TP法的記録  法務長官の事件付託      

アンジー・ゼルターから提起された
付託されるべき争点についての意見
Notice of Intention to Raise A Devolution Issue on
Behalf of Angie Zelter

訳  真鍋 毅
オリジナル



2000
10
アンジー・ゼルター

1.この法務長官の事件付託は2000年1月21日に法務長官によって開始されたが、それは、1999年6月8日、ゴイル湖に係留されていた「メイタイム」として知られる浮体に3人の被告人が乗り込んだ際に生じた有意的(注)かつ悪意の損害に関する容疑につき、3人の被告人全員(本申立の被申立人)を釈放せよと陪審に説示した1999年10月21日のグリーノック北ストラートクライド執行裁判所所属のギンブレット判事による判決に続いて、司法書記により申し立てられたものであること。

2.私ことアンジー・ゼルターは、原手続の第一被告人であり本申立の第一被申立人であるが、1955年刑事手続(スコットランド)法123条下の自分の権利に従って本手続に参加する意図であること。この件で審理期日は2000年10月9日より13日と定められている。

3.私ことアンジー・ゼルターは、以下の理由から、スコットランド法別表6の意味において付託されるべき争点を提起したいこと。即ち、

4.法務長官付託の開始の時点では、原審の手続についての如何なる写しも私が利用できるようなかたちでは作られておらず、私、つまり第一被申立人が自分に対する起訴事実につき釈放されることになった事情を述べた判事の報告も全くなかったこと。判事の報告が司法事務局によって作成され提出されたのは、やっと2000年8月21日になってのことである。

5.2月9日以降、私は、未だ充分な回答を得ていなかった本手続の説明を求めて、40通以上もの一連の書簡を裁判所との間でやり取りしたこと、また同様に国側とも連絡を取ったこと。付託審理についての手続及び基本的ルールは依然として明らかにされておらず、自ら出廷することを選んだ被申立人としてはゴールポストが絶えず動くようなことは困るし不公正である。

6.私が書簡において、また4月4日の第1回審理手続において提起した主要な争点の1つは、グリーノック裁判で提起された主争点と問題がそのまま本手続で取り上げられていないのは何故か、というものであったこと。それについての確かな議論は未だに示されていない。私は実際に2000年4月4日の前述審理において以下のような言葉で述べた。「グリーノック裁判は基本的に、およそ考えられる最大の犯罪の一つ、つまり、無辜の人々の大量虐殺をもたらし、長期かつ深刻な害を環境に与えるであろう無差別大量破壊兵器の使用という犯罪を防ごうとする普通の市民の権利に関するものである。私は、私たちのグリーノック裁判から生じた、そして全く公正にこの事件付託で取り上げられるべき主要な争点が、トライデント型核ミサイルの現配備の犯罪性の問題であると述べ、従って本法廷も次の問い、即ちイギリス政府の現在の核抑止政策から見て連合王国はトライデント・システムの配備の点で実際に国際法に違反するか? に答えなければならないと述べた」。

7.2000年9月26日に私は、法務長官の質問の文章を変更すること,グリーノック裁判で生じた主要な法律問題を含ませること,という私の主張について討論を可能にするよう、動議を提出したこと。私はこの動議に11頁からなる論述を含めた。9月28日に私は、刑事局のアラステール・ブラウン博士から9月25日付の書簡を受け取ったが、それは法務長官の質問を修正するという主題について「問題を再検討したが、変えるつもりはない」ことを知らせるものであったこと。9月29日の朝に私は、法務省代理、法廷助言者、他の二人の被申立人の代理人との会合に出席したが、そこで質問の修正という争点について円卓討議が為され、その席で法務省代理は、質問をグリーノック裁判の事実から生じたようにもっと公正な形に言い直せという私の動議及び議論の写しを受け取ったけれども、自分はそうしたくはない、質問を出すのは法務長官であって、彼がそうしたからには何も変更されないだろうということをはっきりさせたこと。更にこの会合で明らかになったことは、出席者の誰もが法務長官事件付託の手続がどんな性質の手続であるかについて確かなことを知らなかったことである−何人かの出席者は、それがある種の混合物であると考えていたようである−それは果たして刑事手続なのか民事手続なのか、糾問主義的なものか当事者主義のものか? 自分の権利と義務をもっと明確に知るために,私はこの手続が正確にはどんなものであるかを知りたいと望んだ。

