大学入学制度の原則的な代替案 ver.1.1.
  教養部 豊島耕一 (12/12/95)
1.国立大学の入学者選定の原則 −何のための入試か?
a.その大学・学部のカリキュラムで有効に学習できる見込みがあるかどう
 かの判定.
b.この該当者が定員を超えた場合のやむを得ない措置としての選抜.
  やむを得ない措置であり,最大限志願者の立場を尊重し,大学側の都合
 や利益(注1)をこの中で追求するべきではない.
2.選抜方法について
 現在は学力による競争選抜が常識化しているが,これが唯一の方法
ではない.(例:放送大学,アメリカの州立大学,初等教育では国立の
小学校での抽選)
 競争選抜はたしかに公平で,かつそれなりに合理的な方法だが,現
在の教育のゆがみの原因と無関係ではない.

3.代替案
 入学試験で一定レベル以上を全員「合格」とし,これが定員以下なら
全員入学させ,定員を超えればその年度の入学者は抽選で決める.定員
と同じくらいの人数に,次年度の入学の権利を保証する.
 この案のメリット:合格の水準が相対的(つまり偏差値)でなく絶対
的に(点数で)明示されるため,志願者は受験勉強の目標が明確になる.
そして80点か70点かで競争することが無意味になる.見かけ上合格者の
数を2倍にできるため学生が大学を選ぶチャンスが増える.定員と同じ
くらいの人に1年後の入学が保証されるため,それまでの期間を有効に
使うことが出来る(バラ色浪人).

(注1) たとえば,「どのような試験にすればわが大学の合格者の偏差値
が上昇するか」といった議論.


4.この案によるシナリオ・シミュレーション

邪馬大学文学部 考古学科 定員50名

1年目
  2月 学力試験  317名受験 230名「合格」
    抽選により 50名に4月入学許可
     50名に次年度入学許可(予約生.今年度補欠順番付き)
 3月 入学手続き
      21名辞退 次年度25番まで入学手続き終了
                 (予約生4名辞退)
     次年度入学許可者は25名

2年目
 2月 前年の入学許可者の入学手続き10名(放棄の19名は許可抹消)
 2月 学力試験  303名受験 196名「合格」
    抽選により 40名に4月入学許可
     50名に次年度入学許可(今年度補欠順番付き)
 3月 入学手続き 20名辞退 次年度29番まで入学手続き終了
                     (予約生9名辞退)
     次年度入学許可者は21名

3年目からほぼ定常状態(現役生約40名+バラ色浪人生約10名 入学)


5.大学入学制度と教育問題
 日本の異常な受験競争(低年齢からの塾通い,教育内容の受験対策化な
ど)の原因は様々で,入学制度を変えるだけでなくなるようなものではな
い.入学制度や入試に過大の期待を持つと,近年のような「ネコの目改革」
や「一芸入試」などの退廃現象につながる.とは言え良い入学制度と悪い
入学制度の区別はあるので,限界をわきまえつつ改善の努力をしなければ
ならない.その際重要なのは,「何のための入学制度か」と言うことを明
確に意識することである.

6.異常な受験競争の要因
a. 大学が少ない
b. 入学希望者が多い
  当然の教育要求,楽に過ごせて卒業できる,学歴社会
c. 平等性(これは改革する必要はない)
  ドイツでは小学校卒業時に進路が固定してしまう
e. 大学入学制度,入試システムの問題
f. 教育自治がなく,文部省の一元的支配のため,住民に改革の意欲が起こりにくい
g. 高校や中学校の先生が真面目すぎる(受験体制をあまりにも忠実に体現)