独行法反対首都圏ネットワーク
2003年(平成15年)4月19日

地域祉会と大学
独立行政法人化に思う(中)
       田中弘允

市場競争原理
知の拠点失い
分権とも矛盾

 一般に杜会改革が行われる際には、中央から離れた地方では犠牲が多いといわれ
ている。国立大学法人の場合はどうだろうか。
 行政改革には二つの手法がある。一つは「宮から民間へ」、すなわち「市場原理
主義」。もう一つは「国から地方へ」、すなわち「地方分権」である。前者はヒト、
モノ、カネの流れを大都市に集中化させる働きをする。後者は逆に、過度の大都市
集中化に伴う政治経済のひずみ、文化の一様化、杜会問題の噴出といった事態を回
避し、全国的に多様な活力ある地域杜会を発展させる役割を果たすべきものである。
 ところが、国立大の独立行政法人化は競争原理に強く依処して制度設計されてい
る。したがって、すべての国立大への一様な独立行政法人制度の導入は、国立大の
機能の集中化、拠点化のみを推進するものであり、現在極めて不利な条件下にある
地方国立大と地域社会にとって、憂慮すべき制度設計と言わねぱならない。
 市場競争原理は、(1)東大など旧帝大と地方国立大との間には、教育研究基盤(施
設・設備、教職員、経費など)で、すでに著しい格差が存在する (2)大企業や本社機
能が少ない地方では、産学連携などによる研究費の増額はきわめて困難である (3)
県民所得が低い地方では、子弟の教育の機会を確保すべきという点から、授業料・
入学金の値上げによる収入増はほぼ不可能であるーなどといった理由で、地方国立
大に極めて不利な条件をもたらす。
 したがって、地方国立大は衰退の方向をたどらざるを得ないであろう。その結果、
中央から遠い地方は知の拠点を矢って衰退し、全体として日本の国力が地盤沈下を
きたすことは、ほぽ確実と思われる。それはまた、地方活性化をうたう地.方分権に
矛盾する。
 以上のことが意味するものは、行革と同様に大学改革にも二つの手法があるべき
ということである。主に産業競争力強化を担う大都市圏の大学への拠点化、集中化
の方向とは別に、日本全体の地域活性化を担う地方国立大については、あくまでも
分散化を維持し、一方向的に集中化のみを図るべきではないということなのである。
 この観点から見るならぱ、比較的均衡ある形で全国に配置されている地方国立大
は、市場競争原理に伴う大都市集中化の流れに抗し、「地方分権と地方活性化の最
大の拠点」となるべき任務を負うと考えられる。
 国立大学法人法案が、学問の衰退と地方の発展の阻害を来す危険性をはらんでい
ることは明らかである。国立大が時代とともに変わらねぱならないことは言うまで
もない。しかし、その改革はあくまでも学問の府の本質を踏まえた改革であるべき
である。理性を欠いた構造改革の暴走が、国立大を崩壊させ、地方を衰退させるよ
うなことがあってはならない。この国の未来を見据えた理性ある判断と勇気が、国
会議員、教育・研究者ならびに国民に求められている。(前鹿児島大学長)