(以下は文通団「高等教育フォーラム」,「大学改革情報」に03年9月19日に投稿したものです.)


佐賀大学の豊島です.

7月25日の次の投稿で,東北大学が一市民を告発した問題を取り上げましたが,その続きです.

  [reform:04908],[he-forum 6054] 東北大学の「有朋寮」関連で逮捕・長期拘留
  
http://www.geocities.jp/chikushijiro2002/UniversityIssues/on-ufo-ryo.html

◆ 大学の告発で一市民が79日間拘留

これに関して進展があり,拘留されていた市民が去る8月20日に保釈されたとのことです.拘留期間は79日間にも及びますが,その容疑は「加療一週間のケガを負わせた」というものです.しかも,学生側による非常に具体的な情報から推察すると,これは大学によるでっち上げである疑いが非常に濃厚であると思います.少なくともその疑惑は存在します.証拠らしいものは診断書だけのようです.学生側による情報は次のページにあり,「事件」の状況についての詳しい説明がなされています.
  http://www.ufo.ac/futo-taiho/0615rally.html#kityou
また,8月14日の第一回公判での被告人の意見陳述は次にあります.
  http://www.ufo.ac/kouhan/dakkan.html

大学側の情報も欲しいところですが,一般からアクセスできるところにはないようです.この事件以前の,廃寮問題や学生処分問題に関しての大学側の見解に限られますが,むしろ学生側がこれをウェブで紹介しています.
  http://www.ufo.ac/toukyoku/index.html
この事件に触れた大学側の文書の内容は下で紹介します.

◆ 無視できる問題か?

この問題は,以下に見るように,大学が一市民の人権を重大に侵害した疑いが濃厚であり,大学関係者として無視できない問題だと思います.しかしこのメールリストでも,組合関係でも,あるいは科学者団体でも全く話題にすらなっていません.はたして “黙って”沈黙できる 問題かどうか,皆さんに考えていただきたいと思います.

学生の運動というと,すぐに「セクトの問題が絡むのではないか」と思ってためらう人もいるかも知れませんが,そのような要素が仮にあったとしても,果たしてそれが沈黙の十分な理由になるでしょうか.また,この件に関して,「だれも世の中の事件すべてに対応することなどできない」と言ってすませられる個人や団体の範囲はどこまででしょうか? ある個人が,またある団体が何らかの警報的な情報を得ている場合,それについての「沈黙」にまでアカウンタビリティーが要求されるかどうかの境目はどこにあるのでしょうか?

◆大学側の記述と学生側による事件の描写

 この事件は,東北大学当局が2003年3月31日をもって有朋寮閉寮を強行しようとし,その手続きとしての3月28日の「現況確認作業」のなかで起きたことです.以下,大学側と学生側の文書を見てみます.

 東北大学が発行する「学生協だより」宸Q4に,事件について次のように簡単な記述があります(学生側から入手).その部分の全文を紹介します.

○教官に対する傷害事件がありました。
 大学は、4月1日以降も国有財産である旧有朋寮建物を管理する責任を負っており、特に旧有朋寮の現況の把握と近隣住民の安全を図る必要があります。そこで、3月28日に、学生協協議員、事務職員と工事関係者が旧有朋寮の現況確認作業と近隣住民の安全確保のための同敷地の仮囲い作業を実施するために現地に赴きましたが、寮生と学内および学外支援者の計約40名に阻まれ実施できませんでした。その際、学生協協議員1名が学外支援者と見られる者に突き倒され頭部に怪我をしました。大学内の問題に学外者が支援者として参加し暴力を働くということは、良識の府である大学においてあってはならないことです。傷害事件として警察に被害届けを出しました。大学はこのような暴力を決して容認しません。

