10月1日(金曜日)公判ノート

(訳 真鍋毅, 改訂 豊島耕一)

ウルラを代理する弁護士ジョン・メイヤー:メイヤと略記
エレンを代理する弁護士ジョン・マクローリン:マクロと略記

本日はボイル教授だけなので通訳はなし。

資格の承認。

核兵器について疑義、検事の異議。

証拠としての関連性につき長い議論。

判事の裁定:私は、法の発展は関連性がないとする検事に同意する。私が必要とするのは、本人及び第三者を保護するためのその時点での直接的必要性が満たされることであり、本件ではこのような必要性に関する鑑定証言を聴きたいものである。

 もう一つ問題がある。各被告人が、それを為す法律上の権利をもっていたかどうか、自分たちが法に従って行動しているという信念を持っていたかどうかということだけでは充分ではない。本件にはヘレン・ジョンに関するそれをいささか越えるものがある.もちろん私は、その事件の決定を全て読んでいる。

 本件がそれと異なり得るのは、公判の時点で国際法に関する証拠が顕れていなかったからであり、その見解において高等裁判所は、彼らが慣習的国際法、人道主義の法、並びに国連憲章・関連する国際協定を考慮し、国際司法裁判所の見解を理解するものであると述べてはいるが、彼らが全ての問題について鑑定証言を聴いたとすれば、彼らの見解がどうなったかは分からないのである。

 裁判官として私は、高等裁判所がこの事件において述べていることに拘束され、それは他の法と同様、如何なる訴因についても陪審に反映されることになる。

 本件が上訴されれば、核兵器の全ての問題に関する国際法についての鑑定証言はスコットランド法との関連において高等裁判所において検証されなければならない。そうなれば、あらゆる知識をもって彼らは決定を下し得ることになる。この決定を下すに際して、私は被告人の公正な裁判を受ける権利を心にかけている。

 私は、フランシス・ボイル[以下、ボイルと略記]の証言、のみならず国際法と当該時点での必要性に基づく弁護側の今後のどのような鑑定証言にも、耳を傾けるのが正しいと考える。

 私は、平和運動の歴史全般にわたって証言を許しているわけではないのである!

12時30分、ボイルが証人席に

メイヤーは若干の履歴、即ち陸軍士官学校卒、著書、ソ連での講義などを確認

メイヤ:貴方はもちろん、人道に反する罪の概念にお詳しいのでしょうね。

ボイル:それはニュルンベルク裁判の諸原則に由来します。私は上院でのピノチェト事件について読んでいますが、ニュ原則はそこで適用されています。それらは、ヒトラーの人々を抹殺する野望の結果として発達して来ました。戦争犯罪の概念、都市や地方の無残な荒廃化はニュ原則と結び付けられています。

メイヤ:ニュ原則は大量殺人を違法としただけでしたか、それともその計画や支持についても立ち入ったのですか?

ボイル:ええ、1949年に調印されたのですが、実体的な犯罪に加えて、計画、準備、謀議、煽動も犯罪としました。

我が政府は、将来もこのような行為を防止・抑制するためにこれらの項を設けたのですから、我々は、あなたが行動を起こし得る前に6百万ないし8百万もの人が死ぬまで待つべきではないのです。

メイヤ:「あなた方」と言われましたが、誰のことですか? むしろ、こうした行為が進行中であると考えなければならないと?

ボイル:ええ、それは普通の市民に及ぶのです。これらの原理は誰にでも適用され、あらゆる市民がそれに拘束されます。

メイヤ:拘束されるですって? ここに15人の人々が居ますが(陪審を指差す)、この人たちには起ころうとしている戦争犯罪に関して,行って何かをする義務があるのですね?

ボイル:それは全くあなた方の持つ知識次第でしょう。戦争犯罪が進行していると知ったとき、貴方にはそれを止める権利はありますが、ああしろこうしろという形の義務はありません。

メイヤ:明確な線はない?

ボイル:軍人には上官を止める義務がありますが(ヴェトナムの例を挙げて)。

ニュルンベルク原則は、ジュネーヴ協定、ジェノサイド法、ジュネーヴ議定書のような他の条約同様、公式の条約になりました。

メイヤ:陪審の方々が書き留めていらっしゃるようですね。これらの文書は提出物14号になっていますから、陪審の方々はご希望ならばいつでもご覧になれます。

これらの原則が考えられたのは、どんな害悪を減じようとしてでしょうか?

ボイル:第二次大戦のナチの残虐行為に遡りますが、そのような行動を防ぐのには、法に大きな不備がありました。

メイヤ:原子の唾吐きが原子兵器をもたらしたのですからね。(アインシュタインから講義を受けた人を後で鑑定証人として呼ぶとしよう!)

