TP法的記録 法務長官の事件付託 (訳 真鍋毅)
オリジナル http://www.tridentploughshares.org/article1175
1.スコットランド刑事手続の下での公判において、連合王国に適用されるものとして慣習的国際法の内容に関する証言を容れることが許されるか?
2.ある慣習的国際法のルールは、連合王国の核兵器保有、スコットランド領域に核兵器を置く行動或いは核兵器に関連する政策に対する反対のために、損傷や破壊を為した私的個人を正当化するか?
3.自分たちの行動が法律上正当化されるという被告人の信念は、故意の器物損壊或いは窃盗の訴因に対する抗弁を構成するか?
4.当該犯罪が他の人間による犯罪を防ぐ、或いは終わらせるために犯されたことは、刑事訴因に対する一般的抗弁であるか?
オリジナル http://www.tridentploughshares.org/article1162
1995年刑事手続(スコットランド)法123条について
HUMBLY SHEWETH
1. 本件付託の端緒となる実体的事実は以下のようなものであること:_
a.3人(以下、被告人らと記す)は4個の訴因を含む起訴状に基づいてグリーノック執行裁判所に起訴され、審理された。起訴状の写がここに添えられている。主張された訴因に沿って国側より立証が為され、事案不存在の仲裁付託合意は為されなかった。
b.とりわけ、被告人らについて主張された行為は核兵器、特にトライデント兵器システムに対する反対を推し進めるために動機付けられ、遂行されたことが立証された。
c.被告人らの側においてはフランシス・A・ボイル教授、ポール・ロジャース教授およびレベッカ・ジョンストン氏の証言が提供されたが、彼らは全て、核兵器に関する国際法の発展と現状という観点についての専門家として呼ばれたものである。地方検事は、このような証人らから引き出されようとする証言の許容性につき、とりわけ法の問題に関して証言を引き出すのは不適格であるとの理由で異議を申し立てた。判事はこの異議を退けて、証言を容れた。これらの証人によって為された証言は、とりわけ、核兵器の威嚇若しくは使用の合法性に関する1996年7月8日の国際司法裁判所の勧告的意見に言及するものであった。
d.抗弁を終えるに際して被告人らの側で述べられたことは、判事は陪審に被告人らを釈放するよう説示すべきであるということである。判事の理解と要約によれば、提案は以下のようであった:「3人の被告人は、国際法がどうなっているかの理解及び彼女らに与えられた助言に基づいて、トライデントが不法に用いられていると考えていた。核兵器の使用と威嚇が不法であるという点で彼女らが正しいとすれば、彼女らには、特に核兵器の非道さや危険性に鑑みて、この不法性を止めるために何とかしようとする権利がある」。また被告人らの側においては、仮にトライデントが不法に用いられてはいないとしても、それでもなお被告人らは、連合王国がその核兵器に関連する政策を引き続き遂行するのを止めるために何かをなそうとする必要性の下にあったということが述べられた。
e.判事は、これらの提案に基づいて、被告人らが故意の器物損壊という犯罪を構成するのに必要な犯罪的意図を持たずに行為したと判示し、故意の器物損壊の訴因につき被告人らを釈放するよう陪審に説示した。
2.従って申立人は以下のような法の問題を付託して閣下の見解を求めるものである:_[以下、上記「4つの問い」がそっくりそのまま入る_訳者]
(後略_事務手続に関すること)
Nobile Officium Hearing - Lord Advocates Reference
オリジナル http://www.gn.apc.org/tp2000/lar/larsk1.html
認められた。
一定の行為が被申立人によって核兵器、特にトライデントに関して遂行されたことが立証されたと認められた。
その余については否定された。