8.裁判所は、私の動議及び論述を9月29日の第三回審理手続において法廷で取り上げたが、この議論をこの審理で扱うのが適当であるとみなされたわけではなかったこと。この審理において法務省代理は、被申立人が提案した質問の修正を含めて事柄を考察すると、これらの質問がどんな形であれ変更されるべきであるというのは法務長官の意図や希望ではないと裁判所に勧告した。私は未だに、質問が修正され得るのかどうか、修正されるとすればいつ、どのようにかを知らないままに置かれ、それらが付託において審理されるべき現実問題であるのか否かを知らないままに置かれたが、そのことは私が最初に動議を提出した理由であった。私はまた、付託手続がどんな種類の手続なのか、或いは10月9日、つまり手続の開始に当たって正確に何が起こることになるのかについて、少しもより明確に分かっていなかった。

9.次のことがら、すなわち,i)私が有意的かつ悪意の損壊という起訴事実に対して無罪とされたことと関連しての裁判所の考察に沿って質問を修正すること、ii)グリーノック裁判から生じている主要な問題を含めること、iii)付託手続がどんな種類の手続であるかを明確にすること,これらに対する,法務長官や当裁判所の側の拒否は、法務長官や当裁判所の側における作為・不作為を構成するものであって、ヨーロッパ人権協約の下での私の権利、特に6条に含まれる公正な裁判を受ける権利に相反すると申し立てるものであること。

10.私、つまり第一被申立人は6条による公正な裁判を受ける私の権利を主張したいこと。

11.私は、以下の考察を考慮すると、現手続の目的のために協約に言う「犠牲者」のカテゴリーに該当すると申し立てるものであること、特に

i.私は犯罪阻止の私の行為に関して刑事訴追に曝され、

ii.現手続の目的は実質的には、私の行動が事案の状況において正当化され、従って犯罪的意図の要件を欠くという認定を覆す試みであり、

iii.現手続においてこの目的が達成されるとすれば、その場合、私の行動は実質的に遡って不法であったと断定されることになり、そこから必然となる認定は、私が不当・不法に釈放されたということになろう。従って私は、釈放された者としての私の「地位」を失うことになり、

iv.この裁判所によるこのような認定が意味するであろうことは、今後、核犯罪を防ごうとする良心的平和運動家としての私の行動は禁止されるであろうという点で、私の釈放の「利益」も失われることになり、

v.更に考えられるのは、本付託における決定の結果として、私は自分に向けられた刑事訴追に対して何ら抗弁を有するものではなかったと認定されるならば、私が負わせた損害について民事上も責任があると判断され得るということである。

12.現在までに行われてきた手続のやり方はヨーロッパ人権協約6条の要件を満たしていないと申し立てるものであること。特に、私が依拠するのは6条に具現された「武器の平等」の原理であるが、これは、民事訴訟や刑事裁判の両当事者が、それぞれ相手方と比べて実質的に不利な立場に置かれないという条件下で自らの事案に当たる合理的な機会を与えられなければならないことを要求している。

13.にもかかわらず私は、自分に向けられた原起訴事実との関連で事実上生じた法の要点を適切に同定しないような、そのような問題を提起する手続に対応する準備を余儀なくされてきた。特に法務長官によって作られた質問2は、それが核兵器の保有に言及することからして、起訴事実との関連で出てきたものではなかった。このことは多くの中の一例に過ぎないが、私は、9月29日に当裁判所に出された同日の論述に掲げた議論の全てに言及し、遥かに公正と考えられるよう全ての質問を修正するよう提案したことに言及するものである。

