アボリション2000グローバル評議会

イラク問題についての声明

日本語訳

核兵器廃絶をめざすネットワークアボリション2000グローバル評議会は、核兵器の全面的廃絶を求める緊急の要求をあらためて確認し、現状でのイラクに対する武力行使を絶対的に否定します。私たちは、この地域における紛争が激化し、制御不能となって、米国が再び核兵器を使用する事態となることを深刻に憂慮しています。米国核態勢見なおしは、米軍部の計画における核兵器の役割を拡大し、米国家安全保障戦略は、自衛の名目で米国の先制的、一方的軍事行動開始の正当性を主張していますが、こういったものによって、長崎への原爆投下以来かろうじて保たれてきたタブーが侵されるおそれが強まっています。さらに、中東ではすでにいくつかの国が核兵器、化学兵器、または生物兵器を保有していることが知られており、もしそれらが使用されれば、破滅的な結果をもたらすことでしょう。軍事行動を起こせば、こういった恐ろしい出来事が現実になる可能性が高まるだけです。私たちはすべての国家が、あらためて国連憲章とそこに収録された誓約を確認し、積極的な外交的手段によって紛争解決を目指すこと、核兵器による脅威、その使用または保有を拒否すること、そして、すべての国がそれを遵守するような普遍的体制を採用することするよう要求します。

  1. 私たちは、イラクの核査察再開を歓迎し、核兵器その他の大量破壊兵器保有について、周知の国もまたは疑惑国も、すべての国家が同時にそれぞれの国の施設について査察を受け入れるよう要求します。

    1995年4月、ニューヨークの国連において採択されたアボリション2000声明は、次のような対策の実施を要求しています。すなわち、

    「すべての国の、核兵器使用可能なすべての放射性物質と核施設を、国際的な計量、監視、保障措置のもとにおき、核兵器使用可能なすべての放射性物質の公的な国際登録を確立すること。」(第6項)、

    「….すべての核兵器研究所を国際監視のもとにおき…」(第7項)

  2. イラクに関しては、次にいかなる手段をとるかを決定する前に、査察を終了し、国連安全保障理事会に報告するための時間が、査察官に十分に保証されなければなりません。潜在的な暴力の脅威に対抗するための予防的手段としての武力行使は、国際法上前例がありません。国連憲章のもとでは予防的手段としての戦争は許されておらず、安全保障理事会で考慮されるべきではありません。逆に、国連憲章では、紛争の平和的解決と武力行使の否定を強調しています。かりに、イラクが大量破壊兵器またはその部品を保有していることが明らかになったとしても、米国のやり方はまちがっています。安保理事会は武力行使の権限を与えてはならず、米国は一方的な軍事行動を開始してはなりません。核兵器は究極の暴力形態ですが、それを武力の行使によって廃絶することはできないし、またそうすべきではありません。核兵器の廃絶は、多国間の合意にもとづく交渉を通じて達成されなければなりません。

    アボリション2000声明では、「すべての国、とりわけ、公然と宣言した核保有国であれ、事実上の核保有国であれ、核保有国は」、「一定の時間的制限枠の中で、すべての核兵器を段階的に廃棄させるために、効果的な検証と執行のための条項のついた核兵器撤廃条約を締結するための交渉をただちに開始し、終結する」よう要求しています。(第1項)

  3. 中東における大量破壊兵器の問題は、地域の問題としてだけでなく、地球全体の問題としても解決されなければなりません。国連安保理事会決議687号には、1991年湾岸戦争が正式に終了したことが記録されていますが、その中で「あらゆる大量破壊兵器がこの地域の平和と安全保障に及ぼしている脅威と…中東をそのような兵器を禁じた地帯として確立する作業の必要性」に留意し「中東のこの地域における非核兵器地帯の確立という目的」と述べています。これにはイスラエルも含まれます。私たちはイラクの人権侵害を非難しますが、その一方で、米国のイラクに対する政策は差別的で欺瞞的です。米国は、核兵器を保有しているだけでなく、長い間国連安保理決議を遵守せず、何10年にもわたってパレスチナを占領してきたイスラエルを支持しつづけています。

    アボリション2000声明は、「トラテロルコ条約やラロトンガ条約によって創設されたような非核兵器地帯」(第8項)の創設を要求しています。この観点から、私たちは1995年の核不拡散条約(NPT)再検討延長会議で採択され、2000年のNPT再検討会議で再確認された中東を核・化学・生物兵器およびそれらの運搬手段禁止地帯として確立することを要求する決議の完全な履行を要求します。大量破壊兵器の拡散を防止する唯一の確かな方法は、米国による攻撃ではなく、この地域をこれらの兵器の禁止地帯とすることです。

