「国立大学法人法案」に対する声明  

2003228

全国大学高専教職員組合中央執行委員会

1.政府は228日の閣議において「国立大学法人法案」(以下、「法案」と記す)を決定した。

全大教は、文部科学省が提示した「国立大学法人法案の概要」に対して、去る24日に声明を発した。

その基本的見解は、学問の自由と大学自治を保障する制度上の枠組みを著しく弱体化させ、人類と地域社会、国民に取り返しのつかない深刻な影響を招きかねないものであって、到底容認できないという立場に立つものであった。  

2.決定された「法案」を検討すると、私たちの指摘した危険性はいっそう明瞭なものとなっている。以下に主要な問題点を指摘する。  

(1) 法案は、「国立大学法人」(以下、「法人」と記す)の内部組織について、教学と経営を分離して、学長と少数の理事がトップダウン的に運営する枠組みを示している。

第一に、このようなシステムは、教育研究を目的とする大学の運営には、明らかに不適合である。なぜなら、大学は「知の共同体」であることをその本質とするからである。理事は学長が任命するとしているが、どのような手続きによるかは明示されていない。特に、かりに学長が単独で指名できるというのであれば、学長に極度に権限が集中することになり、きわめて問題である。

第二に、教育研究評議会の審議事項には、教育研究活動の遂行において不可欠な「予算の作成、執行並びに決算に関する事項」「重要な組織の設置または廃止に関する事項」が欠如しており、その権限は現行の評議会に比して弱体化されている。また、評議会の構成を規定した国立学校設置法第7条の3には、各学部等から選出される教授を加えることができると規定しているが、教育研究評議会にはこれに対応する規定が欠如している。どれをとっても、学内構成員の意見反映を狭める結果に帰結するしかない。

第三に、経営協議会に半数以上の学外委員が参画するとしていることは、教育・研究に通じていない学外委員が、短期的な視野から業績を追求する経営優先の大学運営に陥りかねない。もっとも、学外委員は学長が教育研究評議会の意見を聴いて任命することとして、教育研究の論理を尊重しているように見えるが、教育研究評議会の権限の制限とあいまって、経営が教学を従属させることに対して、明確な歯止めを持つものとはなりえていない。大学の本質は教育研究活動を担うことにある以上、経営は教育研究を支援する目的に対して合理的なシステムでなければならない。

第四に、私たちは、大学が社会の声を謙虚に聴き、それを主体的に取り入れることは不可欠であるという立場に立つ。しかし、その立場からしても、教育研究を目的とする大学の運営組織は、その自律的機能を高めるために教育研究を直接に担う学内構成員の意見を最大限反映するシステム、具体的には評議会・教授会を基軸とするシステムとして構築されなければならない。  

(2) 法案は、学長の任命は、法人の申出に基づいて文部科学大臣が行うとし、その申出は「学長選考会議」の選考に基づいて行うとしている。「学長選考会議」は、経営協議会の学外委員及び教育研究評議会選出の委員、各同数で構成され、委員総数の3分の1以内で学長・理事を加えることができるとしている。これは大学運営の最高責任者を決定するにあたって、学外委員の意向が過剰に及ぶ危険を生み出すものである。さらに学長・理事が選考会議に加わることは、チェック・アンド・バランスの働かないシステムとなる危険性をも抱え込むことになりかねない。選考会議は、教育研究評議会選出の委員を多数としながら、経営協議会選出の委員も加えることができるよう改め、その具体的な構成は各大学の判断に委ねることとして、学長・理事を加えることができる条項は削除するべきである。

また、学長選考に関して、「最終報告」は学内構成員の意向聴取に言及していたが、法案は対応する規定を欠いている。法人化後の大学運営に当たって職員の果たす役割が大きくなること、教育研究を目的とする大学にふさわしくボトムアップの運営を図る重要性があることに鑑みて、学内構成員・教職員の意思を適切に反映するシステムが規定されるべきである。

同様に、教育研究の特性に配慮する(法案第3条)というのであれば、学問の自由と大学の自治を人事の面で具体化する基礎と位置づけられている教育公務員特例法の内容を法案に規定すべきである。  

(3) 法案の規定する目標・評価システム、国立大学法人評価委員会(以下、「評価委員会」と記す)への大幅な権限賦与は、政府・文部科学省による関与・統制を強化するものである。

法案により、文部科学大臣には中期目標を定め、変更する権限とともに、大学の作成した中期計画を認可し、これが不適当となったと認めるときには変更を命令する権限が賦与される。中期計画の変更命令権は「最終報告」でも言及されなかったものであり、大臣が目標を定め、計画を認可することと合わせて、世界に類をみないことであり、学術研究と高等教育のあり方を歪める危険性が高いものである。

一方、文部科学省に設置される評価委員会の設置目的は、「国立大学法人等に関する事務を処理させるため」とされ、「法人等の業務の実績に関する評価に関する」事務のほかに、広範な事項の処理にあたる権限を賦与される。たとえば、大臣が中期目標を決定・変更し、中期計画を変更しようとするとき、また、法人による「技術に関する研究の活用を促進する事業」を実施する者への出資、積立金処分、長期借入金及び債券の発行、償還計画等を大臣が認可しようとするときは、あらかじめ評価委員会の意見を聴かなければならないとされているのがそれである。

これほど広範な権限をもつ評価委員会の組織、所掌事務、委員その他の職員は、政令で定めるとされている(第9条第3項)。公正な評価ができるかどうかは、教育・研究の実情に明るい大学の構成員がどれだけ含まれるか、社会の多様な構成員がどれだけ公正に組織されるかにかかっている。このような重要事項を政令に委ねることは不適当であり、法律によって定めるべきである。  

(4) 法案は、法人が国立大学を設置するとしたが、学校教育法第2条の学校設置者規定との矛盾を緩和するため、同条を改正して「国」の中に「国立大学法人」を含むこととした。

このことは、学校教育法第5条で設置者による経費負担を規定していることから、法人化後も国立大学を維持・改善するために、国が財政上の責任・負担を負うことを意味する。

しかしながら、法案においては、あくまで設置主体は法人であるから、国の財政責任・負担は間接的な性格となるものとみざるを得ない。さらに、法案第35条が独立行政法人通則法第46条の財源措置に関する規定を準用していることからみて、国の財政責任・負担を明確に義務づけているとはいいがたい。

法案の第1条は、「大学の教育研究に対する国民の要請にこたえるとともに、我が国の高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展を図るため、国立大学を設置して教育研究を行う国立大学法人」としている。「高等教育及び学術研究の水準の向上と均衡ある発展」を図る上において重要な役割を果たすべき国立大学の公共性を高めるために、法案に国が国立大学の設置者であることを明示し、国が財政上の責任・負担を負うことを義務づける明確な規定を盛り込むべきである。  

3.以上のように、法案は枢要な点において多くの問題点を抱えており、断じて容認することはできないものである。私たちは、全国の教職員組合・教職員の統一と団結をさらに強め、高専、公立大学の法人化問題を含めて国民の皆さんに広く訴えて、国立大学法人法案に強く反対し、何よりもその廃案をめざすものである。同時に、上述した問題点をふまえて、学問の自由と大学自治・自律的機能を発展させるとともに、「非公務員型」化問題をはじめ、教職員の身分・権利を擁護する立場から、国会における修正、附帯決議等の追求を含めて、大学関係者はもとより、地域・国民の皆さんとの共同を広げ、粘り強く取り組むものである。