原子兵器は洗練されたでしょうか?

ボイル:原子爆弾の発達は秘密裡に為され、それを国際法に関連させる試みは実際にはありません。熱核反応爆弾が発達した(トライデント弾頭のように)戦後、多くの核科学者が離れて行きましたが、彼らはそれがジェノサイドにしか使われ得ないと考えたからです。実際、政府の計画は不法なものでした。

メイヤ:トライデントIIに絞って、貴方のご意見では、トライデント弾頭のようなものが使われるかもしれないという脅威が、合法でありうる状況はあるでしょうか。

ボイル:あるとは思いません。私は科学者たちに同意します。それは如何なる合法的態様においても使われ得ない、大量無差別兵器です。ヒロシマの10倍です。ジュネーヴ協定は軍事標的と民間標的との区別を要求しています。

メイヤ:付随する被害をもたらす核兵器は何が悪いのでしょうか?

ボイル:ニュ原則はいわれない都市破壊を禁じています。一個の100キロトン爆弾でも一つの都市を破壊するでしょう。イギリスのトライデント弾頭のほとんどがモスクワに使われれば、100万人を殺すでしょう。これは犯罪です。

メイヤ:すると、「無差別」がキーワードですね?

ボイル:非人道的兵器も禁止されています。また、放射線のような継続する害をもたらす兵器が禁止されています。しかし、主要な問題は、それらが無差別であることです。それらは都市に向けて使われる可能性が高いのです。軍事目標をやっつけるために都市を破壊することなど、到底正当化され得ません。

メイヤ:私が潜水艦を造って、それに48の核弾頭を備え付け、裏庭に置いておくとしたら、それは不法でしょうか? 裏庭にあっても、それを私が持っていること自体、不法なのでしょうか?

ボイル:裏庭にあるですって! 核弾頭は持っているだけに留まらない、それらは15分あれば発射されるのですから。それらは海にあるとき、いつでも使える状態なのです。(合衆国のトライデント参照、連合王国にも同じことが考えられる、何故なら我々はそれらの技術を使っているのだから)

メイヤ:私たちはそれらをあなた方から得ている?

ボイル:その通り、あなた方は我々からミサイルを借りているのです。

メイヤ:私たちはそれらをあなた方から借りている!!? 防衛戦略レヴューをご覧になったことがありますか?

ボイル:いいえ、でも合衆国のものは読んでいます。

メイヤ:トライデントが水域にあって発射可能であれば、核弾頭は戦争状態、戦争のすぐ足元にある。それらは戯れにそこにあるのではなくて、戦争のためにあるわけですね?

ボイル:その通り。

検事から異議、メイヤーは質問を撤回(質問は既に答えられてしまった!)。

メイヤ:トライデントについて何が違法なのですか?

ボイル:国際司法裁判所によれば、犯罪による脅迫は違法です。

メイヤ:しかし、ただ持っているだけだったらどうですか?

ボイル:持っているだけではないのです。発射に15分しかかからないのですから。国際司法裁判所はこの問題に対して、合衆国及び連合王国の政府の行動は不法だと答えています。世界法廷は、使用が不法であればそれによる威嚇も不法であると裁定しました。

メイヤ:だのに、私たちは国連のメンバーですね?!

ボイル:核兵器の発達は秘密裡に為されていて、決して法律家に吟味されないのです。

メイヤ:私たちはそんな文化とともに育ちましたが、今や人々は核兵器についてもっと知っているのでは?

ボイル:全ては戦時中に始まったので、副大統領すら、大統領が死ぬまではそれらについて知らなかったのです。

メイヤ:かつてトライデントを持つ国が、公開の法廷でその合法性を明らかにしたことがあるでしょうか。

ボイル:世界法廷の手続の中で核兵器国は全てその本性を暴露しました。アメリカ合衆国も連合王国も、核兵器使用のシナリオを論証しようとしました。世界法廷は、これらのシナリオのどんなものも合法と認めることを拒否しました。どの核兵国も、都市に対する核兵器使用を正当化しようとはしませんでした。

昼食のため休廷

午後2時20分再開、フランシス・ボイル教授証人席へ

初めにメイヤーは、ボイルが核兵器政策、核攻撃目標についての専門家、及びトライデントIIの専門家であることを確証(アメリカの法廷でそのように証明済み)

メイヤ:国際法とは何ですか?

ボイル:国際法は我々やあなた方の国の法の一部です。ニュ原則のような国際的な取り決め、合意であり、法の拘束的部分です。また、イギリスで適用されるコモンローと同様の慣習的国際法もありますが、これは当該問題が関連する事案で慣習的に適用されるものです。

メイヤ:合衆国と連合王国以外ではどこで適用されますか?

