スコットランドCNDニュース,2000年8月15日 (訳・8月15日,改訂16日)

核の「カクテル」クルスク

この文書は,ロシアの原潜クルスクの沈没によって生じる放射能のリスクの暫定見積もりと,原潜の積載爆発物による危険に関する一般的な問題を議論したものである.

クルスクからの放射能の危険性
原潜搭載の爆発物による危険性
潜水艦積載爆発物のリスト
海底に沈んでいる原潜

クルスクからの放射能の危険性

ノルウェーのベロナというグループによると,オスカーII級の原潜は2つのOK-650 b 原子炉を装備しており,それぞれが軸出力50,000馬力を持つ.原子炉一基の出力は 190 MWとされている.したがって潜水艦搭載の原子炉全体で380 MWと推定される.

これをイギリスのトラファルガー級原潜と比べてみる.これらは軸出力15,000馬力である.原子炉一基の出力はおよそ 70 MWと見積もられる.

この大きな違いは艦の大きさと関係があるだろう.オスカーII級では胴幅が18メートル,喫水が9メートルである.一方トラファルガー級では胴幅が9.6メートル,喫水が8メートルである.水中での速力を得るため,ロシアの原潜は船体が大きい分だけ,より大きな原子炉出力を必要とする.

ウランの量

トラファルガー級原潜の炉心には220キログラムのウランが装荷されていると見られる.クルスクの原子炉は各々600キログラムのウランがあるだろう.したがって原潜には約1.2トンのウランが存在することになる.ジョン・ラージによるコムソモレツでの計算によると,ウランの量は3トンにもなると示唆されている.ウランの濃縮度はおそらくイギリスの原潜のものよりも低いので,炉心の大きさはより大きいだろう.ウラン235の半減期は7億1千万年である.

内蔵する放射能の量

ある国防省の資料によると,トラファルガー級原潜の炉心の標準的な放射能量として440,000 TBq(テラベクレル)という値が示されている.他の見積もりではもっと多い.クルスクの原子炉出力が5倍であると仮定すれば,炉心の放射能量は少なくとも 2,200,000 TBq にはなるであろう.

チェルノブイリとの比較

以上の数値はチェルノブイリの炉心放射能の0.6ないし3パーセントに当たる.しかしチェルノブイリの場合は原子炉のまわりに構造物を作ることが可能である.

直接的なリスク

潜水艦の原子炉が停止した時,炉心では放射性崩壊による多量の熱の発生がある.このため冷却ポンプのため通常は電力の供給が必要である.このことがこれから数週間の主な問題となるであろう.

長期的なリスク

年月が経てば,放射性物質を閉じこめている金属の器も腐食していき,放射能が海に漏れ出すだろう.そのころには放射能の量自体も減ってはいるだろうが,しかしかなりの量が残っているだろう.

クルスクの原子炉の状態

クルスクの原子炉が停止したということは確かであるが,炉停止の状況は分かっていない.爆発が,事故の最初の数秒から数分の間の原子炉の操作に影響を与えたかも知れない.

原潜搭載の爆発物による危険性

クルスクは二重の船殻を持っており,通常の魚雷攻撃には耐えられるように設計されている.もし魚雷発射管内での爆発によって沈没したとすれば,それはおそらく非常に大きな爆発であっただろう.一個の魚雷の爆発は他の爆発を誘起したかもしれない.この問題はアメリカの原潜スコーピオン沈没の際の公式調査のポイントとなった.

原子力潜水艦は,通常爆発物と核物質の危険なカクテルを搭載している.民生用原子炉の横に高性能爆薬を置くことなど決して許されないだろう.ロシア海軍にとって事態は特別に緊急のものだが,危険性は全ての核動力艦船にとって固有に内在するものである.イギリスの潜水艦が現在搭載しているスピアフィッシュ (Spearfish) 魚雷は特に,弾頭の爆発力の強力さと,推進用のオットー燃料の毒性,爆発性の問題を抱えている.この燃料の初期の試験において二人の作業員が死亡している.一隻のトライデント原潜は,ロケットの固体燃料として700トンの高性能爆薬を積んでいる.

潜水艦上の爆発

・英国軍艦シドン号1955年6月,このディーゼル潜水艦シドン号はポートランド港で魚雷の爆発で沈没した.
・ソ連K-129潜水艦1968年3月8日,太平洋で核兵器を搭載したソ連K-129ディーゼル潜水艦上で爆発が起き,それが原因で潜水艦は沈没した.
・米国スコーピオン号1968年5月22日,米国原子力潜水艦.沈没についての公式の調査は,魚雷が投棄されそれが爆発しで潜水艦を沈没させた可能性を指摘している.魚雷室での爆発があった可能性も検討されたが,その可能性は少ないと考えられた.
・ソ連K-219ヤンキー級原潜1986年10月6日,このソ連原子力潜水艦のミサイル発射管の中で爆発.その時,艦船は洋上にあり,2度目の火災が原子炉に悪影響を与えた.ほとんどの乗組員は退避させられたが,4名が死亡した.
・ロシアタイフーン級原潜1991年10月,ノルウェイ海でロシアのタイフーン級原子力潜水艦の発射管の中で弾道ミサイルが爆発.港に引き返した.
・仏ルビス級原潜1994年3月30日,ツーロンから45マイルのところでフランスの原子力潜水艦の蒸気系で爆発があり,10名が死亡した.

海底に沈没している原子力潜水艦

・米国原潜スレッシャー号1963年4月10日,スレッシャー号は深海潜水試験中に原子炉が一時停止した.水槽を冷却しようとしたが失敗し,ニューイングランドの東100マイルのところで沈没した.潜水艦は6つの部分に分裂した状態で海底にある.深さ2590メートル.搭乗していた139名全員が死亡した.沈殿物中に原子炉からのコバルト60が検出された.
・米国原潜スコーピオン号1968年5月22日,詳細は上述.2個の核兵器と1つの原子炉を搭載していた.
・ソ連K-8ノーベンバー級原潜1970年4月8日,このソ連原子力潜水艦で火災が起き,それが原因で原子炉が一時停止した.潜水艦は浮上したが補助動力機関は作動しなかった.乗組員の内の一部が退避させられた.4月11日,潜水艦がコントロール出来なくなりビスケー湾に沈んだ.52名死亡.深さ4000メートル.2つの原子炉.
・ソ連K-219ヤンキー級原潜1986年10月6日,詳細は上述.バーミューダ諸島付近.深さ5500メートル.34個の核兵器と2つの原子炉.
・ソ連K-278コムソモレッツ原潜1989年4月7日,このソ連原子力潜水艦で火災が起き,艦船は浮上したがその時動力を失った.乗組員の内の一部が退避させられたがノルウェイの近海で沈没し41名が死亡した.深さ1685メートル.2個の核兵器と1つの原子炉を搭載.

ジョン・アインスリー
スコットランドCND
2000年8月15日

情報源:
「ソ連マイク級原潜の沈没」,ジョン・ラージ,1989年
「ロシアの領土周辺海域におけるゴミ投棄に関する事実と問題」,1993年(グリーンピース翻訳)
「核事故」,グリニッジ海軍大学,1992年
「ロシア北方艦隊」,バルセロナ,www.bellona.no
「OECD核エネルギー局におけるチェルノブイリ10年」,1996年