違憲の就業規則には特別の関心を

佐賀大学 豊島耕一
高等教育フォーラムへの投稿.2003.11.17

国専協による国立高専の就業規則案に驚きます.

第35 条 教 職員は、次の事項を守らなければならない。

六 機構内で、宗教活動、選挙運動その他の政治活動をしてはならない。

七 理事長の許可なく、機構内で放送・宣伝・集会又は文書・図画の配布・回覧掲示(インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じるものを含む。)その他これに準ずる行為をしてはならない。

木更津高専教職員組合委員長の田村氏がこの2項目の削除を主張していますが,当然です.日本国憲法21条が保障する集会・結社・表現の自由と検閲の禁止は,国家機関だけでなくすべての私人,団体が遵守する義務を負っています.職務専念義務だけで十分であり,休み時間に職員が何をしようと勝手です.掲示物が職務の妨げになるという証明がない限り,これも自由でなければなりません.上のような規則を考え出す人の頭の構造がどうなっているのか,全く不思議です.どうして隣の独裁国家* を手本にしたいと思うのでしょうか.ぜひ憲法学者の発言をお願いします.また,他の条項と違って,いやしくも憲法的権利にかかわることにはもっと重大な関心が持たれて然るべきです.

いくつかの独立行政法人の就業規則をネットで調べてみました.その結果,どうやら文部科学省系だけにそのような規定があるようです.イデオロギー官庁(儒教官庁)の面目躍如というところでしょうか.

大学入試センター 2001年4月1日制定
規則第37号 (職場の秩序維持)
第26条 職員は、理事長の許可なく、センターの施設内で業務外の文書若しくは印刷物を配付し、掲示を行ない、又は業務外の集会、演説、放送若しくはこれに類する行為を行なってはならない。

国立青年の家 2001年4月1日制定
第35条  職員は,次の事項を守らなければならない。
七 理事長の許可なく,青年の家内で放送・宣伝・集会又は文書画の配布・回覧掲示その他これに準ずる行為をしてはならない。

国立美術館 2001年4月2日制定
第21条  職員は,理事長の許可なく,国立美術館構内で,業務外の文書若しくは印刷物を配布し,掲示を行い,又は業務外の集会,演説,放送若しくはこれらに類する行為を行ってはならない。

以下の独立行政法人の就業規則には該当する規定はありません.国立特殊教育総合研究所だけが文科省系です.

国立公文書館,工業所有権総合情報館,国立特殊教育総合研究所,経済産業研究所,建築研究所

大学入試センターは国立大学と密接な関係を持つ組織ですが,このような規則が作られるのを許したのは迂闊ではなかったでしょうか.組合や連合体など,規則ウオッチャーは何をしていたのでしょうか.
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(蛇足,11月18日)
次のような規則をどう思われるだろうか.

第35条  教職員は、次の事項を守らなければならない。
七  理事長の許可なく、機構内で茶会,テニス又はそれらの案内状の配布・回覧掲示(インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じるものを含む。)その他これに準ずる行為をしてはならない。

テニスはいいがなぜ「集会」は許可がいるのか? そう言われればだれもすぐにおかしいと思うだろう.しかしそこまで言われなければ国専協案に「おかしい」という反応が起こらないとすれば,それは心の中に「治安維持法」が生き残っているからであろう.この規則案を作った国専協の人の頭の中にはそれが全く完全な形で生きているのである.もちろん憲法21条よりも圧倒的な地位を占めて・・・

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* もちろん朝鮮(いわゆる北朝鮮)を指しています.蛇足ですが,この国の独裁体制を引き合いに出すことは排外主義とは関係ありません.北東アジアで最も重大な人権侵害が行われている地域であり,関心を持ち,批判するのは当然です.この地域での戦争を防ぐためにもそうです.なお, 「北朝鮮」の略称は明らかに差別的であり,かといって「共和国」も略称とは認めにくいので,正式国名の冒頭の2文字,すなわち「朝鮮」がふさわしいのではないでしょうか.