スコットランドCNDニュース,2000年8月18日 (訳 豊島耕一)
オリジナル

クルスク

この文書は,ロシアの原潜クルスクの沈没によって生じる放射能のリスクの暫定見積もりと,原潜の積載爆発物による危険に関する一般的な問題を議論したものである.事故の最も新しい評価によると,原子炉が破損しているのではないかとの懸念が持たれる.

クルスクの事故の経過
クルスクからの放射能の危険性
原潜搭載爆発物の危険性
沈没している原潜

クルスクの事故の経過

クルスクは2000年8月12日土曜日,バレンツ海でのロシア海軍の演習に参加していた.当該艦からの最後の無線の内容は,魚雷を今発射した,というものであったと報告されている.ロシア海軍のスポークスマンは,魚雷発射管の区域での爆発の可能性があると述べた.米国海軍は2隻の潜水艦と1隻の艦船で演習を監視していたが,1回の爆発のあとすぐにより大きな2回目の爆発があったと報告している.地震計の記録によると二つの爆発の間隔は2分である.(www.geo.arizona.edu/geophysics/faculty/wallace/RUSSIANSUB/)

ノルウェーの報道機関は,地震の観測データからの推定ではTNT火薬2トン相当の爆発であると述べた.

アメリカの原潜スコーピオン沈没の公式調査報告書では,魚雷発射管での爆発は他の1個またはそれ以上の魚雷の爆発を誘起する可能性が大きいと述べている.クルスクは20ないし30個の魚雷と24個の"Shipwreck"ミサイルを搭載できる.実際にどれだけ搭載されていたかは公表されていない.ロシア海軍は,クルスクは核兵器は搭載していないと述べた.

原潜は100メートルの深さの海底にある.当初の報告では,右舷の魚雷のハッチの一つが開いており,コーニング・タワーの下の右舷の一つのミサイルハッチがなくなっている,艦首が損傷を受けており,艦首近くの左舷の海底に破片が落ちている,ということであった.その後の報告では,艦首からコーニング・タワーにかけて激しい損傷があるとのことである.船体は左舷方向に20度傾いている.見えない左舷側にも損傷の可能性がある.

クルスクの二重の船殻は通常の魚雷攻撃には耐えられるように設計されており,艦に強い回復力を持たせている.艦が沈没し,自力で回復できなかったという事実は,爆発が大規模は損傷を引き起こした事を示している.

米国は,1回目の爆発のあと非常に短い時間ののち2回目のより大きな爆発が起きたと述べた.これは,一つの魚雷が爆発したあと,これが艦首区域の数個の魚雷を一度に爆発させたと推定される.これが内部の耐圧船殻の外側に,艦を沈没させるに十分な損傷を与えた.この爆発は耐圧船殻の内部にもより大きな損傷を与えたに違いない.爆風のほとんどは逆方向に走り,おそらく制御室を完全に破壊し,原子炉が停止したとかしないとかいうメッセージも何も送ることが出来なかっただろう.原子炉自体も何らかの損傷を受けている可能性が極めて高い.

原子炉のある船尾においてさえ,船首での大爆発によって火災や発煙が生じた可能性が非常に高い.船尾の原子炉を多少でも制御することは非常に困難であっただろう.1986年のロシア原潜K-219の沈没は,爆発の後に起こる事象の連鎖がどのようなものかを示している.そのケースでは,最初の爆発は液体燃料推進ミサイルの発射管の中で起きた.次に火災が起き,有毒ガスが発生した.艦は一旦浮上し,第二原子炉が起動された.海水が回路のショートを起こし,これにより原子炉が停止したが,制御棒は正しく挿入されなかった.一人が手動で制御棒を下ろし,その後死亡した.再び火災が起こり,乗組員のほとんどは脱出,その後沈没した.

仮に原子炉が自動停止したとしても,冷却水の回路は動作していないだろう.さらに,原子炉が適切なコントロールのもとに停止したとは考えられない.原子炉は停止した後も,放射能の崩壊によるかなりの発熱がある.このため停止後も冷却水ポンプの運転は続けられる.クルスクにおいてこれができたということはありそうにない.

クルスクからの放射能の危険性

(以下は8月15日付けの記事「核の『カクテル』クルスク」の後半とほとんど同じです.省略.)

John Ainslie
Scottish CND
updated 18 August 2000

Sources:
The sinking of the Soviet Mike Class nuclear powered submarine, John Large, 1989
Facts and Problems related to the dumping of wastes in the seas surrounding the territory of the Russian Federation, Administration of the President of the Russian Federation, 1993 (Greenpeace translation)
Nuclear Accidents, Naval College Greenwich, 1992
The Russian Northern Fleet, Bellona, http://www.bellona.no/
Chernobyl Ten Years On OECD Nuclear Energy Agency, 1996
USS Scorpion SSN589 Court of Inquiry Findings, www.txoilgas.com/589-court.html