「教育科学技術庁」は文部省より権力的である

[reform 942]で省庁再編法の「教育科学技術省」を規定した部分の問題点を指摘しましたが,物理屋の法律論に真面目に付き合おうという人も少ないかと思います.法律や教育行政などに詳しい方,コメント頂けませんでしょうか. 少し詳しく再論したいと思います.

 今回成立した省庁再編法の「教育科学技術省」を規定した部分に大きな問題があります.教育基本法に違反していると思われるのです(注1).法案を作った官僚の無知を示すのか,それとも意図的にこれに挑戦しているのでしょうか.

 実際,法案(すでに法律)を見てみると次のようになっています. 第二十六条(教育科学技術省の編成方針) 教育科学技術省は、次に掲げる機能及び政策の在り方を踏まえて編成するものとする の第4項は  四 国立大学の組織、運営体制等の改革その他高等教育の改革を行うこと。 となっています.この省の「機能」が教育「行政」の改革ではなく直接,「国立大学の組織、運営体制」の改革である点に注意して下さい.これでは行政が明白に大学の管理運営に介入することが合法化され,「大学自治」など雲散霧消してしまいます.それどころか国立大学は単なる文部省あらため「教育科学技術省」の地方出張所になり下がります.最近流行の「規制緩和」や「自己責任」,「地方分権」などの美辞麗句とも正反対です.(同じ省庁再編法の十七条「総務省」の部分がその四項で「地方自治」に大いに配慮を示しているのと対照的です.(注2))これでは「エージェンシー化」の方が100倍もましです.いや,もしかするとこの条文を根拠にエージェンシー化が強行されるのかも知れません.

 この条文は,この法案を受けて制定されることになる「教育科学技術省設置法」の目的や任務,権限の条項に移された時点で教育基本法違反の「現行犯」となるでしょう.現行の文部省設置法では,その「任務」を第4条で「・・・国の行政事務を一体的に遂行する行政機関とする」として,「事務」に限定しているのです.この第4条を受けて次の第5条で「所掌事務」として103の項目があげられていますが,いずれも事務的なことや指導・助言や調査研究に限られており,もちろん「改革を行う」などという直接介入の表現は全くありません.その上,第6条の2で「権限の行使に当たって,法律に別段の定めがある場合を除いては,行政上及び運営上の監督を行わないものとする」として,教育基本法の言う「不当な支配」への歯止めを示しているのです.

 省庁再編法の第二十六条に書いてあることがらは,文部省設置法をモデルにしたというよりは科学技術庁設置法に近いと思われます.二十六条一項の「豊かな人間性の育成、教育制度の革新等を目指した教育改革を推進すること」は現行の科学技術庁設置法第三条,第四条の語尾の,政策や行政を推進する(注3),というような言い回しと同型だからです.  文部省廃止論こそが議論に上るべき時期にあるのに,これとは正反対の,権限が強化された役所の支配を受けることなどもってのほかではないでしょうか.

 大学も含めて,世間に,ちょうど水戸黄門の印篭のようにその中に「改革」という言葉さえ入っていれば何でも従わなければならない,と考えてしまう一種の条件反射ができあがっているように思います.しかし教育科学技術省が「改革する機能を持つ」ということは,霞ヶ関の数100人の小さな役所が全国の国立大学の組織替えなどの権限を握ってしまうということなのです.たとえていえば,地方自治体の組織替えを自治省が命令するようなものです.それも「改革」のため,行革のためといえば目出たくOKなのでしょうか?憲法の地方自治の原則はどうなるのでしょうか?

 このような無法が「改革」の2文字の呪文によって大きな抵抗もなくまかりとおるのは困ったものです.残念ながら全大教の定期大会議案書もこの件については「注視していく必要」とだけ書くのんきさです.注視する必要があるかどうかといえば,「ある」に決まっている,そんなことは分かり切ったことではないですか.要するにこの議案書は何も言っていないのです. 法案は次のアドレスにあります.

http://www.kantei.go.jp/jp/gyokaku/980303houan.html

(注1) 教育基本法10条
教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものである.
(2)教育行政は,この自覚のもとに,教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行わなければならない.

(注2) 総務省を規定した部分の第四項
第十七条 総務省は、次に掲げる機能及び政策の在り方を踏まえて編成するものとする。 (中略)
四 国の地方自治に関する行政機能の在り方については、地方自治が国の基本的な制度であり、かつ、地方自治を維持し、及び確立することが国の重要な役割であることを踏まえるとともに、地方分権の推進に伴い国の地方に対する機能を縮小することを基本とし、地方分権の推進の状況を勘案しつつ、中期的な観点にも立って、各省の関連する行政の見直しと併せて、次に掲げるところにより、国の地方公共団体に対する関与を必要最小限のものとするよう、その見直しを行うこと。 (後略)

(注3) 科学技術庁設置法3条(任務)と4条(所掌事務)第1項
第3条 科学技術庁は,科学技術の振興を図り,国民経済の発展に寄与するため,科学技術に関する行政を総合的に推進することをその主たる任務とする.
第4条 科学技術庁の所掌事務は,次のとおりとする.
一 科学技術に関する基本的な政策の企画,立案および推進に関すること. (後略)