イギリス政府の核兵器政策見直し計画に対する CND プレス・リリース要約

1998年7月8日

イギリス政府の核政策見直し計画は、これまでの政策を少しばかりいじっただ けの「ごちゃまぜ袋」で、基本的な変化はない。  この見直しでは、トライデント潜水艦の核弾頭を半減し、新たなミサイルの発 注を取り消し、核による警戒体制をいくらか縮小し、透明性を高めた。  しかし「核先制不使用」の誓約については拒否、24時間パトロールは継続、 4 隻目のトライデント潜水艦が9月には就航する予定である。

 CNDは、透明性の前進と核分裂物質の生産禁止に向けての姿勢は評価する。  しかし、この見直し計画には、核軍縮に向けた交渉への動きはなんら見られな い。

 「最近の南アジアの核拡散という危機にあって、これまで以上に緊急とされて いる核廃絶への具体的なイニシアチブが、この見直し計画にはまったく見られな い」

CNDのスポークスマンは、次のように語っている。 「トライデント核弾頭の数を、減らさないよりは減らした方がよいが、基本的に は、数字の変化にはいかなる重要性もない。」 「この削減計画は、イギリスの核政策に少しも影響を与えない。イギリスの軍事 力は、今でも世界の主要都市を消し去るだけの力を持っている」 「わたしたちが怒りを感じるのは、国防省は数字をもてあそんでいるということ だ。

 イギリスはこれで冷戦終結後から、核を70%削減することになると言っている が、見直し後でも、ポラリスの時代よりはるかに強大な力を維持していることに なるのだ。」

・・・・・

「安全保障にとって、核は不可欠であり、世界の安定に寄与するというイギリス の見直し計画に貫かれた考え方は、インド・パキスタン、イスラエルその他の核 保有国の論理を正当化するものである。そのような考え方によって非核の世界を 実現することはできない。すべての国が核を廃棄するということこそが重要なの だ。」

「労働党政府は、トーリーの政策を引きずっている。」

「大量破壊兵器は、世界の安定を損なうものである。それらは、(問題の)解決 策ではなく、(解決しなければならない)問題そのものである。この見直しに は、それへの取り組みがかけている。)

  トライデント・システムの 見直し後の、ポラリスとトライデントの戦力の比較

ポラリス

トライデント
(見直し前)

トライデント
(見直し後)
潜水艦の数

4

4

4

一つの核弾頭の破壊力
(キロトン)

200

100

100

潜水艦1隻当りの核弾頭の最大配備数

48

96

48

4隻への核弾頭の最大配備数

192

384

192

潜水艦1隻当りのミサイルの最大数

16

16

16

配備可能な潜水艦の最大数

3

3

3

射程距離(km)

4,700

7,400

7,400

命中精度( )

900

120

120

核弾頭の数を減らしたから、それが何だというのか?

 イギリス政府は、防衛・外交政策としての核兵器を放棄するべきだ。  CNDは、その第1のステップとして、次のことを労働党政府に要求する。

・ 24時間パトロールの中止

・ すべての核弾頭の解除

・ トライデント配備計画の完全な中止

・ 「核先制不使用」政策の声明

・ 世界的規模の核廃絶に向けての論議の開始

イギリス政府は、見直しをしたとしても

最大で 核弾頭144、 (TNT火薬で1440万トン分、 広島原爆の864倍の威力) を保持。

(1994年ポラリスからトライデントへ移行。) 一つのトライデント潜水艦から、48発のミサイル 命中精度 120メートル、 射程距離7400キロ

イギリス政府が、 ほんとうに真剣に核兵器の削減を考えるなら、 ポラリスのレ ベルまで引き下げるべきだ。つまり、核弾頭の数を最大で144ではなく、ミサイ ル1つに核弾頭1つ/標的1つ、最大48にである。

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イギリスの核削減計画と市民の非暴力直接行動(週間金曜日1998年8月)

