「市民による核廃絶」とグリーノック判決

 昨年10月21日,スコットランドの小さな町の裁判所が,核廃絶運動の歴史に残る大きな判決を出しました.グラスゴーの近くにあるグリーノックという町の裁判所は,ミサイル原潜関連施設を家庭用のハンマーなどを使って破壊した3人の女性を完全無罪としたのです.判事は,核兵器は国際法違反であり,彼女らの行為は核の使用という巨大な犯罪を防ぐための正当な行為であると述べました.

 2日後の朝日新聞はこれを報じ,「核兵器の合法性について国際社会に改めて一石を投じ,世界の反核運動を勇気づける『小さな町の法廷の大きな判断』になるかも知れない」と記事を結んでいます.また英紙サンデー・ヘラルドは,米英の軍事当局はこの判決を非常に深刻に受け取っていると伝えています.

 この3人のなかの中心人物,アンジー・ゼルターさんを私たち支援グループは日本に招待,全国各地で講演をしてもらうことになりました.

 彼女らのグループは「トライデント・プラウシェア2000」と呼ばれ,70年代のアメリカに起源を持つ非暴力直接行動の流れを汲む運動体です.「プラウ」とは農具の鋤のことで,イザヤ書の「剣を鋤に鋳直せ」という言葉にちなんでいます.つまりイギリスが配備している核ミサイル原潜「トライデント」を廃棄して「鋤」に変えよう,という意味です.

 一昨年夏に開始されたこの運動はその公開性が大きな特徴です.今回のようなやむを得ない場合を除いて,すべての直接行動(座り込みや基地への侵入など)はその内容や日時,それに参加者の名簿まで事前に公表されます.そして非暴力と安全を行動の基本にしているのです.また,直接行動自体を目的としているわけではなく,政府に交渉を求め,当局が責任ある態度を示さないために自ら行動を起こしたのです.

 アンジー・ゼルターさんは96年にも似たケースで無罪の評決を受けています.彼女を含む4人の女性がインドネシアに輸出される予定だった戦闘機をハンマーで壊してこれを阻止したのに対して,リバプールの裁判所の陪審は「東チモールでの虐殺防止のための正当な行為である」として完全無罪としました.(岩波「世界」99年11月号にこれについて本人が書いた文章が載っています.)

 彼女らの行動は表面上過激に見えるかも知れませんが,政府自身が核の配備のような恐ろしく巨大な犯罪を犯しているとき,非暴力のあらゆる手段でこれに立ち向かうことは人間としてむしろ当然のことであり,ほんとうの意味で公(おおやけ)のための活動と言えるのではないでしょうか.実際このことをイギリスの裁判所はこれらの二つのケースで認めたのです.

 彼女たちの勇気,そして地球規模の責任感と愛情は,核廃絶運動はもちろん,私たちが日常出会うさまざまな問題についてもそれに立ち向かうインスピレーションを与えてくれるものと思います.

 一連の集会のうち長崎と広島ではアンジーさんの他に,国際司法裁判所に「核兵器は違法」との判断を出させるに至った市民運動の創始者ケイト・デュースさん,それに核廃絶のための「中堅国イニシアティヴ」の中心人物ロバート・グリーンさんも出席され,世界的にもまたとない催しです.「中堅国イニシアティヴ」は国連の核廃絶「新アジェンダ決議」につながりました.