ボイル:世界のあらゆる国が国際法上の諸原則に従うよう義務付けられています。ピノチェト裁判で上院はそのことを是認しました。

メイヤ:そうすると、国際法はどこにでも?

ボイル:そう、そのことをあなたが気付いていなくてもね。今日、ハーグで訴追されている人々がいます。国際法はまさに機能している法の一部です。それは現在、ボスニア、クロアチア、コソヴォで適用されています。

メイヤ:陪審諸氏は、首相が座って条約に調印するところを思い浮かべることができるでしょう。慣習的国際法はイギリスではどのように適用されるのでしょうか?

ボイル:ピノチェト事件がそうです。法官貴族[裁判に関与する上院議員]に関する限り、連合王国はニュ原則等に拘束されます。

メイヤ:これらの原則はもともとナチの残虐行為について発展しました。世界法廷は、それらが核兵器の脅威と使用に適用されることを認めています。

私はコメントの一節を読んでみたいと思います。それは、ロナルド・キング・マレーによって書かれた「核兵器と法」という題の、『医学、紛争、生存』誌上の論文からの引用です。著者は、1998年の国防長官、今のロバートソン卿がイギリスとNATOの核防衛政策について語っているのを引いています。この引用は、論文の著者がスコットランド控訴裁判所の前長官であるだけに、正確なものと言えましょう。

検事の異議、自分はその論文を読んでいない、その採否が議論される間は陪審を退席させて欲しい、と主張した。メイヤーは質問を撤回した。

メイヤ:トライデントに関する合衆国と連合王国の関係に戻りましょう。両国は話し合っているのですか?

ボイル:目標は合衆国ネブラスカでの共同戦略計画の中で作られています。それは殆ど合衆国によって決められ、技術は合衆国から提供され、目標は合衆国によって選ばれます。連合王国のトライデント・システムは、合衆国国防政策の付属物の役割を果たすものです。これはイギリスの主権を害するものです。

メイヤ:すると、戦略の全体はイギリスの手の外にあると?

検事の異議。判事は、ボイルが国際法、当該時点での行動の合理性及び必要性について証言できるのだから、質問は認められると裁定。

ボイル:全く連合王国の手を離れているわけではないですが、イギリスがコントロールできる割合はそんなに大きくありません。NATOの戦略は合衆国にフィードバックされます。イギリス政府にはインプットされます。トライデントIIを使えという命令が来ても、イギリス政府は命令を無視できますが、それはもう、アメリカのショーですね。我々はミサイルを所有しています。それらは我々のミサイルなのです。私が遺憾に思うのは、そのことが連合王国の主権を害していると考えるからです。

メイヤ:すると、誰にも、それらのことが破滅を引き起こすのを防ぐ権利がありますね。イギリス政府に撤去を要求するには、どんなことが効果的でしょうか?

ボイル:ワシントンでの巨大な反対運動です。

メイヤ:一市民が首相を捕まえることができて、トライデントIIについて議論を吹っかけるとします。首相は「私も貴方に賛成です、早速おっしゃるようにしましょう!」と、合法的に言えるでしょうか?

ボイル:連合王国は合衆国に依拠・従属するところが非常に多いから、どんな首相でも、そのとおりにするのは難しいでしょう。それは、どんな首相にとっても、大変に勇気の要るステップでしょう。ニュージーランドが大きな反対を押し切って、如何なる核積載艦船もニュージーランド水域に入るのを禁止するよう決定しましたね。そこでは合衆国からずっと脅しをかけられていました。

判事はボイルに、彼が自ら知ったことだけを証言すべきであると告げた。ボイルは「私は、自分の専門的研究において、専門家が依拠する通常の資料から学んだことについても証言し得ると信じます!」と述べた。

メイヤ:暴力が起きるのを待ち,そのあとでどこに罪があるのかを調べるのではいけないのですか?

ボイル:ニュ原則は、戦争犯罪を回顧的に扱うだけでは全く十分でない、犯罪は防がれなければならないと言っています。

メイヤ:銀行強盗を計画するのは犯罪で、銀行強盗を犯すのはまた別の犯罪ですね。国際法では、ジェノサイドを計画するのは犯罪ですか?

ボイル:そうです、謀議も犯罪です。

メイヤ:私がこのペン先で学友を脅すとします(ペンをジョン・マクローリンの頭上で振る!)。犯罪になるでしょうね?

ボイル:もちろんです、しかし事柄は百万もの人々にショットガンが突きつけられているのです。イギリスの核兵器はモスクワ向けに使われようとしているのです。それらは800万の人々、そこの殆ど全てを殺すことができるでしょう。

メイヤ:死ぬことになるであろう人々の名前など、とても分からないですね? それが配備されるのは、どんな段階でとお考えですか?

