3. 設計のためのいくつかの公式
 マクロスコープをデザインする際に便利なように,構成ミラーの位置を決 める公式や,視野角や基線長をできるだけ大きくする方法を与えておこう. ミラーの各位置を表す変数は図3の中に定義されている.この装置は左右対 称なので,図には右半分だけが示されている.観察者の両目の中点を座標原 点に選ぶ.右目の座標は (a,0)とする. 観察対象はy 軸のプラスの方向にある. 接眼鏡の内側と外側の端の位置はそれぞれP(x1, y1)およびQ(x1', y1')とし,対 物鏡のそれらはR(x2, y2)およびS(x2', y2')とする.この計算では,簡単のため これらの鏡はx 軸に対して45度をなすとする.接眼鏡の面の位置は,それ とy軸との交点のy座標y0で表示できる.必要な数学は高校程度の初歩的なも のだが,計算は少々面倒である.
 ここでは,装置の横幅は与えられたパラメータである,すなわちx2'が決まっ ているとする.与えられる課題は,この横幅に対して最も大きな視野角と基 線長とを得るように,二つの鏡の最適な位置を決めることである.
 基線長の1/2,つまり図3のOXの長さは上の座標の値をもちいて次のよう に表される.
L = a+y -y'+x'                                 ..........(1)
       0  2  2  

またQの座標はSの座標とa, y0をつかって次のようになる.

          (a+y )(x'+y )        (a+y )(x'+y )
              0   2  0             0   2  0
x' = -y + ------------- ,  y'= -------------       ......(2)
 1     0   a+x'+2y -y'      1   a+x'+2y -y'
              2   0  2             2   0  2

右半分の水平視野角(角M1EQ)の正接は,

    y'-y -a
     2  0
m = -------                                  ..........(3)
     x'+y 
      2  0 

 式(1)と(3)からわかるように,基線長と視野角とは互いにトレードオフ
の関係にあるので,設計者はどこかに妥協点を見つけなければならない.
 y0については,これを小さくするとLが小さくなりmが大きくなる.後者
の効果の方が顕著なので,観察者の目との幾何学的関係で許される限り小さ
くすべきである. 
 y0 とy2'が決まると,装置全体の左右対称性のため視野角の左半分が右半分
と等しくなければならないという条件からPの座標が決まる.すなわち,

                    2
    a x' + 2 a y + y  - y y'
       2        0   0    0 2
x = -------------------------- ,
 1       -a + x' + y'
               2    2


    (a + y ) (x' + y )
          0    2    0
y = ------------------                      ..........(4)
 1     -a + x' + y'
             2    2

またRの座標は,

    (x' - y') (a + y - y')
      2    2        0   2
x = ----------------------   ,
 2      a - x' - y'
             2    2


                  2                   2
      (x' + y ) (a  - a x' + 2a y + 2y  - a y' - 2y y')
        2    0           2       0    0      2     0 2
   -  -------------------------------------------------
              (a - x' - y') (-a - x'- 2y + y')
                    2    2         2    0   2


               2   2                 2                     2
    (x'+ y ) (a +x' +2a y + 2x'y + 2y -2a y'-2x'y'-4y y'+y' )
      2   0       2      0    2 0    0     2   2 2   0 2  2
y = ---------------------------------------------------------  
 2        (a - x' - y') ( a+x'+2y -y' ) 
                2    2       2   0  2

                                               ..........(4)

もしy2'またはy0が大きな値をとる場合には次の制限が考慮されなければなら
ない. 
(1) 接眼鏡の左端がy 軸より左に来てはならないので,右目に対する視野角の
左半分が制限される.装置の左右対称性から,これは同時に視野角の右半分
の制限となる.
(2) 点RとPで反射される最も左よりの光線が接眼鏡で遮られてはならない.
条件(1) からは次の不等式が導き出される.

                     2
     a x' + 2 a y + y  
        2        0   0 
y' < -----------------  .
 2          y
             0

y0は小さな値を選ぶのが普通なので,この条件は自動的に満たされ事実上制
限とはならない.第二の条件について調べるため,接眼鏡の右端(Q)をかす
める光線について考えよう.図1で角M1EP' の正接をm' とすると,これ
は次のようになる.

                      2
         (a+x'+2y -y') - (a+y )(x'+y )
             2   0  2        0   2  0
m'= ----------------------------------------
    (x'+y -y') (a+x'+2y -y') + (a+y )(x'+y )
      2  0  2      2   0  2        0   2  0

条件(2) はm>m' であるが,これもy2'がよほど大きな値でない限り満足され
る.
 一方,鏡の上下方向の大きさによって上下方向の視野角が決まる.左右の
端で同じ視野角を得,また鏡の必要最小限のサイズを求めるには,それぞれ
の鏡の左右それぞれの端の上下方向の長さを,右目の接眼鏡による虚像の位
置 (-y0, a+y0)からそれらの端までのx 座標の距離に比例させればよい.端 Sで
の鏡の上下方向の長さをhSとすると, R, P, Q での必要な長さは次のよう
になる.

       x                 x'                x
        2                 1                 1
h = ------- h  ,  h = ------- h  ,  h = ------- h  
 R   x'+ y   S     Q   x'+ y   S     P   x'+ y   S
      2   0             2   0             2   0
 最後に,鏡の平面性について触れなければならない.遠いところにある鏡 に映る像が大きく歪むのを経験するように,大きなサイズのものを作ろうと するときは鏡の平面性が問題になる.平面鏡で,見た目に像が歪まないとい う条件は次のように考えればよい.互いに角度Δθをなす二つの視線が鏡の 異なる場所で反射されるが,鏡面の平面からのズレの角度δαによる余分な 視線のずれの角度 2δα が加えられる.像が歪まないという条件は,後者が 前者つまり二つの視線のなす角度よりもずっと小さいということである.こ のことを幾何学的に考察していくと,鏡の表面の凹凸は鏡と目までの距離に 反比例して小さくなければならないということが容易に導かれる.基線長 1.3mの試作機では像の歪みは何とか気にならない程度におさまったが,こ れより大きい場合は特別に平面性の良い対物鏡が必要になると思われる.