ブレア首相への公開書簡

1998年3月18日

トニー・ブレア様

トライデント核ミサイル撤廃計画に関する首相との会談の要請

 現代に生を受けたわたしたちの多くと同様に、貴職は核兵器の脅威をご存じで あり、偶然や、愚かな決断によって核兵器が現代文明の大半と、おそらくは人類 を含む地球上の種をほとんど壊滅させる可能性を、きっとよくわかっておられる ことと思います。わたしたちは、イギリス政府が新たな千年紀に向けて核兵器の 速やかな廃絶に努力しておられると確信したいのですが、残念ながらこの兆しを 見ることができません。

 イギリス政府の最高責任者としての貴職に、「イギリスの核兵器の使用の決定 は、すべて首相にゆだねられる」[Ref.1]という理由で、大多数のイギリスの有 権者がこの数10年以上望んで来た、この国に適用される国際的な義務、および法 的・人道的な義務という見地から、核兵器廃絶のために取るべきとわたしたちが 信じる手段について、できるだけすみやかに論議する場を設定していただくよう 要請いたします。

労働党の公約には、明らかに大量破壊兵器拡散への反対、および「地球上から の核兵器の廃絶」に向けて努力することが謳われています。最近の国連やその他 の会議における投票にみられるように、イギリス自体はこの目標を達成するため に誠実な努力をしているとは思われません。わたしたちは、1949年のジュネーブ 協約の1977年の二つの付帯決議をイギリス政府が1998年1月に批准したことを歓 迎しましたが、 しかし「批准されたそれらの規定は核兵器の使用を制限したり、 禁止したりする効力をもたない」[Ref.2]という主張を政府が改めて繰り返した ことに失望しています。

 わたしたちは、外務大臣ロビン・クック氏が、イギリス政府は「倫理的外交政 策」を追求すると宣言したとき、希望をもち始めました。しかし、その後の数カ 月、外務局と防衛省の発表があるたびに、政府は核兵器の保持と核抑止政策を継 続するということを繰り返してきました。しかしながら、核兵器による大量破壊 の脅威は、 ほとんど倫理的外交政策とは一致しないばかりか、『核抑止論』は柔 軟で信頼出来る防衛政策と相いれないものです。『核抑止政策』は、冷戦期間中 に二大国によって推進されてきたものであり、それゆえに核開発競争は双方にと って世界を何度も破滅させるほどまでに拡大してしまったのです。核戦争ゲーム のシナリオは、現実的にいかなる科学的または軍事的意味もありません。それ は、将来を考えない核兵器の拡散であったし、現在もそれが続いています。今、 核兵器の保持は、他の大量破壊兵器に対処する方法として、合理化されつつあり ます。この矛盾した危険な政策を維持することでイギリスはまさに何を防ごうと しているのか明らかになって来ています。イギリス政府は、防衛および軍事的政 治的目的の達成のために核兵器は必要であるというメッセージを世界各国に送っ ています。わたしたちは、直ちに核軍縮をせよという緊急の要請をする必要があ ると考えます。これまで知的な議論が勝利をおさめてきました。地政学的情勢 は、それを今可能にしています。そして、今すぐに行動を起こさなければこの機 会は失われてしまうでしょう。

 また、国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見は、核兵器の使用は基本的に人 道に関する国際法に反すると判断し、各国はあらゆる面から、核軍縮に関する交 渉を行なう義務があると述べました[Ref.3]。 さらに1995年の核不拡散条約(N PT)延長会議での175カ国による無投票の決議においては、 とりわけ、核不拡 散と軍縮への原則と目標の中で、「核保有国は、核兵器の究極的廃絶に向けて、 地球上の核兵器の削減のため、系統的かつ進歩的な努力をすること、およびすべ ての国は全面的な軍縮に関して、厳しい有効的な核の国際管理に従うことを決 定」しました[Ref.4]。 イギリスはこれらの決定に完全に合意したのです。

 「トライデント・プラウシェア2000」とその他世界の多くの市民団体は、 IC Jは核抑止論の合法性を否定したと考えます。非核保有国にたいして『国家の重 要事態 vital interests』に際し、核先制攻撃を行うことは、非核保有国の通 常兵器による攻撃にたいして核兵器の使用で威嚇することと同様、違法と考えら れます。核攻撃にたいして、 大量報復の脅威による威嚇もまた禁止されていま す。冷戦後のトライデントの『準戦略』的役割の構築が模索されていますが、そ のような提案は誤っており、人道に関する国際法とは矛盾し、相いれないもので す。また核兵器の保持も、世界共通に理解されている人道的見地から、まったく 相いれないものと信じています。さらに、トライデントの誤った配備は、構造化 された貧困、環境破壊、国際的テロリズムの拡大、その他によって、次の千年期 における安全保障への挑戦となるでしょう。わたしたちは、愛の力と、抗争を解 決する正義の力を信じます。これは、権力による虐待の正当化や残虐行為の容認 ではなく、争いを解決する為にわたしたちが行使する手段は、わたしたちの深い 道徳性と一致するのです。

