【コラム】なぜ国立大学を法人化するのか /毎日教育メール(3/8)
教育ジャーナリスト 矢倉久泰
文部科学省は2月27日、国立大学を独立行政法人にするための国立大学法 人化法案を公表した。法案はいまの通常国会に提出され、成立すれば、国立大 学は来年4月から法人になる。たとえば北海道大学は「国立大学法人北海道大 学」が設置するということになる。したがって、国立大学の数だけ法人ができ るわけだ。
なぜ法人にするのか。財政難の政府は「小さな政府」をめざして国家公務員 の25%削減を打ち出し、国の付属機関を独立行政法人にすることにした。こ の行政改革の対象を国立大学にも適用するわけだ。文科省はこれを機会に国立 大学を競争させて教育研究を活性化しようとしている。市場競争原理の導入で ある。
この法人化には疑問点が多々あるといわざるをえない。まず、法人化すると 言いながら、文科省が国立大学のコントロールを強めることだ。法案によると、 文科省は各大学の6年間の中期目標を、大学の意見を聞いて定め、各大学はそ れに基づいて中期計画を立て、文科省に提出して認可を受けなければならない。 さらにその計画が達成されたかどうかを文科省の国立大学法人評価委員会が総 合評価し、その結果に基づいて予算(運営交付金という)が配分されることに なる。
これでは規制緩和に逆行するではないか。国策に合う教育研究が強いられ、 学問研究の自由が侵されかねない。大学間格差も広がるだろう。
法人化された国立大学には、学長、監事、理事による「役員会」を置き、最 高議決機関になる。学長と監事は文科大臣が任免する。役員会の下に、経営に 関する重要事項を審議する「経営協議会」と、教育研究の重要事項を審議する 「教育研究評議会」が置かれる。本来、大学の経営と教学は一体ものだが、こ れを分離するというのだ。教授会自治も形骸化しそうだ。
3つの会議の議長は学長が務めることになっており、学長の権限が強まる。 監事と経営協議会の半数以上は学外者にしなければならないので、学外者の意 見によって大学運営が左右されかねず、大学の自治が侵害される恐れがある。
このほか、法案にはないが、各大学は民間評価機関による第三者評価を受け、 さらに教育研究面は大学評価・学位授与機構の評価を受け、文科省の国立大学 法人評価委員会が業務を含む総合評価を行うことになる。三段階の評価を受け るわけだ。
評価にあたって、大学は教育研究を犠牲にして膨大な資料づくりを強いられ ることになり、「評価栄えて教育研究廃る」ことになりかねない。また、総合 的に評価するのが国家機関であることも気になる。政治の意向がからまらない だろうか。
評価は予算査定のためではなく、大学の自主的な改革を促すために行われる べきである。だから、評価は国家機関が行うのではなく、日本学術会議や大学 基準協会、各学会などによる「ピア評価」(学者同士による評価)にする方が よい。
一方、大学職員は国家公務員ではなくなる。このため、職員は組合をつくっ て賃金など勤務条件を役員会と交渉することになる。文科省の評価の良くない 大学は予算を減らされ、受験生が集まらない大学は受験収入も少なく、台所が 苦しくなる。経営状態が悪いと文科省に廃校されることになる。国立大学は弱 肉強食の時代に入るのだ。
国民各層に安く質の高い高等教育を保障すべき国立大学なのに、これでいい のか、大いに疑問がある。 (毎日教育メール 2003年3月7日付)