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『南日本新聞』2003年4月16日付 地域社会と大学(上) 独立行政法人化に思う 田中弘允 統制強化 創造性をゆがめ学問の衰退招く ハ 国立大学法人法案が国会で審議されている。わが国の高等教育政策の行方を 決める重大なときに当たり、法案の本質的な問題点を指摘したい。 ハ 「国立大学は法人化によって自由が拡大する」と言われているが、これはと んでもない誤解である。 ハ 政府は、行政改革の柱である「官から民間へ」を実現するために、政府組織 を二つに分け、企画・立案機能を担う組織は政府に残し、実施機能を担う組織 を分離独立させて独立行政法人をつくった。企画・立案・実施の機能を一体と して教育研究を行うべき国立大学に、このような独立行政法人制度を行革の力 によって無理やりに当てはめたことが、重大問題を発生させる元凶となったの である。 ハ 法案では、大学は法人格を与えられるが、企画・立案機能は取り上げられ、 単に実施機能を持つだけの組織となる。文部科学省は国立大に対し、六年間の 教育・研究等の目標・計画を指示、認可する。そして、六年後の成績評価と競 争原理による予算の配分、次期の目標・計画の指示、認可あるいは大学の改廃 までも取り仕切る。大学は教育・研究を命令によって実施しなければならない。 時の政府や官僚がすべての権限を握り、国立大学を直接統制することが、教育・ 研究を発展させ、この国の未来を明るくするであろうか。 ハ 欧米諸国では、この点についての深い配慮がなされている。まず「独立行政 法人」的手法を持っている大学はない。また大学に対する資金交付に当たって、 政府の干渉を抑制するため、さまざまな方策が講じられている。イギリスでは、 政府と各大学の間に緩衝機関が設けられている。その機関が資金配分を行うこ とによって、政府への権限の集中化と政府から各大学への直接権限の行使を回 避している。こうすることが長い目で見て、国益につながることを考慮しての ことである。 ハ わが国の憲法が「学問の自由」を保障し、教育基本法が「教育の不当な支配」 を排除しているのも同一の趣旨である。 ハ 教育研究の現場から見ると、事の本質はさらに明らかになる。学生の能力を 伸ばし、創造的自己形成能力を養成するには、当の主体が問題に直面して、そ の都度自由に問いや目標・計画を立て直し得ることが生命である。また、真理 の発見や学術的価値の創造には、ノーベル賞受賞者の経験談に示されているよ うに、自由な発想、試行錯誤、偶然性などが大きな役割を果たす。 ハ 独立行政法人制度は、上述の教育・研究に必須な精神の自由を教育・研究者 や学生に保障することは到底できないのである。したがって、本制度の下では 真の教育研究を行うことは不可能であり、もしそれが強要されるならば、教育 研究の本質はゆがめられ、学問は衰退を余儀なくされることは明らかである。 このことは、文相の当初の反対声明に的確に述べられている。 ハ 時の公権力が学問を支配し得るような法律を作ってはならないのである。 (前鹿児島大学長) たなか・ひろみつ氏 名瀬市出身。1959年鹿大医学部卒。80年から同学部第一内科教授、95年から医 学部長。97年から2期6年学長を務めた。専門は循環器内科。2002年4月まで文 科省「国立大学の独立行政法人化に関する調査検討会議」の協力者。 |