被申立人の意図と動機はもっぱら、彼女が1996年7月8日の国際司法裁判所の決定に沿って理解した国際法に反する核兵器の犯罪的な威嚇や使用に抗して防止しようとしたところにあったことが明らかにされた。従って被申立人の上述行為は何ら犯罪的意図を含むものではない。
判事が担当した法廷にはこの趣旨の証拠が存在した。被申立人の立場は、連合王国のトライデント兵器システムにおける核弾頭の威嚇や使用が国際法上の犯罪であり、連合王国がその軍事的姿勢においてトライデントに依拠することは、国際的人道法に反して将来に亙って人間性に対する犯罪を遂行する刑事共謀(他の同盟諸国とともに)に他ならないというものであったし、今もある。
これまで、被申立人の見解を支持するような裁判所はなかったが、それはこの特定の争点につき決定することを課せられた裁判所がなかったからである。しかし、それは高名な国際法学者の間での目下の論争の的であり、彼らのうちのいくらかは被申立人の見解を支持するものであろう。さらに、その核兵器に関する1996年の勧告的意見において、国際司法裁判所の多数による決定は、核兵器のどんな特定の威嚇や使用も国際的人道法の要件を全て満たし得ることになるとは主張し得ないと考えた。このような状況において、被申立人の見解は合理的な人間が合理的に保持し得ないようなものであるとは、到底言い難い。
核兵器についての被申立人の確信が純粋で誠実なものであることは、グリーノックの事案で争われず、判事によって受け入れられた。
被申立人の法的立場は、訴因に掲げられた行動が、彼女の見解では、国際的人道法に反して(単に極端な場合でも)続けられる刑事共謀に対して人類の一員として自衛する彼女の固有の権利の行使に他ならないというように特徴付けられる。従って、どんな訴因の有罪についても必要とされる犯罪的意図は欠けていた。
フランシス・ボイル教授の証言は、被申立人の側において国際公法の専門家として法廷に出されたものであるが、彼は1996年7月8日国際司法裁判所の決定を研究しており、その解釈と国際的慣習法への適用について専門的意見を述べたことが認められた。上述のポール・ロジャース教授も、上述レベッカ・ジョンソン同様に本事案の証人であったことが認められた。地方検事がボイル教授の証言に反対したことが認められた。判事はこの異議を退け、彼の証言を容れたことが認められた。上述の国際司法裁判所の決定が参照されたと認められた。
その余は否定された。
判事のこのような決定にもかかわらず、地方検事は、ボイル教授の証言、即ちその見解ではトライデントの威嚇や使用が国際法に反し、イギリスのトライデント潜水艦の配備は犯罪的であるのだが、これに反論する専門的な国際法の証人を呼ばなかったことが明らかにされた。ポール・ロジャース教授は、現在のイギリスが保有する核兵器の特徴と内容、目下のイギリスの国防政策の内容、100キロトン核弾頭の使用のあり得べき予見可能な結果、核事故の現存する危険についての証言を法廷に提供したことが明らかにされた。レベッカ・ジョンソンは、核不拡散条約と目下のイギリスの核兵器配備から、特に1999年6月8日に多くの非核兵器国が受けた脅威についての証言を法廷に提供したことが明らかにされた。ジャック・ボーグ教授が緊迫性の意味について法廷で証言したこと、ウルフ・パンツァー判事がドイツにおける核武装に反対する市民の抵抗の効果について証言したことが明らかにされた。上述の国際司法裁判所の決定が参照されただけでなく、国際法そのものの内容も直接かつ広範に参照されたことが明らかにされた。
被申立人によって、判事は彼女を釈放するよう陪審に説示すべきであると提案されたことが認められた。
その余は否定された。
判事が被申立人の提案を以下のように要約したことが明らかにされた:
’本件において3人の被告人全員についての抗弁は二つの事項に基づいており、第二のものは予備的事案、つまり、抗弁の最初の根拠が同意されない場合には次のものに移る、というものである。
