教育基本法,憲法10条の実質改訂が始まっていいる
佐賀大学理工学部 豊島耕一
http://pegasus.phys.saga-u.ac.jp
2004年4月10日,於 熊野寮
(赤の部分は事後追加)
破 天 荒
--変えるべきもの 守るべきもの 創るべきもの--
(2001年度 明善大運動会スローガン)
政府の吏人が平民に対して威を振う趣を見ればこそ,権あるに似たれども,この吏人が政府中にありて上級の者に対するときは,その抑圧を受ること,平民が吏人に対するよりなお甚しきものあり.譬えば地方の下役らが,村の名主共を呼出して事を談ずるときは,その傲慢厭うべきが如くなれども,この下役が長官に接する有様を見れば,また愍笑に堪えたり.
福沢諭吉「文明論之概略」
又学問者は,才智・弁口にて本体の臆病・欲心などを仕隠すもの也。人の見誤る所也。
葉隠,聞書第一
今まで組織のアカンタビリティー(説明責任)が問われてきましたが,個人にはパーソナルアカンタビリティーがあるのです.なぜあなたは知っていたのに通報しなかったのか,是正に向けて努力しなかったのかという責任を問われます.
「内部告発と向き合う」NACS消費者生活研究所長,宮本一子氏.日経新聞02年9月29日18ページ
究極的に悪いのは悪人の残忍さではなく,良識ある人々の沈黙である.-- マーチン・ルーサー・キング
ムダ「公共事業」は文部科学省も例外ではない.書類の山と増殖する会議,無駄な組織*は,ひたすら文部科学省「生き残り」のための公共事業.大学は疲弊する一方.しかし「ムダ」だけにとどまらない・・・
この1年大学で何が行われたか
法案の先行実施=「中期目標」の作文.本来の業務を圧迫
共同通信02/09/28「大学院で入試ミス相次ぐ 法人化準備で教員多忙」
“東大の広渡清吾副学長は「法人化に向け、文科省に提出する中期目標の策定などに追われている」と教員の多忙さを指摘。”
まさに「職務専念義務違反」が実害となって表れたということか.
1.経過(年表参照)
文部科学省の「政策転換」に説明なし
文部大臣の不法発言(00年5月26日)が2年以上も「野放し」
2. 従来の国立大学制度はどうだったか
文部科学省設置法
「事務」を扱うところ・・3条,4条
「監督」の制限 ・・旧文部省設置法6条2項
「権限」条項の消滅の意味は?
国立学校設置法・学校教育法
国立大学の存立の根拠・・国立学校設置法
評議会・教授会による自治権・・設置法7条の3,学教法59条
つまり,国立大学と文部科学省とはそれぞれの別の設置法に根拠を持ち,「国会の前に平等」
3. 実態
国会より官庁(文部科学省)に実権 予算配分の脅し
大学側の権利認識のなさ,従順さ
4. 「独立」行政法人化とは何か
国立大学を文部科学省の出張所にすること+
「中期目標」の指示,「中期計画」の認可,学長,「監事」の人事権,役所による評価と予算配分の連動,文部大臣による閉鎖
大学という教育機関を行政機関に変える
→ 裁判所を警察に変えるに等しい.
「規制緩和」ではなく「規制強化」
+これを実質化するものとしての,国家機関としての「評価機構」がすでに制度化された
ユネスコの諸宣言との背反
「高等教育教職員の地位に関する勧告」,1997
「ユネスコ高等教育世界宣言 21世紀の高等教育 展望と行動」,1998
新自由主義(新保守主義)イデオロギー
5. 独法化されるとどうなるのか
授業料値上げ/ 授業の質,内容への影響/ 学生の自主活動への影響/ 社会全体への影響
実際に多くの大学で言論統制の「就業規則」:東大,京大(交渉中)
6.イギリスやニュージーランドの改革との共通点と相違
「独法化」や「大学構造改革」は,英・NZの「効率主義・競争主義」に加えて,国家主義が加わっており,より社会に対する危険が大.同時にこの不適切さを一般に訴えることは非常に容易である.中庭に「さざれ石」を奉る文部科学省のイデオロギー性.日の丸・君が代,教科書検定も「中期目標」になりうる.
大学版「教科書検定」も 「夢 」ではない
7. 大学はなぜ強く反対しないか,反対勢力の問題点
7-1 「当局」レベル
- 大学首脳部が「文部科学省カルト」に取り込まれている
- 学部長らは「文部科学省の意向」,つまり「神の意志」を巫女として教授会に示す.それを容認し,不透明なやりかたにchallengeしない教授たちの精神性
7-2 一般レベル
- 「文部科学省防波堤論」=文部科学省味方論,「狼=財務省が来るぞ」論
- 表決を避け,見せかけの「全会一致」制という議事慣習--このため個人の責任意識が希薄--「記名投票制」が必要か?
