わが国の国立大学における「学問の自由」は,その100年の歴史の中でいま重大な危機にあります.
国立大学の独立行政法人化(独法化)は単に国立大だけの問題ではなく,また公私立も含めた大学だけの問題にも止まりません.国民全体に関わるものです.そこで,政府のこの無謀な政策を止めさせるための,職業や立場,党派や国籍を超えた人々のネットワークを作りたいと思います.自由を愛するすべての皆さんの参加を呼びかけます.独立行政法人化とは
独立行政法人制度とは,従来の組織から「企画・立案」機能と「実施」機能を分離して,前者を行政当局に移行させるということを主眼としています.これは法律では大臣による「中期目標」の設定として規定されています.これに沿って独立行政法人は数年の期間についての「中期計画」を作成して大臣の認可を受けなければならず,またその計画の達成度を行政当局によって評価されます.それによって予算がコントロールされるだけでなく,大臣が廃校の権限まで持つようになります.
文部省も反対し続けていた
国立大学を「独立行政法人」化するという政策が提案されて以来,当時の文部省はずっと反対を続けていましたが,一部の圧力に屈し一昨年この容認に転換しました.大学の自治と学問の自由に責任を負うべき国立大学協会も,これに呼応するかのように文部科学省内に作られた具体化のための「調査検討会議」に参加し,表向きの「反対」の言葉とは裏腹なきわめて曖昧な態度をとり続けています.
このような両者の姿勢は「説明責任」を無視し,国民の信頼に背くものです.
独立行政法人化でどうなるか
このような制度が国立大学に適用されれば,「独立」という接頭語とは正反対に大学は政府の直接的な管理・統制下に置かれることになります.これが学問の自由とそのための大学の自治を保障した憲法23条に,そして教育への「不当な支配」を禁止した教育基本法10条に反することは明かです.
大学での教育と研究は大きな影響を受けるでしょう.教育内容は画一化され,研究も短期的な成果ばかりを求めるようになる恐れがあります.国立大学は現在,たとえば化学分野での論文数は世界十位までに日本の八校がランクされるなど,国際的にも重要な位置を占めていますが,このような水準を維持することも難しくなるでしょう.
しかし何よりも重大なことは,大学の社会に対する批判的な機能が致命的な打撃を受けるため,国家がその重要な警報装置の一つを失うということです.学問の自由を,そして言論の自由を失った日本がどこに突き進んだかを、思い返してください。大多数の国民が戦争で塗炭の苦しみを舐めたのはわずか数十年前のことです。
国立大学だけの問題ではない
授業料が値上げされ,教育の機会均等がさらに奪われる危険性も重大です.また,経営上の配慮から入学者の数を増加させ,それによって学生の勉学条件が悪化する可能性があります.これはまた,経営基盤の弱い私立大学から学生を奪うことになるという指摘もされています.
独立行政法人に関する法律は国の機関に限定されているにも拘らず,公立大学まで「独立行政法人化」しようという動きもあります.さらに,国立大学という大学社会の一角で自由が奪われることは,私立大学にも少なくない影響を及ぼすでしょう.
大学の自由を拡大し,国民の意見を大学に
国立大学の改革はむしろ,現在行われている様々な官僚的な規制を撤廃して大学と諸構成員の自由と権利を拡大する方向でなされなければなりません.その中でも学生の権利の拡大は重要です.そうすれば大学は,1998年のユネスコ高等教育宣言にあるように,独立した批判力を十分に発揮できるようになるでしょう.
そのためにも,国民・納税者の意思を国立大学に反映させることは,「学問の自由」と矛盾しない方法で,むしろ積極的に追求されなければなりません.
まだ何も決まっていない
いくつかのマスコミは国立大学の独立行政法人化が既定の事実であるかのように扱っています.しかし国会審議も始まらないうちの「事実上の決定」などということは我が国の法制度の根幹を否定するものです.多くの国民が声をあげることで,私たちの財産である国立大学の破壊を止めさせましょう.
この文書に触れられた全ての皆さんに全国ネットワークへの参加を呼びかけます.
2001年 5月 1日