週間金曜日,「金曜アンテナ」,11月19日

「核兵器は国際法違反」と直接活動に無罪判決

 英国スコットランドの小さな裁判所が10月21日,核廃絶運動の歴史に残る判決を出した.ミサイル原潜関連施設を家庭用のハンマーなどを使って「非武器化」した3人の女性に,グラスゴー近くにあるグリーノックの裁判所が完全無罪の判決を言い渡したのだ.理由は,核兵器は国際法違反であり,彼女らの行為は核の使用という巨大な犯罪を防ぐための正当な行為であるというもの.担当のマーガレット・ギムブレット判事は被告らを無罪とするよう陪審員に指示,陪審員はこれに同意した.

 事件は今年の6月8日午後7時に起きた.英国とデンマークの中高年の女性3人が,グラスゴーにほど近いゴイル湖(入り江)でゴムボートに乗り込み,水上に浮かぶ原潜関連施設の実験室に侵入.中のコンピュータを海中に投げ込んだり,操作盤などを家庭用のハンマーで破壊するなど3時間余りにわたって活動した.

 この施設は,ミサイル原潜の隠密行動を可能にするために原潜の音響・磁気特性をテストしている.彼女らはこの行動を「非武器化(disarm)」と呼んでいる.

 このうちの一人アンジー・ゼルターさん(48歳) は3年前にも似たケースで無罪の評決を受けている.彼女を含む4人の女性がインドネシアに輸出される予定だった戦闘機をハンマーで壊してこれを阻止した事件だ.リバプールの裁判所の陪審は「輸出先(東チモール)での虐殺防止のための正当な行為」との主張を認めて完全無罪の評決を下した.

 彼女らの属する運動の名前は「トライデント・プラウシェア2000」で,1970年代のアメリカに起源を持つ非暴力直接行動の流れを汲んでいる.昨年夏に開始されたこの運動はきわめて総合的,系統的だ.最も重要な特徴はその公開性にある.今回のようなやむを得ない場合を除き,すべての直接行動(座り込みや基地への侵入など)はその内容や日時,参加者の名簿まで事前に公表される.そして非暴力と安全を行動の基本にしている.また直接行動自体を目的ではなく,政府に交渉を求め,当局が責任ある態度を示さないために自ら行動を起こしている.英国の核兵器は4隻のトライデント原子力潜水艦に搭載されているものがすべてで,これを廃棄すれば運動の目的が達成されるのだ.

 9月27日に始まった裁判は平日は毎日開かれ,一ヶ月も経たないうちに終わった.裁判では,検察側証人が「大した被害ではないし,重要な施設でもない」と言い,これに被告側代理人が「そんなはずはない.大きな被害だったはずだ!」と問いただした.被告側は起訴の具体的な事実は認め,核兵器そのものの違法性を主張することに重点を置いた.公判5日目には著名な米国の国際法学者,フランシス・ボイル教授が証言台に立ち,ニュールンベルク裁判の諸原則に照らした核兵器の違法性や,国際法はいつどこにでも適用されるとの見解を述べた.

 アンジー・ゼルターさんは釈放後に「ガーディアン」紙とのインタビューで次のように述べた.「この判決は将来にとって巨大な意味を持っています.今や,核兵器についての十分な情報に基づいた合理的な議論を巻き起こすかつてない機会が,そしてわれわれがいかに破局に瀕しているかという十分な情報を持つ機会がもたらされた.私たち運動家ができることは,この問題を明るみに出すことです」

 無罪判決を受けてスコットランド議会ではトライデントの合法性についての議論が始まった.

 アメリカ上院での包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准の失敗は核軍縮を後戻りさせるかもしれない危険な兆候だが,CTBTを通過しなければ核廃絶ができないと言うわけではない.この危機感を逆手にとっての攻撃的な前進がいま平和運動に求められている.この元被告たちを支援する会のホームページはhttp://www03.u-page.so-net.ne.jp/ta2/toyosima/goilsupt.html

(ゴイル湖の平和運動家を支援する会 豊島耕一)