14.6条1項[人権協約]に基づく私の権利の適切な保護に照らしてみれば、123条[スコットランド法]は、私に向けられた起訴事実につき成立した抗弁との関連で出されていないような法律点に言及する権限は法務長官にはないと解しなければならないと申し立てるものであること。法務長官によって作られた質問は全て、私に対する起訴事実、それらについて私が実際に提出した抗弁との関連で出されてはいなかった。

15.更に,いずれにせよ、私は、問題2,3及び4が特定性に欠けているので、私が準備しなければならない事案に関して私に適正な注意を促さず、6条の目的について現手続を「不公正」なものにしてしまうと述べるものであること。

16.更に、私は、この特定化に欠けることが、私の釈放の合法性を争って私に向けられた事案の性質と理由につき,遅滞なく詳細に亙って知らされるという6条3項(a)に基づく固有の権利を害するものでもあると言えると述べるものであること。特に、連合王国の「かような兵器に関する政策」への言及は、法務長官がその理解に従ってこれらの政策がどんなものかを詳細に説明することを要するのであり、さもなければ私は当てもなく論じる外ない。

17.更に、私は、6条3項(d)によって私の釈放に法律上確かな根拠があったのか否かをはっきりさせるため私の利益において証人を呼び尋問するという固有の権利を有すると述べるものであること。ところが法務長官によって行われたような現手続は、私の抗弁を基礎付けて原釈放の合法性を確立する関連(国際)法についての専門的証人を呼べるようにする準備をさせない。

18.法務長官が本件で問うべく選んだ問題には幅があるために、法務長官によって或いはその利益において設定されるかもしれない事案、または裁判所によって作り出されるかもしれない事案に関しては、どんな被申立人にも充分な注意は示され得ない。充分にして公正な注意を与えるという原理は、取り上げられるよう意図されている議論の適切な予告のみならず、裁判所によって取り上げられる、或いは依拠されると予想され得る議論に関する訴答における限定と特定化をも必要とする。つまり、公正な注意は裁判所に出された問題における明確化を要するのである。提起された問題に特定化が欠けるため生じるこの6条1項違反は、その場合、国側から提出される如何なる論述によっても矯正されない、というのは、それが(国側の論述というよりも)、被申立人がそれに関して準備し対応することを要求される事案を決定付ける問題だからである。法務長官が全く不相当で不特定の問題に基づいて手続を進めることは、自分の事案に対応して準備するのに相当な時間を持つという6条に基づく私の権利に必然的に不利に働き、それと衝突する。

19.従って、法務長官が論じようと目論むことを列挙する彼の利益において、審理に先立つこと7日に提起された論述の如何なる表現をも顧みず、現在の受け入れ難く幅広い表現での問題で手続を進めるという決定において、法務長官は公正な注意の原理に反していること。この論述が、彼が法廷で論じようとしていることの基礎を限定しようとするものである限り、彼も現実に法廷に出されている問題の表現を無修正のままにするのでなしにきちんと限定しようとすべきである。しかし、かように遅れた修正でも、それだけで被申立人の側に公正な注意点をもたらし得よう。

20.私に対する6条1項違反の不公正さは、次のことで法務長官によって矯正され得ること。つまり、第一に質問を修正して、私の公判で生じた法的争点を適切に反映するようにすることで、第二にこの然るべく修正された問題に関して彼が取るであろうアプローチにつき公正で特定できる注意を私に示すことで。法務長官は質問の修正を拒否しており、必然的に、適切に定式化されたいかなる質問に関する彼のアプローチについての適正な注意も与えていないことになる。公正な裁判についての私の協約上の権利をこのように顧みないことは、目下考えられている問題の下で現手続を続ける点で、人権法6条1項と1998年スコットランド法57条2項の双方に照らして彼の行為を不法にする。

21.以下略[事務手続に関すること−訳者] 以上


(注) 「有意的」は法律論上の言葉で,自由な意志でという意味.

( 豊島が一部改訂 2000年10月21日,22日)