トライデント・プラウシェア2000 資料

1998年8月26日ガーディアンより

[写真] フロント・ページ

泳げ、 泳げ、 泳げ

この3人は、イギリスの最も警戒厳しい海域を、 1時間以上泳いだ。彼らはトラ イデント核潜水艦から30フィート(約90メートル) のところまで迫り、 潜水艦を 航行不能にしようとした。 彼らは誰なのか? (左から、 クリスタ、 カトリ、 リック−−訳者)

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みなさんは、反核運動が冷戦の終結とともに消え去ったと思っていただろうか。 そうではないのだ。かれらは、以前よりさらに決然として、戻ってきた。 ジョン・ビダルがファスレーンピース・キャンプの新しい勢力に会う。

この小さな集団が、イギリスの核の巨人を本当に打ち倒すことができるだろうか?

   ピースキャンプ参加者たちの横顔

             (写真の5人の説明)

  ●フレデリック・イワソン29歳はスウェーデン、エーテボリ郊外の教会牧 師。 彼はこれまでファスレーンで3度逮捕された。 2回はフェンスを切った こと、 あと1回はそれを乗り越えたためである。   「イエスも法を破った。トライデントは違法であり、道徳にも反している。 私は自分がしたことを誇りに思っている。教会は私を支持していてくれる と思う。」

  ●エレン・モクスリーはスコットランドの「平和の家」の運営のため、クウ ェーカーに雇われている。「これをもう14年間続けているわ。 ボルト・カ ッターをもっていて、それでワイアを切って基地の中に入って植物の種と か、ときにはジャガイモやイチゴを植えるのよ。今回はクロッカスの球根 をもってきたのよ。」と言う。

  ●ジョアンナ・バーキングは、ブライトン大学でイラストを学び、卒業した ばかりのドイツ人だ。彼女は逮捕されたが、ファスレーンの労働者に(核 の)恐怖について懸命に語ったところ、告訴されなかった。「私は平和デ モの中で大きくなったの。  母も活動家だったわ。この問題を解決しなくて は。避けて通ることなんてできません。」

  ●スティーブン・オルクロフトはニューカッスルの執筆家である。「核を全 部なくすか、それともみんなが所有するかどっちかしかない。核を小さな クラブの中に閉じ込めておける時代は過ぎたんだ。今は、誰でも核兵器を 作れる。核を放棄するのが第一だ。」

  ●チェリー、23歳はドンカスター出身で、2カ月前ファスレーンのピースキ ャンプに来た。これまでに2度逮捕されたが、キャンプが強制撤去される までここで頑張り、その後大学にもどるつもりだ。「平和の問題はまだ解 決されていません。大量破壊兵器は人道に反しているし、反道徳的です。 そんなものと一緒に生きてはいけません。」

[本文]

 まずおとりが出発した。真夜中近く、ハンスとハンナがアメリカからリースさ れた爆弾を搭載した4隻のトライデント潜水艦とファスレーン海軍基地ノース・ ゲート近くのフェンスを切り始めた。シンシアとジムが警報装置のスイッチを切 るために、境界フェンスをうろついている間に、マリアンは燃料庫で同じことを やった。他のメンバーは基地のすぐ隣の浜辺でパーティを始めた。  クリスタ、カトリ、そしてリックの3人は穏やかなゲールロッホの対岸から泳 ぎ始めた。2隻の海軍のパトロール船が彼らからほんの数フィートのところを過 ぎ、そのうち1隻の投光機が活動家たちをとらえたが、止めはしなかった。ハン マーと5リットル入りの油缶と接着剤を持って、泳ぎ手たちは75分かけて、 トラ イデント潜水艦を完全に包囲している高さ6フィート(約1.8メートル) の浮きバ リアまでたどり着いた。

ここで活動家たちと国防省の話が分かれる。当局側は、かれらがバリアのとこ ろで発見されたと言うが、活動家たちはその関所をやすやすとくぐり抜けて、ほ とんど休まずにそこから停泊中の潜水艦の目と鼻の先まで泳いだという。ドック の上には3人の人影が見え、一人はタバコを吸っており、一人は潜水艦の上にい たと語っている。