「パーソナルアカンタビリティー」
60年,70年前に無謀な戦争に突入したときのように,個々人のミクロな責任回避の積み重ねが重大な破局をもたらす.
- 教員層の傍観者意識,後ろめたさ1) からくる沈黙
- 現行法制度の無理解
- 「葉隠」に記された学者の習性
- 「水戸黄門イデオロギー」(権力は究極的には善である)と「忠臣蔵イデオロギー」(お家大事),そのベースをなす儒教思考,→ 中高年へのテレビの悪影響,「道徳ポルノ」4)
系:「泥をかぶる」という言葉
7-3 反対勢力・反対運動のレベル
-「力関係」という言葉の誤用.または「法の支配」ではなく「力の支配」の容認.同じ左翼用語でも「日和見主義」はほとんど使われない.
- ヨーロッパで公式文書でもさかんに使われ,徳目とされる「連帯」solidarity という言葉の不在.
solidarity(ロングマン辞書)
loyalty and general agreement between all the people in a group, or between different groups because they all have a shared aim:
- 「古典力学」(機械的決定論)の信奉,「非線形性」,「カオス」,「非決定性」への無知.「科学性」のはき違えを加藤周一氏が指摘3)
- 「玉砕」という言葉の使用に見られる言語における戦争後遺症
7-4 外的要因
「左」からの批判の不在,大学外の労働組合・団体などの大学問題一般での沈黙.もちろん学生も.「大学の先生は文部科学省に対抗して一生懸命やっておられるはず」?
8. 重要論点の回避
「新自由主義」批判偏重.財政問題,「行革」問題に偏重.
憲法的論点・視点の「儀礼化」,教育基本法からの視点の欠如
例)全大教のNYタイムズ広告 "Say No to Free Ride"
同,00年3月9日全国紙広告 「『もうかる研究』や『もうけにつながる教育』だけを重視する,国立大学の『独立行政法人』化に反対します.」
同,02年2月4日全国紙広告
「法律時報」898号(00.11月号)
新自由主義戦略としての司法改革・大学改革 渡辺 治
大学改革と財政問題 二宮厚美
大学改革の現状と課題──独立行政法人化問題を中心に 和田 肇
「世界」02年12月号の大学問題特集
→03年5月号特集で修正された.
独法化が10条改悪の先行実施であるとの理解が重要.
9. 何を改革すべきか
- 学生参加の二重の意味--ユネスコ世界宣言('98)
「雑用」に学生を巻き込むべきでない?
全国ネットからのユネスコへの手紙
- 教職員の市民的自由の侵害(人事院規則14-7)
- 「運営諮問会議」の改革の可能性--民意の反映の手段として. なぜ学生代表がゼロか?
- 「市民に役立つ」大学
10. 「自治」とアカウンタビリティー(民意によるコントロール)
「不当な支配」のリスクと「不当に支配」2) のリスク
「独法化反対」が 旧 体 制 擁護にならないためには
11.反対運動によるメディアの論調の変化
『中央公論』2003年6月号 櫻井よしこ,
「大学病院改革は世界に類を見ない愚挙だ 日本の未来を喰い潰す文科官僚の横暴」/『熊本日日新聞』社説 2003年5月11日付「国立大学の法人化 学問・文化衰退の懸念も」/産経新聞「正論」欄,2003年5月11日,「文科官僚の過剰介入に潜む学問の危機」お茶の水女子大学教授・藤原正彦氏/日経新聞 03年4月12日,「法人化,大学の存在意義揺らす.国の統制強まる恐れ」,南塚信吾氏(千葉大学教授)
「意見広告の会」による4度の新聞広告,約4千万円
12.独法化成立後の戦略
法廷闘争?
1) 一般国民や学生の意見に対して開かれたシステムでなく,相変わらず閉鎖的な「教授会自治」であるため,文部科学省による支配を国民の意見の唯一の伝達システムと思い込んでいる.
2) 学内の,「自治」の名で行われる独断的な運営をこのように呼ぶことにする.
3)「私にとっての二〇世紀」,岩波書店,72ページ.
4) 「ソフィーの世界」の著者ヨースタイン・ゴルデルの「哲学ポルノ」という言葉に倣ったもの.
拙文「政府が実施を急ぐ独立法人化 大学の“独立”は逆に失われる恐れ」(「週刊金曜日」2002年4月19日号)もご参照下さい.
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独法化阻止全国ネット
../znet.html
http://www003.upp.so-net.ne.jp/znet/znet.html