最初のものは、3人の被告人が、国際法がどんなものであるかの理解、及び彼女らに示された助言に基づいてトライデントが不法に用いられていると考えたということである。核兵器の使用と威嚇が不法であるという点で彼女らが正しければ、また私がゼルター氏から理解したように、彼女らはこのような兵器の保有が不法というのではなくて使用と威嚇が不法なのであると述べるのであれば、彼女らには、特に核兵器の危険の非道さに鑑みて、この不法性を何とかして止めようとする権利があった。
予備的抗弁は絶対的必要性に基づくものであって、ゼルター氏が述べたように、その見解では、実際には彼女らのしたことが合法であったか否かは問題でなく、必要性が依然として存在したかどうかである……。
こうして、国際司法裁判所の見解、これが当法廷で考察された、代理人およびゼルター氏によって参照された関連法の全てであって他になく、既に参照されたロナルド・キング・マレーの論文に述べられていること、特に次の言葉:
「そうすると、これらが、問題とされている特定の兵器の使用の合法性を評価する際の諸原則ということになる。留意すべきことは、それらが国際的慣習法を構成する以上、それらはこの国の国内法の一部であるということである」
で結ばれている条約及び協定に関する部分を顧慮し、ボイル教授の証言に聴き、彼及び他の人々、特に専門家として呼ばれた人々から得た本件に関する諸事実及び事情についての証言を全て斟酌し、そしてこれが非常に重要なのだが、以上のことと矛盾する国側からの専門的証言が何ら存しないからには、私は、今面前に居る被告人たる3人の女性が、多くの他の人々とともに、大英帝国はトライデントの使用において単に保有しているというのではないと考えることにおいて正当化されると結論せざるを得ず、トライデントの使用と配備は、第一撃留保政策と結びついた大きな国際的不穏の時期での使用と配備に関し、このような使用は国際司法裁判所がその見解で示唆している極めて限定された場合に該るという兆候はこれまでどんな政府機関からも示されておらず、とすればトライデントの威嚇や使用はまさに威嚇と解され得、事実、他の国々に威嚇と解されてきたのであって、このようなことは国際的慣習法に違反するものである。
以上のことに続けて、私は、3人の被告人が、そのことが不法であり、そして核兵器の非道な性質が示されているからには、自分たちには、威嚇と解されうるような状況における核兵器の配備と使用を止めさせるために少しでもできることを為すという、道徳的どころか国際法上の義務があるという見解を持っていると考える。彼女らは保有そのものに反対していたのではない。ゼルター氏、ローダー氏およびモクスレー氏が彼女らの抗弁の最初の選択肢、つまり国際法上の抗弁において正当化されると考え、彼女らがそれを自分たちの行動の主な理由として示したからには、国側にその抗弁に反証すべき義務があることになると思われる。国側はそう為さず、従って私は、3人の抗弁の提示を、悪意かつ有意の損壊という訴因に関する限りで支持した。
私は、その同僚メイヤー氏が「悪意」という語に関して論じた後で、マクローリン氏が極めて簡潔に提唱したコメントに同意する。私はもちろん、ゴードン著刑法から引かれた文章を知っている。「故意に実行されたのでない限り、如何なる行為も処罰され得ない」、従ってスコットランド法の下では犯罪的意図なしに実行されたとすれば如何なる行為も処罰され得ない。私は、被告人がこのような犯罪的意図をもって行為したと私に思わせるようなことを、何ら耳にしていない。
認められた。判事は、被告人が起訴状に掲げられたどの犯罪の成立にも必要な犯罪的意図なしに行為したと判示し、窃盗という択一的訴因を含む4つの訴因全てについて被告人らを釈放するよう陪審に説示したことが明らかにされた。このように判断する資格が判事にあり、そのことを訴追側は実質的に争わなかったとするに足りる証拠が存在したことが明らかにされた。少なくとも証拠の上では、被申立人の側の犯罪的意図が訴追側によって証明されたかどうかについて、合理的な疑いの余地が充分あるとされた。
前述の事情において、法の問題は以下のように答えられるべきである:
問い1:
慣習的国際法の争点が適切に提起されるとすれば、然り。
慣習的国際法の争点は被申立人の抗弁に不可欠であり、本件において適切に示されており、それについて相応しい証拠が法廷に提供されたからには、第一の法の問題は否定的に答えられてはならない。
国際法が争点に登場し、国際法の内容を証明するために鑑定証言が容れられた連合王国の事例には先例がある。国際法の争点が提起されるスコットランドの刑事手続において、そのことが適格とされるべきでないとする理由は明らかでない。専門の国際法学者が適切に証言するのは国際法の内容についてであって、国内の裁判管轄におけるその適用の如何ではなく、後者はもちろん、裁判所にとっての法の問題である。
留意されるべきことは、モーテンセン対ピータース事件で慣習的国際法上の抗弁が不適格であったこと、或いはその内容についての専門的証言が必要ではあったとしても認められなかったであろうということは、先例にならないということである。
その事項についてスコットランドに(或いは、その事項について連合王国の他のところに)何ら明確な法的権威がない場合、またどんな技術的問題であれ、あり得べき慣習的国際法の適用を取り扱う裁判所が、然るべき国際法学者からのそれについてのすぐれて専門的なガイダンスを必要とすることは明らかである。このことは、下級地方裁判所において法律家と行政官の双方から現に聞かれている、国際法についての混乱、疑い、誤り伝えられたコメントから明白である。
高等司法裁判所としては、慣習的国際法に関してスコットランドの刑事手続に専門的国際法学者を証人として容れるのは決して適格ではないとするような、この問いに答えるべきではない。裁判所の知識と経験を越える主題に関して専門家から助言を得ることができないような、そんな立場に裁判所を置いておくのは賢明ではないであろう。
問い2:
この問いは本件の状況においては相当でなく、答えられるべきではない。
この第二の法の問題は、そのままに読めば、第一被申立人の行為の際の意図が、法的には連合王国の核兵器保有及び核兵器に関するその政策と行動に対する示威的抗議以外のなにものでもないという見解を前提とする。このことは被申立人が言明した意図を誤解させ、全く過小評価する。のみならず、彼女の正当化の訴答_実質的に判事に支持された_が基としているのは政策と兵器に対する反対ではなくて、連合王国が核兵器について取っている姿勢は犯罪的であるとの見方である。従って問いは的外れであり、事柄を進捗させない。裁判所はこれに答えるのを断るべきである。
問い3:
この問いは本件の状況においては相当でなく、答えられるべきではない。
この第三の法の問題は、行動が法律上正当化されるという被告人の信念にもっぱら焦点を当てて、このような信念の根拠とその状況における合理性を含むその他の要因を考慮していない。このような行過ぎた単純化はそれを的外れにする。行動が法律上正当化されるという単なる信念は、それだけでは法律上、正当化の訴答を成功させ得ないであろう。しかしそのことは、スコットランド法において相応しい脈絡の中での正当化理論に何ら余地がないことを意味しない。裁判所はこれにも答えるのを断るべきである。
問い4:
この問いは、事案の特定の状況如何によって、主張される犯行が犯罪ではなくて別の乃至他人の犯罪行為を防ぐか止めさせる企てであることは、刑事訴因に対する抗弁であり得るか否か、という趣旨において答えられなければならない。
この第四の法の問題は、為されたことが別の犯罪的行動を阻止する或いは止めさせるために行われた旨の、訴因に対する抗弁をスコットランド法が認めるかどうかという原則的争点を提起している。相応しい状況ではこのような抗弁は許容され得るし、許容されなければならないというのが合理的であろう。それは結局、特定の事実と状況によって決まることになろう。その意味で、これを一般的抗弁として分類するのは難しいであろう。相応しく条件を付けさえすれば、この問いは肯定的に答え得よう。
[以下、参考資料の一覧……略。訳者] 以上