 ふたりの女性が潜水艦に向かって泳いでいたとき、リックはそれを押し止どめ た。「3つの選択肢があったのです」とクリスタは言った。「潜水艦に上って展 望塔にたどり着き通信機器を壊すか、ミサイル発射口のひとつにもぐりこむか、 またはプロペラを壊すかのどれかです。」リックは、 もしスキューバ・ギヤを着 ていたら、簡単に、そして楽しく、15分で潜水艦の鼻っ柱に一発お見舞いしてく ることができただろうと言う。 「水中に潜って潜水艦までたどり着くことはでき ただろうけれど、それは正直なやり方ではないと思った。」  彼らが見つかったのは、潜水艦の水上の部分からわずか50ヤード(約45メート ル)、 水中部分からは恐らく30ヤード(約27メートル)のところだったという。 「女 性が警報のところに走って行き、 マシンガンのようなものをつかんだ。 ライトが こうこうと照らし、サイレンが鳴り出した。数分後には、50人ぐらいが、 一人ず つ、あるいは集団になって走って来た。」

 ボートに乗った男たちによって3人はすぐに水から引き上げられたが、彼らは リックにこれまでの誰よりもトライデントに近づいたことに祝辞さえ述べた。ク リスタとカトリは「悪意ある破損行為」として罰金を課せられ、保釈となってい たのだが、ふたたび泳いで警戒網を突破し、同じように潜水艦に接近するという 行動を繰り返した。

 80年代の活動家が家庭人となり、冷戦の終結とともに核の脅威が弱まったと誰 もが考えていたとき、あらたな反核の世代が登場した。大量破壊兵器を破損する ために、これまでよりさらに巧妙に、さらに国際的に、新たな世代は、これまで ベテランたちが何年もかけて基地に侵入する道を切り開いた方法を学び、核兵器 が反道徳的で、違法であり、この惑星にとって最大の脅威であることを明らかに するために、直接行動と国内および国際法廷を活用している。  「軍拡競争は今も続いています。新たな核保有国も生まれました。イギリス は、トライデントによる核兵器能力を向上させているし、アメリカは超小型爆弾 の開発と『スター・ウォーズ』構想に何兆ドルも使っているのです。」と、この 10日間基地にキャンプしてさまざまなアクションを行って来たトライデント・プ ラウシェア2000のアンジー・ゼルターは語る。昨年、彼女と他の数人はイギリス の兵器工場に侵入し、インドネシアに輸出される予定だったホークジェット戦闘 機を破損して150万ポンド(3億円以上) の損害を与えた。彼女たちは、 リバプー ル裁判所で、 大量虐殺の犯罪を阻止しようとしたと主張し、釈放された。「軍拡 競争は恐ろしいことであり、平和運動は真空状態でした。」とアンジーは語る。 「今、環境運動やその他の運動とが結合してきています。新しい人達が、仲間に 加わって来ています。」

 グリーナム・コモンの女たちが国防省から買いあげた土地でキャンプしている 抗議者たちの出身は12カ国にのぼり、年齢は80歳のベテランから16歳までにわた っている。 エジンバラの婦人たち、クウェーカー教徒、車椅子の人々、太ったイ ースト・アングリア人、柔らかなものごしの牧師、仏教徒、ヨーロッパの活動 家、ロード・プロテスター、自治体労働者、地域住民などがいる。

そのうち97人が、武器を持たない、肉体的、あるいは言語による暴力を行使し ない、目的を隠さない、官憲から逃げない、秘密の行動に参加するなどを誓った 誓約に署名している。かれらは基地に侵入し、兵器や施設を破壊することは、市 民としての責任であり、ますます無責任になっていく「国家の暴力」に立ち向か うことであると語る。「私たちは、非常に暴力的なシステムと対峙しています が、私たちが暴力を行使しないということを、彼らは知っているのです。」とリ ックは言う。

