独行法反対首都圏ネットワーク
田中弘允氏の『南日本新聞』への文章の最終回です。

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2003年(平成15年)4月23日

地域祉会と大学
独立行政法人化に思う(下)
       田中弘允

相互活性化
全国展開可能な
情報網の構築を

 二十一世紀に入り、中央から遠い地方の地域杜会は少子高齢化、過疎化、企業倒
産などが深刻化し、聖域なき構造改革は地方に対して、より強い痛みを加えている。
 こうした状況下で地方国立大が果たすべき役割を考え、二〇〇一年九月に私を含
めた地方国立大学長有志二十八人は、大学と地域社会の活性化を目指す「国立大学
地域交流ネットワーク構築」の握言を行った。独立行政法人化のような外からの改
革ではなく、教育研究の本質に即した大学改革の方向を示すためである。
 提言の第一の柱は、地方国立大と地域杜会との間に全面的で根本的な交流関係を
築き、相互的かつ相乗的な活性化を図ることである。各大学は地域社会の現場に赴
く。産学連携、不況、環境、エネルギー、食料、医療、福祉、いじめ、学級崩壊、
生涯学習、国際交流など地域社会が直面するあらゆる問題の共有や共同解決を図り、
地域社会の活性化に寄与する。
 逆に各大学はこのことを通して、地域社会から学び、大学の活性化を図る。無論、
教育のコア部分は確実に組織運営され、また研究の墓本部分も必要に応じ再編強化
されねぱならない。
 これにより、大学の教育研究はより深く地域杜会に根ざしたものになる。こうし
て全国各地で、地域特性に根ざした独創的な研究や解決方法、多様な知の形態、新
しい学問領域などが誕生し、それによる地域杜会の活性化も期待できる。学生は勉
学の動機付けを得て、現実感覚に富む杜会的適応力を身に着ける。
 第二の柱は、地域社会と大学の相互的かつ相乗的な活性化の関係を全国規模で結
合する情報ネットワークを構築し、日本の地域社会全体を支えることである。各大
学に双方向多地点TV会議システムを設置し、ある地域や大学の活性化を、単に一地
域一大学に留めることなく、広く全国に伝える。
 各大学がネットワークを通じて情報を交換し合い、相互補完的に役割を分担しな
がら、ネットワーク全体で対応するならば、複雑な現代的課題を解決する水準やス
ピード、効率性は全国的な規模で飛躍的に高まることが期待される。
 例えぱ、あらゆる研究領域の最新情報や興味深い情報を、分かりやすく双方向的
に情報交換し対話交流することは、地域杜会の知的欲求にこたえ、生涯学習に資す
るのみならず、地域産業の発展やベンチャー企業への刺激と動機付けを提供するも
のとなる。
 地球一体化が進展し、地域杜会が地球規模の問題の解決を追られている現在、大
学と地域社会の全国的結合こそ、二十一世紀の地域社会と日本を支えうる基本的な
条件である。
 大学と地域社会との知的交流の萌芽は、例えば鹿児島大の「環境保全型農業」研
究プロジェクトのように、全国各地で見ることができる。これが大きな流れになる
ためには、大学の教育研究システムの再構築と地域社会の広い視野を持った時代認
識が不可欠である。
   (前鹿児島大学長)