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独行法反対首都圏ネットワーク

☆蓮實重彦前国大協会長への公開状
 
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本日、以下を書状にて送付しました。

「国大協への署名」(*1)は、豊島さん、野田さんと取り組んだもので、記
録が http://ac-net.org/dgh/kdk-shomei にあります。呼びかけ人になってく
ださった方々、署名していただいた方々に改めて御礼申しあげます。最終的な
署名者数は69国立大学の818名、また、国立大学OB・アカデミズム界の
98名から支持表明がありました。国立大学独法化阻止 全国ネットワーク
http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html 結成の契機の一つとなった
運動です。

豊島さんから、蓮實氏の「結果責任」を明確にすべきではないか、という提案
があり、共同でまとめたものです。

辻下 徹
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                                             平成15年5月21日(水)

蓮實重彦  様

               辻下 徹(北海道大学 教授)
               (2000年7月「国大協への署名」提出代表)

                〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
                北海道大学大学院理学研究科
                Tel,Fax:011-706-3823(office)
                tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp

  謹啓

  惜春の候,ますますご清栄のこととおよろこび申し上げます.

  さて、5月16日の衆議院文部科学委員会で、国立大学法人関連法案が無修
正で可決され、国立大学の独立行政法人化問題は、重大な局面を迎えています。
この問題について国立大学協会が2000年6月に重要な決定をするとき、蓮
實様は会長として重要な役割を果されました。その決定に関して、私を含む国
立大学教員360名が、あるお願いをしたことはご記憶のことと思います。

  すなわち、私たちは同年7月27日付けの共同意見書(*1)において、
「国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議」は国立大学の独立行政法
人化を前提としたもので、正式に参加すれば、会議で決定されることを拒否す
ることは事実上不可能となり、独立行政法人通則法を骨格とする法人化を受け
いれざるを得なくなるであろうと警告し、参加決定の撤回を要求しました。

  その後の3年間は、残念ながら予想通りに事が進みました。それどころか、
国立大学協会の現執行部は、国立大学協会の主張の核心を否定した国立大学法
人法案が可決されるよう躍起になっています。

  3年前の決定について他の誰よりも重い責任を負う立場にあられる蓮實様は、
今のこの状況をどのような思いで見ておられるのでしょうか。

  総会直後の記者会見で蓮實様は記者の問い

     文部省が設置する予定の調査検討会議は独立行政法人化すること
     を前提にしている、それに参加されるということは、国大協として
     は独立行政法人という制度そのものを受け入れたのか

に対し,

     いやいや、まったく別のことです。まったく受け入れていないの
     で、それを 独立行政法人として実現させないために、そこに入っ
     ていく予定です。

と答えられました。しかし現実はそうなりませんでした。調査検討会議への参
加を会長の力で実現された蓮實様は、その結果責任を果すために今なすべきこ
とがある、とお考えになっておられると推察しております。と申しますのは、
同じ会見で

     最終的に全く理想的な形態がそこに成立しなければ、その後新た
     な問題が起こるだろう

とも述べておられますが、国立大学法人法案によって「理想的な形態」が実現
したとお考えのはずはないからです。事態を率直に見る限り,「国立大学法人」
は独立行政法人の一種であるだけでなく、国立大学協会が強く反対したはずの
「非公務員化」も盛り込まれています。

  「独立行政法人化を受け入れないために調査検討会議に参加する」という発
言は、会議における国立大学協会の立場を少しでも有利にしようという配慮か
らのものと推測しますが、法人化についての是非を判断する責任を回避し「先
送り」されたことは事実です。「先送り」されたその責任の一端を、この重要
な時点において、お引き受けいただけないでしょうか。すなわち、3年前の6
月の国立大学協会総会決定が今日の結果に到る重要な岐路の一つであると認識
されるのであれば,その決定について最も重い責任を担う個人として,この法
案の是非を吟味し、その結果を日本社会に向けて証言していただけないでしょ
うか。

   2年前、国立大学協会会長の任期を終えるとき、蓮實様は「生きものとし
ての大学には「改革」よりも「変化」がふさわしい」というメッセージを残さ
れました。その最後を

     外圧によって大学の「制度」について心を砕くあまり,刺激しだい
     ではいかようにも「変化」し,にわかに溌剌とした表情もおびれば,
     たちどころに衰退してしまいもする生きものとしての大学の真の健
     康を,どこかでないがしろにしていたのではなかったでしょうか。
     ことによると,それは,個人の資格で事態に対処することをおこたっ
     てきたわたくし自身の個人的な責任かもしれません。それが,会長
     を辞するにあたってのわたくしの心をいまなお悩ませている倫理的
     な気がかりにほかなりません。

と結ばれ、会長という存在にかかる外圧と個人的な信念との齟齬に悩まれたこ
とを告白されています。この問題について、自由な立場におられる今、蓮實様
には個人の資格でできる大きなことが種々おありです。どうぞ、日本の高等教
育全体の将来のために「学の独立性」を次世代に確実に継承させるために、沈
黙以外の選択肢というご決断をお願いします。

                                                                  敬具

追伸  これは公開状とさせて頂きました。

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国立大学協会長 蓮實重彦殿

 国立大学協会会則第28条に基づき、国立大学教職員360名共同で以下の
要望書を提出いたしますので、会員に回付されますとともに、関係委員会にお
いてご検討くださいますようお願いいたします.


  要 望 書

 国立大学協会は、さる6月14日開催された総会において、文部省が設置を
予定している「国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議」に参加する
ことを決定しました。

 各大学内に、独立行政法人化に対する根強い反対意見があるなか、十分な審
議を尽くさないまま、文部省、自民党の圧力に屈する形で、独法化を前提とし
た「調査検討会議」への参加に踏み切ったことは、きわめて遺憾なことと言わ
ねばなりません。

 私たちが何よりも危惧することは、「調査検討会議」に正式に参加すれば、
そこにおいて決定されることを拒否することは事実上不可能であり、結局は独
立行政法人通則法を骨格とする法人化の受け入れに繋がらざるを得ないであろ
うということです。

 蓮實国大協会長は14日開かれた総会後の記者会見において、「調査検討会
議」への参加が独法化受け入れを意味するものでないことを強調し、さらに
「最終的に全く理想的な形態がそこに成立しなければ、その後新たな問題が起
こるだろう」とまで述べておられますが、これらは、何の担保・保障もない以
上、中味のない空証文に終わる恐れが強いのではないでしょうか。

 そもそも、文部省が独法化に向けて一方的に設置する「調査検討会議」への
参加の是非さえ余裕をもって判断できないようで、どうして今後、国大協の主
体性を期待できるのでしょうか。

 国大協が、6月14日の会長発表第一項にあるように、「国立大学の設置形
態に関して、これまで表明してきた態度を変更する必要があるとは認識してい
ない」というのであれば、「調査検討会議」への正式参加を取りやめる以外に
ありません。

 いま国大協にとって大切なことは,文部省の中の一組織に性急に加わること
ではなく,広く国民にこの問題の本質を理解してもらうための組織的努力を開
始することではないでしょうか。

 その一つは「独立行政法人」に代わる案を国民の前に提示することであると
考えます。ぜひ会長発表第二項にある「設置形態検討特別委員会」において、
全大学関係者の英知を集めて、真に大学の独立を確保する国大協独自の案づく
りを進めてください。そして本格的な選択肢を広く国民に提示し,その判断を
仰ぐべきです。私たちもそのための協力を惜しみません。

 以上、要望いたします。
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