一方,上記ウェブサイトにある学生側の説明は非常に具体的です.そのさわりの部分を抜き出しますと・・・

(前略)
3月28日の「現況確認作業」当日、有朋寮は大学との誠実な話し合いを求めるため、寮の敷地入り口にテーブルと椅子をセットし、討論の様子が市民も含めた誰にでも分かるようマイクも設置しました。有朋寮としての抗議文も用意し、この「現況確認作業」の不当性を徹底的に明らかにしようとしました。マスコミも多数取材に訪れました。そして有朋寮生は、全員が机を境にして寮の敷地内で待機していました。

そこに大学の教職員約40名があらわれます。しかしそのいでたちは最初から異様なものでした。全員が手に手にカメラやビデオを持参し、寮の敷地前に到着するやいなや、「話し合いを」と要求する寮生を無視して、寮生や支援者の顔を無許可で撮影し始めました。「写真撮影はやめてほしい」という抗議も全く受け入れない、実に挑発的なものでした。

当日は有朋寮生や東北大生の他にも、東北大学当局の横暴を許さぬために多くの市民の方々が監視に来てくださっていました。今回不当逮捕された全金本山労働組合のAさんもその一人です。

そうした中、教職員の中でもとりわけ農学部の西森教授は際だった動きを見せます。Aさんにしつこくまとわりついて無法な写真撮影を繰り返したあげく、突然自分から腰を下ろして尻もちをつき、頭を抱えて「倒された!」と騒ぎ始めたのです。

それを見るや、指揮者(経済学部の高田教授)が「写真を撮れ!」と号令をかけ、まわりにいた教職員が一斉に「傷害事件だ!」「被害届けだ!」などと叫んで写真やビデオの撮影を始めました。勾留状の「被疑事実の要旨」にあるように、『やにわに胸部付近を右手で勢いよく突いてその場に転倒させ』るようなことが本当にあったのならば、西森教授の体を抱えようとするものが一人くらいいてもおかしくはないのに、誰も西森教授に構うようなものはいませんでした。

 ※大学の発行した『学生協だより』に掲載されている写真を見れば明らかですが、現場ではAさん一人を数十人の教職員が取り囲むような状況でした。にもかかわらず、写真に写る教職員たちは、みなおしなべて頭を抱える西森教授を何事もなかったように淡々と見下ろしています。
(後略)
(引用者註 元のサイトには逮捕された方は実名で出ていますが,ここでは「Aさん」としました.)

◆ 大学側には「説明責任」が

このように「でっち上げである」という重大な指摘が非常に具体的になされており,しかも一市民の人権に重大に関わる問題であることを考えれば,大学関係者,特に国立大学関係者が沈黙を続けていいかどうか疑問です.また,大学の問題に関心を持つべき団体も同様です.個人個人を取ってみれば,だれもがこの問題に関わらなければならないという義務はありませんが,しかし集団的無関心はまずいと思います.

大学側にはもちろん説明責任があります.その告発によって79日間も一市民が身体の自由を奪われるという事態が生じているのですから,少なくとも疑念には答える義務があると思います.学内しか閲覧できない文書だけではなく(上で紹介した「学生協だより」も学内のみアクセス可),広く学外に向かって説明すべきだと思います.

次の公判は仙台地裁で9月29日(月),13:30分から開かれ,「被害者」西森教授本人の証人尋問が行われるとのことです.



以下はビデオ「日独裁判官物語」の私的CMです.

「この裁判所は市民のための裁判所だと言われています.全ての市民は国家権力により基本的人権の侵害を受けたときに訴えることができます.これまでさまざまな憲法に関する訴えを処理してきました.特に基本的人権の保障を大切にしてきました.はじめの頃は「言論の自由」と「人間の尊厳」が大きな課題でした.そしてこの裁判所は基本的人権の保護だけでなく,三権分立も重視してきました.さらに重要なのは法律が合憲か違憲かを決める権限をもっていることです.違憲立法審査権です.この裁判所は創立以来この47年間において500件以上の違憲判決を出してきました.」

(ドイツ連邦憲法裁判所,リンバッハ長官.ビデオ「日独裁判官物語」字幕より.片桐直樹監督,青銅プロダクション,2002年)

http://www.espace-sarou.co.jp/nitidoku/nitidoku.html