 「トライデント・プラウシェア2000」に賛同する多くの人々が、トライデント 核システムの違法性に関する手紙を貴職に書き送っています。この行動は、貴職 が選挙によって選ばれてから10カ月にわたって続けられてきました。貴職の回答 は、常に「国際司法裁判所の意見は、イギリスの防衛核政策全体の変更を求める ものではないと信じる」というものです[Ref.5]。貴職はまた、「政府は、イギ リスの核抑止政策が、国際法に完全に合致していると確信している」[Ref.6]と はっきりのべられています。 わたしたちは、 ICJ勧告的意見に対する貴職の 解釈と核兵器への信頼の継続を、深く憂慮します。[ICJ勧告的意見の骨子の 分析には、付録1をご覧ください。]

 会談の要請にあたって、わたしたちは「トライデント・プラウシェア2000」の 企画と組織について、誠意をもって公表いたします。わたしたちは、国際法と地 球市民の責任にしたがって、トライデントを中心としたイギリスの兵器システム の平和的、安全、合理的な実質的軍縮に向けて、市民と協力しています。政府が 核兵器の撤去と非核安全保障政策の実施とその作業の緊急性を明確にしない場合 においては、わたしたちは1998年8月11日、ファスレーンにおいて、 この非暴力 の、責任ある仕事を開始するつもりです。 わたしたちは、市民だけでなく、貴職 とともに核兵器撤去の作業を行うことができることを希望しており、貴職が対話 の機会を設けてくだされば幸いです。

 真剣に検討した結果、わたしたちはトライデント核ミサイル撤去のために、次 のような基準を決定しました。

 イギリス首相、外務大臣、防衛大臣が、書面、または下院での声明によって 2000年1月までにすべてのイギリスの核兵器の撤去、および声明が非核安全保障 政策の実施を開始することを明らかにした場合、このプロジェクトを中止する。

 わたしたちは、そのような作業は国内的には、他国政府や組織との協議なし で、政府が直ちに防衛省に実施を求めることができ、対外的には政策変更には同 盟国や国際期間との協議が必要なものもあることを認識している。

 わたしたちは、イギリス政府が核兵器撤去に向けて真摯な努力を続けていると 判断した場合、いつでも直接行動を中止するつもりである。しかし、もしその実 施作業が裏切られたり、また理由なく延期された場合はそれを再開する。イギリ スの非核化の過程には、次のような明確かつ実効的な要素を政府が誠実に遂行す ることが不可欠である。

i)イギリスのトライデント潜水艦の24時間監視行動を直ちに中止すること。

ii)アメリカから、 今後一切トライデント潜水艦を購入しないこと。 iii)2000年までにイギリスの全核弾頭を発射装置からとりはずし、 別の場所に 貯蔵する こと。

iv)今後一切、 アメリカの核兵器をイギリスに配備しないこと。 イギリスはN ATOと ともに、 ヨーロッパからのすべての戦術核の撤去に努め、いかなる状 況にあっても、核 先制攻撃をせず、また核兵器をもたない相手にたいして核を 使用しないという政策の確 立に努めること。  v)トライデント・ミサイルはアメリカに返還し、核弾頭は、合意された日まで にAWE Aldermaston Burghfieldに返還されること。

vi)イギリスの核兵器の解体は、 できるだけ速やかに、 安全に柔軟に行い、 遅 くとも

2010年までの完了を目指すこと。

vii)ふたたびトライデントその他の核兵器を採用しないこと。 viii)イギリスの核兵器工場を、核兵器の修理製造のための研究開発施設から、 厳重か つ実効性のある国内外の基準、 大量破壊兵器に関する国際条約の基準に 合致した核物質 の安全な処理と貯蔵に適した、核兵器解体施設に転換するこ と。

ix)核兵器削減のために、できるだけ速やかに核兵器に関する暫定条約の交渉 を実現す るために、イギリス政府が系統的かつ進歩的な努力を、積極的かつ創 造的に行うこと。 この努力がどれだけ誠実で建設的なものであるかは、国連総 会決議、NPT再検討会議、 軍縮会議、五大国会談、NATO、およびその他 の関連した諸会議でイギリスが示す態 度によって判断されるであろう。

 このプロジェクトは5月2日に公表され、8月11日に軍縮行動を開始されま す。 それまでに、貴職とこれらの基準、安全保障と防衛問題について政府と対話 の時間を持ち、またわたしたちの行動計画−それは倫理的、人道的、秘密でな く、非暴力にもとづき、そして合法的なものです−についても話し合いたいと考 えています。このプロジェクトについて詳しく説明したハンドブックを同封いた しますので、有効にご利用いただければ幸いです。5月2日に、このプロジェク トに参加するすべての個人の名前と住所のリストが発表されます。その人々は、 「核の犯罪を阻止するための誓約書」に署名し、軍縮行動にすすんで参加するこ とになっています。新たな参加は、そのつどリストに書き加えられることになっ ています。

 「トライデント・プラウシェア撤廃2000」の中心グループは、民間の専門家や 活動家で構成されており、そのうち4〜6人が政府との会談に望みます。できる だけ速やかに、ご都合のよい時に、イギリスの核兵器撤廃のためにただちに行動 に移り、非核防衛政策に向かう必要性について、緊急の会談を設定してくださ い。

敬具

シルビア・ボイス、トレイシー・ハート、エレン・モックスレー、ブライアン・ クエール、ヘレン・スティーブン、イアン・トムソン、およびアンジー・ゼルタ ー

  (仮訳 大庭)