トライデント・プラウシェアズ
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原潜損壊に対し有罪にできず

  -- イギリス,マンチェスター地裁

理工学部 豊島耕一

(佐賀大学教職員組合ニュースNo.16. 2000年10月4日発行)

原潜のレーダー試験装置を破壊

 イギリス,スコットランドのミサイル原潜関連施設「メイタイム」を家庭用のハンマーなどを使って破壊した3人の女性に対して,昨年10月21日に完全無罪の判決が出されたことをお知らせしました(注1).つい先日も同じ運動団体の直接行動に関する裁判がありました.

 昨年2月1日の未明に,「トライデント・プラウシェアズ2000」(TP2000)という反核運動団体に属する20代の女性二人が,イギリス中西部のバローのドックで出航を待っていた原潜ベンジャンス号に泳ぎ着いて,レーダーの試験装置をハンマーで破壊した事件です(詳細,英文). 彼女らはこれを,違法な核兵器を「非武器化」する行為であるとしています.

6時間の陪審審議でも評決できず

 この二人,ロージー・ジェームスとレイチェル・ウェナムは損壊罪で起訴され,マンチェスター刑事裁判所で9月11日から公判が開かれていました.9月19日に陪審は,4時間の評議の結果,原潜に「死のマシーン」などとスプレーで書いたという二番目の訴因については無罪の結論を出しました.翌日陪審は,試験装置のハンマーによる損壊という第一の訴因について6時間13分も議論しましたが,ついに評決に達することができずに終了しました.検察がもし再び裁判を要求しなければこれで終わりとの事です.つまり実質的には無罪と同じです.

「私にもウェットスーツが必要」と裁判長

 連日TP2000のウェブサイトにはその日の法廷の様子が伝えられましたが,その一部から紹介します.

 法廷でロージーは,96年にブリティッシュ・エアロスペースのホーク戦闘機を非武器化(注2)したアンジー・ゼルターらとの出会いから話しを始め,自分たちの行動がより大きな犯罪を阻止するためのものであり,トライデントが国際法のあらゆる基本原理に違反することを主張しました.

 弁護側からはブラッドフォード大学のポール・ロジャース教授,「メイタイム」非武器化のアンジー・ゼルター,それに軍縮問題専門家レベッカ・ジョンソンが証言しました.アンジー・ゼルターは,彼女らの行動が,政府の違法行為を止めさせるためのあらゆる穏当な方法を試みた後の,最後の手段であったことを述べました.

 被告レイチェル自身が証言した時ちょっとした喜劇も見られました.ドイツでは裁判官も直接行動をしているとレイチェルが話したとき,判事が突然笑い出して,「ドックに飛びこんだわけではないでしょう? 私もウェットスーツが要りますね!」と言ったので法廷は笑いにつつまれたとのこと.

 裁判終了後,レイチェルは次のように述べました.「裁判はこの国の人々の道徳的良心が生きていることを示しています.陪審はイギリスの核兵器システムについての真実を目にして,トライデントの合法性についての疑問を投げかけたのです.」

 検察側はさらに裁判を要求するかどうかを22日までに決めなければならかったのですが,27日現在に至るまで検察が手続きを取ったという情報はありません.もし検察がそれをしなければもはや裁判はありません.なお二人は以前にすでに保釈されています.

責任ある直接行動

 「直接行動」というと多くの人は「過激」というイメージを持たれるかも知れませんが,彼女らの基本方針は,まずあらゆる通常の穏便な手段で政府と交渉することです.それでも核兵器の配備という国際法違反の状態が改善される見込みがないときに,完全に非暴力かつ安全な手段で,市民みずからの手で「非武器化」を実行するというものです.(ですから核弾頭に近づくことなどは厳禁です.)公開性とアカウンタビリティーが信条で,座り込みなどの直接行動は日時,参加者名簿が前もって公表されます.事前に公表できない場合でも必ず事後には公表され,警察に説明に出向きます.もっとも実際にはその前に向こうから来ます.

 トライデント・プラウシェアズ2000の中心人物であるアンジー・ゼルターさんはこの3月に来日し,佐賀も含め全国8都市10会場で講演をしました.彼女の静かな声で語られた言葉は多くの聴衆に衝撃と感動を残しました.講演の内容は岩波の「世界」9月号に掲載されています.また佐賀での講演はビデオに収録されています.彼女は,直接行動は人間の本性に根ざしており,責任あるやり方で実施されればそれは民主主義を再生させるための重要な補助手段になりうると言います.

日本にもある直接行動の伝統

 彼女たちの勇気と愛,そして地球規模の責任感は,核廃絶運動はもちろん,私たちが日常出会うさまざまな問題についても -- もちろん大学をめぐる問題も含めて -- それに立ち向かうインスピレーションを与えてくれるものと思います.つまり,言葉だけでなく,なにがしかの自己犠牲も厭わずに,みずからの手で実践するという精神です.「日本では無理」と決めつける前に,考えるべき事はいろいろあります.直接行動どころか,教授会で「行政法人化」反対の決議を上げるという「穏便な」手段さえ取れないというのはなぜでしょうか.一体何に怯えているのでしょうか.

 彼女らにあってわれわれに足りないものは何でしょうか? それは「ガッツ」ではないでしょうか.しかし歴史を見ればこの佐賀の地にも,非暴力直接行動で平和的に要求を勝ち取ったという「虹の松原一揆」の実績があるのです.なぜその精神が長く眠っているのでしょうか?

 トライデント・プラウシェアズ2000の詳細や,今回の裁判,そして昨年の無罪判決についての詳しい情報は次のサイトをご覧下さい.
http://www03.u-page.so-net.ne.jp/ta2/toyosima/goilsupt.html
トライデント・プラウシェアズ
http://www.tridentploughshares.org/


(注1)組合ニュース99年11月17日付け,23号.
また次の記事を参照下さい.
 - 朝日新聞 10月23日「核兵器は違法」,女性3人に免罪,英国 原潜施設破壊
 - しんぶん赤旗 1999年10月24日
 - 「世界」2000年9月号,「わたしたちはなぜ核兵器を破壊するのか」,アンジー・ゼルター.(岩波書店)

(注2)「世界」99年11月号,「地球市民の責任」,アンジー・ゼルター,岩波書店