 7月8日、イギリス政府は核弾頭半減などを含む国防政策見直しを発表した。  具体的には「核弾頭総数を200個以下に削減、 複数弾頭ミサイル『トライデン ト』の新規購入中止、 潜水艦搭載の核弾頭をこれまでの最大1隻96個から48個に 半減する」 などの内容である。

 インド・パキスタンの核実験後もなお核廃絶ではなく、 核独占体制を一層強化 しようとしている5つの核保有国の中で、初めての自主的核兵器削減の発表は、 ブレア政権の「倫理的外交政策」を具体化したものとして日本でも前向きに評価 されているようだ。

 しかし、イギリスの反核組織CND(キャンペーン・フォア・ニュークリア・ ディスアーマメント−核軍縮キャンペーンの略)は、同日直ちに声明を発表し、 政府の戦略国防見直し計画について、戦力の削減、透明性の進展、および核物質 生産禁止への積極性はある程度評価しつつ、「イギリス政府は核による安全保障 政策を放棄していない。トライデント潜水艦による24時間パトロール体制は維 持、核先制攻撃否定の誓約にも応じようとせず、グローバルな核軍縮交渉への動 きは皆無である」「南アジアの核拡散という危機にあって、核廃絶への具体的展 望を全く欠いている」と厳しく批判した。

 国防省はこの見直しを実施すれば冷戦終結時点と比べて7割の核削減になると 自我礼讚するが、CNDはそれに対して「数字をもてあそんでいる」と怒りをぶ ちまける。94年にポラリスと交替したトライデント・ミサイルの能力は、射程距 離7400キロ(ポラリス4700キロ)、 命中精度120メートル(ポラリス900メートル) などにおいて、 ポラリスをはるかに凌ぐ。 実際にはイギリスは見直し後でも核 弾頭144、 すなわち広島原爆の864倍の威力をもち続け、依然としてポラリスの時 代より強大な軍事力を維持することになる。 そのイギリスで8月11日から市民に よる非暴力直接行動の核廃絶キャンペーン(トライデント・プラウシェア2000)が 始まる。 スコットランドのファスレーン潜水艦基地前で2週間、 デモとピースキ ャンプが行われ、それでも政府が核政策を放棄し、撤廃に踏み切らない場合は、 8月25日から「誓約」をした市民らが自ら基地に潜入し、ハンマーなどで潜水艦 を破損する予定だ。

 1996年7月のハーグの国際司法裁判所の 「核兵器の使用やそれによる威嚇は原 則として国際法違反である」 という勧告的意見に対しては、 「例外」を認めたこと に関して被爆地広島では深い失望があった。 しかし、 「アボリション2000」 など 国際的な反核運動は、 「原則違法」 という判断を画期的なものとして、 それをテ コにした活動に踏み出している。

 ひとつの例がある。1996年、4人の女性が英空軍基地に潜入し、インドネシアに 輸出される予定だった戦闘機を破損し、150万ポンドの損害を与えた。 しかし、 この戦闘機が東チモールの虐殺に使われるのを阻止したかったという彼女たちの 主張が認められ、裁判で無罪となった。 プラウシェアの際だった特徴は、「非 暴力」と徹底した「公開性」にある。計画の詳細と、政府への具体的な要求を記 した公開書簡、さらに基地に潜入する予定のメンバーの名前と誓約が、すでにブ レア首相と軍関係当局などに送られている。これほどオープンな直接行動は前代 未聞である

 5月2日に世界数カ国で同時にこのキャンペーンについての記者会見があり、 広 島ではアンニャ・ライトさんが日本からの支援や参加を呼びかけた。その直後イ ンド・パキスタンの核実験は、NPT体制のもろさと限界を明確にした。トライ デント・プラウシェア2000は、市民の断固とした決意とあらたな歴史を切り開く 可能性を示している。わたしたちはこのキャンペーンを支持し、できれば代表を 送るために署名やカンパ活動を開始した。日本の反核運動もこの新しい国際的な 流れに加わってはどうだろうか。

大庭里美