 彼らは、ブリュッセルを出発して、グラスゴーから50マイル(約80キロ)離れた 静かなスコットランドの海岸まで、 何百マイルもの道程を歩いて来た。 初めは、 キャンパーたちが野放図で、うるさく、あたりを汚すだろうと思っていた住民た ちの不安もほとんど収まった。それは、多分、キャンパーたちが飲酒やドラッグ をピューリタン的厳しさで全面的に禁止したことによるものであろう。  「私たちはまったく公開で、全面的に行動に責任を持ちます。」と語るアンジ ーは先週2度目の基地侵入を実行して、現在拘留中である。国防省と警察には、 まえもってビデオ、すべての実行者のリストと、その目的、及び方法が提出さ れ、明らかにされていた。しかし、当局は先週のようなことが、実行されるとは まったく予想していなかった。抗議者たちは、巨人の鼻にたかろうとする狂った ノミのように、基地に体当たりして行ったのだ。  キリスト教徒のグループにとっては、小さな行為によって核兵器という巨大な 悪に挑むのは、ダビデとゴリアテのように映る。他の、とりわけ若いヨーロッパ 人には、おとぎばなしのようだ。それをトールキンになぞらって、核基地を「モ ルドール」、自分たちを悪の帝国を滅ぼそうとしている「ホビット」と呼ぶ者も 多い。

 今までのところ、110名以上のホビットたちが、ささいな行動で逮捕された。 3人のスウェーデン人の牧師はそれぞれ3回ずつ逮捕されている。バッハとギボ ンを道路で演奏していたクラシック奏者は強制的に排除された。また、二人の老 女は基地に入り込んで、野の花を植えた。あるグループはゲートに近づいて兵器 の査察官だと告げた後、逮捕された。また、別のグループは、われわれは市民の 戦争犯罪調査官だと言った。大量の逮捕が行われ、寝ずの番が繰り広げられた。  ファスレーンや、その近くの核兵器が収納されているクールポート兵器庫は彼 らの行動によって警戒が手薄に見えるようになってしまった。境界線のワイアは 何十回と切られ、恐ろしいレーザー・ワイアをよじ登るには、古いカーペットが 使われた。長期に続いているファスレーンのピース・キャンプの人々10人も、 立 ち退きの準備をしていたにもかかわらず、先週基地内に入って、止められるまで 45分以上フットボールをしたと言った。 誰もが、 警察と国防省は例外なく注意深 く、 ていねいではあったが、 もし活動家が互いにスパイをしてくれたら謝礼を払 うと言ったという。

 裁判を心配している者は誰もいない。実際、プラウシェアの活動家たちが望ん でいるのは、裁判官の前で主張を述べ、国際法の有効性を試すということなの だ。「たいていの人は法の網にかからないようにしようとします。でも私たちは 法に拘束され、政府は拘束されていないのです。」とゼルターは言う。彼女たち の言うところでは、生存しているノーベル平和賞受賞者のほとんど、多数の裁判 官、主教、教会、そして地方の団体が支持しているという。  彼女たちは、国連総会の要請によって出された国際司法裁判所の勧告的意見を イギリスが受け入れるかどうか試してみたいと考えている。それによると核兵器 は「究極の悪であり・・・人道法をあやうくするものである。」それに付け加え て「核兵器は人道法に反するものであり・・・一方の存在を認めれば、他方は存 在しえないと考えられる」と述べている。しかし、これは単なる法的な意見であ り、拘束力を持った法ではない。

 「私たちは国際法を順守しようとしているのです。イギリスはそれを自分の都 合の良いように解釈します。サダム・フセインや、その他の国にはこれらの法を 適用しながら、それが自分たちに適用される段になると、白紙になってしまうの です。」とゼルターは言う。

 このような重要な問題で、ダンバートンやヘレンズブルグのような地方の裁判 所が判断を下すことはあまり考えられない。そこでは、ほとんどの活動家は、先 週の故意の破損や平穏を乱したかどで、罰金を課せられるぐらいであろう。地方 裁判所は大量の裁判を受け入れるには狭すぎ、ヘレンズブルグのエピコパル教会 が臨時に使われている。裁判はほとんど11月に行われるが、アクションはイギリ スが核爆弾を放棄しない限り、2000年まで継続されるという。  警察当局は、逮捕と侵入を軽く扱っているように見えながら、その一方、「彼 らは人々に法を犯すようそそのかして、自分たちを危うくしている。とても、無 責任だ。」と国防省は言っている。「ここでは、何も秘密はない。われわれは、 非常にオープンなのだ。」

                   (訳 大庭里美)

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