ボイル:これらの潜水艦の何隻かは埠頭にいても発射することができます。

メイヤ:それらのミサイルはいつでも使える?

ボイル:いつでも使用できる態勢にあります。

マクロ:あなたは、合衆国と連合王国の関係に基づく、トライデントの標的選びの政策に関してコメントできると言って差し支えありませんね。

ボイル:はい。

マクロ:国連総会はニュ原則を承認しましたね。

ボイル:はい。それは国連によって満場一致で承認されました。

マクロ:核兵器一般とトライデントIIとの違いは何でしょう。

ボイル:トライデントIIの性質を考えなければなりません。それは世界でもっとも強力な核兵器です。それは先制攻撃兵器です。その第一の目的は大量破壊です。MAD,文字通り狂気です。私には、どうしてトライデントがあらゆる法原則に反せずに使えるのか、理解できません。

マクロ:自衛の場合でさえも?

ボイル:自衛についてさえ、その場合でさえ国際法に従わなければなりません。合衆国と連合王国の両国だけが強大な兵器を持っています。世界法廷ではヒギンス判事(連合王国)も合衆国の判事も都市への核兵器の使用を非難しました。トライデントは都市地域の残酷な破壊のために考案されているのです。

マクロ:戦略核、準戦略核と,そこでのトライデントの位置付けを説明してください。

ボイル:戦術核兵器はヒロシマを破壊する力を持っていました。科学者たちが熱核反応装置へ進んだとき、それらはもっぱらジェノサイドにしか使われ得ないのです。イギリスは、トライデント・ミサイルにはもっと低い爆発力の弾頭を載せられると述べたことがあります。

マクロ:あなたは、トライデントの使われ方、それは威嚇だとおっしゃいましたね。

ボイル:それこそ、トライデントで狙いをつける目的の全てです。

アンジ:ニック・ライエル氏は、国際司法裁判所に「他の手段がすべて不十分としても」と述べましたが、自衛が正当であるためには何か限界があるのでしょうか?

ボイル:貴方が自己防衛で行為している場合でさえ、国際法の規則を守らなければならないのです。

アンジ:国際法の侵し得ない規則には、どんなものがありますか?

ボイル:自衛という極限の場合でさえ、ジュネーヴ協定等には従わなければなりません。

アンジ:連合王国がその死活にかかわる利益を防衛することは許されますか?

ボイル:それは、ナチスがニュルンベルクで使ったのと同じ論法です。合衆国の役人もこの論法を使っています!

アンジ:例えば1キロトン兵器を警告射撃として使うぞという威嚇についてコメントしていただけますか?

ボイル:世界法廷はそういうシナリオを認めるのを拒否しました。

アンジ:これまでにない現実的な生命の危険があるとお思いですか?

ボイル:はい、発射寸前のものが多くあります。それらは偶発防止システムを付けておらず、偶発して死をもたらすシステムなのです。状況は極度に危険です。今日の新聞をお読みでしょうが、日本ではまさにアクシデントが起きています。

アンジ:核兵器を配備し、また次世代の兵器の研究に携わっている連合王国のような国は、核不拡散条約に違反しないのでしょうか?

ボイル:どんな核兵器所有国によっても、彼らの義務を果たすために然るべき如何なる誠実な努力もありませんでしたね、おそらくゴルバチョフを除けば。

アンジ:連合王国政府は法に反していないと言っています。そんなことがあり得ますか?

ボイル:ナチスは、自分たちはその国内法を実行していただけだと言いました。この抗弁は退けられました。国際法違反を免罪するために国内法を主張することなど、できるわけがありません。

検事:これらの兵器のうち、いくらかは合法と判断されるのですか?

ボイル:いいえ、私には全くそうは思えません、ことトライデントIIに関する限り、何の留保もありません。

検事:すると、一切の核兵器は不法であるというのが貴方のお考えですね?

ボイル:全ての戦略兵器は不法です、どんな国でも。私はソ連でそう言いました。

検事:世界法廷は、どんな場合でも核兵器が違法だと述べたのですか。

ボイル:その問題には答えませんでした。

検事:105節2bはこれこれと述べていました。

ボイル:そのようです。

この後検事は、ボイル教授と抑止理論を論じようとした、そしてヒロシマとナガサキの爆撃が如何に戦争を終わらせたかという古い神話を!

ボイルは、1945年以降ずっと核爆弾が使われなかった事実は「神の恩寵による」としか言いようがない、と述べた。

メイヤーはボイルに再尋問して、国際司法裁判所の見解の一部をつまみ食いするようなことはできないという点を明らかにさせた。