2. 試作機
窓際に固定してこの装置を組み上げるのは全く容易である.洗面室の鏡を
2枚はがして,小さな2枚の鏡と組み合わせ,適当なホルダーに向きを調整
して固定するだけである.このような簡単なセットアップでも初めは感動す
るが,同じ風景ばかり見ていてもすぐに飽きてしまう.そこで筆者はポータ
ブル型の装置を作った.伸ばして梯子になるタイプの脚立をフレームとして
利用することで製作はとても容易になる.
試作機の概観を図2に示す.脚立のいちばん低い側のステップは外して,
一番端のところに柱を渡し,これに蝶番で対物鏡を取り付ける.接眼鏡は小
さな箱に向きが調節可能なように組み立てたものを,伸ばした脚立の中央部
分に取り付ける.足は,脚立のフレームの部分から蝶番で引き起こすように
した「レグ」を,別の部品として作った「フット」の上部に差し込んで出来
上がる.「レグ」と本体フレームとは,補強のために三角の板を蝶ネジで締
め付ける.
対物鏡としては家庭用グレードの裏面鏡を用いたが,接眼鏡は少しでも視
野がクリアになるように,また像に歪みが出ないように平面性の良い表面鏡
をもちいた.これら4枚の鏡は,左右の目に入る像が正しく重なるようにそ
の面の向きが調整されていなければならないが,このために接眼鏡の向きを
調整可能にしておかなければならない.このために次のようにした.まず,
二つの接眼鏡とも垂直方向の棒に固定されていて,これが回転可能になって
いる(軸1).つぎに,この軸を固定している箱(図2のBの部分)は,フ
レームとの取り付け部分Aに対して水平な軸(軸2)の回りの回転の自由度
を持たせている.これはA−B間の固定ネジsのB側の穴を少し縦長にあけ
ることで可能にしている.最後に,これ全体をフレームに取り付ける部分で,
接眼鏡ボックスがフレームの長手方向を軸にして(軸3)少し回転の自由度
があるようにしている.これでつごう4つの自由度を許すことで,2枚の鏡
の向きについてのすべての自由度を調節可能にしたことになる.軸1は左右
の視野の間での左右方向のずれの調整に,軸2は同じく上下方向のずれの調
整に,そして軸3は左右どちらかで風景が傾いて見える場合の調整に使われ
る.
この試作機では,両眼の間の光学的な距離が1.3mとなるので(これを基
線長と呼ぶことにする),すでに述べたように風景が視線方向に20分の1
に縮小して感じられる.言い換えると,自分の体が20倍になったような,
つまり身長30mを越える巨人の視覚が体験できるのである.