  4. 核兵器であれ、核兵器以外の兵器であれ、米核態勢見直しに描かれたような、弾道ミサイル防衛を含むより新型の兵器システムの絶え間ない開発と配備は、この地域の安全保障をさらに著しく低下させるものです。とりわけ中東への戦域ミサイル防衛システムがの導入されれば、米国やその同盟国は自国軍隊が反撃から防衛されている間に先制攻撃を開始することが可能になります。

    2002年3月、アボリション2000グローバル評議会はその行動呼びかけの中で「米国の核態勢見なおし報告を非難し、より使用に適した_つまり使用される可能性のより高い核兵器開発をめざす、米国の新たな計画を…異常で、反倫理的で、違法なものとして非難します」と述べました。この流れを考慮し、私たちは中東への戦域ミサイル防衛配備防止に向けた努力を強く支持します。

  5. 現在のイラク危機は一般的には大量破壊兵器をめぐる紛争とみなされますが、その一方米国による石油の確保もまた重要な要因であることは疑いない事実です。2001年5月のサフロン・ウォルデン宣言において、アボリション2000グローバル評議会は、「西側核兵器保有国とその同盟国はかれらによる世界の資源の確保と持続不可能な水準でのかれらの消費を維持するために、地球上に住む圧倒的多数の人々の間に高まっている経済的不平等と社会正義の不在に対する不満に『ふたをする』ことができると信じています。この危険で安定を損なう構造がいつまでも続くことはありえない」という認識を示しました。

    私たちは、そのような構造に代えて、国際法と条約の尊重、国連の改革を通じた紛争防止と協働に基づく、すべての人類のために役立つ新しい安全保障の枠組みを要求します。

    積極的な解決策をめざして、アボリション2000声明は、「持続可能で環境に安全なエネルギー源の開発を推進し、支援する国際エネルギー機関の設立」(第10項)を要求しています。

  6. アボリション2000グローバル評議会は、次のような目的に向かって、あらゆる努力をしている中東の市民・社会グループと平和運動に連帯を表明します。すなわち、

    イラクに国際兵器査察団を再度受け入れさせること、

    そして、米国の挑発的声明と行為に対して、中東地域の各国政府に理性ある対応を促すこと。

    この地域において米国の軍隊に軍事基地と施設を使用させないこと。および、

    米国に中東への侵略行為と戦争の口実を与えないために、中東におけるすべての大量破壊兵器禁止を提唱すること。

  7. 国際司法裁判所は、核兵器による威嚇とその使用は違法であり、すべての国に核兵器廃絶の義務があるということを確認しています。私たちは、軍縮を達成するために武力を行使することは、矛盾であり、逆効果を生み、差別的で、違法で、非道徳的で、人間性に反しており、不必要なことと考え、絶対に拒否します。

グローバル評議会は、90以上の国の2000以上の市民グループが参加する核兵器廃絶のためのネットワーク、「アボリション2000」の後押しを得て動きます。(www.abolition2000.org/)1995年のNPT再検討・延長会議での設立以来、このネットワークに参加する多数のグループがそれぞれ核廃絶への意思を示してきました。私たちのもっとも価値ある道具は法です。それは、各国が調印し、批准してきたさまざまな条約、核兵器による威嚇やその使用の違法性に関する1996年の国際司法裁判所の勧告的意見、モデル核兵器禁止条約などです。

2001年サフロン・ウォルデン宣言の結論で述べたように、私たちは、核兵器廃絶、あらゆるミサイルの禁止、および宇宙の平和維持に向けた交渉をただちに開始するよう要求します。私たちが想い描く世界は、核兵器やさまざまな環境汚染から解放された、そして社会的経済的不公正のない世界です。この新しい枠組みが、実際的かつ倫理的というだけでないことは確実です。それは、私たちの未来にとって、緊急重大なことなのです。

(日本語訳 大庭里美、2002年11月10日)

連絡先: 

Maryna Harrison
Outreach and Development Coordinator
Abolition 2000
212-726-9161
www.abolition2000.org

アボリション2000声明(1995年)
http://www.abolition2000.org/statementsandreleases/statement_en.html

モオレア宣言(1997年)
http://www.abolition2000.org/statementsandreleases/moorea_en.html

サフロン・ウォルデン宣言(2001年)
http://www.abolition2000.org/statementsandreleases/saffronwalden_en.html

大庭里美

アボリション2000グローバル評議員
宇宙の兵器と原子力に反対するグローバル・ネットワーク アドバイザー
プルトニウム・アクション・ヒロシマ代表