以下は,2002年9月4日から5日にかけて国会議員に送ったメール(最終バージョン)です.


官学癒着の暴走を止めるためにご援助を

議員各位

                  佐賀大学理工学部教授 豊島耕一
                   840-8507 佐賀市本庄町1
                   電話/ファクス 0952-28-8845
                   toyo@cc.saga-u.ac.jp

拝啓

時下ますますご清栄のこととおよろこび申し上げます.

最近の国立大学における,いわば「官学癒着の暴走」の状況をご報告し,正常化のためになにとぞ貴議員のご援助をお願いしたく,メールを差し上げます.

大学内部の問題を,外部の,特に政治の分野の方々に訴えて協力を依頼するというのは,正常なことではありません.自治的に解決すべきであるということは十分承知しているつもりですが,現在の事態はそれを超えた問題であると思われます.そして何よりも,国会無視という議員の皆さんにも重大な関わりのある問題ですから,こうして訴えをさせていただきます.すなわち,法律の制定どころか審議も始まっていないのにこれを実施するという,国会無視の暴挙だからです.

文部科学省は国立大学を独立行政法人に変えることを決めており,法案策定作業を進めていると思われます.名称は「国立大学法人」ですが実質的には変わりません.

しかし重大なことに,もちろん国会審議にも入っていないこの制度を前提とした準備作業を文部科学省は国立大学に実施させているのです.独立行政法人制度における「中期目標・中期計画」の策定作業がそれです.これは本来,法律が成立した後に取りかかるべきものであり,法案も存在しない段階でこれを実施し,貴重な勤務時間を消費するのは明らかに国会無視であり,公務員の「職務専念義務」を定めた法律にも違反すると思われます.

文部科学省は決して指示などしていない,大学が自主的にやっていること,と言うでしょうし,指示をしたという証拠はおそらくないと思われます.しかしむしろ,法律遵守を徹底すべき官庁としては,このような国会無視はやめるように,という指示を出すべきなのはないでしょうか.もちろんそのような指示はありません.

そもそも大学に独立行政法人制度を当てはめること自体に問題があることは,この制度の発案に関わったとされ,このほど最高裁判事に内定した東北大学の藤田宙靖氏自身が指摘していることです*.文部科学省が「中期目標」と称する命令を大学に与えるなどということは,戦前の大学制度にも見られなかったのではないでしょうか.

いかに文部科学省の無言の圧力があったにせよ,このような国会を飛び越えての準備行為に走っている大学自身の責任が免れることはありません.少なくとも大学は,このような異例の作業に貴重な勤務時間と,おそらくはなにがしかの予算,つまり公金を使うことに対し国民に説明する義務があるでしょう.(私は,違法であり申し開きは出来ないと思いますが.)

私の所属する佐賀大学理工学部におきましても,一昨日の教授会でこれを策定するための委員会の設置が決まりました.私は強く反対しましたが**,賛成討論が全くないにもかかわらず,賛成多数で可決されたのです.学部の管理職と,各学科から選出された10名を越える委員が,これから数ヶ月にわたって独法化の準備作業を行うことになります.その中味がいかに煩雑で,また無意味な作文になるだろうということは,京都大学が早々と作成した「記載事項例一覧」#(500キロバイト超!)を見れば明らかです.

国立大学の教員は,「教養部解体」以来絶え間ない,いわゆる「改革」に伴う膨大な行政的作業と,それに伴う事務的作業とですでに十分に疲弊しています.これ以上のその種の作業は,しかもおそらく違法な作業は,教員の本務,すなわち教育と研究に相当のダメージをもたらすでしょう.そして何よりも,独法化はすでに決まったことという先入観を与え,国民にその問題点を知らせようとする気力をさえ失わせるでしょう.

議員に是非ともお願いしたいのは,このような国会無視の,独法化を既成事実化する動きについて是非とも文部科学省と大学に問いただしていただきたいのです.

最後になりますが,貴議員の各方面でのご健闘をお祈り申し上げます.敬具.

2002年9月5日

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* 「この制度をそのままに大学に適用したとするならば、大学の自治に対する著しい制約ともなりかねない」(「 国立大学と独立行政法人制度」,同氏のホームページより)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/~fujita/tohoku-koen.html

** 独立行政法人制度の枠組みに沿った案を作るのではなく,将来の計画・目標を議論するのであれば,従来からある「将来計画委員会」で対応すべきだと主張しました.

# http://www.ne.jp/asahi/tousyoku/hp/kyodaikisaijikou020821up.htm

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独立行政法人化問題については,次のサイトが大変詳しい情報を提供していますので,ご紹介します.
 国立大学独立行政法人化の諸問題(北大辻下教授のサイト)
 http://ac-net.org/dgh/index.html