思います.

 これら二つの寮問題とそれにまつわる裁判事件ついて,組合系など主流派の左翼やリベラルなどの人々に繰り返し支援を訴えましたが,なかなかこれが難しいのです.原因が過去の「ゲバルト」時代の記憶だけとは思われません.どうしても共産党のこのテーマでの言説の影響を感じないわけには行きません.

 九条をめぐる状況は絶体絶命ともいうべき段階です.時間がないのです.かつてない規模と質の運動を創らなければ勝てません.その反対に,運動の分断という障害を自分たちで作ってしまわないために,多くの方が発言されることを期待します.事なかれ主義こそが最大の敵だと思います.対象とされた二派が少数だからといって些末な問題だと考えたら大間違いだと思います.(05.11.8)

(9日追記)革マル派,中核派に対する批判を書いていないので,間接的に両派を擁護していると誤解されないようにお願いします.中核派の機関紙に「報復」という言葉があるように,まだ過去の殺人行為を反省しておらず,犯罪的集団と言わざるを得ません.これについては別稿で触れるつもりです.

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* 寮問題については,次の記事を参照下さい.そこからさらに関連記事5件をリンクしています.
「有朋寮からの立ち退き強制執行を停止 -- 元の判決を下した判事自身が!」

この投稿と同趣旨の,少し長い文章を次に書いています.
「しんぶん赤旗11月5日の論説『憲法運動は無差別テロ支持勢力にどういう態度をとるべきか』について」