読売新聞社論説委員会御中
独法化阻止全国ネット 豊島耕一
3月1日付けの社説に対する意見をお送りしたところ,早速回答いただきありがとうございました.残念ながら納得できるものではありませんでしたので,再度お尋ねしたいと思います.
まず,「国立大学法人化法案には、中期目標、中期計画のいずれも各大学が原案を作ることが明示されてい」るとありますが,法案では「あらかじめ、国立大学法人等の意見を聴き、当該意見に配慮する」(30条3項)となっていますから,これは正確ではありません.「最終報告」の,大学の判断を「尊重」するとの,あるいは「原案はあらかじめ各大学において一体的に検討」というような表現は法律には盛り込まれていないのですから,文字どおり単に「意見を聞く」だけということもあり得ます.中期目標・計画の最終的な決定権が文部科学省にあることは法案から明白です.
また,「現在、各国立大学が文部科学省の一組織として位置付けられ、同省の直接的な指示を受けている」と述べておられますが,これは文部科学省による誤った言説の繰り返しに過ぎません.これはおそらく,国立学校は「文部科学省に置かれる」とした文部科学省設置法十九条を,あるいはそれに対応する国立学校設置法一条を根拠にされているのでしょうか.しかしこれは組織構造と事務の所掌関係を示すのであって,これを一般的・包括的な支配-従属関係と見るのはいかがなものでしょうか.組織構造がそのまま上下関係・指示の伝達関係と見なされるのは軍隊組織だけでしょう.まして国立大学は教育機関であり,教育基本法10条で「不当な支配」からの自由が保障されています.そして「不当な支配」には,法に明記された権限以外の,官僚による支配も含まれるのです.
これは,大学が行政機関ではなく,教育・研究機関であることを考えれば当然の事です.行政の指揮・命令下に置かれなければならないという必要性・必然性もありません.
「最終的な決定権が文科相にあることは、各国立大学の運営が税金によってなされる以上、当然のこと」と述べられますが,これは恐ろしく粗雑な論理です.一体どの法律のどの条文に文科相にこのような権限があると書いてあるのでしょうか.是非教えていただきたいと思います.裁判所の運営について,裁判所は「運営が税金によってなされる以上」,最終的な決定権が国務大臣(法務大臣?)にある,などというのと同じでしょう.
近代的な法治社会というのは,何が命令できて何が出来ないのかということは法律によって明示されており,それに基づかないものは無効であるというのは常識ではないでしょうか.実際,旧文部省設置法6条では次のように規定されていました.
第6条 文部省は、前条に規定する所掌事務を遂行するため、次に掲げる権限を有する。ただし、その権限の行使は、法律(これに基づく命令を含む。)に従つてなされなければならない。
省庁再編で「文部科学省設置法」に替わり,これに相当する条文がなくなりましたが,しかし旧6条の内容が無効になることは考えられません.これはいわば法治主義の原則を述べているに過ぎないからです.
最後に質問を要約致します.
「中期目標・中期計画」の制度が規制強化ではないと言われるのであれば,これよりも強い文部科学省から大学への指示ないし命令の制度が現在法定されていなければなりません.その法律と条文を具体的にお示し下さい.
重要な内容を含んだ問題だと思いますので,どうか再度ご回答いただきますようお願いします.
2003年3月18日